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嘆きの果ての叛逆神話【ジャンヌダルク】  作者: ぱいせん
第一章 聖ヴラトア西方学園編
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第二十一話 決して開けてはならぬ扉

ストックの底が見えてきました……

毎日投稿されている方の凄さを実感します。

 ロビーに居る者は皆、居心地が悪そうに見える。


 ジルには誰も寄り付いておらず、誰も目を向けない。当然であろう。

僕だって嫌だ。面倒事には巻き込まれたくない。


「……あちらがシン様を指定されたお客様です」


 だよねぇ……何しに来たんだろう?報復かなぁ?


『凄い奴じゃなぁ。流石、威張っていただけあって精神力は異常…と言う事か』


 確かにね。不本意とはいえ、あそこまでやられたのに会いに来るのは凄いと思う。

ちなみにアルトは、ジルを見つけた瞬間に不機嫌になった。今にも取っ掛かりそうなので静止する。

 

 ジルはまだこちらに気づいていなく、天井と床を交互に見たりして何処か落ち着きが無かった。

頭を横に振った際に僕らの事が視界に入ったらしく、こちらに気づき立ち上がる。

真顔で歩み寄ってくるジルに、僕は生唾を呑んだ。

アドバンテージは僕にあるのに、嫌な緊張があるのは第一印象が拭えないからだろう。

そしてジルは僕の前に意外にも無言で礼儀正しく立った。

周りは未だ見て見ぬふりだ。


「な、何ですか……?」


 僕の顔を凝視するジルに、たまらず僕は先に口を開いた。

するとジルは、誰も予想しなかった行動に出た。


「こ、この前はすいませんでしたぁ!!!」


 ジルは深々と、地面に頭が着くのではないかと思う位、頭を下げた。

言葉は響き渡り、態度は視認され、周囲は呆気に囚われた。

擬音が浮かび上がるのではないかと言うほどの静寂が、辺りを支配する。


「はぇ?え?えぇ?」

『ぶわぁっはっは。何じゃ何じゃ、存外小心者だったのか?此奴』


 気が抜け過ぎて変な声が出た。

本当にコイツはジルなんだろうか……二日で何があった……?

わ、罠なのか……?油断させた所に一発入れようって魂胆か……?


 次第に状況を理解できた周囲が、騒めき出す。

「どう言う事か」「あの少女は何者だ」等、ヒソヒソと聞こえるが……

おいおい、またかよ。何で注目を浴びちゃうんだよ……なんかの呪いか?

ダメだ、一回部屋に連れて行こう。


「う、うんうん。大丈夫だよ、気にしてない気にしてない。

 そ、それよりもさ、ほら。こんな所じゃアレだから……部屋に案内するよ」

「え!?怒って無いの!?……んですか?」

「え?」


 ん?何でガッカリしてんの?この子。

明らかに安堵の笑顔ではなく、期待外れだった時の顔してた?気のせい?

僕はジルの背中を無理矢理押して、半ば強引に部屋に引き入れた。

ちなみにアルトは、ジルの謝罪を聞いて少し機嫌が戻った。



「んーっと、どう言うつもり?」


 高圧的なものでは無く、純粋な疑問。


「ですから、謝罪をしに……」

「……本当に?だったらさっきも言ったけど気にして無いよ。もう怒ってない」

「っ!?何でぇ?どうして怒ってないんですかぁ!?」


 床に正座していたジルは、両手を地につけ、お尻を突き出し四つん這いになって悲しい顔で訴える。

元より相手にしていなかったから怒るも何も無いんだけど、この反応は意味がわからな過ぎる。


「……まるで怒ってほしいみたいな言い方だけど」

「俺もわからないんです……だだ、俺、あの時生まれて初めて怒られて、

 味わった事のない感情が…こう、ブワッと溢れたんです。

 シンさんの威圧的な目で言われたあの台詞が、ずっと頭にあって……

 思い出すとフワフワするんです……

 だから、この気持ちの正体が知りたくて来たんです!

 だから!さあ!おねがいします!怒って下さい!」


 おっと?ちょ……えぇ?


 僕はとんでもない過ちを犯してしまったのかも知れない。


 そして知っている。その”フワフワ”の正体が”ゾクゾク”だと言う事を。

はっはーん、成程……さてはコイツ、超早期型変態だな?


