第十三話 神速の剣技
地獄のサバイバル特訓も、二ヶ月目に突入した。
何やら今日から、先生が直々に剣術を教えてくれるとか。
正直、同じ事の繰り返しでマンネリ化して来た所だったので、打ち合いができる
とわかった時はやる気で燃えました。
楽しみだなー、とか少し思ったりもしました。
しかし、蓋を開けてみればどうでしょう。
今現在、僕は先生にボコボコにされています。
お、おかしいなぁ……強化魔術発動してるのにめちゃくちゃ痛い。
骨が何箇所か折れていても不思議じゃ無い位……
折角生まれ変わって可愛い女の子になったのに、全身傷だらけでアザだらけ……
こんなの、嫁に行けないじゃなの……! 行く気絶対無いけど!
◇
「先生、このまま行くと僕は死んでしまいます。
撲殺は勘弁して下さい……てか、一応女の子なんですけど……?
せめて、せめて……その透明化するヤツやめて下さい……」
顔の半分位が腫れて喋りづらいけど、切実に訴えた。
覚えたての貧弱治療魔術を施しながら、僕は顔を摩る。
一回目の人生ですら、こんなに顔が腫れたことはない。
「すまないが、シン。手加減してやるほど私は甘く無いし、世界はもっと厳しい。
老若男女、こちらの事情など問わず禍は降りかかる。
でも、シンは救う立場になれる可能性があるんだ。
心苦しいが、わかってくれ……その程度の打撲や多少の骨折なら私が完璧に
治してみせるから大丈夫だ。外傷も残らないだろう。
だから、心配は要らない」
ひ、ひぃ……そんなの拷問じゃ無いか……
でも……先生の顔からは、やりたくてやっているんじゃ無いと言うのがわかる。
ここまでやられても、心の中に本当の恐怖心が湧かないのはそう言った優しい
所があるから……かも知れない。
先生は僕に近づいて治癒魔術を施し、傷はすぐさま完治する。
僕の治療魔術とはレベルが段違いだった。
「さあ、立って。もう一回いくよ」
「はぁ……い」
コレで五回目だ。
◇
僕がここに来る前に先生に受けた”腕がブレた様に速くなる”技。
あれは「神鳴」という技らしい。
なんでも、先生が名前を付けたのだとか。
持っていた木剣が消えたのは先生の魔術であって、技とは関係ないという。
先生は、僕を確実に仕留めるためには剣筋を読まれるのはマズイと思った
らしく、その読みが当たって僕の能力は発動しなかった。
結果として、良い経験値になったと思っている。
「神鳴」は剣撃が相手に当たる前に強化魔術の出力を一気に上げ、
速度と威力を格段に上げる技。
相手はたとえ剣筋を読んでいても直前で高速になる為、初見で避ける事は困難で
あり、たとえ受け止めても隙ができる確率が高いと言う。
先生位になると、速度は神速の領域に達して音すらも遅れて聞こえるらしい。
それが故の名前だとか。
今日からやっている特訓はその「神鳴」の習得と対処方法である。
対処方法って言っても……先生しか使わないからそんな意味無いと思うけど……
先生との打ち合い形式で行われて、能力も使えない真剣勝負だ。
先生もなかなか強めに打ってくるので、さっきからボコボコにされている。
先生は軽くやってるかも知れないが、ブルーノより遥かに動けるのはおかしい。
ただでさえ木剣が見えないのに、「神鳴」を使われると避けられる訳がない。
少し……いや、結構イライラしてきた。
今五回目の打ち合いが終わったが、僕の顔は不貞腐れているであろう。
自然とそうなるし、そう見えてほしい。
「どうしたんだい、シン。勝てない事が不満かい?
