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嘆きの果ての叛逆神話【ジャンヌダルク】  作者: ぱいせん
序章 ノアの村編
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第八話 バケモノ

 月日は早いもので、グレイの家に来て一ヶ月が過ぎた。


 グレイとは、だいぶ打ち解けて話せる様になったと感じる。

グレイの方からアレやコレやと話に来るので、こちらとしては話しやすい。

それに比べて……アルトとは、全然だ。


 最近、運動がてらに木刀での素振りを始めてみたのだが、アルトはいつも距離を

取ってくる。

この前は、僕が近づくとあからさまに遠ざかっていったし……

普段からあまり話をしてくれないんだよなぁ……

意外と、気難しい子なのかも知れない。


 先生の話を聞いてから、剣術に少しだけ興味を持った。

でも……木刀を持つ事でさえ、最初は躊躇してしまった。

一歩を踏み出さないと始まらないのは分かっていたが、刷り込まれた記憶と言うの

は残酷に心を蝕むもので、手の震えが止まってくれなかった。


 それでも、二週間位で何とか握れる様にはなった。

その時は、先生に褒められて撫でられたけど……子供扱いにはどうも慣れない。

まあ、”中身の僕”も大人とは言えないけれど……


 木刀は最初、重りが付いているのかと思う程に重く感じた。

自分の記憶の中と、今の身体の能力の差が凄くて驚き戸惑った……

先生は、剣術の知識は教えてくれるけど、実技はやりたがらない。

「私は教えるのに向いていないんだよ」と一蹴されてしまう。

ブルーノさんに理由を聞いても、曖昧な返事が返ってきたから何かあるのだろう。

少し気になるけど……いつかわかるのかな……



 今日も、グレイ邸の庭で剣術教室がある。


 自分の意思で、僕も今日から参加すると言ってあるので、ブルーノさんの声が

聞こえると外に出る支度をする。

与えられた自室から出ると、丁度よくアルトと鉢合わせた。

隣同士だからそんな事もあるだろうが、今日のアルトはやけにキッチリとした装備

をしていた。

……あ。そう言えば、今日から一緒にやるってアルトに言ってなかった。


「今日から僕も混ざるから。よろしくね」


 それを聞いたアルトは、「げぇっ」と言わんばかりの顔をした。

え?そんなに僕の事が気に食わないかね……失礼しちゃうよ。


「……いつもより重装備だね、今日は」

「き、今日から真剣で鍛錬するんだ……」

「へぇ、そうなんだ」


 なるほどね、だからか。

アルトは既に二年以上剣術やってるから、もうその段階なのか。

でも……魔術で強化するのに、装備はいるんだ……

アルトが先行して階段を降りていくと、両開きの玄関扉をフルに開け、ブルーノ

さんが立っていた。


「予定変更だ。庭が使えないらしいから、川辺まで移動するぞ」


 ブルーノさんの後方で、エレアとお手伝いのアンジェラが何かしらの準備をして

いるのが目に入った。

キッチンの方から先生が出てきて、事情を教えてくれる。


「すまないね、今日は月に一度の茶会なんだ。他の村からお客さんが来るから、

 暴れられるのは困るのさ。……シンはこっちに参加したいかい?」

「いや、結構です……何喋ればいいかわかりませんし」

「ははっ、わかったよ。気をつけるんだよ」


 そう言って、先生は準備へ戻っていった。

お菓子とかは興味あるけど、知らない人達の居る所は好かない。

それにしても、他の村との外交なんて……グレイも大変だなぁ。

と言うか、あの大雑把そうなグレイにそんな事出来るのだろうか。

人は見かけによらないのは知ってるから、わからないけど……


 僕達は、グレイ邸を後にした。


 先生の誘いに乗っておけばよかった、と後悔する事になるとは露知らず……



 水辺に行くのは初めてだ。


