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嘆きの果ての叛逆神話【ジャンヌダルク】  作者: ぱいせん
第一章 聖ヴラトア西方学園編
20/27

第二十話 試験開始ッ!

 うーん、シンと別々になってしまった……


 一人で行動する事に違和感を感じるのは、ここ数日シンと一緒に行動していたからだろう。

ほとんどシンの指示に従って動いていた俺は、一人でちゃんとやれるのだろうか……

いや、やらなくてはダメだ……!でも、もしバレたら……

シンは大丈夫か……そもそも心配するのはおかしいか、ふっ。


 そんな事を考えながら、他の受験者について行く。

他の子を見る限り、強そうなのはいない。

魔力(マナ)とかはあんまり見えないからわからないが、きっと使えて初級程度なんだろうな。

さっき俺達に絡んできたジルとか言うのも、制圧しようと思えばすぐにでもできる。

けど、シンがそれを許さないし、マズイのは俺でもわかる。

全くもって動きにくい作戦だと思う。


 本当は、気に入らないヤツを全員殺したい位だ。

どうせ後で攻め入るのだから今減らしても変わらないと思うけど、シンが嫌がる。

シンに嫌われるのだけは絶対に避けなければならない。


 次第に普段から聞き慣れた乾いた音が聞こえて来る。

木剣同士が当たる音。しかしリズムはかなり遅く、遊んでいるのかと勘違いしてしまいそうな程だ。

俺が会場に着いた時には、試験はとっくに始まっていた。

広めの広場を半分に分けて、二つの領域でそれぞれ大人と子供が対面している。

大人の方は騎士……だと思うけど、何つけてんだ?アレ?

大人の拳大の球が、騎士の至る所に付いている。

……あー、なんか、そう言う試験だったっけなぁ……

俺の番が来るまでルールもう一回読んでおこ……


--この試験は点数式となっています。

試験官の体に付いている色玉(潰すと着色される)を潰す事で点数が加算されます。

両脛、両太腿、両腕は各一点。腹、頭は各二点とします。

十点満点となっており、三点以上の受験者は合格が濃厚となります。※

尚、原則使用する武器はお互いに木剣のみ。魔術使用は受験者だけが可能であり、初級までとします。

例外は認めず、即不合格とします。

(※獲得点数によって特別措置が取られる場合もあります)--


 はー、……ん?合格点低過ぎないかコレ?


 遊びとしては面白い決まりだとは思うけど、ちょっとなめ過ぎかな……

……いや、そんな事も無さそうか。さっきから他の子を観察しているけど、良くて一つ……大半が一つも潰せていない様だ。

試験官の騎士は末端でも四等級だから、普通の子には厳しいのかぁ……

そう考えると、三点でも高い様な気がしてきた。


「次の方、どうぞ」

「あ、はーい」


 やっと俺の番がきた。さっさと終わらせてシンと合流したい。


「……アルト=ラウェインさんですね。確認しました。

 荷物、武器等は一旦こちらで預からせていただきますね」

「はーい」

「それでは、この木剣と防具を付けて位置について下さい」


 自由に動ける位はある円の中心ら辺に立たされて、試験が始まるのを待つ。

多分この円は結界的なやつで、外に攻撃が出ない様にするやつだろう。

少しすると、待機所から出てきた騎士が俺の目の前に立った。

見た目は普通のお兄さんって感じで、目の前で勢いよく木剣を振って見せる。

威圧のつもりだろうか……


「キミ、さっき真剣を持っている所を見たけど……さては剣術習ってるね?

