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嘆きの果ての叛逆神話【ジャンヌダルク】  作者: ぱいせん
序章 ノアの村編
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第十話 偽りの求愛

 俺、アルトは孤児だった。


 三歳の時にデュークに拾われて、今はグレイの家で一緒に暮らしている。

拾われた時の事は、微かに覚えている程度だ……そんなの直ぐに忘れてしまうのだろう。

勿論、両親なんて居たのかどうかすら疑う程だ。


 でも、寂しいなんて思った事はない。

デュークや周りの人は、俺を自分の子供の様に扱ってくれるから。


 それでも、たまに不安になる時がある。

それは自己紹介の時に”単名”である事。

偉い人や大事な時はデュークに言われた名前を使うけど、結局は偽物。

俺は結局、偽物の糸で繋がれた孤独な子供のままなのかと、ふと思ってしまう時がある。


 六歳の時にデュークに言われた。

「この国は変わらなければならないんだ。アルトは、みんなが安心できる国に

したくはないかい?」と。

その時は分からなかったけれど……色々知った今なら、デュークの言った事が

怖いほど分かる。


 そして一年前

「学園に入学して騎士になれ。そして内部からお前が変えていってくれ」と

グレイとデュークに言われた。

だから俺は、優秀な人間だと思われる様に毎日毎日頑張っている。


 使えなくなったら、また見捨てられるかも知れない。


 出来るかどうかは分からないけど、俺を拾ってくれたデュークが俺に意味を

見出してくれたのなら、それに応えたい。

それが例え偽物で繋がったものであっても、俺には大事だ。


 生きて行くってこう言う事なのかな……



[サイド・シン]


 こちらに来て半年たった。


 ふとした時に、自分は最初からこの世界に居たのでは無いかと錯覚する時がある。


 慣れるのは良い事だろう。

もしかしたら、記憶が擦り減ってくれているせいかも知れない。

……でも、記憶の水面に浮かんでいるのは悪夢ばかりで、映り込んでいるのは

刹那的感情に支配された復讐の悪魔。

そんな記憶、擦り切れる事が可能ならば、泣いて喜ぼう。


 それでも、良い思い出もある。

誕生日とかはそうだ。滅多に会わない父親もこの時は一緒に祝ってくれた。

一緒に居る時間が少なかったからだと思うが、プレゼントはいつも現金だった。

当時は気にならなかったけど、今考えると夢の無いプレゼントだよなぁ……


 案外何が思い出になるか、分からないものである。


 だから、今度あるらしいアルトの誕生日にプレゼントをあげたいのだけど……

正直何をあげれば良いか分からないし、そもそも今は子供だからお金が無い。

誰かに聞いて協力して貰うしかないな……



「ブルーノさんはアルトの誕生日に何あげるんですか?」

「んー?そうだな、俺は剣かな。師匠が弟子に剣を贈るのは定番すぎて面白味が

 無いかも知れないが、まだやってねーんだよ」


 剣術の稽古中にブルーノさんに聞いてみる。

剣か……男子なら大抵は喜ぶだろう。

定番かどうかは知らないけど……


「僕も何かあげたいんですけど……お金持ってないし、どう言うのが良いか……」

「ほうぅ……ふぅーん、なるほどね……それなら、御守りとかいいんじゃないか?

 エレアとかに聞いたら作り方を教えてくれるだろうさ」


 御守りかぁ……確かに、年相応の贈り物かも……?

そんなもので良いんだろうか?って思ったけど、多分聞き返したら大体

「気持ちが大事」と言う精神論に発展しそうなので、それは避ける。


「わかりました、聞いてみます」


 あては無いのだし、素直に従っておこう。



「エレア姉、御守りってどうやって作るの?」

「ん〜?どうしたの?誰か……あぁ、アルトね。まあまあ、シンちゃんもそう言う

 お年頃なのねぇ」


 うふふって感じで嬉しそうにしてるけど、多分見当違いである。

否定しても「恥ずかしがらなくて良いのよ」とか言われそうなので、それも避ける。


 ……え?なんで”エレア姉”って呼んでるかって?


