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嘆きの果ての叛逆神話【ジャンヌダルク】  作者: ぱいせん
序章 ノアの村編
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第十五話 蟲の知らせ

次話で一区切りつきます。

「グレイさん!敵襲です!」


 グレイの部屋のドアを、見張りの男が勢いよく開けた。

教会勢力とはまだ表立って敵対はしていないので、侵犯者(アンノウン)であるのは瞬時にわかる。


「数は!?」


 伝令に来た見張りに、グレイは焦り気味に問う。


「約五十です!もうすぐ到着する見込みです!」

「マジかよ……”禍級(ナイトメア)”の半分じゃねぇか……この一年見ないとは思っていたが、

 一気に来過ぎだろ……!過去一の数じゃねぇか……」


 見張りをよそに、グレイはデュークの部屋目掛けて駆け出した。


「先生!侵犯者(アンノウン)が来ました!数は五十!お願いします!」

「……あぁ、二人を向かわせたから大丈夫。それよりも早く警鐘を鳴らす

 指示を出すんだ」

「え……?は、はい」


 デュークは落ち着いた様子で、机に向かって書き物をしている。

グレイは驚いた様子を見せたが、それはデュークの態度に対してでは無かった。


「おい!信号弾をあげろ!」


 既に玄関先に移動していた見張りに、グレイは大声で指示を出す。

デュークの部屋は一階の為、玄関までは声が届く。

見張りは拳銃型の魔道具を取り出し、空に向けて放った。


「先生!二人を行かせるのは理解できますが、何で同行しなかったんですか!」

「あっちにはブルーノが居るだろう?正直、ブルーノが居てもやる事は少ない

 だろう。私の出番なんて無いさ。ここの守りをしていた方がいい」

「……そう、ですか」


 警鐘が鳴り響いた。

高い金属音。そうそう鳴る事は無い。


「そんなに心配していたら、これからもたないぞ?もうすぐラクトへ行くのに。

 少しは親の気持ちがわかってきたんじゃ無いのかい?」

「そ、そーなんですかね……」


 グレイは反応に困った。痛い所を突かれたからだ。


「それにもう、シンは実質二等級だ。剣術だけならブルーノより強いよ」



「ねぇ、シン。どっちが多く倒せるか、競争しない?」

「……んー、いいけど……気をつけてよ?今回数多いんだから」

「あんなの、いくら居ても大丈夫でしょ。シンもいるし、余裕余裕っ」


 シンとアルトは林道を駆ける。

強化魔術を駆使して、常人よりも速い速度で風を切る。

無邪気なアルトに比べて、シンの表情は少し硬い。


「僕は民家を見て回るから、アルトは先に行ってて」

「わかった」


 林道を抜け、シンとアルトは二手に分かれた。

アルトは速度そのままに村の正門を目指し、シンは村民の安全確保に向かう。

シンは魔力感知で外からも室内の人がわかる為、そこまで時間はかからない。


「……よし、皆んな地下に避難しているな」


 元々、この様な事態に備えて民家の地下にはシェルターがある。

侵犯者(アンノウン)はドアや窓を破壊して中に入って来ても、地下を見抜く

程の知能はない。

グレイが発案し、”叛逆の徒”加盟の村には導入されている。


「アルト、もうヤツら見えた?」

「早っ、もう見て来たの?まだヤツら来てないよ。少し飛ばし過ぎたかもね」


 先に正門に着いていたアルトに、シンが合流する。