 ふふっ、コレは引き締めないとなぁ」

「はあ。おにーさんには悪いけど、早く済ませたいんで」


 余裕そうにしていた相手の顔が、誰の目から見ても歪んだ。


「……なめられたモンだな」

「試験、始め!」


 その言葉が発せられた瞬間に俺は一気に間合いを詰める。

強化魔術は使っていない。”力の装甲(ヴィス・アルマ)”は中級だからバレると失格になる。

驚きながらも、咄嗟に反応した騎士の木剣は空を切った。

俺はなんとなく見える”予測”で初撃を避けながら、脛の二つを潰した。

これで試験的には後一点だけど、僕の中でこの遊びの勝ちは「完全勝利」

こっからだ。


「おにーさん、そんなに空を斬っても仕方ないよ?」

「は、ははっ……き、キミ凄いね。ちょっと手加減し過ぎちゃったけど、

 本気で行かせてもらうよ!」


 騎士の動きが素早くなった。焦ったのか、強化魔術を使ったんだろう。

あれ?そっちが魔術使うのって反則じゃなかったっけ?まあ、いっか……

しかし、試しに剣を受けても大した重さを感じなかった。

全体的に幅広く強化される中級の”力の装甲(ヴィス・アルマ)”とは異なり、初級では部分単位でしか強化出来ない。さっきの強化は恐らく脚力……腕力はコレが素だろう。

こんなのでも騎士が務まるのか……

騎士の体勢を崩そうと、強めに上方へ往なすと最も簡単に腹がガラ空きになった。


「よっと」


 相手の腹に気持ちのいい一発を入れる。

が、強かったのか不意だったのか、騎士は苦しそうに顔をしかめた。


「あれ……そんな強かった?今の……?」

「ゲホッ、ちょっと、まって……」

「……んー、もういいかぁ」


 右手を構え、人差し指と中指を突き出し、初級魔術”氷撃(バレット)”を騎士の両腕両太腿めがけて四発放つ。狙い通りに命中し、残りの色玉が頭だけとなる。


「ひっ!ひぃ」

「じゃあ、僕の勝ちだね。おにー……さん!」


 勢いよく飛び前方に一回転しながら放った一撃は、相手の脳天に落ちた。

騎士は叩きつけられる様に倒れ込み、地面にうつ伏せになっている。


「はぁ〜、久々に動いたけどスッキリ……」


 …………あれ?騎士のおにーさん全然動かないけど……まさかね……


 え……?まさかね?死んでないよね!?あんなので?


 あ、脈はある……び、びびった〜……


「………あ!し、試験終了!医療班こっちに来てください!」


 確かに強めには打ったけど、まさか気絶するとはね。

本当、お遊びだな。こんなの。シンだったら目瞑っても出来そうだ。

さっさと自分の荷物を返して貰おうと受付に戻ったが、やけに外野が騒がしい。

あれ……もしかして気絶させるのはやり過ぎでまずかったのか……?


「あの、あそこまではヤバかったの…んですか?も、もしや不合格……?」

「えっ?い、いやぁ、不合格では無いですが……試験官が倒される想定は

 していなかったもので……」

「あぁ、そういう……次からはもう少し強い人も呼んだ方がいいかもね…ですね」


 よーし、コレで俺の印象は残っただろうし目立つ行動だから、これでいいはず。

そうだよね!シン!


「凄いわね!貴方、どこの家出身なの?」

「ねー、名前なんて言うの?ねー」


 ていうか、この囲んでる女どもウザいな。



 [サイド・シン]


 最悪の事態が起きた。ツイて無さすぎる。


 ジルと同じ会場になってしまったのだ……やりずらい事この上無い。

不幸中の幸いで、同じブロックじゃ無かったのが助かった。

気配を消そう……そうだ!魔力操作は得意じゃ無いか、自分!

向こうはまだ気づいてないみたいだ。よし、そのままでいてくれ……


 ……僕の番が来たみたいだ。けど、なんだか慌ただしい。

勘弁してくれ……気づかれる。


『すいません、少々お待ち下さい』


 拡声器の様な感じで声が会場に響くが、発生源はわからない。


「どうかしたんですか?」

「いやぁ、第一会場の方で欠員が出たらしくて……この会場から一人向かわせる

 事になったんだよ」


 欠員って……事故か?怪我か?後者だったら、騎士を再起不能にできるのなんてアルト位しかいないと思うんだけど……

あの子、派手にやったみたいだねぇ。

本当はそれで良いんだけど、そのせいで今僕に面倒が来てるよアルト。

まあ、確定では無いから後で問いただしてやろう。


「……いいよ、俺が代理でやろう。想定外だが仕方ないだろう」

「え!?そ、それは……他の騎士を呼びに行きますので……」

「いい、いい。お前らは変わりを探しに行け。俺が場を繋いでおくから」


 試験監督みたいな屈強そうなおじさんが、僕の目の前に立った。

先程まで全体を見渡せる所に座っていたので、恐らくはまとめ役だろう。

色玉を手際よく装備しながら部下に指示を出している。

実力はどうか知らないけど、風格はあるし見た目はイカつい。


 面倒な事に、別ブロックで待機していたジルが気づきやがって近づいてきた。


「え!?アゼフさんが試験官やるの!?……ん?てか、相手さっきの

 田舎女じゃん!ギャハハッ!あいつ、ツイてねーの!