それとも、自分の力量が足りない事に対する苛立ちかい?」
「まあ……どっちもどっちって感じです」
初めてあからさまな態度を見せた事で、先生も少しだけ気をきかせてくれた。
先生の良心と子供であるアドバンテージを生かした戦略である。
今回はうまく行ったが……大人だったら軽くあしらわれただろう。
「……これは私の過信では無いが、シンは私より弱い。
歳も経験値も全然違うからそれは仕方ない事で、恥じる事ではないよ」
「そんなの、言われなくて一目瞭然ですよ」
「シンは剣筋を読もうとし過ぎなんだよ。一ヶ月間、魔力操作と魔力感知の
鍛錬をしたのにそれが全然生かされてない。
私の木剣がいくら見えなくても、本当に無くなっている訳ではなく魔術に
よるものだから、魔力感知で避けるもしくは防御する事ができる。
”神鳴”も強化魔術の出力が上がるのを感知できれば、対処
できる可能性も格段に上がるはずだよ」
失念していた……剣で戦う事に集中し過ぎて、魔力感知とかそんな事は
全く頭に無かった。
そもそも剣道をやっていたし、魔力を〜なんて発想にまず至らない。
コレがこの世界での戦い方なのか……
「わかりました。じゃあ、もう一回お願いします」
「よし……コレは弟子にいつも言ってた事だが、私を親の仇だと思って見なさい。
グレイや、エレアが私に殺されたと。感情は時に力を引き出すものだ」
”親の仇”と言う言葉を聞いた瞬間に、アイツの顔が瞬時に脳裏に浮かんだ。
法廷で見た「俺は悪くない」と言う楽観的な顔。
その時の憎しみが少し蘇り、木剣を握る力が強くなる。
「わかりました。先生なら加減はいらないですよね」
この時の僕はアイツを見た時の様に、目線だけで人を殺せそうな目をしていた
に違いない。
◇
[サイド・デューク]
シンの眼が強烈に据わった。寒気すら覚える。
魔力の濃さはさっきと段違いで乱れも少ない……別人の様だ……
”親の仇”とは言ってみたが、これでは本当に私が誰かを手にかけた張本人
であるかの様では無いか。
一体何がそこまでこの娘を駆り立てるのか……そう思っているのも束の間、
シンは弧を描く様に突っ込んできた。
怒りに任せた攻撃と言わんばかりの連撃の様に見えるが、確実に私の急所を
狙ってきている。
強化魔術の出力もさっきより上がっていて、攻撃が重い。
私の攻撃にも反応できる様になっていて、先程とは段違いの能力……
”ゾーン”に入っているのか……シン。
シンの魔力が高まるのを感じ、私は受けの姿勢を取った。
「神鳴」が来る……そう思った時にはシンの腕はブレて、強烈な剣圧が
風と共に私を襲った。
グレイ……君の強運には脱帽するよ……この娘はいつか、私を超えるだろう。
強化魔術をかけていた筈の私の木剣に、ヒビが入った。
◇
[サイド・シン]
初めて「神鳴」ができてから半月ほど経った。
できたとは言え、強化魔術の出力を上げ過ぎて魔力切れを起こして、
気絶してしまったのだけど……
あの時はボコボコにされたフラストレーションと、フラッシュバックによる
怒りで出た馬鹿力だったのであの時程の威力は無いが、並の木を一本折る程度の
「神鳴」はできる様になった。
僕としては十分!万々歳である!
しかし……先生は上を行くとか言う次元では無くて、少しだけ本気を見せて
くれた時は剣圧だけで数m先まで木は折れ、直撃した木は爆散していた。
その時は流石に絶句した……しばらくあの光景を忘れないだろう。
そして、ついに……
「よし、そろそろ帰ろうか。シン」
もう日は落ちていて、既に食べ飽きた魚を頬張っていた時にここに来て一番
聞きたい言葉が聞けた。
「んえぇ!?ひひんへふはぁ!?(いいんですか!?)
まは、ひっはへつはひまふほ?(まだ、一ヶ月ありますよ?)」
嬉し過ぎて口にモノが入っていようがお構いなしだった。
「あ、あぁ……もう十分だろう。私と打ち合える様になった上に、魔力操作や
感知もかなり上達したよ。既に三等級は硬いだろうね……実感が無いかも知れ
無いが、その歳で”副団長クラス”なんて誰も信じないだろうねぇ……ははっ」
確かに、この特訓のおかげでだいぶ戦える様になったと思う。
野宿とかも耐性ついたし、侵犯者とも無理矢理戦闘させられた。
先生より強い相手とか……そうそう居ないと思いたい。
さっき言われた、何等級とか〇〇クラスとか言われても全然ピンと来ない……
「アルトはどうでしょうね?あの子もブルーノさんと今頃特訓してるんです
かね?超されてないといいんですけど……」
「特訓はしてるかも知れないけど……シンが超される事は想像できないね。
全く、謙遜が上手だね」
「もー、先生は僕を買い被り過ぎですよっ。アルトだって凄いんですから。
油断はできません!」
謙遜はしておくけど、満更でも無い。
名のある人から褒められるのは気持ちがいいし、自信になる。
今夜で当分見る事は無いであろう焚き火を消して、就寝の準備をする。
こんな野生的な暮らしとは今日でおさらば、そう思うとなんだか寂しく……
は全くならなかった。
「明日は起こしに行かないから、好きなだけ寝るといいよ。
それじゃあ、おやすみ」
「はい、おやすみなさいー」
嘘だ!!
僕は知っている、コレは絶対罠であると!
「はいわかりました〜」で済む話では無い。その程でいよう。
◇
翌日の朝
言わんこっちゃ無い……先生は普通に叩き起こしにきた。
手元に置いてあった木剣で防ぐが、先生もあまり加減していないからキツい……
いつも若干押され気味。
「おはよう、シン。随分と手慣れたねぇ……私の行動を読んでいたのかい?
