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嘆きの果ての叛逆神話【ジャンヌダルク】  作者: ぱいせん
序章 ノアの村編
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第二話 帰路

 ノアの村。

森に囲まれた自然豊かな土地で、農業を中心として暮らしている人が多い。

人口は二百人を少し超える程度である。


 約二十五年前、大規模的に行われた”魔女狩り”の被害を受けた村でもある。

村の大半は焼かれ、領主を含む村人数十人が殺された。

理由は至極単純、「気に食わなかったから」である。


 訪れた隊長が傲慢だったというのも運の尽きではあったが、当時の領主の

対応が癪に触ったらしく、結果として反教徒とされ、領主は亡骸にされても尚

磔にされて見せ物にされた。


 この出来事に力のない村々は震撼した。

圧政が確固たる物となり、国の政策としては成功かも知れないが、力のない物は怯えた。

逆らいたくても、逆らえぬ程の権力と武力。人々は諦めていた。


 二十五年たった今、当時よりは落ち着いてはいるが圧政は続いている。

またいつ来るか分からない魔女狩り。グレイの中には、どうにかしたい、しなければならない

という感情と、私情の恨みを晴らしたいという気持ちが渦巻いていた。


……

………


 畑道の沿って、俺とシンは歩いていた。

視界には、畑とまばらにある民家。自然の音がよく聞こえる長閑な風景。


「シン……ちゃんはもしかして記憶が無い、のかい?」


 気を遣って俺から会話を切り出してみた。が、食い気味に


「ちゃん付けはやめて下さい。何かゾワゾワするんで」

「……そっか。ははっ、悪かったよ。やめるよ」

「いえ、大丈夫です。記憶は……そうですね……記憶喪失みたいなモノですね。

僕もあまり分からないんで、深追いはしないでもらえると……」


 やっぱり、何かありそうだな。

少し濁していたし、自分から線を引くほどとは余程の事だったりするのか。


「そうかい、わかったよ。じゃあ、何であそこに居たのかも分からないんだよね?」

「ええ、全くもって」


 歩きながら俺はシンと話す。

俺の方が若干前を歩き、シンは後ろには続いている。

物珍しそうに周りをキョロキョロとしながら、観察する様にして。


「じゃあ、何で俺を助けてくれたんだー、とか、どうやってやったんだー、とかも……」


 そう、方法が皆目検討もつかない。

理由は気まぐれでも何でも良いが、手段の方が今は気になる。


「それなのですが……、僕の方が聞きたいくらいです。

質問を質問で返す様で申し訳ないんですが、その時の事を聞きたいです」


 う、うーん。すんごい固いな、対応が。

いや、悪くは無いんだけど……この年頃にしては受け答えが大人すぎる。

英才教育を受けていた可能性もあるけど、不気味感すら覚えてしまう。


「あ、ああ……、謎の光と共に空からゆっくりと降りてきたんだ。

俺は致命傷と出血多量で今にも死んでしまいそうだったのに、気づいたら治ってた」

「え!?僕、飛んでたんですか?……僕が覚えているのは、既に地に着いていた所からなので、それは分からないですね……」


 成程、あれは自我が無い状態だった、と。

何かしらの暴走か、未知の能力か、はたまた高度の”魔術”か。


「そうか……、なんか不思議な力を感じる!とかある?」

「うーん……特には何も。でも今の話を聞くに、あるとするならば何かを治したりする能力だったりするかも知れませんね……。それはそうと、グレイさんも何であそこに?何でそんな致命傷を?」