 アゼフさんは分隊長だぜ。あいつ落ちたな!ヒーヒッヒ!」


 へぇー、この人分隊長なんだ。

確かに言われてみると、他の人より魔力濃いかも。でも……


『いや、大した事無いじゃろ。お主なら児戯じゃな』


 まあそうなんだけどさぁ……玉潰し辛いよなぁ、相手が相手なだけに。

どうするかなぁ……取り敢えず三点は取るとして、その後……


「……はぁ、ジル坊はああ言ってるが大丈夫さ。例え一つも潰せなかった

 としても、俺の立場を考慮して採点をするよ。今回は異例だからね。

 ははっ、安心してくれて良い」


 その口ぶりからして、ジルとは知り合いっぽいな。

もしや、ここ忖度会場じゃ無いよな……?

僕は、ケンを含む荷物を受付に預けて試験舞台のサークル内に入る。


『シン〜、くれぐれも目立つで無いぞ〜』


 受付でお留守番のケンから激励のお言葉だ。

倒さず、潰し過ぎず、目立たず、合格をする………ふむ。

むずくね?僕だけ何でこんなに難しいのかな?

……まあいいや、なる様になるか……頼んだ、未来の自分!


「お?おじょうちゃん、良い構えするじゃないか」

「分隊長さんに褒めて頂けて光栄です」


 僕は今、”水の構え”で立っている。

一番ポピュラーな構えで、両手で剣を持ち剣先を相手に向ける。

攻撃にも防御にも変えられるコレは剣道の知識で、先生に教わった訳では無い。

対する分隊長は、片手で木剣を持ちとても余裕そうに立っている。

先生曰く、片手は魔術を使う為に開けておくのが一般的らしいが……

この世界の剣術は明確な型とか構えとか無く、なんとなくでやってそうだからなぁ……


「それでは、試合開始!」

「よぉし、嬢ちゃん!どっからでも良いぞ!」


 分隊長は余裕綽々で僕を煽る。悪意は無いのだろう。


 どーすっかなぁ……”力の装甲(ヴィス・アルマ)”は使えないし、取り敢えず初級の”部分強化(アジュバント)”を少しだけ使って鍔迫り合いでも……

そう思い僕は前方に突進し、空いている左手を狙う。

流石に分隊長も反応してきて、狙い通りに鍔迫り合いに持っていけた。

相手が少し手を抜き過ぎていたのか、最初は僕が押す形になったが直ぐに持ち直された。


「ま、参ったね……強化魔術を使えるのかい。しかも出力が高いときた……

 こりゃあ、加減したら不味いかもなぁ」


 うん?


 いや、第一これ初級だし……そんな出力上げてないけど……三割位?

分隊長にでもなれば魔力を可視化できると思うんだけど……お世辞かなぁ?

ハプニングで不安になった子供を安心させる為の”ヨイショ”とか……?

だとしたらこの人は優しいな、でも……


「えぇ、僕は大丈夫ですから。本気で来てもらっても構いませんよ」

「っ!……はは、言うじゃないか嬢ちゃん。怪我しても泣かないでくれよ?」


 少し挑発して相手の力量を確かめてみる。

教会側の戦力調査としても、理にかなっているだろう。

鍔迫り合いが解かれ、お互いに押し合う様に距離を取った。


「お、おい、あの子……あのおじさんに力負けしてないぞ……?」

「ア、アゼフさん……なんかマジじゃないか?気のせい?」


 そんな外野の感想に、ジルは大きな苛立ちの(げき)を飛ばした。


「そんな訳ねーだろ!手加減してんだよ!ばーーか!

