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嘆きの果ての叛逆神話【ジャンヌダルク】  作者: ぱいせん
序章 ノアの村編
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第三話 魔術



「何を廊下で話してるの?」


 玄関を入り左側の大きな2枚扉が開き、所々にフリルの装飾を纏った、

栗色の髪の女性が出てくる。手には調理器具を持ったままである。

廊下に居る全員の視線が扉の方へ向かった。

ドアの向こうからは、食欲を唆る匂いが漂ってくる。


「お、もうそんな時間か。時間経つの早ぇーな」

「今日はなにー?」

「アルト、もう少し作り手に感謝をだね……」


 廊下で話していた俺達は、匂いに導かれるままに食卓の方へと向かった。

我が家のシェフを横切る形で。


「もう!ちょっと……、ん!?」


 1番最後に入りかけたシンを、女性は軽々と持ち上げた。

脇を取られてしまったシンは、前を向いたままT字になっている。


「ねぇ、グレイ。この子はどこの子?」

「おい!エレア!大丈夫だ!大丈夫だから、その子をゆっくり下ろせ。

力は入れるなよ?」


 俺は血相を変えて、エレアを諭した。

コイツが”力加減”を間違えて、危害を加えてしまうのはもう勘弁して欲しい。


「失礼ね……子供相手に力を入れる訳ないでしょ!加減してるわよ!」


 エレアは呆れ口調で言いながら、シンを床に下ろした。

シンは若干戸惑い気味に


「あ、挨拶が遅れました。シンです」

「まあ!どっかの髭男と違って、しっかりしてるわねぇ。私はエレア=ホワイトよ。

女の子が増えて嬉しいわぁ!シンちゃん!」


 俺に向けた嫌味とは裏腹に、満面の笑みでシンに答えるエレア。

まあ、実に嬉しそうな事で。でも、


「おい、エレア。ちゃん付けはやめてやれ。嫌なんだとさ」


 呆れた顔で言ってやった。エレアめ、今お前は地雷を踏んだのだよ。


「いや、エレアさんは大丈夫です!」

「あ、あれぇ!?」

「はんっ!コレが実力の差よ、グレイ」

「なんのだよ!?」


 エレアはドヤ顔で、シンを撫で回している。シンも、それに身を委ねてなすがままである。

やはり、子供は本能的に女性を求めるのだろうか……わからん。



 2枚扉の向こうは、広いリビングダイニングになっている。


 デュークは配膳の手伝いを。アルトは今までのやり取りを黙って見ていた。

心なしか、いつもより無口な気がする。


 一通り終わったデュークは、手を叩いて自分に目が行く様に仕向けた。


「はい、準備ができましたよ。座りますよ」


 キッチンの方から、もう1人の初老のお手伝いであるアンジェラさんも出てきて

食卓についた。お手伝いを雇っている時は、夕食を取ってから敷地内の離れに

帰ってもらう様にしている。

皆んな席に着いたところで、俺は挨拶をする。


「皆んな、紹介はもうしたけど今日からシンがここで暮らすからよろしくな!

それじゃ、いただきます!」

「「いただきます」」

「いただきます……」


 シンが慣れなそうに、ボソッと言った。

その顔は、嬉しそうな…悲しそうな複雑な顔をしていた。


 皆んなが食事を進めている中、エレアだけがシンに興味津々であった。

そのせいで、未だシンの手は止まったままだ……。


「シンちゃんはどこから来たの?何歳?あ、服とか持ってないわよね?