 ………そうはならないでしょ!


「絶対に嫌です。君の為にも僕は怒る訳にはいかないんだよ」


 人の性癖を歪ませた事実を背負って生きて行きたくはない。

忘れろ、少年。まだ間に合う。


「そ、そんな……」

「何だかわからんが、許して貰ったんだからいいだろう?」

「あ?何だお前?入って来んなよ」


 ジルの態度が一変して以前の姿を取り戻す。

立ち上がり、アルトには出会った時のような高圧的な態度をとる。


「んだと、茶髪ぅ!俺は嫌いなお前を”敢えて”フォローしてやったのに、

 んだよその態度ぉ!」

「はっ!シンさんにぃ、守って貰う立場の癖に、フォローされてもねぇ!?」

「あ?やんのか?茶髪」

「おーおー、威厳は無くても威勢はいいみたいだなぁ」

「よし、殺す」

『何じゃ何じゃ、意気投合か?わっはっは!』


 一触即発ですね、ハイ……

もう……入学すらしてないのに、問題が山積み過ぎて辛い……

取り敢えずここで暴れられるのは困る。


「おい!……うるさいよ?」


 少し大きめの声で注意を向かせ、低いトーンで……あ!やべっ!


「違っ……」

「んはぁぁ!?こ、これです。この感じ……何故か繰り返したくなる……」


 こ、こいつ……もう手遅れだったのかもしれない。


「や、やめてよ……僕は”女王様”じゃないんだよ……」


 あんまり詳しくないけど、メディアで見た事がある。

百歩、いや千歩譲ってやられる側なら可能性はあったのかも知れないけど……

やる側になるなんて夢にも思う訳ないだろっっ!


「……?なんです?”ジョウオウサマ”って……?」

『我ですら知らん』


 あぁ、そうだった……この世界には”王”と言う概念が無いんだった。

神や神使がそのポジションと言う、何とも極端な世界。


「あー、巨大な組織のトップに使う敬称かなぁ?

 男なら”王”、女なら”女王”もしくは”姫”とか……」


「ヒメ………なんて甘美な響き。それでは、我々のトップであるシンさんは

 ”ヒメ”と呼ぶ事にしましょう。いえ!そうさせて頂きます!」


 おい?何でそうなる?

やめてよ!中身は成人男性なんだよ!何の拷問だよ!

そんなの……恥ずかし過ぎて爆発してしまうわ!


「やだよ、ふざけるな」

「ぐぅ……ふふっ、ふふふ、やはり嫌がりましたね……?

