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嘆きの果ての叛逆神話【ジャンヌダルク】  作者: ぱいせん
第一章 聖ヴラトア西方学園編
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第二十四話 狩人の罠

 目の前にいる少女は、アルトを”お兄様”と呼んだ。

 

 いくらなんでも、同い年の十か十一歳の…ましては名家のお嬢様が遊びでそんな事を言うとは思えない。

かといって、アルトを使ってのし上がろうと企てる程の下流の者でも無いだろう。


 目的はなんだ……この娘…


「いや、俺に兄妹は居ないと思うけど……というか同い年だろう?双子には見えないぞ?」


 二卵性の双子なら無い話でもないけど……


「双子ではありません。腹違いの兄妹になります。私が側室の子で、お兄様は本妻の子…です。嘘ではありません、決して」

「そ、側室⁉そんなのがあるの⁉ジル⁉」

「あー、まあ…すごい力を持った騎士家系だったら居ますね、普通に。優秀な血の繁栄は、家系と国の為になりますからねぇ。でも、一般民からは良く見られていないって聞きます」


 はえぇぇ……前の世界だったら”良く見られない”どころか社会的に干される事が、普通って……

異世界凄い、けど……これ僕損してないか?今女の子だからさぁ。

というか、アルトは側室って理解できてんのかな?


「人違いじゃない?そもそもなんでわかったんだよ」

「…約八年前、モルハデウス家次男のアルトが乳母との外出中に行方不明。これは当時、話題になったらしいです。勿論私はお父様伝いで聞きました。懸賞金も出したそうです」

「へぇ?じゃあ、俺が表立って生活している今だったら、みんなこぞって俺を捕まえに来るのか?」

「その可能性はあまりないと思いますよ。捜査は約五年前に打ち切られていて、一般民は忘れている可能性が高いです。ですから、騒ぎになる前に正式に家へ戻りましょう。お兄様」

「まだそれじゃあ、名前が一緒ってだけだろう?」

「本妻様曰く、お尻に痣があるそうですが……お父様譲りの金髪、本妻様譲りの翡翠色の瞳。一目見た時にそうだと確信しました」


 この娘の言うことが本当なら、アルトの戦闘センスも確かに辻褄が合う。

名家の血筋なら納得がいく。

ただ問題は、この場で勝手に決めていいかどうかなんだよ……

作戦の核であるアルトの事だけに、グレイや先生の意見が聞きたい所だけど……

はぁ、村を出てからうまくいかないなぁ。


「あ。そういえば、去年高等部を卒業したモルハデウス家の長男リノアは、良くも悪くも”普通”らしいとか……もしかして焦っている?」

「…⁉そ、そんな訳はないですよ。適当はやめなさい、ジル」


 はーん。なるほどねぇ。


 長男にあまり期待ができないのを感じた一家が、世間体を気にして焦るのはまあわかる。

この娘はアルトを連れて帰って、一家を立て直した功労者として地位を確立させたいのだろうか?

もしそうならば、かなりの野心家だ。

予想でしかないけれど、側室の子だからとかでいい思いをしなかったのだろうか……


 さあ、アルトはなんて言う?


「…今すぐは決められない。まだよくわからないし」

「え⁉……そ、そうですか。で、ではいつ?」

「わかんない」

「わかんないって……それでは困ります!」

「てか、もし俺が断ったらどうするんだ?」

「こ、断る…⁉そ、そうですね。……き、既成事実でも作って婿養子にさせます!」

「「んなぁ⁉」」


 一体どこでそんな言葉覚えてくるんだよ!

ジルも反応したって事は、名家ではその手法は結構やったりやられたりだったり…?

ってか駄目だろ!倫理的に!異母とはいえ兄妹で結婚とか!