 回復系か。

だとしても、致命傷を治せるとなると相当な物だろう。

これは少し調べる必要がありそうだな。


「ああ、あそこに居たのは、」

「おぉ!グレイじゃねぇか。戻ってたのかよ」


 随分と絶妙なタイミングで声をかけられた。

腰に剣を携えた、装備の整った中年の男がそこに立っていた。


「あぁ、ブルーノさん。見回りご苦労様です。さっき戻ってきた所ですよ」

「はっ、見回った所で何もねーよ。本日も平和平和……って後ろの子は?」


 分かってはいても、いざ聞かれるとドキッとしてしまうものである。

まあ、悪いことはしていないから普通に答えるけど。


「村の外で出会ったんです。身寄りが無いそうなので、一旦家へと思いまして。……(詳しい事は”後で”)」


 最後の一言は、シンに聞こえない様に小声で伝えた。

ブルーノさんも察してくれた様で、アイコンタクトで応えてくれた。


「そうだったのか……。俺ぁてっきりグレイとエレアの隠し子とかかとおもったぜ!ふはははっ!」


 こんのぉ、オッサン……嫌味なのか冗談なのか、やめて欲しい。

後で話を聞いていたシンが、俺の後ろからヒョコッと出てきた。


「シンです。よろしくお願いします」

「おう!シンか!……ん?”シン”だけか?……いや、悪い何でもない。

俺はブルーノ=イングラムだ。よろしくな!」


 ブルーノさんは納得しかけたが、不思議そうに一回返した。

この世界の”人族”で下の名前が無いのは、ワケアリだ。

孤児、捨子、道具……故に俺もブルーノさんも反応してしまったのだ。


「まあ、色々あるんですよ。すいません、俺達もう行きますわ。じゃあ」

「あぁ、呼び止めて悪かったな」


 流石に、上着一枚のシンを立たせて長話をするのは可哀想なので、

スパッと話を切った。どうせ後で話す事だし。



 村の畑道を抜けて、俺達は村の奥地の林道に差し掛かっていた。

林道を抜けた先にあるのが、俺の家である。少し遠くて申し訳ない。

ここもまた、静かな空間。木々の揺れる音と、土を踏み締める音が良く聞こえる。


「村から少し離れているんですね」

「まあな、悪いな歩かせちまって。昔はもっと近かったんだけどさ」

「いえ。……建て直しか何かしたんですか?」

「そうだな……、燃やされちまったったんだよ。昔にな」


 俺の家は、二十五年前の魔女狩りで燃やされた。

新しく建てた家も、少しでも特定されたくないという不安から、林道の奥地にした。


「そう、でしたか……悪い事を聞いてしまいました」

「大丈夫だ。それに、これでおあいこだしな」

「……そうですね」


 俺達は少しだけ笑い合った。この掛け合いで雰囲気が解れた気がした。


「あれだよ」


 目の前に見えたのは、2階建ての大型煉瓦の家。

広めの庭を囲う柵に、立派な門。


「グ、グレイさんはお金持ちなんですか……?」

「ははっ。底辺領主だから、大したもんじゃないさ」


 少し自慢げに答える。満更でもない。



 ようやく家に辿り着いた。

日は若干沈み始めている。歩いた疲労と、精神的疲労で体力がかなり減っている。

家の扉も、心なしか重く感じる。


「はぁ、やっと着いたな……。ようこそ我が家へ。

これからしばらくはシンの家でもあるからな。遠慮するなよ」


 シンの頭をポンポンと軽く叩いて、穏やかな声で言う。これは本音だ。


「お邪魔します」


 借りてきた猫の様なシン。

出会った時からずっと辺りを観察している。警戒しているのか、好奇心か。


 俺の家は、玄関を開けると縦長の広い廊下になっている。

中央には2階と地下に繋がる階段があり、左手には大きな2枚扉。

右手には普通の扉が3つある。

その扉の内の奥の扉が開き、白髪の老紳士が出てきた。


「グレイ、帰ったのか。ん?その子は?」


 正直、またかとは思ったがこれが当然の反応である。

仕方ないと割り切るしかない。


「先生、この子はシンって言います。しばらくここに住ませます」

「そうか、よろしくね。シンちゃん?かな?」


 あ、今シンが”またかよ”って顔をした。相当嫌らしい。


「よろしくお願いします……が、その敬称は無しでお願いします」

「ははっ、それは失礼した。分かったよ。私はデューク=マックウェル。

この家のお手伝いさんみたいなものさ」


 会話が終わると同時くらいに、2階から走る音が聞こえた。

チッ、アイツ、走るなって言ってんのに。

ドタドタと金髪の少年が降りてくる。


「グレイ!俺、また新しい魔術を……」


 おっ、固まった。

知らない子がいた時の、気まずい雰囲気になってる。


「アルト、家ん中走るなって言ってるだろ。

あと、今日から一緒に暮らすシンだ。仲良くしろよ」

「うえぇ!?ここで暮らすの!?きょ、今日から!?」


 グレイを見つつ、シンをチラ見するスタイルのアルトくん。

幼馴染の誕生だな。恥じらいか、喜びか、顔が赤くなってる。



また賑やかになるな、と内心喜んでいたグレイ。

喜びだけなら良かったのだが、ある考えが浮かんでいたのであった。



読んでいただきありがとうございます。


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