アルトは少し肩透かしを食らった様な顔をしていた。


「じゃあ、コッチから迎えに行こうかアルト」

「いいね、賛成」


 アルトは軽やかに駆けていき、シンもついて行く。


「山火事は勘弁だから、炎系は禁止ね」

「わかってるよ……またデュークに怒られたくないし……」


 シンは、アルトのやり過ぎ行為禁止の為に念を押す。

以前にデュークから雷が落ちた事が、二人の印象に強く残っている。


「ほら、見えるよ」


 シンが先に侵犯者(アンノウン)の群れを捉えた。

向こうはまだ気づいていない為、木より少し高い位置に居る。

シンの魔力感知が優った結果であった。

 シンは背中の刀を抜き、二体の侵犯者(アンノウン)の核が重なった所に投擲する。

刀は狙い通りに刺さり、二体の侵犯者(アンノウン)は塵となって消滅した。


「まずは二体、お先に。ほら、こっちに気がついた」

「やっぱそれずるいなぁー……」


 シンの刀は落下しながら、シンの手元に戻ってくる。

アルトは愚痴りながらも魔術式を展開する。


「”氷柱の軍勢(アイシクルトゥループ)”」


 無数の氷柱が、連続で勢いよく上空に向かって放たれる。

その先端は鋭利な刃物の如く、侵犯者(アンノウン)の核を貫く。


「よっしゃあ!五、六体位いったんじゃない?見た?ねぇ、シン見た?」

「うん、凄い凄い。僕には到底できないよ、本当」


 アルトの魔術で落下した侵犯者(アンノウン)を、シンは地上で仕留めながら相槌を打つ。

側から見たら、アルトに対して適当に対処している様に見えるが、そんな事は無い。

きちんと見て評価しているのだ。


(よし、あと三十五体位……多いなぁ。一気に行くかぁ)

「アルト!ちょっと離れてて!」


 滅多に聞かないシンの大声に、アルトは本能的にその場から離れる。


「”吸引(アブソーブ)”」


 使用人が多用する掃除用魔術のそれとは、比べ物にならない範囲で展開されたシンの魔術は辺りの草木諸共を吸い込み、残りの侵犯者(アンノウン)を一点に纏める。


「ちょ、シン!やり過ぎぃ」


 地にしがみ付くのに必死で、アルトは既に競争の事など毛頭無い。


「”稲妻(ライトニング)”」


 大木よりも遥かに太い光柱が、辺りの景色を白く飛ばした。

侵犯者(アンノウン)など塵も残ってはいない。


「ねぇ!?俺に当たったらどうするのさ!?てか、何あの威力?

 本当に初級……?」

「まあ、なんでもいいじゃん。さー、終わったし帰るよ」


 シンが村に来て二年目の、青天の霹靂だった。



「やり過ぎだ。ここまで光が届いたぞ、全く……」


 グレイ邸の正門に、グレイは仁王立ちしていた。


「まあ、いいじゃん。片付いたんだし。俺ほぼ何もしてないけど」

「よくねーよ……こんな晴天の日にあんなバカでかい稲妻が落ちれば、

 魔術以外ありえない。教会側に気づかれたら説明するの俺なんだぞ。

 それにーー」


 能天気なアルトとは対極的に、グレイは青ざめている。

手を額に当て、ブツブツと何か言っているが誰も聞いていない。

まあ確かに、殲滅力を優先したら思ったよりも出力がデカくて自分でも驚いた。


「はいはい、すいませんでした。行こう、アルト」

「おい!全然思ってないだろ!」


 うるさいおっさんは放っておいて、早く本の続きを……

第一、グレイは心配し過ぎなんだよ。


 こんな森の中から感知できる訳無いでしょうよ。



 [神聖アウス国 ラクト地区 四大大聖堂”リウ”]