子供の勢いとはいえ、この娘ヤバいな。


「きせいじじつってなんだ?」

「知らなくて大丈夫だから、アルトは」

「おいおい、いくら何でも見え張りすぎじゃないのかい?お嬢様?コイツにそんだけの価値があんのかね?」

「あるわ!今日一日見て確信したもの!」

「俺、ずっと見られてたのか……」


 大層な自信をアリシアは持っているようだ。

あながち間違いではないのは事実だろう。


「いやぁ……まず、異母だからって兄妹で結婚って無理あるでしょ?アリシアさん。ねぇ、ジル」

「え?いやぁ、無理ではないですけど……」


 なんですって⁉


 そんな禁断の恋愛モノみたいなのが許されてしまうなんて、さっきから貞操観念が古の時代すぎる……


「あ!アリシア様!こんな所にいましたの⁉」


 アリシアの取り巻きが、少し心配気に声を出してアリシアを迎えに来た。

その反応を見るからに、この娘はこっそり抜け出してきたのだろう。

追撃として、ジルが煽る。


「ほら、お嬢様。お友達が迎えに来てくれたみたいですよ?」

「チッ……お兄様、近いうちにまた会いに来ます。その時はちゃんと答えを貰いますので!私は諦めませんから!」

「お、おう……そうか」


 そうして、嵐のようなお嬢様は去っていった。



「って事があったんだよ」


 寮に戻ってケンに報告する。

今日は喋る相手が欲しかったので丁度よかった。


『ほぉ…そういう事じゃったのかぁ』

「あれ?なんか思ってた反応と違うんだけど……もっと驚くかと思ってた」

『いやぁなに、あの歳で飲み込みが早いから秀才の血が入っておるなとは思っていたからな』

「へぇ、そういうのわかるんだ」

『種族関係なく、血統は大事じゃよ。商人の親からあんなセンスを持った子は生まれんじゃろうよ』


 それは、合ってるとも間違っているとも言えない発言だ。

前の世界では、運動能力の約六割は遺伝で決まると言われていたがそれ以外の要素でどうにでもなる可能性を秘めていた。

この世界ではどうなんだろうか。


『そうじゃ!アルトをその一家にさっさと送り込んで、そこを乗っ取ってしまえばよいのではないか?権力も手に入って一石二鳥ではないか』

「う~ん、僕も一瞬は思ったんだけど……かえって動きにくくなる可能性も十分にあるし、僕らだけじゃ決められないってのが今の所かなぁ」

『ほぉ……一つ、怖い話をしてやろうか?シンよ』

「な、なんだよ」

『デュークはアルトの血筋について知っていた……としたら、どうする?』

「え⁉」


 そ、そんな事どうやって知……あ!


 先生の鑑定魔術なら知り得るのか⁉そんなことまで⁉

でも、それが何だっていうんだ…?


『あくまで我の妄想じゃが……たまたまか、図ったか…有名な血筋の孤児を引き取り、優秀な元部下に育てさせて目論見通りアルトは秀才となった。そんな子を学園に入学させれば、他を寄せ付けぬ実力で確実に目を引く。必然的にアルトの名前は広がり、捜索中だった家の者の目に止まる。現に接触してきたよのぉ?しかも、じゃ。お主がいる事でアルトは一筋縄ではいかない。そんなアルトを向こうは必死に引き込もうとするじゃろうよ。どんな種族でも、苦労して手に入れたモノは愛着や特別感を抱きやすいんじゃ。苦労して引き込んだアルトの発言権や立場が上がるのは容易に浮かぶな』


 ケンはスラスラと語った。

ちょっと報告しただけなのに、ここまで読み解くなんてこいつ実は頭いいのか…?


「ケンって実は頭いいの?」

『おい、我の事をバカだと思っていたのか?……まあ、今のは妄想じゃからな。我ならそうするかなって感じで、デュークが本当に考えていたら切れ者過ぎて笑うしかないわな。なっはっは』

