第二十二話 オリエンテーション
「……歴史ある偉大な学園に入学できた事は、我々新入学生にとってとても……」
「まあまあの挨拶ですかね。ねぇ、ヒメ?」
「アルトは緊張しないらしいからねぇ。堂々としてるのが様になってる。
ほら、皆んなザワザワしてるよ」
「いやぁ、あれは挨拶云々じゃなくて元々ですよ。前にも言いましたが、
高等部飛級なんて十年に一人位ですから。
今やアルトは学園内外で注目されているって訳です。悔しいですが」
「へー、詳しいねぇ。ジル」
ここ、聖ヴラトア学園内にある大型多目的ホールにて入学式が行われている。
僕らは二階席の少し後ろの方に座って、アルトの代表挨拶を見守っていた。
実を言うと、寝坊した。
昨日、遅くまでアルトの挨拶暗記に付き合ったり、色々確認していたら寝るのが遅くなってしまった。
ジルが来てくれなければ間に合わなかった事だろう。
来る時も霊馬車に乗せてくれたし、ジルを見る目が大分変わったかも知れない。
と言う事で、ギリギリだったから後ろの方しかなかったのだ……
して、ジルの言う通りならば作戦の第一段階はクリアしただろう。上々だ。
ステージに立つアルトが、いつにも増してイケメンに見える。
……遠くに居るから気のせいかもだけど。
「……新入生代表、アルト=ラウェイン」
盛大な拍手が会場を包み込む。
大分不安だったが、何一つ問題はなかった様に見える。
帰ったら褒めてあげよう。
「続いて、生徒会長より新入生への激励の言葉です」
通算四回目の入学式だが、退屈だ。こんなに前の世界と酷似するかね。
人の話ばかり聞いて何になると言うのか。
アルトの前に話していた学園長は、体感で二十分位話していた。
どうやら校長のお決まりはどの世界にも存在するみたいだ……
会長の話も長くなりそうだし、こんな時は人間観察に限る。
丁度眺めも良く、色んな生徒が目に入る。
「ね、ジル。あの子知ってる?」
「あー……アイツはやばいですよ、ヒメ。リーズレット=アークディル。
ラクト地区の枢機卿の娘で、第二試験会場の一位合格ですよ。
いけすかない女って、都市部では有名なんです」
「おぉ……凄い情報力。ジルって結構情報通なの?」
「い、いやぁ。これ位は誰でも知ってますよぉ……」
「「ヒメは大げさっス」」
ジルは赤面していかにも喜んでいた。
面白い、コレはジルの有用性を見出せたかも知れない。
情報は極めて大事だし、先生もカバーできていない所もある。上手く使っていかねば。
……にしてもあの枢機卿の娘、他の子より結構魔力が多い。
ぱっと見でも彼女だけ色が濃い。まあ、たかが知れてはいるが……いい教育を受けているだろうと言うのは容易に想像できる。
「じゃあ、あの子とか……」
「ああ、アイツはカリンです。カリン=クレイディオ。
小さい頃から知ってるやつです。クレイディオ家も騎士家系なんで交流が
あるんですよ。でも、クソ真面目で一々うるさいやつです」
「へ〜、確かに真面目そうだね。
一番前であんなに姿勢良くずっと聞けないよ普通。
さっきから視界に入ってたんだよねぇ」
「そう言うやつです」
真面目ちゃんかぁ。
男子共にいじめられなきゃいいんだけど……
少なくともジルにはやらせない様にしないと。
そんな暇つぶしをしていると、気がついたら会場は拍手に包まれていて、それが入学式の終わりの合図となった。
「ふぅ……やっとおわったっスね。次はえーっと…教室で顔合わせっスか」
「ジル、ちゃんと仲良くしなよ?」
「わ、わかってますよ……ヒメ」
「……本当かね」
「あぁ、その目。いいですねぇ!あはぁ……」
変態は置いておいて、教室へ向かおう。とした時だった。
多目的ホールを出ようとした時に、一人の女の子の在校生スタッフに目で追われ、目が合うと睨まれた。
僕は何もしていないのに。
魔力も年頃位に抑えてるし、今はケンも持ってない。
あの子なんなんだろう……
◇
教室はかなり広い。
教室全体が弧を描く様に設計されていて、机は横長の一体型で階段状に設置してある。
行った事はないけど、確か大学はこんな感じだった気がする。
クラスという概念は無く学年で一塊で、今ここ中等部一年には百十人程が一堂に会している。
当然の様に両隣にはジルとトレフ&トイラが陣取っているので、周りからの目が気になる……
騒めきの中、一人の中年女性が教室に入ってきて教壇の前に立つと、生徒達は一気に静まり返った。
ふむ……この人はまあまあの魔力だな。
「はい。私が中等部一年生の学年担当になりました、レルフ=ナカモトです。
剣術は苦手ですが魔術には自信があるので、皆さんわからない事があれば
聞きに来てくださいね」
「ナカモト……?」
聞き馴染みのある単語に、思わず独り言が漏れる。
この先生はもしや同郷の人なのでは……?