 と言うか、村から出るのが来た時以来で、そもそも「村から出るな」とグレイに

言われていたのだ。

出るな、と言われているのに出てしまうのは、俗に言う”死亡フラグ”だ。

僕でも知ってるし、僕はそこまで馬鹿じゃあない。

ブルーノさんが手練れなのはこの目で見たが、一人で大丈夫なのか……少し不安。


「村から離れて大丈夫なんですか?」

「なんだ?シン。お前出た事ないのか?……グレイのヤツは過保護だな。

 何を言われたのかは知らんが、ここら辺は大した事無いぞ。

 ……いや、でもまあ……結局運だな。死にかけたヤツも居るらしいし」

「えぇ!?なんか出るんですか?もしかして!?」

「大丈夫だ、そいつが丸腰だったってだけさ。今は俺が居るし、心配無用。

 アルトでもいけるかも知れねぇなぁ……ははっ」


 ブルーノさんはそう笑って突き進む。

何が出るか、と聞いたのに全く答えになっていないけど……もういいや。

そこまで言うなら大丈夫なんだろう……恐らく……


 三十分位歩いただろうか、川の流れる音が聞こえてきた。

急勾配な森の下には、綺麗な川が流れている。


「よし、じゃあ降りるぞ」


 そう言うや否や、ブルーノさんは道なき道を降りて行った。


 え?ここ降りるの……?傾斜絶対45度よりキツいよコレ。

コレも修行の一環だ、ってやつかな?

ほんの少しだけ、悪く無いかも……と思う自分がいた。

アルトはどうかな?と顔を見て見たけど……


 どうやら、嫌らしい。



 ついては来たものの、僕はまだ体験入部みたいなもの。

木刀を振って、疲れたら川を眺めてぼーっとするのを繰り返す。


 近くでは、金属音が鳴り響く。

側から見たら決闘に見えるそれは、鍛錬である事を忘れさせる程の厳しさ。

魔術で強化していると聞いても、目を見張ってしまう。


「あぁ……魔術も覚えないといけないのか、はぁ……ん?」


 一人でぼやいていると、目線の先の森で何かが動いているのが見えた。

動物かな?そう言えば、この世界の動物はまだ見た事無いなぁ……と思ったが


 ”それ”は姿を見せる。


 僕の想像を超えた造形……バケモノだった。


 僕は自分の目を疑い、同時に血の気が引くのが分かる。

生物的本能が全力で、”アレはヤバい”と警鐘を鳴らしている。


 まだ僕しか気付いていない……が恐怖で声が出ない。


 ”それ”は僕の方を見ると、獣の如く迫って”いた”。

来る、と思ったらもう来ていた。そんな感じ。


 電車の時と同じ感じがする……コレがデジャブか……また死ぬのか僕は。


 恐怖か諦めか、目を瞑りその時を待つ。


 ………

 ……

 …特に何も感じないので目を開けると、”それ”は僕の目の前で止まっていた。

 音も、一切聞こえない。


 そのグロテスクな見た目を至近距離で見たのもあってか、もつれた足で僕は

惨めに転びながら這いつくばって、その場から少し離れる。

 

 逃げたと同時位に、何かが解けたみたいに”それ”は動き出し、地面に衝突する。


 間一髪だった。


「アルトォォ!お前はシンを守れ!ぜってぇ気ぃ抜くなよ、結構いるぞ!」

「わ、わかった!」


 すぐにブルーノさんが飛んできた。

アルトは僕を守ろうとしてくれているが、その手は震えている。


 後に思い出せば、女の子が惚れる場面……だったりすると思うが……

この時はそんな事微塵も思ってはいなかった。


 緊急事態である。



[サイド・ブルーノ]


 完全に高を括っていた。


 俺のミスだ、アルトに集中し過ぎて気付けなかった……

とは言え、全く気付かない事は無いんだが……妙だな……


 はぁ、デュークさんに怒られちまうなぁ……まあ、しゃあない。

”はぐれ”が出るなんて、聞いてねぇし。

だが俺はついてるな……アルトには真剣を持たせてあるし、数体だったら問題

無いだろう。


 正直、シンはダメだと思った。

が、瞬きの間に位置を移動しやがった……驚いたが、アレが会議で言っていた

謎の力ってわけか?

