第十六話 はじまり
このお話で序章が完結します。一番下まで見てくれると嬉しいです。
『全く……本当、誰じゃ!アイツらの封印を解いたのは。
あれ結構大変じゃったんだぞ……。して、あの封印を解ける奴がいる事が
にわかには信じられん。しかもアイツら群れておったではないか……
我の頃はそんな事なかったぞ……いや、まさか……?』
うるさい。全くもってうるさい。
全然本の内容が入ってこない。
折角あの大量の侵犯者を早めに片付けられて自分の時間ができたのに……
落ち着かない。
ケンと出会って一年位経ったけど、コイツずっと喋ってる。
他の人に聞こえない事を良い事に、深夜まで喋り倒していた時もあった。
一回思いっきり「うるさい」と叫んだ時は、僕の精神状態を疑われて大変だった。
『おい!聞いておるのか!?シン!世界の危機なんじゃぞ!?
そんな呑気に本なんて読んどる場合か!』
「世界の危機の前に、僕の精神状態の危機だけどね。お願いだから静かにして
くれない?」
『シンのその”能力”が我を引き寄せた様に、お主には特別な物を感じるんじゃ!
……多分……。じゃ、じゃからちゃんと聞け!いや、聞いて!』
そういえば、何故ケンが僕の刀に取り憑いているかをケン自身が考察した
結果、”僕の能力”と”封印前にケンが持っていた能力”が酷似している為、
共鳴したのではないか。と、言っていたのだ。
能力が被る事は珍しいらしい。
「わかったから。聞いたら少し黙っててよね?」
『むぅ……仕方ないのぉ。で、じゃ。奴らは人界に現れてから百年と少しと
言われているらしいが、そもそもそれはおかしい。
百年もあれば、人界のものはとっくに喰い尽くされている筈じゃ』
「わかんないけど、強くなったからじゃない?人族がさ」
『お主は知らんかもしれないが、今日倒したアレらは”雑魚”じゃ。
アレを生み出す母体が存在し、魔力量も強さも桁違いよ。して……
アイツらの名前は”侵犯者”などと言う名前では無かった筈じゃが……
うーーん……あれぇ……?』
え……?母体って何?
と言う事は、それをどうにかしないと無限に湧くって事……?
そんなの虫みたいじゃないか。
「どうしたの?ド忘れ?そんな肝心な所を?」
『うーん、なんか……所々記憶がぬけおちてるんじゃよ……
今丁度そこに当たったのか、思い出せん。封印のせいかも知れんなぁ』
「その母体は人族じゃ厳しいの?」
『一体だけならいけるかもしれんが、複数体となると大分厳しい。
そして一番不味いのは……奴らを統べる長が居るんじゃが、そいつの復活。
そうなれば世界の危機。人界だけの問題では到底すむまい……
対処できる者も片手で数える程度じゃな』
それは、侵犯者の”王”的なものだろう。
王様と言う概念が無いこの世界では、使わない言葉かもしれないが僕にはしっくりくる。
「それ、僕に言っても意味ある?国がやる事じゃない?」
『大いにある。我と意思疎通できてる時点で、お主の存在は大きい。
百年以上も対処していない人界など、頼りにならん。……そう考えると、
グレイが考えている”革命”は実に都合がいいな!
”他種族に協力を仰ぐ”と言うのも、我が思っていた事。奴の方が今の人族の神
よりもよっぽど利口じゃな』
ケンはグレイの計画を知っている。
なるべく持ち歩く様にしているので、彼の耳……は何処か知らないけど、入っている。
家の中でも度々持って歩いているから、”刀が好きでたまらない子”みたくなっている。
普通はぬいぐるみとかなんだよ、それは。
でも、部屋に置いといたらそれはそれで後で文句を言われる。
知識量は確かに凄いから、馬鹿にはできないんだけど……
「うーん……まあ、理解はしたけど……期待し過ぎじゃないかなぁ……
てか、”他種族に協力を〜”ってなにそれ?」
『ああ、お主が居ない時にグレイとデュークが話しておったわ。
なんかお主、アルトの護衛任務が終わったら色々連れ回されるらしいぞぅ』
「はぁ!?」
ちょ、なにそれ!?”ぞぅ”じゃないわ!はよぅ言わんかい!
しかもそれ、絶対内緒のヤツじゃん。
まだ、数日後に学園に向けて出発!……って段階なのに、次のフェーズが不安過ぎる。
あのオッサン、どんな手段を持って他種族と交渉するつもりなのか……
大丈夫か……?