 男が両開きの大扉を金具で四回叩く。

その顔は少し緊張気味で、手は少し汗が滲んでいた。


「入れ」


 凛とした女性の声が、ドア越しに反響して聞こえる。


「失礼します、イリヤ=アークディル枢機卿閣下」


 女性、イリヤは広い個室で書き物をしたまま男に一瞥したが、直ぐに俯き書き物を続ける。


「君か、リアス司祭。して、要件は?」

「はい。地区外にて、約五十体の侵犯者(アンノウン)が一ヶ所に現れたと言う報告が

 ありました」

「いつ、何処の地区だ?……はぁ、いつも言っているだろう?省かず伝えろと」

「し、失礼しました……」


 イリヤは呆れた様子で書き物を止め、リアスの顔を見た。


「で?どう対処した?騎士団を向かわせたのか?」

「いえ、それが……編成途中に感知部隊から、侵犯者(アンノウン)の魔力反応が消滅した

 との報告があったそうです……」


 書き物を再開しようとしたイリヤの手が止まった。

予想していた内容とは違った為、驚きを隠せない。


「ほう……それで、何者かが短時間で対処したのではないか……

 と言いたいのかね?」

「流石です、閣下。その通りです」


 リアスは素直に感心した。

不安そうなリアスに対して、イリヤは先程よりも関心のある目をしていた。


人族(ヒト)で単体であれば団長か副団長格…複数であれば通りかかった傭兵ギルド…

 他種族であれば単体でも余裕だろうが、これはほぼ皆無」

「傭兵ギルドであれば、代価を要求してきますし噂が広まると思われますが……

 単体となると一体……」

「そんな戦力がフラフラと地区外に行く暇は無い。

 デューク=マックウェル位だろうな、あり得るのは」


 さもありなんと言わんばかりの顔のイリヤだが、リアスは目を丸くした。


「あ、あの”英雄”と名高いデューク=マックウェルですか……!?」

「英雄様は辺境の村で隠居生活だとか、転々としていると言う噂がある。

 誰も確かめてはいないがね。居場所がわからな過ぎて”死亡説”も出ているが

 今回の件でそれは薄まったかもしれないな」


 イリヤは腑に落ちた様に話を進めたが、リアスの顔が少し曇っている

のを察し、気を利かせ問う。


「どうした?何か思い当たる節でもあるのか?」

「……叛徒勢力、と言う可能性を…私は考えました」

「……?何故だ?」

「この前の”大量消失事件”の黒幕も叛徒では無いかと言われていますし、

 最近変な動きがよく見られます。地区外の活動と言う線も……」

「……ははっ」


 思わずイリヤは笑い出した。


「す、すいません……そんなに愚考だったでしょうか……?」

「いや、すまない。君があまりにも心配性だったものだからつい。

 奴らにそこまでの力は無いよ、無理だ。第一、感知される危険があるのに

 そんな馬鹿な事はしないだろう」


 リアスは恥ずかしがって、背の服をいじる。

本人も薄々は気がついていたのだ。


「成程……どうされますか?調査部隊を編成しますか?」

「その必要は無いな。既に済んでいる事であれば、無理に派遣する必要もない。

 万が一、叛徒勢力だとしても”深追いはするな”との教皇聖下のお言葉がある」


 イリヤは両肘を立てて、思い詰めた顔をしていた。


「承知しました、閣下」

「下がっていいぞ、リアス司祭」

「はい、失礼します」


 リアスはホッと胸を撫で下ろした。

達成感にも似た安堵が、彼を包み込んだ。

部屋を出ようとしたその時ーー


「そうだ、司祭」


 ドアに触れようとしたリアスの手が、ビクッとなる。

リアスは慌てて振り返る。


「君の弟は確か、今年入学試験だったか?」

「はい……そうですが……?」

「私の娘も今年入学試験なんだ。もし同級生になった時は、

 よろしく言っておいてくれ。私達としても、良き相談相手になれる事を

 祈っているよ」


 イリヤは先程の硬い雰囲気から一変、微笑しリアスを気遣った。

リアスとしては、発言そのものにも驚いたが家族の事まで覚えてくれている

事に感激していた。


「……!ありがとうございます!そうだったのですね!

 閣下の御令嬢に、アウス様の御加護があらん事を。失礼します」

「ああ、長々とすまなかったな」


 リアスは礼をして、退室した。

この日の彼は、いつになく上機嫌だったと言う。


 一人になった部屋で、イリヤは思い耽る。


(叛徒か……何故聖下は掃討作戦を行わないのか……解せない。

 奴らは侵犯者(アンノウン)同様、駆逐されるべきだ。機を伺っておられるのか……?)

「……まあどちらにせよ、見つけ次第殲滅するのみだがな」


 窓際にいた虫を、触れずに潰す。


 イリヤの意志は揺らぐ事は無い、決して。

 


 




読んでいただきありがとうございます。

いつもブックマーク、評価等ありがとうございます。

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