 嫌がれば、その目を俺に向けてくれる……俺はめげませんよ!ヒメ!」


 ああ、こいつマジで面倒くさいな。前と後で、全く違った面倒くささ。

この手の類は、きっと無視しても逆効果なんだろう…………詰んだ。


『良かったではないか!!同志が増えて!のう?ヒメよ?』


 よし、後でこいつへし折ろう。



 予定通りに宿を出て、受験結果の張り出しを見に行くのだけれど……


「何で君達、ついてくるの?」

「いやぁ、目的が一緒なら良いじゃないですか?おい!お前ら!挨拶しろ!」

「「これからよろしくお願いします!ヒメ!」」


 ジルが僕らの後をついてくる。

宿の外で待っていた連れの二人を連れてニコニコと歩いている。

確か……トレフとトイラとか言ってたな。見るからに双子だ。

勝手によろしくされてしまったが、もう半分諦めた。


「はぁ……別にいいけど……」

『従者が三人もできたんじゃぞ?もっと喜べ』


 喜べるか!勝手に名乗ってるだけだぞアレは。


「チッ、」


 アルトは露骨に嫌そうな態度をとる。

口数は少なく、何故か僕に近いような気がする。


「仲良くしなよ、アルト。交友関係も後々に役に立つかも知れない」

「……わかってるよぉ」


 ジルに聞こえない様に喋る。

変態になっても、上流階級のボンボンだ。懐柔できた事は不幸中の幸いだと思えば、中々に気は晴れる。



「うわぁ、結構いるね……」


 張り出しの前には、目的にたどり着けない程の人が群がっていた。

思わず声が漏れ、立ち止まる。

くそぉ、こんな事だったらもっと早く出て来ればよかった……

と、後悔している時にジルの足が前に出た。


「おぉぉい!!お前らぁ!”ヒメ”のお通りだぞぉ!道を開けろぉ!」


 腹から出た通る声で、ジルは周囲に叫び威嚇した。

「うわぁ、ジルだ」「ヒメ?誰?」等、視線は当然一点に集まり、騒めきはするものの人々は要求の通りに動く。

それはさながら、モーセの十戒の様で……


『はっはっは。此奴、かなりの器では無いか?シンよ』

「おい!余計な事すんなよ!ど、どうすんのこれぇ……」


 めっちゃ恥ずかしい、最悪。

器じゃ無いんだよ……ただ単に避けられてるんだよ。

先生、すいません。僕は職務を全うできそうにありません……


「行きましょう!ヒメ!」


 キリッ。じゃねーよっ!!


 ジルを先に行かし、僕は後から俯きながらついていく。

はぁぁ、顔が、耳が熱い。それに比べて……アルトは堂々としている。


「ふん、まあまあ使えるじゃないか。お前」

「あ?お前はついでだよ。勘違いすんな」


 よくまあ……そんな堂々と小競り合いできるな……

あぁ、早く帰りたい。


「……あったあった、”中等部飛級可”ねぇ……アルトは?」

「俺は”高等部飛級可”だった」

「ヒメ!ヒメ!僕も中等部飛級可でした!これで……」

「よし、もう行こう!」


 ジルがなんか言ってたけど、知らん。

何も考えずにアルトの手を握り、全力でその場を後にした。

気持ち的には、強化魔術で瞬時に帰りたい位だ。


 ジル達は勿論置いて来た。



「今日は疲れ過ぎた」


 ベットの上で思わず本音が漏れる。体力的にと言うか、気力的に。

ああぁ……コレから僕は一体どうなってしまうんだろうか……

確実にあの場所に居た人の記憶に残ってしまっただろう。

アルトも居たから、少しは計画通りって事にしといてもいいよね……


『賑やかになってきたのではないか?シンよ?』


 いいよなぁ、コイツは楽観的でさぁ……

入学式まで一週間ちょっと。次、ジルに会うのはそこだろうなぁ。

なるべく気づかれずに離れた席を狙いたい。


「シンはあいつの事嫌いなの?シンは優しい所があるから、

 言えないんだったら俺がわからせるよ?」

「やめて、これ以上問題を増やさないで」

「そ、そう……?大丈夫?」

「まあ、酷くなってきたら僕から言うよ。”適切にね”」


 あれだけ尻尾を振っていたら、言う事は聞いてくれるはず。


「あぁ〜、数日以内に入学用の買い出しに行かないとねー。

 専門店のリストはコレ。先生に貰ってあるから」

「色んな店の外観は見たけど、まだ店の中にはあまり入ってないから興味はある」

「あぁ、それね………」


 眠たい。瞼が重く、意識が遠のいていく。

最後にはアルトとの会話寝落ちで、一日が終わった。



[サイド・アルト]


 全っっ然っっ、寝れない。


 今日、初めてシンから手を取ってくれたのだ。

今でも目を瞑ると感覚が………いや、流石にちょっとキモいぞ俺。

アレはただ、急いでいただけだ。何もない。

今度行く買い出しだって、その……特に特別な事はない。


 そもそも、シンは僕の事を兄妹としか思っていないのだろう。


 よし、しばらくはこの心持ちで行こう。

このままじゃ学園生活が持たない、気力的に。

ダメだ!あんなんで揺らいでる様じゃ、目的は果たせないぞ!アルト!

ふと、数十センチ先で寝落ちしたシンを横目で見る。


 ちくしょう、めっちゃ可愛い。



[サイド・シン]


 朝は、毎日ベルボーイが朝食を運んで来てくれる事になっている。


 前の世界では経験の無い贅沢だ。

それが済んだら、アルトと一緒に近くの運河が流れている街道でランニングをし、戻ってきてシャワーを浴びる。

コレが朝のルーティン。まるで有名人だ。


 まあ、まだ数日しかやってないけどね……

ロンベイルさんには本当、感謝してもしきれないなぁ。

おっと、今日もベルボーイのノックが聞こえた。

そしてドアを開けると、こちらに漂ってくるいい匂いが……


「ヒ…」


 風圧で髪が持ち上がる程の速度で、ドアを閉めた。

剣道と先生の修行で培った反射神経が生きた瞬間だった。

チッ……油断してるとすぐ魔力探知切っちゃうな……

が、隙間が空いている事に気づき下を見ると、足が挟まっている。


「い、痛いです。ヒメぇ」

「じゃあ、今すぐに足を引っ込めて家に帰る事をおすすめするよ」

「話を聞いてくださいよぉ〜、ヒメにとっても良い話ですよぉ?」


 はあ、良い話。ね。

ほとんど信用してないけど、まあ聞くだけ聞いてみるか。

ドアにかけていた力を抜いてあげた。


「なに?どーせまた僕を困らせるんでしょ?