「何?でっかい声出して……大丈夫?」
「うぇ!?だ、大丈夫、大丈夫……はは」
アルトが怪訝な顔で覗いてきた。
ヤバい、ちょっと声がデカ過ぎたか……
でも今のは無理だわ、誰でもそうなるよ……
「……そう?なんか、この一年独り言が多い気がするけどなんか
あったら言ってよ?」
「う、うん。ありがと……」
アルトは顔を引っ込めようとした。
『お主、素質はあるのに何処か抜けておるのよな』
「お……!」
お前のせい、って反射的に言いかけてしまった。てか漏れた。
「”お”?どうしたの?」
「お〜、お風呂今日先入ってもいいよぉ……?」
「え?う、うん……」
訳の分からない誤魔化しのせいで、僕もアルトも困惑する。
ここから数時間、ケンと会話する事は無かった。
◇
その日の夜だった。
僕がベットに入っても、まるで子供を寝かしつける母親の様にケンは
昔話を話していた。
しかし、その声は不自然な形でぶつ切りになり、次に聞こえてきた声は何処かで
聞いた事のある声だった。
「やあ、久しぶりだね。今はシンと呼べばいいかな?」
窓の額縁に、黒猫が座っていた。
……思い出した!あのリアルな夢で会った奴だ。
「おい、ケン!コイツだよ!前に言ったの」
「ふふ……無理だよ。今、君と僕以外の時間は極めて遅くなっているんだ。
いくらそいつでも抗えないよ」
「……本当、何者?まさか、あんたが”人神イブ=アウス……?」
「僕が?ははっ、面白い事を言うね。シン。
……まあ、君にはこれから負担をかけてしまうから、ちゃんと言わないとね。
僕はこの世界を創ったモノの片割れ……じゃないかって自分で考察しているんだ。
前にも言った通り、本当の所はわからないんだよね。ははっ」
にわかには信じられない。
世界を創ったとか、物語の中の出来事だろう……
「ちょっと理解に苦しむけど、どうしてまた現れたの?
ケンの存在に気づいているみたいだし……やっぱコイツ、マズイ存在?」
「いや、逆さ。ソイツの封印を解くのに協力してあげて欲しい。
君にとって必ず大事な鍵になる。今回はそのお願いと、謝罪だよ」
なんだ?ケンってそんなに重要な存在なのか?
鍵になるって……もう少し丁重に扱った方が良いのかな……
結構雑に扱っちゃってるけど。
謝罪については、さっき”負担をかける”とか言ってたからな……
面倒事はもう間に合っているから断ろう。
「謝罪って何?残念だけど、僕にはやらなきゃいけない事が目白押しなんだ
よね。頼み事なら嫌だよ?」
「あはは、もう遅いよ。僕がこうして現れた時に、君のレールは出来上がり
動き出した。もう進むしか無いんだよね。それの謝罪さ、事後だけどね。
あの時、嘆き苦しんでいた魂を僕が救ってあげて、絶大な能力まであげた。
対価としては十分だろう?」
マジかよ、嘘だろ?
これから僕はコイツの操り人形になるのか……?
変な汗が止まらない。目の前の黒猫が急に怖くなってきた。
これは、コワイ人がやる手段だ。コイツは悪かも知れない。
「な、何が目的なの?」
「悪いけど、あんま詳しく言えないんだよね。ルートが狂うと不味いからさ。
大丈夫だよ!僕は悪い事はしてないから、約束するよ。
……もう時間みたいだ。二年間もこの世界に居れば流石に慣れたよね?
僕も”組み直す”のに丁度よかった。
じゃあ、また会える様に応援しているよ。……本当に」
「お、おい!まだ……」
あぁ、なんだよ。何なんだよ一体……
訳がわからないよ。
僕は世界の創造者に拾われて、良い様にカスタマイズされて……それから……?
アイツ、ヘラヘラしてたのに最後だけ神妙そうな感じしてたな……
手汗が凄い。無意識に拳を握っていたみたいだ。
とっくに見慣れた白い手を軽く開くと、震えている。
未知の恐怖か、緊張からの解放かはわからない。
『……して、我はこう言ってやーー』
声の方にすぐに反応する。
『な、なんじゃシン……お主、汗が凄いぞ?具合でも悪いのか?』
「ねぇ、今から言う事……信じてくれる?」
『何かはわからんが、我に協力してくれるお主を信じるに決まっておろう。
話してみよ、シン』
少しだけ、ケンを見直した。
「さっき、前に話したヤツが来て色々話していった……
ケンの封印を解けとか、能力あげたんだから手伝えとか、お前の進む道
は決まっているとか……あと、世界を創ったとか」
この時は、ケンが居てくれて良かったと思った。
相談できる相手が居てくれる重要性。
それもかなりの物知りなので、安心感がある。
『……!そうか、ヤツじゃったのか。はぁ、なるほどなぁ。
我のシンに対する目利きは合っていたみたいじゃな……
お主もたいへんじゃな。まあ、安心せい。悪い奴では無い。
我が保証するぞ』
「ケンはあいつの事知ってんの?」
『あぁ、じゃが制約に引っかかって喋れん。すまん』
言えない、と言う事はケンに関わる事なのか?