「先生なら無い話じゃなさそう……」


 今言われた事がもし本当に当たっているのだったら、恐怖の鳥肌が立つ。


 一体どこまで考えてあるんですか……先生。



「ヒメはどの研究会入るんです?」

「え……?いやぁ、まだ決めてないかなぁ。ジルは?」

「俺は剣術一択ですよ!一番人気ですし、そこで名を上げてアルドリッチ家の名声をより高めてやりますよ!」

「「流石ジル様っス!尊敬するっス!」」

「そりゃあ、大層な目標だねぇ」


 次の日の放課後は、研究会の見学に行くと決めていた。

ジル達は決まっているくせに何食わぬ顔でついてくる。

最早、金魚の糞よりも強い例えが必要になってくる位のモノだろう。

幸いな事に大分丸くなった……と言うか、僕がしたから害は無いし変な人とかも近づいて来ないから、そんなに嫌な気はしなくなった。


 アルトも居るけど……随分と口数が少ない。


「アルト、考え事?」

「……いやぁ、昨日のことさぁ…どうしようかなって」

「はん!俺だったらソッコーで了承するけどなー」

「剣術しか能のない坊ちゃんはお気楽でいいよなぁ」

「あ?どういう意味だよ」


 今のはアルトに同情するかな。


「アリシア…さんはどの研究会なんだろうね」

「あー、生徒会に入ってるんで研究会には居ないと思いますよ。流石って感じですね」

「へぇ、生徒会ね。選挙とかで選ばれたのかな?有名人だから票が集まるのかなぁ」

「……?センキョ?って?ヒメはまた難しい事を言って……」

「シンは物知りだからね。流石だよ」

「え……?あ!あー、どうやって構成員を決めてるのかなってね」


 え?噓でしょ?選挙無いの?この国


「推薦か、良い生徒がいなければ名家に声がかかるらしいですよ?実力、才能、家柄……選ばれし者しか入れないトコですね」

「なんでそんな詳しいのさ」

「兄が生徒会にいましたので」


 うわぁ…絶対生徒会の権力強いやつじゃん。

やっぱりあるんだなぁ、そういう勢力が。


「俺、その生徒会長ってやつに今日会ったぞ。中々いいやつそうだったな」

「ん⁉」

「へぇ、早速目を付けられたんじゃない?」


 これはいい兆候だ。

まだどうなるかわからないが、モルハデウス家に戻ることになれば家柄も得る事ができるし、実力でアルトに勝る者はいないだろう。

アルトが会長になる姿は容易に想像できる。

そうなれば、こちらで動く方も色々考えなくてはならない。

手紙で連絡か…使者を送り連絡か…確実なのは一度帰るとか……

いや、協力者に会えば何か別の方法で連絡が取れる可能性もある。

早く接触したいんだけど……どんな人かもどこに居るかも全くわからない。

先生には”見ればわかる”って言われたけど……


「ここですね、研究棟があるエリア。あの一際でっかいのが剣術のらしいですね」

「シン、どっから行く?」



 生物研究棟は地味だけど、敷地は広大だった。

なんでも広さだけなら学園の中で一番広いんだとか。

それもそうだろう、学園の人の食糧がここにいるんだからね。

学食や職員の食事はすべてここの生物の命を頂いていると説明を受けた。

馬以外の霊魔を初めて見たが、どれも僕の知る動物とは結構違う。

豚の様な牛とか、ダチョウみたいな鶏とか……

魚はそこまで違和感を感じる見た目はしていないけど、とにかくサイズがでかい。

肉は高価なものらしいから、魚しか食べることができない一般層には物量的に有難いのかもしれない。


 次は剣術研究会へ向かう。

一際大きなドーム型の建物が存在感を放っている。

研究というよりは鍛錬がメインになっていると聞いたが、中には新たな戦術を研究したりと一応研究会っぽい事もしているみたい。

人数は約三百人と、全生徒の三割程がいる人気ぶり。


「へぇ、意外とちゃんとやってんだな」

「思ったより打ち合ってる感じだねぇ、熱がある」


 僕とアルトは、さながらOBの様な眼差しで活動内容を見ていた。

申し訳ないけど、ブルーノや先生と比べたらチャンバラにしか見えないのだ。

まあ、僕がここに入ることはないかな……絶対目立つし、加減するのも気が滅入りそうだ。


「アルト、ここ入るんでしょ?」

「え?じゃあ、シンも入るの?」

