第十七話 遊び相手
仕事が忙しくなってしまったので、ストックがすぐ無くなってしまうかもしれません……
出来るだけ書いていきます。
各地方にある四つの大聖堂は週に一度、教会に組みする者が一堂に介し祈りを捧げる。
このラクトの地でも。
我らが神、アウス様に感謝を伝え加護を頂戴する為。
今週も当たり前の様にその日は来る。
普通に目が覚めて、普通に食事ができるこの現状だってアウス様が居て下さるからだろう。
でなければ、カースト最下層の人族などすぐにまた血鬼族の玩具になってしまうに違いない。
「シルヴィア、あんたに手紙来てるわよ」
「ん、ありがとう」
私は寮の食堂で朝食を取りながら、手紙に目を通す。
たった三枚の長めの手紙。自然と口角が緩んでいく。
「なーに?シルヴィア?恋人か何か?」
「そんなもの居ないわ。孤児院でお世話になった人からよ」
「そう……いい歳なんだから、誰か良い人探しなさいよぉ?」
「別にいいわ」
恋人なんぞに興味はない。
優秀な教え子を育てると言う私の夢には、そんなものは邪魔だろう。
まあ……全く興味が無い……訳では無いけど……前言撤回。
でも、私なんて面白味のカケラも無いだろう。
私は、子供を捨てたり蔑ろにする様な奴を無くすために教師の道を志した。
そして先月、夢が叶い齢三十ニで聖ヴラトア西方学園の教師として受け入れて貰えた。
現役を退く四十歳あたりで従来は教師になるのが一般的な所、熱意を教会に買って貰い実現した。
この上ないチャンスだと思っている。
先程の手紙も、その報告に対する返しの激励の言葉だった。
「では、皆さん。移動しますよ」
寮長の号令で一斉に席を立つ。
◇
街を歩く我々魔術師は、まばらに散らばって特に統制は無い。
騎士ほど汗臭く無く、規律も意外と緩いのが女性が多い理由だと個人的には思っている。
少し位の私語だって、特に何も言われる事は無い。
まじめに立ってラクトの都市を警備している騎士を見ると、少し哀れに感じる。
「おはよう、シルヴィア」
毎週後ろから声をかけてくるのは、唯一の友達で親友のアンナしかいない。
孤児院からの腐れ縁だ。
最近結婚して、私とは違う世界に行きつつあるのが少し寂しい様な気もする。
「アンナ、私って魅力あるのかな……」
「え?何急に?どうした?」
「私の心が揺らぎつつあるって話」
「あぁ〜、それは祈りだけじゃどうにもなんないわ。やっぱシルヴィアも
本能には逆らえないのねぇ……行動するしか無いわよ。
アンタ、顔は良いんだから大丈夫だよ」
駄弁りながら”大聖堂リウ”に入る。
中には騎士も含め、既に数百人が集まっていた。
チラホラと見える騎士は、祈る以外にも女性の目利きの場所として利用しているのが当たり前となっている。
アンナもここで声かけられて、だし。
私は勿論話しかけられた事は無い。
アンナ曰く、喋りかけずらいオーラを出しているそう。
今週も誰の目にも止まらずに---
「あのー、すいません」
「え!?」
「お手洗いは、何処ですかね……?」
「あ、あぁ。あっちですよ?」
「どうも!」
軽装備の男性騎士は急いで向かっていった。
ビックリした……まさか、と思っちゃった……恥ずかしい
大ホールに着くと、全員が静まり返る。
座る事はなく、起立したまま規則正しく人は並ぶ。
私の両隣にはアンナと……ん?よく見ると、さっき案内した男性騎士だ。
不意に目が合う。
「あ!さっきはありがとうございました」
男性は小声で囁く様に言う。
私も軽い会釈をし、祈りを捧げるのに集中する。
◇
祈りが終わり周りがさっさと帰っていく中で、私は隣の男性に話かけられた。
隣にいたアンナは、知らないうちにどっかに行っていた。
あの子は空気が読めるから、察してしまったんだろう。
「俺、エレナードって言います。あなたは?」
「……シルヴィアです」
「シルヴィアさん……あー、今度食事とかどうです?」
「……え?私、ですか?」
突拍子もない誘いに困惑する。
「ええ、これも何かの縁……いや、アウス様のお導きかも知れません。
嫌なら断ってくれて大丈夫ですよ」
「いや、その……少し考えさせて下さい」
「ええ、勿論。これ、俺の住所です。じゃあっ」
エレナードは私の手を握り、紙の切れ端を渡すと足速に去っていった。
私の手には、もう久方感じた事のなかった男性の手の感覚が、ぼんやりと残されていた。
背は私より高く、顔は中々に上々……
揺らぎは思わぬ方に大きくなり、動揺と安堵が交互に押し寄せてくる。
◇
「シルヴィア、貴方に手紙よ」
「はい……ん?寮長、化粧変えました?」
「……あら、わかる?少し気分転換よ、ふふ」
そんな世間話は置いておいて、この手紙はエレナードからだろう。
初めて会った先月から、少しずつ文通を交わす仲まで発展した事は自分でも驚く。
社交辞令的に始めたものだったが、遂に食事に行く所まで来てしまったのだ。
少し前の自分の発言を恥ずかしく思う……
け、経験だ。コレは経験値なのだ。決して浮かれてなんかはいない。
それにしても最近……寮の雰囲気が変な気がするのは気のせいだろうか?