 こう呼ばないと、拗ねて受け答えしてくれなくなったんですよ。

歳的には母親でもおかしくは無いと思うんだけど……それだけは口が裂けても

言うなと、グレイに強く念を押されている。


「僕でも作れる物?」

「難しい物じゃないわ。……ほら、こんな感じの縫い物よ。特に決まった形とか

 無いから、シンちゃんの好きな様にしたらいいわ。決まったら、私と一緒に

 縫いましょうね」


 縫い物だったら大丈夫だろう。

もっと複雑な物を出されて「コレがこの世界の御守りです」ってならなくてホッとした。

縫い物の御守りと言えば……よく部活とかで、大会前にマネージャーが作って

くれるやつが真っ先にイメージされた。

そうなると、ストラップ形式かなぁ……剣の鞘にでも付けられる様にしてとか?


「じゃあ、ストラップ形式のにするかな」

「すと……らっぷ?ってどんな物?私知らないわね……シンちゃんは物知りねぇ」

「あ!え、えぇっと……僕が説明するよ」


 やばい……普通に素で言ってしまったけれど、この世界には無かったみたい。


 結構あるんだよね、こう言う事。


 この後説明したけど、「よくこんなの思いついたわね!天才よ!」なんて

言われたが、本心で言ってるのか子供のヒラメキ程度で終わっているのかは

わからない。


 目的の物は二時間位でできた。

人形に紐の付いた、よくあるストラップ。


「……こんなものかしら。この人形のモデルは分からないけど……きっとアルトは

 喜ぶわ!じゃなきゃ、タダじゃ置かない」


 モデルが分からないのは無理もない。

何せコレは僕が好きだったヒーローだからね。

男児には取り敢えずこういうものだろう。


「男の子は、こう言う形が好きなんだよ」

「まあ、随分とませた事を言う様になったわね」


 エレアはニヤニヤしてるけど、僕は中身男だからね。

言っても確かめようが無いから、信じてもらえなさそうだけど……



 そして、誕生日当日。


 その日の夕飯はやはり少し豪華だった。

どこの世界でも”誕生日は好きなものを”というのは変わらないらしい。

普段あまり見ない肉類があるけど……コレなんの肉だろう……


「お前はスゲェよ、アルト。その年でもうすぐ四等級は俺ぁ見た事ねぇよ。

 師匠として鼻がたけぇぜ!」


 わっはっは、とご機嫌に笑っている酒臭いブルーノさんは、完全に親戚の

おじさんポジションである。

さっきから同じ話ばかりをして、アルトはうんざりしているみたい。

わかるよ、その気持ち……うんうん。


 ケーキは出なかった。

もしかすると誕生日ケーキなんて物は無いのかも知れない……

そんなの、主人公がいない漫画みたいなものじゃないか……信じられない。

それはまあ置いといて、お待ちかねの時間がやってきた。


「私からはコレね。誕生日おめでとう」


 エレアのプレゼントは衣類だった。

エレアの裁縫の腕は、ミシンの無いこの世界でもかなり精密で質が高い。

昔に店を出そうと考えた事もあるそうで、贈り物としてはかなり良さそう。


「俺はコレだ。次から使ってみろよな」


 ブルーノさんは宣言通り、立派な剣。

しかし、どこから調達したのだろうか……この村には小さな商店しかなく、

武器屋なんて無い。

今聞いたらダル絡みされそうだから、今度でいいや……


「私からは首飾りだ。これは純度の高い魔結晶を加工した物が付いていて、