 これから朝食なんだから、早くしてよね」

「はぁ、はぁ、朝から良い顔頂きました……あ、ヒメ。制服とかまだです?」

「うん…まだだけど」

「では、今日の昼に一緒にどうですか?」


 僕が反応する前に、後ろからアルトが勢いよく詰め寄る。


「おいぃ!勝手にシンを誘ってんじゃねーよ!茶髪!」

「茶髪じゃない、ジルだ。はぁ。アルト、お前はいつまで喧嘩腰なんだ?

 ヒメがやめろと言っていただろう?全く……

 それにげぼ……ゴホン、騎士が主に尽くすのはアルドリッジ家の家訓だ」


 今のは……ジルの方が大人の対応だったね。

やっぱり目論見通り、ジルは意外と言えばわかってくれそう……?

でもねぇ、主でもないし君と歩くと目立つんだよねぇ。


「うーん、アルトと二人の方がいいかな。ごめん、ジル」

「シ、シン……」

「そ、そんなぁ……代金半分出そうと思ったのに……」

「え?本当?」

「はい、元よりアルドリッジ家御用達なんで融通は効きます!」

「……仕方ないなぁ。じゃあ、昼くらいに迎えに来てくれる?」

「えへぇ!?シン?」

「ほ、本当ですか!?わかりました!」


 なんだか、金運がいいみたい?僕。

この宿といい、持っている神貨をあまり使わなくていいのはよくできている気がする。

あ……これもあの神が言う”ルート”ってやつなのかなぁ?


「ただし、ジル。条件がある」



 迎えに来たジルの霊馬車で買い出しに行く。

僕の隣にはアルト、対面でジルとトレフ&トイラ。

二人とも実は同い年だったらしく、実は優秀で中等部飛級可だそう。

今乗っているコレは、実は僕が出した条件の一つ。


一、目立つ行動は控える

二、高圧的な態度をやめる

三、アルトと仲良くする


 コレを守れば、僕もジル達を受け入れようと思い始めた。


「そういえばアルト。代表の挨拶は考えたのか?」

「あ?なんだそれ?挨拶?」

「え……?」


 ジルが思い出したかの様に口を開いた。


「おいおい……お前、唯一の高等部飛級だろ?張り紙にも書いてあっただろ……

 毎年首席がやんだよ……」

「え!?マジかよ!ど、どうしよう、シン」

「取り敢えず帰ったら考えよう」


 うっわ、全然番号しか見てなかった。

そもそも、ジルがあんなことしなければ急ぐ事は無かったんだけど……?


「頼むぞぉ?お前もう噂になってんだぜ?

 高等部飛級なんて十年に一人位だからな」

「……へいへい」


 めんどくせぇ、と言わんばかりの顔である。

ジル、案外仲良くできるじゃん。感心感心。

出会った時とはまるで別人ではありませんか。


「ところでヒメ、その剣邪魔じゃないですか?」

『うわ、度直球に失礼じゃな。此奴』

「たまに邪魔だけど、大事な物なんだよね」

『……反応に困る言い方じゃな』

「じゃあ、仕方ないですね」


 今は少しデカく感じるけど、成長すれば気にならなくなるでしょう。きっと。

それまでにはケンの封印も解けているはず……

そんな話をしていると、霊馬車が止まった。


「あ、着きましたよ。ヒメ」


 ジルのお付きが、ドアを開けエスコートしてくれる。

コレが金持ちの買い物なのか。


「どうです?中々威厳のある見た目でしょう?」

「うん、僕もそう思うよ」


 前の世界の、西洋が舞台になっているスパイ映画に出てくる仕立て屋にすごく似ている。

入り口左右のショーウィンドウには、スーツやドレスが飾ってある。


「おお、すげぇ高そうな服……」

「アルト、みっともないからやめて」


 ガラスにべったり張り付くアルトに注意する。


「ばあや!来たぞ!」

「いらっしゃいませ、ジル坊ちゃん。それにトレフ、トイラ……おや?