 んなのも気付けないのかよ!……ったく」


 ジルの発言で周りの騒めきは徐々に静かになる。


「ん?ははっ、嬢ちゃん、なんだいその構えは。腹がガラ空きじゃないかい」

「そう、見えますか?」


 僕は”火の構え”に移った。

剣を上方に上げ、振り上げる動作を省略する事のできる攻撃の構え。

だが、相手から見れば銅より下の守りが薄い。

前の常識であれば、そうなのだが……


「じゃあ、そこまで言うなら……行かせてもらうよ!」


 ガラ空きの銅に木剣が届く………事は無い。


 届く前に時が止まる。それが僕の能力だ。

自分から行けば速攻の剣技となり、相手から来れば罠となり絶対必中となる。

これは、この世界の僕だからできる”超攻撃”の構えとなるのだ。


 時が戻った頃には、分隊長の木剣は空を斬っていた。

数歩下がった僕を見て、呆気に取られている。


「……え?……あ!あれ!?」


 木剣を持っている腕が着色されている事に気づいた分隊長は、酷く動揺していた。

後二点だが、腹と頭は彼の優しさと尊厳の為にやめておこう。


「あのぉ……あまり目立ちたく無いので、後一点取ったら合格とかに

 なりませんかねぇ……?」

(何がどうなってる?何で色玉が破裂してるんだ?嬢ちゃんの剣はピクリとも

 していなかった……装着の際のミスか?)


 予想外の事態に汗が止まらない分隊長を他所に、僕は周囲の目が気になっていた。

分隊長が出てきただけで注目されてしまったのに、一点取ってしまったらそりゃあ騒つく。

でも、点を取らないと合格できない……はあ、早く終わらせたい。


「あ、あははは。い、いやぁ、俺の付け方が悪かったのかなぁ?

 嬢ちゃん、運が良いなぁ。ま、まあ一点は一点だから加算するが、

 合格点の引き下げは無理なお願いだね……」

「……はぁ、ですよね」


 仕方ない。実に乗り気では無いけど、後二点取るか。

変に打ち合ったら絶対外野が白熱しそうだから、ここは能力に頼る事にしよう。


(す、少しビビらせてみるか……さっきより強めに)


 分隊長は木剣を振り上げ兜割を繰り出すが、力虚しく空を斬る。

彼からしたら、瞬きの合間に僕は移動している事だろう。


(おかしい……絶対おかしいって!……はっ、幻覚!?あぁ、そうかぁ

 幻夢魔術か!ふふ、初級には無いから嬢ちゃんは失格。

 きっと俺にビビってズルをしてしまったんだろう……可哀想だが、

 俺の面子は保たれ……る………)


「どうしました?キョロキョロして?」

「嬢ぉちゃん、幻夢魔術は残念ながら初級には無いんだ。

 使えるのは凄いが、それは反則でねぇ……」

「え?幻夢魔術??」


 何だ?それは?そんなものがあるのか?


 なんか知らないけど、僕が魔術使ってると勘違いしてる……?

 

(あれ?知らない?……いや、シラをきるつもりか。誰が教えたんだよ……

 大人を舐めるなよ、嬢ちゃん。幻夢魔術は設置型だから床に魔術式の痕跡が

 残るんだよ。さあ、術を解いて終わらせ………て……あ、あれ……?)