この夜は寝れなかった。初めてケンの話をちゃんと聞いた。
そうして、僕の知らない所で第二の人生の歯車は動き出していた。
◇
次の日、本当なら学園がある”ラクト地方”に行く前の打ち合わせがあったが、
デューク先生に頼んで明日にしてもらった。
そんな気分じゃ無かったし、きっとやっても頭に入らない。
ある意味、生まれて初めての仮病かも知れない。
先生も流石に驚いていた。
家の中でちょっとした事件扱いになっているのが雰囲気でわかる。
今日は稽古すらせず、部屋のこもって読書。
こんな時は物語性のある物を読んで、没頭するに限る。
でも、誰か来るのは時間の問題だろう。
子供が異常を示したらヒアリングするのは当然、の筈だ。
……ほら、誰かが階段を上がってくる気配がする。
本の文字を少し飛ばしながら読み、内容を把握して区切りの良い所で栞を挟める。
ノックに応えて入室を許可すると、顔を覗かせたのはエレア姉だった。
僕の後ろにあるベットに、エレア姉は座った。
顔は見合わず、僕は机の本を眺めて俯く。
「……どうしたの?怖くなった?」
エレア姉は親身になって聞いてきた。
「……うん、まあそんなとこかな」
「そうね……家を出て、二人きりで生きていくのは不安よね。
わかるわぁ……私とグレイもそうだったのよねぇ……」
確かにその不安もある。特に先生が居なくなるのは心細い。
でも、一番不安なのはこれからの道が決まっている事……
何があって、どんな結末なのか……
「……ねえ、エレア姉。もしさ、もし”凄い力の代わりに、自分の進む道が
決められてた”ら……どうする?」
「ん?なぁに、それ?本のお話かしら……?
そぉねー……”凄い力を使って頑張って生きる”しか無いわね!
きっとどんな道にも困難はあるのよ。
でも、”凄い力”があれば乗り越えられるかもしれないじゃない?
生きていれば良い事はあるものよ。私が実証済みよ!」
困難……確かに禍はいきなり来る。それは身に染みている。
でも、生きていても良い事は無いと前は思っていた。
しかし、二回目の人生は見違えるほど充実していた。
剣も、夢描いた魔術も、ここにはある。
この世界で、僕は行きたいんだ。
そうだ、道が何だ。何が来ても僕は……意地でも抗ってここで生きてやる。
前の世界の様な失敗は二度とごめんだ。
「……凄いね、エレア姉は。前向きで。
うん!スッキリした!ありがとう、もう大丈夫!」
吹っ切れた。
まさかエレア姉の言葉に動かされるとは思わなかった。
「えぇ……?何だかわからないけど、シンちゃんが大丈夫なら私は良いわ。
でも、無理しちゃダメよ?」
「僕らが無理しないと、明るい未来は無いよ?」
冗談で言ったつもりだったがエレア姉には刺さってしまったらしく、
表情が曇った。まずったな……
「あなた達は深く考えなくても良いのよ……ふぅ、じゃあ私夕飯の支度するわね」
そう言ってエレア姉は部屋を後にした。
『エレアは子供を巻き込むのを、あまり良しとしていない様じゃな』
「まあ、普通の感性じゃないかな……僕が特別性だからアレだけどさ」
『まあのぉ。所で、あんな一言で立ち直るとはお主単純じゃな』
「元々落ち込んでた訳じゃ無いし。さっきは大事な事を思い出させて貰った」
『心配せんでも、我の知識とお主の能力が有れば粗方大丈夫じゃ。
安心せい』
「うん。僕は何が来ても生き抜いてみせるよ。教会勢力だろうと、何だろうと」
僕は覚悟を決め、より一層気を引き締めた。
◇
ラクト地方へ出発する日が来た。
目的は、”聖ヴラトア西方学園”に二人で入学する事。
打ち合わせは昨日やったが、意外と早く終わった。
要点だけ伝えて、後は手帳みたいなの渡されておしまい。
移動の最中に読めって事らしい。
後は、入学に必要な書類とか、お金とか……
お金といえば、この世界の通貨の呼び方は”神貨”で統一されているみたいだ。
刻まれている”神の顔”で、使用できる国が分かれる。
価値は、金銀銅で……何処かで見た様な感じだ。
さっき貰った袋には、金5銀3銅2位の割合で神貨が入っている。
ちょっと金銭感覚がわからないけど……金が多くておっかない。
コレは僕が持っておこう……
支度を終えて、グレイ邸の玄関を出る。
しばらく会えなくなるからと、正門まで皆んなで送り出してくれる様だ。
エレア姉なんてもう泣きそうになっている。
僕の格好は、貰ったローブに大きめの鞄。
鞄のせいで背中の刻印魔術が発動できないから、刀もといケンは腰に。
もう一本差してあるけど、コレは今年の誕生日に先生に貰った刃の無い刀である。
学園内で刃物は原則使えないみたいなので貰った。
アルトの格好も僕と似た様なもので、鞄が小さいくらい。
基本的には僕は護衛の立ち位置なので、用意する物も多くなるのは仕方ない。
まあ、強化魔術を使えばなんの問題も無いんだけど。
自慢じゃ無いが、地獄のサバイバル特訓や日々の鍛錬のおかげで、ここに来た時よりも五倍位魔力量が増えているのだ。
魔術は初級しか使えないけど……出力で誤魔化せばいいのさ!