ふむ、意外と信用されてないのかな?私は」
「おはよう、ございます先生ぇ……いやぁ、少し用心深くなっただけですよ。
先生の事は世界で一番信用してます……」
先生は力を弱めて、木剣を引いた。
「よし、帰るよ。移動中は結界とか張らないから、自分の身は自分でね?」
「え?い、移動魔術みたいなのは無いんですか……?」
「そんなモノが使えたら、来る時に使っているさ。100km歩きだよ。
帰り道も含めた期間だったからね」
忘れてた、ここ結構距離あるんだった……
◇
[サイド・アルト]
シンがデュークに連れ去られてから、もうすぐ二ヶ月になる。
多分来月中には帰ってくるとは思うけど……物凄くソワソワする……
「おい、そんなにソワソワしても仕方ねぇだろ。こっちまで落ち着かないわ」
「なんでこんなにソワソワするんだ?」
「知るかっ、大丈夫か?とかちゃんと帰ってくるか?とか思っても、
デュークさんいるから無駄な心配だぞ」
「……そうかなぁ」
「ほら、一匹行ったぞ。それで最後だ」
突っ込んできた”はぐれ”を真っ二つに切る。
最近はずっとコレだ……村の周辺に出た侵犯者をひたすら駆除する。
初めは恐ろしかった姿も見慣れてくると段々またか、めんどくさい、と言う
感情に変わってくる。
ブルーノはあまり打ち合いをやってくれなくなった。
グレイによると、シンにやられた事を引きずっていると言っていたけど……
コレはデュークに言わないとなぁ……
あー、早く帰ってこないかなぁ……二人共。
そして約二週間後、庭でブルーノと鍛錬している時に正面からデュークが
堂々と帰ってきた。
一見平然としているが、エレアに怒られる事をビビっているのを俺は知っている。
この家ではエレアが一番強いのだ……
ってあれ??
「デュークさん!戻ったんですね。いやぁ……大変だったんですよ?
二人を宥めるの。本当に……ってあれ?……!?」
ブルーノも気がついた、デューク一人しかいない事に。
「ね、ねぇ……デューク、シンは?」
サーっと血の気が引くのがわかる。
考えたくも無いのに、最悪の展開を勝手に想像してしまう。
「ふふっ、シンはもう既に玄関前にいるじゃないか」
「……え?」
振り向くと、本当にシンはいた。
青い髪が光に反射して輝いていて……コッチを見ている。
正門から玄関までは約30mはあり、俺とブルーノが全く気づかない訳はない。
普通は気配でわかるはずなんだけど……
「まさか、デュークさん……シンにアレを教えたんですか?
いやいやいや、嘘でしょう……?で、できてるし……」
「ウチの弟子を甘く見ない事だね、ブルーノ?」
驚愕の表情のブルーノに、誇らしげなデューク。
なんだよ……俺だけ仲間はずれか……?
「なぁ、アレってなんだよ?新しい技か何か?」
「”魔力操作”だよ。シンは魔力を相手に感じさせない様に調節して、気配を
絶っているのさ。アルトはブルーノに習っていないのかい?」
「いやぁ、いくら天才でも十代後半位にやるもんでしょうよ!
そんな、今やろうなんて思いもしませんよ……」
デュークの少し挑発的とも取れる発言に、ブルーノは戸惑いを隠せて
いなくてタジタジしている。
ブルーノの反応を見る限り、なんか凄い事らしい。
俺もこの二ヶ月半位は結構”はぐれ”とか倒して、ブルーノといい感じに
打ち合いできてきて強くなったと思っていたけど……
シンはその上を行っていたのか……
不思議と悔しくはない、寧ろ自分のことの様に嬉しい。
門の前で話していたら、シンが駆け寄ってきた。
「ただいま戻りました。なんとか無事です」
「シン、もう切っていいよ。魔力遮断」
「……あ!ずっとやってたから切るの忘れてた……」
「全く、お前には驚かされてばっかで疲れるぜ。もう俺は驚かんぞ?」
シン……よく見ると服とか汚れてるし、少し破れて肌がチラホラ隙間から
見える。あんまり見ないようにしよう。
ブルーノはシンに指差して、談笑している。
少しづつ笑みも溢れて、和やかな雰囲気に……
「あらあらぁ、先生ぇ……随分と遅いお帰りですねぇ。
無断でシンちゃんを連れ回して、一体どこに行ってたのかしらぁ?」
ならずに、空気は一瞬で殺意に満ちた。
怒り狂うエレアだ……やばい……誰一人としてエレアの接近に気づかなかった事
から、コイツがヤバいのは明白だった。
「シンちゃん……こんなにボロボロになって……
新しい服沢山あるから!安心して!」
「あ、ハイ」
「私はグレイに報告があるから……じゃあ!」
デュークは目にも止まらぬ速さで、玄関の扉を目指した。が
「逃すかぁ!!」
エレアは力の限りに地面を殴ると玄関前に岩の壁が出現し、
デュークの行手を阻んだ
「落ち着け、エレア!庭がめちゃくちゃになってしまう!」
「あなたが逃げるからでしょうが!」
それからしばらく地鳴りは止まず、グレイが仲裁しても止まる訳はなく、
デュークが本気で無力化するまで続いた。
戦場化した庭を修復するのには、魔術を使っても四日位かかった。
読んでいただきありがとうございます。
いつも評価、ブックマーク等ありがとうございます。