 あー、だからキョロキョロしてるのかぁ。

恐らく魔力の痕跡か何かを探してるのかも知れないが、そんなものは無い。

だって使えないもの。


 もう少しで試験時間が終了しそうだから、こっちから動く。

攻撃するつもりは無いが、適当に声で威圧しながら突っ込んでいく。

それに釣られた分隊長は僕に攻撃してくるが、届く前に時が止まりその隙に僕は脛の二つの色玉を破壊した。

この時点で、僕の合格は決まった……筈だ。


「………は?え?は?」


 狐につままれた様な顔で立つ分隊長。

直ぐに気持ちを切り替え、手数多めの攻撃を僕に繰り出すも能力を使わずとも当たる気配はない。

必死な顔で……決して子供に見せる顔では無い分隊長が可哀想になってきたので、合図係の試験官にアイコンタクトを送る。

もういいだろうと。


「そ、そこまでとします!双方剣を納めてください!」


 空気が読める試験官で助かった。

僕はさっさと逃げる様に荷物を返してもらいに向かう。


「あのぅ、もう戻っていいですか?連れが待っているんで……」

「ど、どうぞ。結果は二日後、試験会場受付にて貼り出されますので……」

「どうも!」


 うわぁ、どうしよう。めっちゃ見られてる。

僕の事について騒いでいる中を小走りで駆け抜ける。


『……いや、お主が注目浴びてどうするんじゃ』


 僕も不本意だ、と小声で呟く。

このままさっさと帰ってアルトとお昼を……と思っていたら、誰かが僕の行く道を塞いだ。


「おい、田舎女。ズルして注目を浴びるのは楽しいか?」


 ジルだ。連れの二人を後ろに置いて、仁王立ちしている。

後ろにいる二人はニヤニヤと僕の行く末を嘲笑っているみたいだ。


「すいません、急いでるんで」


 満面の笑みで僕は返す。面倒くさい。


「おい、ここを通すと思ったか?ズル女」

「通りたかったらアゼフさんに使ったズル使えよ!協力者頼みのさぁ」


 後ろの二人が煽る。協力者なんているかっ!


「ふん!いくぞ、トレフ、トイラ。田舎女もついてこい」


 うわぁ……コレ、俗に言う”ツラ貸せや”じゃないかよ……

まさか初めてやられるのが子供だとは……

僕が大人しくついて行くと、周りの騒めきは徐々に無くなっていった。

このままナメられ続けるのも厄介だし、ここは一回ガツンと……


『シンよ……一回わからせてやるのも此奴の為だと思うぞ?』


 ケンとも意見が一致した。


魔圧(プレッシャー)を出すのは程々にな。気づかれるかも知れぬし、この悪童が

 耐えられぬかもしれん』


 出せてもさっきの分隊長クラスかなぁ?もうちょい上まで?

あんまやり過ぎると教会側に感知される可能性が高い。


「あのぉ、どこまで行くんです?」


 怒りの笑顔を振り撒き、僕は丁寧に問う。

場所は既に路地裏、カツアゲ等に絶好の人目につかない場所。

連れの……どっちかはわからないが、僕の手を引っ張ろうとしたので少し強めに払い除けた。


「っ!?お前!何すんだよ!」

「その言葉、そのまま返すよ」


 その場にいた全員の動きが止まった。


「三対一で勝てると思ってるのか?田舎女」

「じゃあ、どうしたら見逃してくれるの?」

「ズルを認めて、試験官に土下座でもしたら見逃してやるよ」

「証拠はあるの?僕はズルしてないけど?」


 いや……よく考えたら、してるかも知れない。

ルール違反では無いけど、正々堂々では無いのは確か……

でも、こいつらの言うズルは違反の事だし……まあいいか。


「チッ、アゼフさんは分隊長だぞ!?騎士団でも強い役職なのに、

 こんなチビ女が三点も取れるはずねぇ!」


 ジルが強気に出る。

余程僕の事が気に食わないのだろう。呼び名がコロコロ変わる。


『慕っている人を庇うのは実に健気じゃが、やり方が乱暴すぎるな』

「子供だね」

「あ!?うるせぇーよっ!!」


 連れの二人が襲いかかってきたが、避けるのは容易い。

手を出すと後々大変そうだから、丸腰で無力化しないといけない。

実験として、魔圧だけで威圧感を与えられないか試してみる。

そうだなぁ……1/3位でどうだろう。


「っふごぁ……」「ぐひゅぅ……」

「……!?っひぃ!?」


 連れの二人は言葉を発する間も無いまま、泡を吹いて卒倒してしまった。

辛うじて耐えたジルも尻餅をついて、これから殺される小動物の様に怯えている。

あまりの効果に僕すらもドン引きしている。


『……え?我、出し過ぎるなって言ったよね……?』

「い、いやぁ……本当に抑えたんだけど……」

『村の連中が特殊だったからからかも知れんが……お主の感覚がズレてる可能性

 が……取り敢えず!早く収めて移動するんじゃ!』


 ん〜……?やっぱり魔力量上がってるのかな?

普段から魔力制御は常にやってるから、気づかなかったのかも知れない。

指摘する人も居ないし、自覚しにくい。

もしや、レイシアに気づかれたのもそのせいとか……?