……うん、多分気にしすぎだろう。
「なーんか最近、変な感じするのよねぇ。感じる?アンナ?」
「え?変な感じって何よ?ストーカー?」
「いや……なんか空気が違うって言うか……」
「気にし過ぎなんじゃない?シルヴィア。疲れてるのか浮かれてるのか
知らないけどさぁ……
私にしたら、あんたに良さげな男が寄ってきた事が変な事だけどね」
「やめてよ……」
週一の礼拝の帰路でアンナに聞いてみた。
気のせいにしても、口に出さないと気が済まなかった。
いつも通りに茶化されたけど、スッキリはした。
きっと慣れない異性交流でそう感じているだけかも知れない……
今日の夜はいよいよ食事の日だ。
帰ったら他所行きの用の服を引っ張り出さないと……
◇
エレナードとの食事は思ったより充実したものだった。
出会いが軽率な彼だったが、意外とちゃんとしている人である事は文通を通して感じていて、それは間違ってはいない様だ。
腰が低く、どんな話にも聞き手に回ってくれて少し饒舌気味になってしまった位だった。
きっと私を誘ったのも、相当な勇気を出したのだろう。
そう思うとなんだか可愛く思えてきた。
時刻板は9をとっくに越えているであろう。
酒で熱くなった体を冷ます為に、二人で夜風に当たる。
人の気配は無く辺りは暗く静まり返り、側を流れる運河の水音が良く聞こえる。
人が居ないのは好都合だ。
知り合いにでも見られたら恥ずかしくてかなわない。
歩いている最中に、細い路地で盛っている男女を視界に入れてしまい、不意に意識する。
(さ、流石にまだ……ねぇ)
あぁ、アウス様。私はなんとふしだらな女なんでしょう……はぁ。
「あ、あの……シルヴィアさん!」
「っ!?……は、はい?」
隣を歩いていたエレナードが、私の数歩前に出る。
唐突な状況と先の思考で、思わず後退りをしてしまった。
「……っすぅぅ、僕と正式におつぁキゃァ」
地獄の様な轟音が鼓膜を貫いた。
近くで聞いてはいけない音に、耳がおかしくなる。
目の前で起こった事は、とても現実とは思えなかった。
突如として地面から二枚の厚い岩板が現れ、エレナードを虫の様に潰した。
私はただ立ち尽くし、直立する二枚の岩板から漏れ出ている潰れた果実の様な血と臓物を、ただただ凝視する。
そういえば何か飛んできた。と思い下を見ると、私に求めた片腕が千切れて無惨に転がっていた。
酷い悪夢だ。きっと久しぶりの酒のせいに違いない。
何処かで寝ていて夢でも見ているのだろう。
「……っひぃ、ひぃぎぃ」
声に釣られて振り返ると、そこには少女がいた。
ひどく怯えて、腰を抜かし地を這いつくばっている。
(子供!?何で……!?)
私は本能的に少女を何かの攻撃から守ろうと、その場から連れて離れようとして抱えようと---
「 つかまえた 」
少女は笑みをこぼし、嬉しそうに言う。
籠る耳元で、僅かに聞こえた幼く無邪気で不気味な声に、悍ましい寒気を覚える。
が、時既に遅く地面から盛り出た岩に拘束された。
(コレは何!?魔術式を展開した痕跡は無いし、そんな挙動も無かった……
そして何で私達!?)
「やりぃ!完全制覇!やっぱ”観る”より”やる”方が高揚するわね!」
何か言っているが、聞き取りづらい。
あれだけの轟音を発生させておいて、誰も来る気配が無いし心配もしていない素振りから、第三者か分からないが何かしらの結界を張っている事は明白……
コイツは子供の皮を被った”何か”だ。
しかもかなりの力量の……
私は辛うじて逃れた動かせる右手に、魔力を集中させる。
「誰!?何故私達を狙ったの!?」
「別にあの男に用は無いわぁ。邪魔だから消しただけで……
うわぁ、オエッ。はみ出てるじゃない……私、血苦手なのよね。
もう少しデカくすればよかった……」
目の前の少女が地面に向かってビッと指を振り下ろすと、エレナードだったものは土に呑まれて地面に消えていき、まるで”何も無かった”かの様にそこは綺麗になった。
(まただ、魔術式無しで……そんな事は不可能だ。
幻夢魔術の類で私を欺いているのか……?一体いくつ魔術が発動して……?)