「いや、僕が入るのは色々まずいでしょ。アルトはここしかないよ」

「……まあ、そうなるよね」

「やりすぎ注意ね、頼んだよ」


 最後の一言は、アルトにしか聞こえないよう顔を近づけて囁いた。

急に近づいたからか、少し後ずさられた。


「ジル?どうしたの?随分と静かだけど」

「…!え⁉い、いやあ……いろんな奴がいるなって」

「お前、まさかビビってんのか?」

「は、はあ?んなわけねぇだれお!」


 そんなわかりやすく動揺するかね、噛んでるし。

んー?でもジルって僕と同じく飛級で中等部に入学してるから、実力が無いわけじゃないと思うけど……

もしかして……


「集団が怖いの?ジル?馴染めるか不安とか?」

「う……、俺の心でも読めるんですか?ヒメは」

「大丈夫だよ!アルトも入るって言ってるからさ」

「ちょっ、こいつと仲良くする気なんて……」

「僕は困っている友達を助けてあげる人とか素敵だと思うけどなぁ」

「し、しゃーねーなぁ……おい!ジル!俺もお前も最初浮くだろうから、相手をしてやらない事もない」

「はんっ!お前なんてすぐに抜くけどな」


 なんだコイツら……素直じゃないなぁ

これでもっと仲良くなればいいんだけど。



 少し深い森の中に、結構大きな館があった。

ここが魔術研究棟で、魔術が他所に飛ぶと危ないからという理由で研究棟エリアの端にある。

来る途中も、人の気配の無さと薄暗さがホラー映画の様で不気味だった。


 そして今、その研究棟に入れなくて困っている。


「え?なにこれ?見えない壁みたいのがあるんだけど……」

「結界じゃない?デュークもこんなの使ってたよ?」

「へぇ……、触るとこんな感じなんだ」


 触った感じは鉄板の様で、叩くと鈍い音がする。

先生が僕の前で使っていたのは広範囲かつ触れないやつだったから、実際に体験するのは初。

でも、なんでこんな入れなくしているんだろうか?

会員制?紹介がないと入れないとか?どっかに呼び鈴とかあるのかな?


「何してんすか、ヒメ。突っ立ってないでさっさと行きましょう」

「……なんでシンだけ通れないの?」

「え、いや……」


 そう言ったジルは、まるで”結界なんて無い”かの様に先に進んでいった。

トレフ、トイラを引き連れて、僕らの横を通り過ぎる。

アルトも、ゆっくりではあるが僕の方を気にしながら進む。

一瞬何が起こっているのか理解できなかったが、ある言葉を思い出してしまった。

ブルーノが先生の結界魔術について説明した時に言った、”条件の設定”だ。

だとしたら、拒絶されているこの状況は……”条件に当てはまっている”か”条件に当てはまらない”どちらにしても術者の思惑?


 これは……まずい!


「み、みんな!やっぱ今日は帰らない?」

「あら?せっかく来てもらったのに……帰っちゃうの?あなた達」


 気持ちが悪い鳥肌が立った。

僕らの後ろから、大人の女性の声が聞こえてきたのですぐさま振り返ると、少し変わったシスター服を着た長身の女性がそこにいた。

魔力感知を切った覚えはないのに、微塵も気が付かなかった。


「は、はい。明日にします」

「え?どうしたのシン?あんなに興味ありそうな感じだったのに」

「シン……、あぁ、なるほどねぇ。あなた達新入生でしょう?私はここの顧問をやっているシルヴィアっていうの。私が案内するわね、着いてきて」


 気が付くと通れるようになっていた。

これは、ついていったら捕まったりはしないだろうか。

今ここで逃げても、人気の無い所で戦闘になったりしたら最悪だ。


「どうしたの、あなた。考え事?」

「シン、大丈夫?なんかあった?」


 アルトはこの異常に気が付いていないし、何か伝えて怪しまれても困る。

中に入れば誰かしらいるだろうし、大きな事は出来ないだろう。


 もし、最悪の事態になった時は……


「いや、何でもないよ。行こう」


 やるしかないだろう。


 


読んでいただきありがとうございます。

よろしければ、評価やブックマーク等よろしくお願いします。

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