大事なのは威力だよ、威力。
もう正門まで来た。
はぁ、いよいよ始まってしまうのかと思うと緊張してきた。
「アルト、失敗するんじゃねーぞ。頼んだからな」
「うん。へっ、シンに頼らなくてもパパーっと上に行っちゃうよ?俺はね」
真剣な顔で言うグレイに一度は真面目に答えたアルトだったが、
直ぐにいつもの強気な姿勢になる。
でも、その姿勢に引けを取らないカリスマ性が彼にはあると僕は思っている。
「その意気込みはいいけどよぉ、最初からやり過ぎるなよ?マジで」
ブルーノが釘を刺す。
僕もアルトも、これから周りにレベルを合わせないといけない。
僕自身は大丈夫だと思っているけれど、アルトはすぐに頭に血が上る所があるから、その指摘は正しい。
「流石にわかってるって!」
「僕も、なるべく近くに居るようにするから」
「おう!頼んだぜ、シン!」
これからはアルトの行動に目が離せなくなりそうだ。
「シンは……まあ、大丈夫だな」
「俺より等級が上の護衛様だもんなぁ」
「ちょっとちょっと、雑じゃない?もっと心配しても良くない?」
グレイとブルーノは僕の心配をしていないみたい。
普通は男女で扱いが逆だと思うんだよね……
「シン。コレを持って行きなさい」
そう言って渡されたのは、金色のプレートの付いた首飾り。
すぐに、剣術二等級の証になる物だとわかった。
「”夜の活動”の時に着けなさい。それ以外で見られては絶対にいけない」
「わかりました。肝に銘じます」
そしてエレア姉が僕に抱きついてくる。
「はぁ……本当は嫌なんだけど、ごめんね……シンちゃん。
嫌になったら帰ってきてもいいからね」
「……うん、無理しない程度に頑張るよ」
少しだけ、昔の記憶が蘇った。
霞がかった母親の記憶。段々と薄れていっている気がするが、それが良い事か悪い事かはわからない。
エレア姉はアルトの事も抱きしめていた。
その光景は初めて見たので目を奪われた。
なんだかんだでアルトも可愛がっているのを見ると、頬が緩み胸が締め付けられる。
エレア姉の抱擁を最後に、僕達は出発した。
まず目指すは、馬車に乗る事ができる村まで。
◇
「っっっはあぁ!!」
『なんじゃ、また悪夢でも見たのか?シン』
薄暗い洞窟に響く、悲鳴にも似た声。
入り口から入る光が、手入れされていいない防具と無造作に伸びた碧髪を照らす。
声の方に向く元気は無く、顔に手を当てたまま話す。
「……いや……八年前の……ラクトに行く日の夢を見たんだ……
”まだ”みんないて……隣にはアル……ウッッ!うぅおぉえぇぇ!」
『またか……もう、吐き出す物も無いでは無いか。
そんなんでは衰弱死するぞ、シン』
「……よく言うよ……そんなんじゃ死ねない位わかってるくせに……」
シンは、ケンを補助に使って立ち上がる。
おぼつかない足で洞窟の入り口に行き、目下の地上を眺める。
生気の無い、至る所がえぐられた地上を。
「昨日、三体の”破滅級”になす術なく水神国が滅んだ。
獣神国に続いて、一年も経たない内に二国も滅んだ……
ウチにも二体居座ってるけど……ははっ、どうしよう……」
『すまん、我の責任でもある。我がこんな所に居なければきっと対抗できた。
あやつらにも協力を仰げたろうが、もう接触できんな。
まあ、たられば……じゃな』
暫しの静寂が訪れる。
『シン。手がない……事も無い。じゃがーー』
読んでいただきありがとうございます。
いつも評価、ブックマーク等本当にありがとうございます!
こんな長い序章にお付き合い感謝します。
第一章 聖ヴラトア西方学園編 は一ヶ月以内に連載を始めます。(早まる可能性あり)