と言うか、他にもこの世界に来た人がいるのか……?
これは、先生に直接聞くしかない。
「……メ…ヒメ、ヒメ!次ヒメの番ですよ!」
「へぁぇ!?な、何が?」
「何がって、自己紹介っスよ!どうしたんスか……?」
えぇ?いつの間にそんなのやってたの?
ちょっと考えに耽り過ぎていたみたいだ……
「じゃあ、次はシンさんね」
「シン=ダルクです。田舎から出てきたので、色々教えてくれると嬉しいです」
「あの子が……分隊長を倒したって言う……」
「ジルも子分にする位ヤバいらしいよ……」
「やだぁ……怖い……」
めちゃくちゃザワザワしてる。
アイツが例の奴か、と言わんばかりの反応だ。
なんか内容が酷くなっている気がするが、一々かまっていられない。
コレはもう、目立たないのは無理かもと悟った。
「はい、皆さん少し……」
「私語は慎んでください!自己紹介中ですよ!」
「……そ、そうね。皆さん、仲間の話は聞きましょうね」
丁度真ん中辺りに座っていた女の子が立ち上がり、皆んなに注意を促した。
こう言った後は、暫しの静寂に包まれ気まずい雰囲気が流れるものだ。
だけど、あそこで言える女の子の勇気は凄いと思うが……
「あれがカリンです。ね?わかったでしょう?ヒメ」
「なるほどね、わかった」
孤立してしまうタイプではあると思う。
◇
聞きそびれたが、自己紹介しているのは飛級で入学した十二人だけらしい。
四つの試験会場のそれぞれ上位三人が飛級の資格を得る事ができる。
それ以外は初等部からの付き合いみたいだから、もう十分に馴染んでるみたいだ。
ちなみにアルトは例外らしく、第一会場はアルトを抜いた三人だとジルから聞いた。
第二会場の主席がリーズレット、第三者会場の主席がさっき聞いたらカリンらしい。
で、第四は……
「エドウィン=コルディングです。エドって呼んでください。
目が見えないので、皆さんにサポートをお願いするかも知れません……
その時はよろしくお願いします」
今喋った盲目の少年。彼が主席らしい。
同じ会場だった筈だけど……姿を見てないな……
心のどこかでは、”僕が一位になってしまった”と思っていたので恥ずかしい。
と言うか、盲目なのにどうやって合格したんだ?
……魔力は周りの子と比べると結構あるから、魔術使いなのかなぁ?
「たまたま新人騎士に当たったとかじゃないんスかね?