「私の獲物はアンタよ、シルヴィア」
「……狙われる筋合いは無いし、何故名前を……」
「あら、冷たいわね。一月以上一緒に暮らした仲じゃ無い。
化粧の変化を見抜かれた時は少し驚いたわぁ」
始めは何を言っているのか分からなかったが、すぐに分かってしまい臓器が持ち上がる様な恐怖が押し寄せる。
「い、いつから……寮長と入れ替わって……」
「ふふ、あの子だけじゃ無いのよ?あそこに居たアンタ以外の二十九人全員、
私と私が作った人形に入れ替わっていたのよ!どう?ビックリした?
アンタで最後ってわけね」
悪だ。
コイツは確実に同族では無い。
私は右手に込めた最大出力で最高攻撃を放つ挙動に入る。
これは誰にも言ったことの無い、やるのも二回目。
バレると昇格してしまいそうだったので、それは面倒くさかった。
まんまと時間稼ぎの会話に乗ってくれたのが不幸中の幸い……
「偉大なる豪炎」
私が撃てる最大最強の魔術。火の上級。
4mを超える豪火球が、辺りを熱で歪ませて少女に迫る。
流石に何かしらの対策を取るだろう。
そうなると、この拘束している岩の魔術も脆弱になるか、解除される筈。
「ちょ、ちょいちょい!コレは流石に……」
思った以上の反応に少し安堵する。
私を見くびり過ぎたのだ、化け物め。
「ばっくん。ぬる過ぎでしょ」
側の運河から吸い上げられた水が巨大な水球になり、そこから上下顎が形成され火球を呑み込んだ。
軽い爆発が起こり、辺りが水蒸気で満ちる。
私の最大攻撃が放たれて、およそ2秒程の……
あまりの一瞬に、何が起こったのか理解出来なかった。
その瞬間に私の命運は尽きた。
ただ呆然と前を見つめ、考えるのをやめる。
「大きさはまあまあだけど、温度が子供騙し。
でも、人族だったらコレで十分かもしれないわねぇ」
化け物は、水蒸気の中からゆっくりとこちらに歩み寄る。
近づきながらその容姿は変化していき、少女から数十センチ程身の丈を伸ばし、本性を現す。
その特徴的な長耳は、昔話で聞いた事があった物だった。
「……!?な、なんで……なんで”妖精族がぁ……」
最上位種が何で……と思ったのも束の間、その妖精族は私の前で止まる。
「まあ、依頼なんだよねぇ。人生お疲れ様。
アンタの人生私が引き継ぐから………っうし。
ねぇ?どうよコレ?アンタと瓜二つでしょ?声も。
心配しないで?私、演技には自信あるのよ〜」
目の前で”私になった”妖精族は気楽に話す。
私は絶望した。恐怖では無く、無力さに。
突如降りかかる禍に何も出来ず、弄ばれる事実に。
この間にもアウス様に祈れど何も無い。
結局私たちの祈りは……ただの気休めだったのかもしれない。
「……あ、あなた、一体何をする気?」
「ん?目的の合間の暇つぶしかなぁ?じゃっ!」
「暇つぶし……ボブガァァ」
頭を覆う様に水球が纏わりつく。
身動きが取れないので、溺死するのは目に見えている。
鼻から入る水が痛い。
悔しさで泣きたいがそんな事は叶うわけない。
歪む水中視界の中、”新たな私”が私に手を振っている。
「ばいばーい。最後は皆んなとお揃いでね」
苦痛が動かせる手足を惨めにバタつかせる。
そっか……皆んなこうやって殺されたのか……苦しい……
こんな弄ばれて……ああぁ……アンナ……
夢なら、この後……覚め………
「よぉーし、第一段階クリア。やっと次の段階に行けるわね!