 そちらのお二人は?」

「俺の主の”ヒメ”ことシンさんだ、ばあや。それとおまけのアルト」

「誰がおまけだ、おい」

「まあ、主……ふふふ。そうですかそうですか。坊ちゃんがご友人を

 連れてくるとは。ばあや、張り切ってしまいます」


 ああ、子供の遊びだとでも思っているのかね。

確かにこの歳だと、ごっこ遊びとかあってもおかしくは無いからね。


「では、採寸するのでこちらにどうぞ」



「ジル坊ちゃんに喧嘩で勝ったのですか?」

「はえぇ!?な、なんでそうなるんですか?いきなり」

「ふふふ。あの気が強い坊ちゃんが、ご友人を連れてくるなんて夢にも

 思いませんでしたから……そうかなと」

「そ、そんな事しませんよ……はは」


 色んな所を採寸しながら、店主のおばあちゃんは話しかけてきた。

喧嘩前提なのは、ジルの過去を思い知らされる。


「そうですか……兎にも角にも安心しました。

 入学しても、あの性格ではご友人ができないのではと心配していましたので。

 どうか、仲良くしてあげて下さい」


 横に回った店主の横顔が、一瞬だけ祖母と重なった。

初めて友達を紹介した時も、こんな感じだったっけな……懐かしい。


「はい、勿論です。……所で、少し相談があるのですが」

「はい、何なりと」



「お似合いですよ。皆さま」


 胸に校章の入った、ブレザーに似た学生服。

男子達はビシッと決まっていた。


「あれ?シンは?」


 アルトはソワソワした様子で、辺りを見回す。


「お嬢様は……少し想定と違うのが希望だった様で、もう終わると思います」


 店員に諭されるアルト。

その言葉から数分も経たぬ間に、シンが入っていた部屋のドアが開いた。


「皆さま、お待たせしました」


 男子四人の視線が一箇所に集まる。

同時にジルが体を震わせ、挙動不審になった。


「ヒ、ヒメ……ななななんですか、その格好は……?」

「シ、シン……スカートは……?」

「そんな物履きたくないね。聞いたらどっちでもいいって事だったから、

 僕はズボンにしてもらったよ」


 僕は、男子と同じ制服にしてもらったのだ。

髪は後ろに束ねて、ポニーテールになっている。


「ジル様、落ち着くっす……」


 想定外の出来事に悶えるジルを、トレフ&トイラが宥める。


「な、なんだ……?この感じ。胸が締め付けられる様な……」

「それは、わかる気がする……シン、その髪型似合ってるよ」


 ほー、そうかそうか。

あ、ジルは絡むと面倒だから、放置で。


「アルトはポニーテール萌だったんだね」

「ぽ、ぽにーてーる?もえ?」

「ふふ、いにしえの言葉だよ」


 確かに、鏡で見た時は自分でも”おおっ”と思ったくらいだから無理も無いでしょうね。男子どもよ。


『まあ、お主のお子様パンツで喜ぶ輩はおらんからなぁ。

 我としてはどちらでも良かったな、うん』


 いや、聞いてないし。


「おやおや。では、入学記念に皆さまで”写絵(うつしえ)”でも」


 店主の誘い通りに皆んなで写真を撮る。

この世界の写真は、あくまで風景を紙に写した絵で写真程の精巧な物では無いらしい。

コレもいくつかの刻印魔術が入った”魔道具”の一種で、凄く高価なのだと言う。


「ばあや!良い提案だったよ!部屋に飾る!」

「それは何よりです。坊ちゃん」

「あ……他に必要な道具とかは?」

「もう、霊馬車に乗せてありますよ。キチンと人数分あります」


 え、いつの間に用意してたんだ……

流石、上流階級御用達のお店だけあって隙がない。


 こうして、買い出しは終わった。

今度こそジルに会うのは来週の入学式だろう。

あぁ……アルトの代表挨拶どうしようかな……

先生から貰った資料の中にあるのかなぁ……


 帰りの霊馬車でそんな事を思っていた。


読んで頂きありがとうございます。

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