 魔力回復や魔術操作の補助となるから身に付けるといいよ」


 はえぇ……そんな物があるとは、流石はデューク先生。

それがあれば、僕も少しは魔術ができる様になるかも知れない。

可愛くねだれば僕にもくれたりしないかなぁ……


「俺からは本のセットだ。魔術本に戦術本、それにモテる為の秘訣……」

「その、最後のヤツは要らないんだけど」

「え!?それが本命なのに……」


 グレイはガサツそう見えて読書好きの博識で、それもあって図書館並みの部屋がある。

その熱意が魔術や剣術にあれば……って先生はよくぼやいている。

確かに最後のは要らないけど、残りの二つは僕も気になる。


「じゃあ、最後は僕だね。大人たちに比べたらちっぽけだけど……はい、これ」

「え!?シンからも?………っ!?」


 ほぼエレアに作ってもらった御守りを見せたら、アルトは固まった。

あれ?露骨にガッカリしてる?……まあ、無理もないかぁ。

最後の最後に手作りの御守りが出てきたら、ねぇ?順番変えて貰えばよかった……

ブルーノさんは「本当にあげるとはな」とか言って笑ってるし。

いや、アンタが提案したんだろうよ。


「なるほどな、アルト。確かにその本は要らなかったみたいだな。

 まさか、既に射止めていたのならば……」

「いやっ……そそ、そう言う意味じゃ無かったんだけど!」


 ……あれ?おっかしいなぁ……


 グレイとアルトの会話を聞くに、なんかマズイ気がする。


「エ、エレア姉?これ、なんか意味あったりしないよね……?」

「……?御守りを血縁の無い異性に渡すのは、”愛の印”よ?何かで知ったから私に

 言ってきたんじゃ無かったの?シンちゃん?」


 あいのしるし?……愛の印…………愛の印!?


 なななななんだって!?


 それじゃ、僕がアルトに「大好き」って言っちゃった様なもんじゃないか!

こう言うのは一番避けたかったのに……あんのオッサンェ……

僕をはめやがったな……


「あ、ありがとう……俺、シンに相応しい強い男になるよ!」


 少しの恥じらいと、抑え込まれた熱が解放された様な熱い眼で、真っ直ぐに

僕を見て言った。

今日一で嬉しそうにしていた。

この後、必死に弁明しても「恥ずかしがるなって!」という感じになったのは

容易に想像できる事でしょう。


 これが、僕とアルトの距離が縮まるきっかけになると同時に、大きな勘違いの始まりでもあった。


 無知は恐ろしいものである。

 


「ちょっ、っ、何かっ、っ、怒ってんのか?シン?」

「ブルーノさんのせいで凄くややこしい事になったんです。

 責任取って殴られてくださいよ……」


 アルトの誕生日から二日たった稽古の日。

今日はいつに無く、僕の能力を使っている。

騙された腹いせだ。


 普通に打ち合っている時にワザと僕が剣を受け止めないと、時間が止まる。

ブルーノさんは僕の能力を当然知っているが、そこそこ本気でやっているので

急に剣を止めるのは難しいだろう。

時間停止している隙に、木刀をフルスイングするのだ。

丁度良い位置に腹があるので、打ちごたえがあって気持ちいい。

いやぁ、良いサンドバックですね。


 強化魔術の出力調整も少しは上達したはずだから、ブルーノさん……いや

ブルーノにも数秒遅れで結構な衝撃が伝わっている筈だ。


「……ぐふぅっ、ま、まてよっ!シン!カッコよかったとか言ってたろ!