やーっと拠点よ。……あ、後でアイツに神貨請求しないと」
シルヴィア”だった”脱力した亡骸を土が呑み込み、地面に取り込む。
そして夜は、何事もなかったかの様に静かに過ぎていった。
◇
[神聖アウス国 首都アウス 神聖騎士団本部]
声が響く開放的な空間に、ステンドグラスを通して多色の光が降り注ぐ。
大樹の様な柱が数多並ぶ中、中央にある大円卓に武装した数人の騎士が歩み寄る。
この場所には、一般の騎士は入る事が許されていない。
各支団のトップ層が会合を開く時のみ使われる場所である。
「皆の者、緊急の招集にも関わらず来て貰って感謝する。
総団長及び第一支団はこの場に来る事は出来なかった為、
私-第二支団長エウリ=メイドレッドがこの場を取り仕切る。
異論はあるか?」
「無いわぁ」「……無い」「なーし♪」
「では、進める。
およそ数日前、ラクト地区の都市部にて人が一夜にして多数消失した事件が
発生。被害人数は二十九人。
一人を残し、教会所属の女性魔術師の寮から丸々消えた。
唯一生存した女性、シルヴィア=ルードリーは保護観察として第五支団の施設へ。
彼女については目下主犯の疑いとして捜査中だが、あらゆる面から可能性は
低いと見られている。
以上が事前報告だ。次、第五支団から現状報告を」
「はい。報告は私-副団長のネイト=バナードが行います。
依然として原因又は犯人は掴めず、手段も見当がつかず難航。
重要参考人のシルヴィアは相当参っている様子で、かなり衰弱しています。
彼女に動機はなく、この規模の事を引き起こす魔術を使える力量は
持ち合わせていないだろう。
と言うのが我々第五支団の考えです。以上」
誰も口を挟む事なく、淡々と報告は進む。
「第一支団長から伝言を預かっている。
”第五支団長、魔力感知に誰よりも長けている貴方が何故気づかなかったのか”
以上。
第五支団長、これについて回答を」
「ん〜……そんなこと言われても、困りますね☆
皆さんのとこもそうだと思いますけど、都市部はよっぽどの事が無い限り
中級以上は使用厳禁じゃ無いですか?♪
私が気付かない訳無いんですよね〜、コレはマズイかもしれませんよ?☆」
誰もが黙り込み、思考する。
彼女-第五支団長レイシア=ディオーネの魔力感知能力は、聖アウス教会総員の中でも突出している。
都市部を全てカバー出来るそれは、もはや能力の次元に達していると言っても過言では無い。
そのレイシアが”何も無かった”と言う事がどれほど問題か、この場に居る者は分かっていた。
「”別のモノ”……が入って来たとかじゃなぁい?」
独特な化粧をした、細身ながらも筋肉質な男が問う。
第三支団長-ホメロス=ドーラの発言に、エウリの表情が目に見えて変わっていく。
「……考えたくは無かったが、あり得ない話では無いない。
もし仮にそうだとすると……もはや我々だけでどうにかなる問題では
無くなってしまう」
エウリは引き攣った顔で、先程より少し弱く発言した。
考えうる最悪の結果を口にした事で、一抹の不安の輪郭が浮かんでくる。
「反徒が教会側に紛れ込んでる、とか……?♫」
「口を、慎めよ……レイシア=ディオーネ……
我らが主の慈悲を授かった身でありながら、何をもって裏切ると言うのか……
貴様を首謀者にして処分しても、代わりは”第一”にいくらでもいるんだぞ?
不敬極まりない」
「………」
軽い口調で言ったレイシアに、エウリは静かに憤慨する。
流石のレイシアもエウリの態度を見極め沈黙するが、副団長のネイトの胸の内は今にも飛びかかってしまいそうな程、不満が込み上げていた。
「……確かに……考えたくは無いけれど、0じゃ無い……
喧嘩は良く無いし……それもまた不敬だとオレ思う……」
大柄な細目の男が、ゆっくりと口を開いた。
「……すまない、取り乱した。
確かに、お前の言う通りだな。ギルロウ。言い過ぎた」
「大丈夫、大丈夫☆」
大柄な男-第四支団長ギルロウ=キュベレーによって、場の空気は持ち直された。
隣に座る副団長の女性は度々起こる場面に、気づかれない程度にため息をつく。
「他に無ければ解散とするが、何かあるか?」
「無いわぁ、皆んな精々消されない様に気を付けましょ」
「……無い」「なーし♪」
そうして、取り急ぎの緊急会議は終わった。
◇
ラクト地区に戻って来たレイシアの顔は、珍しく曇っていた。
副団長のネイトは一瞬会議で放たれた言葉のせいかと思ったが、そんな性格では無い事を思い出す。
「ネイト……やっぱり居るよ、なんか。マズイ予感がする。
今も、コレからもね☆」
「……勘、ですか?」
レイシアは剣の腕はさることながら、その”魔力感知能力”と”勘の良さ”でここまで登って来たと言っても過言では無い。
「うん。そんなとこ♫」
彼女の勘は、よく当たる。
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