取り敢えずは……大丈夫そうか


 ブルーノは冷静に状況を整理する。

少し焦ってはいるものの、なんの問題もない相手である。

アルトを一瞥する。


「アルト!カッコつけるのに絶好の場面だぞ。お前が半分やるか?」

「む、無茶言うなよ!」


 だよなぁ、まあ無理もないか。

初見じゃアレは色々キツい上に、今は六体もいる。

一応、デュークさんに会敵信号出しとくかな。


「じゃあ、少し下がってな」


 ”はぐれ”は、魔力(マナ)を喰べると言う欲求のままに、一斉にブルーノへ突っ込んで行く。


「……まあ、そうがっつくなや。コレでも喰らいな」


 ブルーノは、愛剣に魔力を込める。

剣から薄らと、狼の姿を幻視出来る程の気迫。


 それは並の者では耐えられぬ風の牙となる。


風牙(イレイス)


 放たれた暴風は、地を削りながら一直線に伸びて行った。

1.2mはあろう”はぐれ”は、羽虫の様にいとも簡単に対処された。


「……っぱ、歳は取りたくないねぇ。昔はもっと粉々に出来たんだけどなぁ」


 若干本音の見栄を口に出す。

だが、そんな呑気な事を言える雰囲気は、もう一体の気配で消え去った。


「アルトォ!もぉ一体いるぞ!そっち行った!」


 チィッ、やっぱりおかしい。

コレは……全く気付けねぇのは俺のせいじゃねぇだろ……

魔力探知は抜かりねぇ筈だ。

しかも、弱い方を狙うってか……アイツら魔力が多い方を本能的に狙う筈だろ?


 認識したって事か……?


 だとしても、残念ながらそいつは弱くはねぇぜ。


「う、うわぁ!」

「情けねぇ声出してんじゃねぇ!先ずは羽を狙え!そして叩っ切れぇ!」


 初めての実戦であるアルトに、ブルーノは容赦なく喝を入れる。

鍛錬では無いので、流石のブルーノも気を使っているいる余裕は無い。

 

 初撃を避けたアルトは、シンを連れて間合いを取る。

喝を聞いたアルトは感情を一旦捨て、精神を研ぎ澄ます。

そこに情けない姿はもう無かった。


「はぁぁぁ!」


 先ずは羽。

敵は飛んでいるので、叩き落として身動きを封じるのが基本。

落ちた所にすかさず渾身の一撃を決める。

そうして、絶命した”はぐれ”は塵になって消えていく。


「やれば出来るじゃねぇか!流石は俺の弟子!ははっ」

「……なんか、こう……斬るっていい感じじゃ無い……あまり」

「……やらなきゃ殺られる。それだけだ。よけーな事考えんな」


 ふぅ、まだまだ甘ちゃんだが……さっきの動きは……先が楽しみだ。



[サイド・シン]


 気がついたら、終わっていた。


 この世界に来てから現実離れした事ばかりだったが、今回は別格だ。

ブルーノさんは余裕そうだったから、強いと言うのは本当だと確信した。

別に疑っていた訳では無いけど……


 アルトは、ずっと丸腰の僕を守ってくれた。

顔も美形で強いとか、女の子なんかイチコロだろこんなの……

当たり前だけど、僕は絶対なびく訳がない。

まあ……カッコいいとは思ったけどね、確かに。


 僕も、守られるだけのお荷物にはなりたくない。

前の世界では成し得なかった、誰かを守れる位の人になるという決心が

僕の心に強く芽生えた。



 ………そういや、あの体験は一体………


 ………ん〜、いや、まさかね………


 






読んでいただきありがとうございます。

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