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本日も宜しくお願いします

日々鍛練

でも、涙が出ちゃう・・・女の子だもん

 後宮に来てから1月が経った。

 母からの手紙の返事は無い。


 槍術の鍛練と魔術の訓練は順調だ。槍は型を一通り休まずにできるようになったし、休憩しながら10回は繰り返すことができるようになった。翌日に筋肉痛が出ることも減ってきた。


 魔術は、火、風、水、土系統全てを、初歩魔術ならば発動する事ができた。中級以上になると、適性によっては発動できない物も出てくるだろう。今はその初歩魔術を繰り返し訓練している。より正確に、より速く、より遠くにと、徹底的に身に付けてから次に進むつもりだ。基礎が大切と言うこともあるのだが、中級以上の魔術の規模になると、衛兵に見咎められる可能性がでてくる。安全に訓練ができる場所を考えなきゃな。


 光系統の『光明』、空間系統の『引寄』『障壁』『移動』『収納』も発動できた。『光明』は便利だ。日が落ちてからも本が読める。因みに、家に灯りの魔道具はある。しかし使用するのに必要な魔石が支給されていない。マルボに聞いたら、「ございません」としか言われなかった。


 『引寄』は離れた場所にある物を手元に引寄せる魔術だ。魔力を指先から紐のように伸ばして対象物に触れさせて接着して引寄せるのだが、魔力の紐の維持が難しく、まだ2歩くらいの距離しか成功していない。魔力の紐さえ接触できればかなりの重量の物も引寄せる事ができるので図書館で重宝している。これでリリカの背丈では届かない高い棚の書籍を取ることができるようになった。ただし、途中に障害物があると失敗する。


 『障壁』は文字通りの効果だが、これは魔術攻撃・物理攻撃どちらも防ぐことができる。そして、足場として利用することもできるので、階段状に障壁を設置して登り、高い棚の書籍を取り出す事ができる。まだ強度と維持時間に制限があるので、足場の上で悠長に本を選んでいる余裕はない。


 『移動』は目視できる範囲内限定だが、瞬間的にその場所へ移動する魔術だ。これは伸ばした魔力の紐を目的地に触れさせて、自分の体をそちらへ移動させる、引寄せの逆の事をしているのだが、引寄せと違うのは、途中に障害物があってもそれに衝突したり遮られたりする事はないのと、移動が瞬時な事だ。見えてさえいれば良いのだ。つまり牢屋抜けができる。障害物に干渉しない原理はよくわからない。これもまだ、2歩くらいの距離しか成功していない。


 そして『収納』! これは良い! これができるようになったお陰で、図書館の本を持ち出す事ができるようになった。もちろん、見つかれば厳罰間違いなしだろうけど、側室たちは滅多に図書館に来ないし、司書もあまり見回っていないようだ。本を持ち出す前に、試しに読んだ本を何冊か間違った棚に入れておいたが、数日経っても直される事はなかった。まだ書籍2冊ほどの容量しかないが、使っているうちに増えるだろう。


 最近は魔術以外の書籍(地理や歴史、動植物・魔獣の事典など)も読み漁っている。やはり、前世からは60年以上経過している様だ。正確には分からない。80年かも知れないが、100年は経ってないと思う。ミレイだった時には年号を気にした事が無かったし、自国や他国の王の名前なんて覚えなかった。前世(ミレイ)が生まれ育ったタリビート国の滅ぼされた年や周辺国の様子からざっくり推察するしかない。タリビート国があった地域の現在の地図を見てみたが、滅ぼされた時に変えたのか、街や村の名前に見覚えのあるものはなかった。ただ、出身の村の近くにあった森は、今でもそのままある様だ。


 大事なのは経過した正確な年数ではない。あの頃の知り合いが、もう誰も居ないと言うことだ。家族も勿論いない。いや、下の弟や妹は辛うじて生きている可能性もあるだろうけど、どうせ村人は散り散り(ちりじり)だ。どこへ行ったか探せるものではない。


 パーティーを組んでいた仲間はあのオーガ討伐の時どうなったのだろう? ミレイが死ぬ直前、メルファランが生きていたことは確実だ。彼女の声を確かに聞いた。でも他の仲間を確認する余裕は無かった。


 楯役のミノサイク、無口だけど優しい奴だった。双剣使いのクロドロナート、ミレイたちのパーティーのリーダーだった。いつも冷静に指示を出してくれた。斥候のジルチム、お調子者で酒の失敗が絶えない奴だった。飲み過ぎて道端で寝ていて財布を抜き取られたり、酒場で知り合って意気投合した美人と連れ込み宿へ行ったら、湯殿に入っている間に、財布から服から靴まで一切合切持ち去られて、追いかけようと素っ裸で町中へ飛び出して衛兵に連行されたり・・・これでいざ仕事となったら、斥候としての能力は優秀だった。

 冒険者ギルドの受付に座ってた元冒険者のおっさん。右目が潰れていて、左唇が(えぐ)れて歯茎(はぐき)まで剥き出しになっていて、始終涎が垂れていた。私を見るといつも、両掌を合わせて片手をパコパコさせて、「いい男はできたか? いないなら、わしが相手してやるぞい。がははははっ」と聞いてくるのだ。

 定宿の女将。太っ腹で冒険者みんなのお母さんだった。ミレイの事もいつも気づかってくれた。

 武器屋の親父。職人気質で気難しかったが、その分、信頼できた。ミレイの槍の整備を安心して任せられた。

 他にも何人もの顔が目に浮かんでは消えていく。嫌なこともあった筈だが、今となっては楽しかった事ばかりが思い出される。くすくすと思い出し笑いをしたあとに、ちょっと、いやかなり寂しくなって、目に涙が滲んだ。


 ちょっと感傷的になったその日の夕食時、またしてもお茶会の招待状が届いたのだった。



毎日更新中

明日はお茶会第2段です

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