 何か距離を縮めようとアピールしてたみたいだし……だからさりげなく

 誘導しようとしただけだったんだぜ……?」


 誤解もいいところである。

それは単に仲良くなろうとしていただけだったのだが、今は女の子だから

そう思われたのか……”この見た目意外とイケるかも”なんて思っていたけど、

一気に不安になってきた。

楽観的過ぎたようだ……


「全くもって余計なお世話です。いいですか?アルトが見ている前で、

 真剣だったら既に三回は死んでますよ?ブルーノさん?」


 僕は笑顔で強く出てみる。

ブルーノは自分より下の者をイジって弄ぶタイプみたいだから、僕がヤバいヤツ

だという事を理解させれば良いと考えた。

アルトは距離を取って見ているので、弟子に惨めな姿を見せるのはプライドが

傷つくだろう。

仕返しには十分かな。


「こんの……調子に乗るなよ!シン!」


 流石に怒ってしまったみたい。

当たれば岩をも砕く勢いの一撃が、頭上から降ってくる。

が、虚しくも直前で止まる。

そして最後に一発、ブルーノの腹にフルスイング。

ん〜、気持ちいい……この感覚は危ない気がするけど。


「まあ、このくらいで許してあげます。もう余計な事はやめて下さいね?」

「っ……、くそっ……反則だろ、その能力。もう俺が教える事ねぇだろうよ」


 確かに反則かも知れないけど、無限に出来るわけでは無い。

現に今日、既に4回程能力を使ったが疲労感が凄くて体が重い。

恐らく今の段階では、七回程の使用で魔力が尽きて動けなくなってしまうだろう。

無意識発動なので、相手が強いほど自滅する確率が高くなる。


 ブルーノとの打ち合いはだいぶ慣れてきて、今はアルトより上手くやれている。

動体視力や分析能力は剣道で培ってきたし、僕に分がある……と思う。

それに強化魔術で体をイメージ通りに動かせると言うのも大きい。

能力込みで見たら、僕の方がアルトより強いのでは?なんて思う。


「シン、すごいよ!こんな短い間でブルーノに追いつくなんて!天才だよ!」


 アルトは憧れの眼差しで僕を見てくる。

どこかで見た眼だ。……そうだ、弟がよく僕に向けた眼だ。

僕が全国一になった時に「兄ちゃんは天才だ」って、騒いでいたのを思い出す。

今はアルトも家族みたいなもんだ。

この眼がなくならない様に僕は強くならなければならない……今度こそ。


「そんな事ないよ、この能力のおかげ。……そう言えばアルトも、何か変な感覚が

 するって言ってなかったっけ?」

「うん。なんか、直感的って言うか……何と言うか……次にこうなる!って言うの

 がわかる時があるんだ。昔から勘が当たることは結構あったんだけど……

 この前のバケモノを倒した時はっきりと見えたんだ。

 最近も、俺が危ない時とか集中している時に見える事が多いかな……?」

「なるほどね」


 話から察するに、未来視っぽいけど……

回避系……と言うのかは知らないけど、その面では僕と似ているかな。

強力なのは確かだろう。


「マジかよ……はは……アルトもかよ。化け物の卵が二つに増えたとか冗談だろ。

 教会側じゃ無くて心底良かったと思うぜ……まったく。

(グレイのやつ、とんでもないものを引き当てたな。どんな運してんだアイツ……

 コレはもしかしたら、もしかするかも知れないぞ……)」


 自身の能力について語り合っている子供たちを見て、ブルーノは期待に胸を

躍らせていた。

無謀だと思われていた事に、光がさした瞬間だった。


「シン。今日で俺はお前に教える事を辞める」

「え!?そんなに怒ります!?少し大人気ないと……」

「ちげぇよ。まあ、少しは腹が立ったかもだが……そんな事で放棄はしねぇよ。

 お前じゃ、俺は相手不足だ。伸びるもんも天井が低けりゃ意味ないだろうさ」

「低いだなんて……能力無しだったらまだ僕は全然ですよ」

「お世辞はやめろ。……そういえばさっき”仕返し”って言ってたな?そうだな、

 ある意味あってるかも知れんな。お前の次の師は……デュークさんだ」

「え!?本当ですか?」


 やっと軌道に乗ってきたのに見捨てられるのか!と思ったけど、これは思わぬ好展開!

先生は教え方が上手いし、博識だし、ブルーノより確か等級は上だ。

先生の剣術は見た事ないけど……これは楽しみ!


「俺もデュークに教わるのか!?やっとブルーノから抜け出せ……」

「おい、お前はちげぇよアルト。お前もシンと戦ってみたらわかるだろうよ」


 明るい顔から一気に真顔になるアルト。

少なからず、シンと離れる事が嫌だったに違いない。


「まあ、シン。せいぜい頑張るこったな」


 ブルーノは邪悪な笑みを浮かべ、僕にそう言った。

この人がこう言う顔をする時は、大抵何かある時だ。

短い付き合いだが、何となくわかる。


 何かあるのだろうか……嫌な予感がする……




 



読んでいただきありがとうございます。

いつも評価、ブックマーク等ありがとうございます。


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