安心して!エレアお姉さんが作ってあげるから!」


 有無を言わさぬ質問攻めを繰り出すエレア。

いつに無く、声が弾んでいる。が


「おい、シンばっかに話してやるなよ。シン、全然食べられてないだろ。

それにあまりひいきするな。アルトが可哀想だ」


 見かねて、ため息混じりに注意を促した。

エレアも我に返った様で、ハッとした顔で謝罪した。


「ご、ごめんね。シンちゃん。さ、食べて食べて!」

「可哀想なシン……」

「なによ、一言余計なのよ!アンタは!」


 また口論になりかけたその時、シンが沈黙を破り口を開いた。


「ま、まあ……夫婦喧嘩も、程々に……」

「「夫婦じゃ無いわっ!」」

「えぇ……すいません……」


 エレアと見事に声が重なってしまった。


「ははっ、コレは随分と鋭いツッコミだね。シン」


 デュークの笑いに続いて、食卓に笑いが起きた。

赤面しながらエレアは、少し荒々しく食事を進めたのであった。

何赤くなってんだか……



「ふむ、シンは大体8歳過ぎ位だね。アルトと近いね」


 デュークはシンを見て、淡々と言った。

食事を中断し、髭を摩りながら観察する様に。

その目には”魔術式”が浮かび上がっている。


 不意打ちで話題が来たシンは、目を丸くしてデュークの目を不思議そうに眺める。


「……!?何で分かるんですか?あ、あの、それは……?」

「今、シンの情報を”魔術で見た”んだよ。ごめんね、年齢以外は見てな」

「魔術!?ですか!?」


 少し前傾になって、シンが取り乱した様な顔をした。

視線はデュークに釘付けである。


「うん?シンはもしかして、魔術を知らない……のかい?」

「マジかよ」

「そんな子が居るなんて……」

「え、えぇ、今初めて聞きました……。その浮かんでいるモノも」


 俺達も、シンも、驚きを隠せない。手が止まっている。

食卓は暫しの静寂に包まれた。


「……そうだな、アルト。何か見せてやれよ、目に見えるヤツ」

「うぇ!?お、俺!?ちょっと待って……」

「なんだ?いつもは自分から見せびらかすくせに、今日は随分と大人しいな」


 いつもは、食事中にやれ魔術が剣術がと言うアルトが、今日はほぼ無口だ。

具合が悪くて食欲が、とかも考えたが、ちょっとある事を考えた。


「ははーん、さてはシンに一目惚れとかか?んー?

確かに、シンは可愛いからなぁ」


 うすら笑みを浮かべて、鎌をかけてやる。


「ち、ちがうって!そんなわけないだろ!」


 指先に小さな魔術式を浮かべながら、アルトは必死に反論してきた。

魔術式から、小さな炎が出現したのも束の間、少し大きくなり爆散した。


「うわぁ!?」

「ちょ!危ないわね、アルト!グレイも余計な事言うんじゃ無いわよ!」


 アルトは床に背を向けたまま椅子から落ちた。

かなり痛そうにしている。ごめん、それは予想してなかった……

そこに、隣に座っていたシンが手を差し伸べる。


「大丈夫?」

「あ、ああありがとう……」


 恥じらいで、耳が真っ赤のアルト。

そのままシンに引き上げられ、目線が合う。アルトの方が少し大きい。


「よろしくね、アルト君」

「うん。よろしく、シン」


 引き上げた手が、そのまま握手という形になった。

2人の距離が、少しだけ縮まった様に俺は見えた。



 食事が終わり、それぞれが部屋に戻っていく。


「じゃあ、先生。後はお願いしますね」

「わかったよ。今日もお疲れ様」


 軽い会釈をし、エレアとお手伝いのアンジェラさんは敷地内の住居に帰った。

既に日は沈んでいるが辺りは暗いが、エレアが襲われる事は無いだろう。

そもそも、そんな脅威は無いんだけどね。

リビングに戻り、シンを視界に入れたデュークは思い出した。


「グレイ、シンの部屋はどうする?」

「そうだなぁ…… 2階のアルトの部屋の隣とか?年近いですし。

前にエレアが使ってた部屋ですね」


 手持ち無沙汰だったシンを招いて2階へ上がった。

アルトがこっそり覗いている。堂々と来ればいいのに。


「今日からここを使っていいぞ。右がトイレで、左がアルトの部屋。

正面の部屋は俺の書斎だから好きに入っていいからな。暇だろ」

「はい、ありがとうご……ケホッ」

「うーわぁ、だいぶ埃溜まってるな……エレアのやつ、掃除してなかったのか?

……ヴェクシッ!あー、先生ちょっといいですか?」

「お安い御用さ、ご主人様」


 そう言われると、デューク部屋の入り口に立ったまま手をかざし、魔術式を展開させた。

拳より一回り大きい風の目が現れ、部屋の埃が空中中央に収束される。

デュークは窓を開けて、指をクイッと外へ向けると風の目は外へ射出された。


「すごい……」

「だろ?魔術は凄いし何でもできるんだぜ!まあ、先生のは真似出来ないけど」

「何故君が誇らしげにするんだ……。シンも興味があるのなら、教えてあげるよ」


 デュークの誘いにシンは大いに喜んだ。

初めて見せた子供っぽい一面かも知れない。少しホッとした。


「じゃあ、後でお湯浴びとけよ。俺達は戻るから。場所はリビングダイニングの奥ね」

「わかりました。ありがとうございます」

「シン、そんな固く無くていいんだぞ?疲れるだろ?

ほら、俺の事はお父さんとでも思えばいい。な?」


 そんな喋り方じゃ馴染めないだろうからなぁ。デュークも隣で頷いている。


「……う、うん。じゃあ、ありがとう……」


 シンは笑顔で答えた。

が、食事の時に見せた複雑そうな表情を一瞬していたのを見逃さなかった。


……

………


 1日が経過した。


子供達が寝静まったであろう深夜。

グレイ宅の地下に複数人が集まっていた。

2つある地下室の内の会議室。壁には大きな地図、大机には散乱した資料。

それぞれが真剣な面持ちであり、空気は重い。


「皆、急な招集なのに集まってくれて感謝する。では、”叛逆の徒”会議を始める」


 普段とは違う、少し低い声でグレイは言った。

かくして、反徒の本部で会議が始まったのであった。




挿絵(By みてみん)

 



読んでいただきありがとうございます。

ブックマークしてくれた方、感謝します。

モチベが上がります!

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