ヒメより点を取ったとは思えないっス……」
「だとしてもだよ。凄いじゃん」
トレフとトイラは、不服そうにエドに対して疑惑の目を向ける。
君達、いつの間にそんなに忠実になったんだよ!と言いたい気持ちをグッと抑えた。
気のせいか、エドがこちらを見て微笑んだ気がしたが……僕じゃ無いだろう。
「はい、では自己紹介も終わりましたし、この一年のスケジュールを
皆さんにお伝えしようと思います」
教室でのオリエンテーションは続く。
◇
[サイド・アルト]
あぁー、嫌だ。
なんで俺が高等部でシンが中等部なんだよ……
普通、逆だと思うんだけど……いや、じゃなくて!
シンも高等部でよかったと思うんだけど!
そもそも、シンは二等級で俺は四等級。実力で全然違うし、一回も勝った事ない。
そしてあんな理不尽な能力を持っているのに誰も勝てる訳が……
あれ?なんでシンって学園に通ってるんだっけ……?
……あ!そうだ、作戦で俺の護衛役として入学したんだったわ。
でも、害になりそうな奴は居なそうだ。どいつもこいつも大した事無さそう。
そもそも、俺要らないのでは?
もう、シンに全部任せて俺が支援役に回れば……
いや、それじゃあ情けないし俺の”英雄計画”が狂うからダメだな。
それにシンに何かあったら見境なく全員殺してしまいそうだ。
……想像しただけで腹が立ってきた。
「アルト君、自己紹介をお願……」
アルトは聴き終わる前に起立した。
口籠る先生と、注目の目を向ける歳の離れた同級生。
「アルト=ラウェインです。剣術は四等級、魔術は中級を少々使えます。
よろしく」
にこやかにアルトは喋ったつもりだったが、先程の妄想に釣られて目は笑えていなかった。
「四等級?あの歳でか……?」
「流石……十年に一人の天才……」
「結構可愛い顔してない?ふふっ……」
うるさいなぁ、ヒソヒソと……四等級位で騒ぐなよ……
あぁ……ジル達ヘマして無いだろうな……早く放課後になってくれ。
◇
[サイド・シン]
教室を出て、新入生は校内案内に出た。他の生徒は既に解散している。
まずは大食堂。
全校生徒が使うだけあってとんでもなく広い。
入ってすぐに目に入るのは、巨大なステンドグラスとその上にある、シンボルにもなり得るであろう巨大な時刻板。
昔見た、魔法を使う映画に出てきた様な所に雰囲気が似ている。
今にも梟が飛んできそうだ……
「はい。じゃあ丁度お昼なので、実際に皆さんに学食を体験して貰いましょう。
好きな物を選んできて下さいね」
そう言われて僕も皆んなについて行ったが……
前の世界の料理の面影を感じる物がいくつかある。
僕らが泊まっていた良い宿には無かったし、外食もしていなかったから知らなかったが……
コレはたまたまなのか……それとも誰かが……?
今はまだ全然わからない。
取り敢えず僕は、焼肉プレートを所望した。
「……ヒメ、結構男っぽいの選びますよねぇ」
「えぇ?そうかな?」
当たり前だろ、中身男なんだから。
「はい、じゃあ皆さん」
「「主よ、慈悲に感謝します。
貴方様の威光が届く所に、恵が再び芽吹きます様に」」
……え?何それ?怖いんだけど……
皆んなめっちゃ息揃って、僕だけキョロキョロしちゃったじゃん。
あれか、うちは反徒だからこう言うのはしなかっただけで、他の子にとっては当たり前って訳ね……
◇
食事は終わり、次は図書館。
国立の図書館としても使われているらしく、一般人も入る事ができる様に敷地の端の方にある。
円柱状の三階建てになっていて、浮き抜けでありかなり巨大。
自分が小人にでもなった様な気分になる。
グレイの家にも無かった魔術本や資料が無数にあるらしいし、かなり楽しみである。
続いて、多目的修練場。
ここは文字通り、剣術と魔術等の技術を磨く場所。
何というか、グラウンド的な物なのかな?