うーん、コレはケンに相談だな。


 僕はジルに向かって歩み寄る。

ジルは抜けた腰をずりずりと引き摺りながら、後ずさって行く。

その様に強気のカケラも無く、まるで化け物に出会った様な顔だ。

股間が濡れているのは……同情として見なかった事にする。


「んじゃ、コレに懲りたらもう僕には絡んでこないでよね。

 あと、今起きた事は他言無用で」


 自分なりに凄みのある声で威圧すると、ジルはコクコクと首を振る。


 残されたジルは、しばらく放心状態だったと言う。



[サイド・神聖騎士団第五支団]


「……!?!?」


 稲妻の様な衝撃を感じたレイシアは、仕事を他所に執務室の窓外へ目を向ける。

先日感じた特殊な魔圧よりも、かなり大きいものだった。


(一瞬だったけど……今の何!?意図的か……?狙いは何……?

 仮に騎士団の人だったとしたら、都市部での魔圧解放は懲戒処分もの……

 やはりあの事件絡みの愉快犯……か……?)


 考えても埒があかないと感じたレイシアは、すぐに副団長ネイトの元へ向かう。


「ネイト!ちょっと捜査を……」

「痛だぁぁ!!」


 丁度扉に手を掛けようとしたネイトの事など知らないレイシアは、思い切り扉を開けた。


「ご、ごめんね☆!大丈夫♪?」

「すぅ……い、いえ…お構いなく。どうされました?」


 打撲した所を押さえつつも、ネイトは笑みを浮かべる。


「変な魔圧を感じたから、捜査してほしいなぁって思って☆!」

「あぁ!それでしたら私も感じたので、今騎士達に命令しに行こうと

 思っていた所です」

「本当!?流石ネイト♪私の右腕だね!じゃあその手筈で頼むよ☆」

「は、はい!」


 耳を赤くして、気合十分にネイトは答えた。


(だ、団長に褒められた……コレは絶対に原因を暴かねば!)


 かくして、謎の魔圧調査は始まったのである。



[サイド・シン]


 驚いた。


 集合場所に居たアルトは沢山の女の子に囲まれていた。

少し見ない間に一体何があったと言うのか。

羨ましい限りだ、そこを代わってほしい。


「はいはい、すいませーん。通してー」


 人をかき分け、渦中のアルトに接触する。


「随分な歓迎を受けてるじゃない、アルト君。何したの?」

「あ!シン!ち、違うからコレは……」

「うん、はいはい。いくよ〜」


 アルトを取り巻きから引き摺り出し、さっさと宿へ帰る。

「あの子誰?」「ち、女連れかよ」等、色々聞こえてきたが怖いので聞こえないフリをした。


「で、何であんなモテモテだったのさ」

「わ、わかんない……試験官を気絶させたら、みんな俺に寄って来て……」


 やっぱりお前か!

君がチヤホヤされている間に、僕は面倒くさい事になってたって訳かい。


「うんうん、成る程ね。そーかいそーかい」


 笑顔でアルトを見遣った。

イラッとはしたけど、作戦趣旨には沿っているから文句は言わない。

言わないだけ。


「なんか……怒ってない?」

「いやいやぁ、怒ってないよ?ただ、僕も色々あっただけさ」

『お主も意地悪じゃなぁ』


 そこからアルトが少し僕に対して、気を使う様になった。



 二日後の朝、朝食中にドアのノックが聞こえた。


「アルト、なんか頼んだ?」

「いやぁ?」


 疑念を少し抱いてドアを開けると、凛としたベルボーイが立っていた。


「シン様にご指名でお客様がお見えになっています」

「え?客?」


 誰だろう?ロンベイルさんとか?

うーん、これから合格発表なのに……タイミング悪いなぁ。


「はい、ロビーにてお待ちになっていますので。では」

「どうも……」


 扉を閉め、朝食を素早くかきこむ。


「俺もついてく。教会の奴らだったら不味いしね」

「うん、そうだね」


 身なりを軽く整えて、僕らはロビーに向かった。

階段を降りて、見えた人はロンベイルでは無かった。反射的に足が止まる。


 そこには、堂々と椅子に踏ん反り返っているジルの姿があった。




挿絵(By みてみん)

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