第 話 ■■■の記憶
孤独を感じるのは、果てしなく長い記憶の中でもこれで二回目だ。
今、唯一の理解者は”校舎”と言う所に行っていて居ない。
誰の気配も感じない部屋に、自分は丁寧に放置されている。
見渡せば、自分の知っている人族の暮らしとは思えない立派な装飾品達が見事に輝いている。
改めて時の流れを感じて興味が湧いてくるのと同時に、虚しさを感じる。
ふと、少し前の記憶が現状と重なって見えた。
目の前が見えない程の吹雪の中、千年以上も何だか分からない剣として突き刺さっていたあの頃。
◇
そもそもは自分が悪い。
思い返せば、少しやり過ぎた行動だったかなと反省している。
当時■■■だった自分と対等以上にやり合えた”ヤツ”に出会った時は、嬉しくて胸が踊ったものだ。
それ故に、しつこく付き纏い過ぎて「頭を冷やせ」と言われ突き放され、少しの間の封印をされてしまった。
そう、初めは”三十年ちょっとの封印”だったのだ。
”あんなもの”が余計な事をしなければ、こんな面倒にはなっていない。
それが現れた時は、数百年ぶりに焦りを覚えた。
まあ、理由は確実に”自分が邪魔だったから”しかありえない。
向こうにとっては千載一遇の機会だったに違いない……まぐれであれば。
視界……いや、魔力感知機能が上手く作動した時は不幸中の幸いだと初めは思っていたが、それは違った。
見知った顔の龍族がたまたま通りかかった時に、意思疎通の手段が皆無だと実感した時は苦笑いを隠せなかった。
声は出せるが、まるで自分が死んでしまったかの様に相手に届く事は無い。
片手で数えられる挫折の内の最悪の一つになった。
目に見えてしまっている解放の光に、手が届かないのは最早苦行でしかなかった。
そして驚いたのが、自分に関する事は口に出せなくなっていて記憶も朧げになっている。
”ヤツ”の嫌がらせが最悪の方へ転がってしまった。
そこからは、気が遠くなる程の時間が流れた。
行き交う鳥の数、それらを喰らう肉食の怪鳥の数、それすら喰らう龍族の数、降り積もる雪の結晶の数……五百年位は数えていたが、流石に飽きてしまった。
覚えている魔術を自分で思い返したり、仮想敵を創って脳内で戦ったり……
これも三百年はもったと思う。
ここから出たら何をしたいとか、出る方法とかも考えたが……
どれ位の年月が経ったのかは最早分からない。
◇
その時は突然訪れた。
一面白く、岩肌が見え隠れしているただただ広い銀世界から、目の前に一点だけ白いモノが動いている何やら狭い空間に瞬きの合間に移動していた。
白いモノの正体はすぐに予測できた。
女の下着だろう……遥か昔に追いかけた思い出がある。
しかし、これはどう見ても子供の大きさだろう。
落胆の独り言を吐くが、どうせ口に出しても聞こえはしない。
すると慌ただしくも子供は辺りを見渡し始めた。
何を探しているのか?
そう思ったが、ある瞬間から完全にこちらに向かって歩み寄ってきて立ち止まる。
異常な行動に見えてもおかしくない位、こちらを凝視している。
ふっと、諦めていた感覚が目覚めた。
期待だった。初めに打ち砕かれた純粋な感情。
恐る恐る口を開く。
戸惑いながらも、少女は聞こえていると言う。
身体は動かないが狂喜乱舞しそうな程嬉しかった。
あれ程の喜びは、初めての経験だったかもしれない。
それが、シンとの出会いだった。
後に、自分と似た能力を持っているだけでなく”ヤツ”とも会ったと聞いた時は、かなり面倒な事になっているなと思ったが、”ヤツ”なりに手は打ってあるのだなと感心した。
しかしまあ、この少女に課せられた運命は相当な物になろう。
同じ経験者として深く同情する。
できる限りの手助けはしてやろう……そうしたらその内否が応でも”あの二人”の元へ行くことになるだろう。
この封印を解くには、それが手っ取り早い。
……要求を受け入れてくれるかは知らないが……
ただ刺さっているだけの暮らしよりも、何百倍も暇はしないだろう。
世界で唯一の話し相手も居るだろうし。
◇
シンがここへ向かってくる。
授業とやらが終わったのだろう。
シンは色々学びに来ているらしいが、何を今更と笑ってしまう。
魔力と戦闘能力は人族とは思えないし、自分から見ても可能性の塊で恐ろしい。
魔術が苦手みたいだが、バカみたいな魔力出力で初級を放つのだから最早中級より威力が高いのは確かだろう。全く……術師泣かせの子供だ。
知識が欲しいのであれば自分を頼れば良いものを……
…
……
………
ん?何だ?……あの魔力は……いや、まさかな。こんな所に来るわけが。
一応、シンには報告しておくかぁ。
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