今も……授業だろうか?トレーニングに励んでいる生徒達がいる……
あれ?あれは、アルトだ。
じゃあ、あれは高等部一年か……初日からキツそうだなぁ。
皆んなバテて見えるけど、アルトだけ立っているのを見るにあの子は余裕なんだろうな。
部活の様なものも学園にはある。
研究棟エリアには様々な”研究会”が存在する。
生徒同士が同じ目的で集まり、切磋琢磨して高め合い、人族の繁栄に繋げると言う名目らしい。
剣術に魔術は勿論、生物や世界史と言ったものもあるらしい。
料理や文学までもあるとか……
一通り回ったら、既に時刻版は3をとっくに過ぎていた。
「いい時間ですので、今日は寮に案内してそのまま解散にしましょう」
遂に我らが根城へご案内か。
荷物は既に送ってある、ケンも含めて。
殺傷能力の高い武器は学園内での所持が認められていないので、アイツはお留守番。
……絶対うるさいだろうなぁ。
「こっちは一般寮になってますが……貴方達は特待生なので、特別寮になります。
この先ですよ」
そう案内されたのは、少し小ぶりな二棟の城だった。
石造りで、中世の西洋の雰囲気が強い。
冗談で「根城へ〜」とか思ってたのに……本当にそうだとは……
でも、こう言うの良いなぁ。浪漫がある。
「では、男子から案内しますので女子は玄関ロビーで待っていて下さいね」
「「はい」」
「………シンさん?こっちじゃ無いでしょう?女子はあっちよ?
そう言いましたよね?」
「え!?……あ!あはっ、あはは、すいません。うっかりしてました〜」
ヤバッ!素で男子の方について行ってしまった……
完全に変な奴じゃんか……
「ヒメ、寂しいのはお互い様です。気持ちは受けとりました……
待ってて下さい!いつでも会いに行きますんで!」
「俺達も寂しいっス……」
「違うからさっさと行ってよ」
「んっ……くぅ、不意打ちの蔑み頂きました……」
男子達は寮の中へ入って行った。
◇
寮は一人部屋だった。
なのに……ベットはキングサイズ。おかしい。
装飾までも煌びやかで、本当に王族にでもなったかの様な待遇だ。
トイレとシャワーは部屋にあるけど、お風呂は共有との事。
そこは寮っぽくて安心した。
「ケン、残念だね。これからお留守番なんて。少し同情するよ」
……あれ?返事が無い?
「……ケン?おーい、ケン!」
まさか……?え?消え……?
『聞こえとる、聞こえとる。うるさいのぉ』
「なんだよ、ビックリさせるなよ……どうしたのさ?」
あんなに喋りたがりのケンがダンマリは気持ち悪い。
『我の魔力感知を”今の”ギリギリまで広げて暇を潰しとったんじゃが……
変な奴がおってな』
「変な奴?」
『そうじゃ、我が見るに”色が濁って”おった。
まあ、心当たりはあるんじゃが……気をつけろよシンよ』
「え?それ大丈夫なの!?」
『まあ、お主の能力があれば死にはしないじゃろう。
アルトの方を気にかけてやるんじゃな。デュークが言っていた”内通者”
であれば良いんじゃがなぁ……』
「うん……そうであって欲しいんだけど……」
そう、この聖ヴラトア西方学園には反徒の内通者がいる。とデューク先生が言っていた。
その人とコンタクトを取り、一緒に作戦を進めなければならない。
ぶっちゃけ、アルトの潜入作戦はこの学園に入学した時点で、神聖騎士団への入団は確定した様なもの。
この学園生活中に行うのは、次段階の下準備らしい。
何をやるかは、その内通者に聞けとの事なのでまだ知らない。
先生曰く、”私よりも腕は立つから、決して失礼のない様に”と。
先生より強いなんて信じられない。
謙遜なのかはわからないけど、口喧嘩が〜とかだったり?
まあ、ケンからの忠告もあったし気を引き締めておこう。
読んでいただきありがとうございます。
ブックマーク、評価等ありがとうございます。




