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嘆きの果ての叛逆神話【ジャンヌダルク】  作者: ぱいせん
序章 ノアの村編
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第一話 二人

初投稿な上に、読書感想文以来の長文です。

少しでも興味を持ってくれたのなら、幸いです。

イラストは二話に一枚付く予定(変更の可能性あり)

男は怨んだ。有りもしない絶対を。

男は絶望した。一向に来ない希望に。

男は嘲笑った。まやかしの永遠を。

男は悟った。終わりはすぐ側にあった事を。


そんな男が最期に願ったのは、信じてもいない神の奇跡であった。


……

………


 クソみたいな人生だった。


まあ、生まれた家は悪くなかった筈だ。

いや、それは俺の感覚であって、周りから見たらボンボンに見えていただろうな……

不自由を感じた事は少なかった。


 でも、親父は色々うるさかったなぁ。母様は優しかった……あぁ、会いたいなぁ。

そんな両親もとっくの昔に、村と一緒に”教会”の奴らに焼かれてしまった。

その事は、今でも鮮明に思い出せる。

あの時は、必死に生きようと逃げた。どうしたら生き延びる事が出来るかを、幼いながらも脳を全力で回転させて、生き延びた。運もあったかもしれない。


 しかし今は、いくら考えようが、足掻こうが、絶望的な状況。

右腕と左足が無い。衣類は、塗料をひっくり返した様に血で染まっている。痛みはもう、無い。

さっきから、勝手に湧いてくる思い出に浸かっているのも、きっと走馬灯ってやつだろう。

別に思い出したくも無いのになぁ。

 身体が寒くなってきた。意識も視界も、無くなりかけている。くそ……

目の端から、自然と涙が伝った。


「死に…たくねぇ、なぁ……」


 切実な願いが、震える唇を動かした。

それから、祈る様に目を瞑った。最後の最後で本能的に奇跡に(すが)っていたのだ。

 

 誰でもいいから助けて欲しい。

まだ何もやり切れてねぇんだ……伝えてない事も沢山ある……

母様…先生…エレア……。

なあ、”本当の”神が居るんなら叶えてくれよ。頼むから。何でもする。

あぁ……これからそいつに会えるのだろうか。

会ったらなんて言おうか……


クソッタレな人生に相応しい最後をどうも?

次はもっとマシな人生にしてくれと尻尾を振るか?


 まあ……どうでもいいか。

考える気力はもうとっくに無いのだから。


 意識が消えかけた時だった。

瞼の裏からでも分かる程の、強烈な光が走った。


 あぁ、遂に死んじまったか。意外と急に来るんだな。

不思議と、清々しい気分だ。身体ももう痛くない。

おっかなびっくりで瞼を開けると、目の前に宙に浮かんだ子供の姿があった。  


「”本当の”神様って、意外と小さいんだな……子供とはね」


 独り言を呟きながら、身体を起こした。

が、ここで異変に気が付いた。


「あれ……?」


 全くもって、自然な流れで身体を起こしたけれど、今身体を支えているのは右手。

よく見たら、足もある。

……そうか、あの世に行くと傷や欠損は無かった事にされるのか。

でも、五感とか不思議と生前の様な現実味がある気が……気のせいか?


 ほんの一瞬だけ、”もしかしたら”という嬉しさが、フワッと上がってきた。

が、すぐに思考を切り替えた。

期待してはいけない。期待した分だけ落胆が大きい。何度も経験してきた。


 子供なのか、神なのか分からない者は、空中からゆっくりと地に着いた。

見た所、目は虚で意思は無い様に見受けられるが……

いや、変だ。地に着いて少し経った位で、夢から覚めた様な顔になっている。

自分の身体を必要以上に触ったり、ブツブツと独り言を言っている様である。


「あの……か、神様…とかですかね?それとも、近しい者だったり?」


 単刀直入に聞いた。

不興を買っては不味いと思い、一応敬語で問いかける。


「え?神様?あなたには今、僕はそういう風に見えているんですか?」


 あれ……?少女なのに一人称が僕?少年だったとか……?

いや、でも……今”全裸”の状態で”アレ”が付いて無いからそんな訳は……

あ、俺の視線に本人も今、全裸だと気が付いたらしく、見るからに慌てている。

さっきよりも、ペタペタと身体を触って挙動不審になっている。


「ここはあの世……何ですかね?思ったより死んだ所と変わって無い様に見えますが……?」

「はい?あの世……?え、ここはあの世何ですか!?いや、でも……」


 あれ、反応がおかしいな。混乱してるのか……?

何か全然知らない様だし、会話が成り立っていない様に感じる。


 ふと、冷静に自分の身体を見てみた。

怪我は元通り、血だらけだった服も何事も無かったかの様な仕上がり。

震える手を胸に当て、心臓が元気に脈を打っているのを確認する。

不覚にも、死んで無いのでは!と期待してしまった。


 こんな事を聞いた事がある。

一国を束ねる”神使(しんし)様”は人智を超える力を使えると。

もしや、少女はその神使様では!?


「もしかすると、神使様とか……ですか?」

「……?いや、多分そのしんし?様じゃ無くて普通のニンゲンだと思いますが……

 僕も確かな事は言えないんですけど……そもそも、ここは何処なんですか?

 何で僕は裸何ですかぁ……?」


 どうやら、この少女は自分の状況が分かっていないらしい。

記憶喪失?はたまた力の代償か何かだったり?

後者の場合、そんな代償があってわざわざ俺を助けるとは考えにくい。

俺は、木に寄りかかるのをやめて立ち上がり、少女に近づいた。


「取り敢えず、これ羽織って下さいよ」


 少女は、一瞬身を引く素振りを見せたが、程なくして自分の提案を受け入れてくれた。

上着を羽織らせたが、ぶかぶかだ。まあ、当たり前だろう。

少女と俺は、親子位の歳も身長もありそうだ。せめて引き摺らない様にどうにかしてあげよう。


 信じられないが、俺は多分生きているのだろう。

これで、実は死んでいてここはあの世です!とかだったら流石に現実味があり過ぎる気がする。

少女も既に死んでいる、という可能性もあるかもしれないが、薄そうだ。


「一応聞きますが、帰る所はあるんですか?」

「……無いですね。正直、今は何が何だか……」

 

 薄々分かっていたけれど、やはりないか。

……うーん、一度一緒に帰って家の連中に説明するか。この状況で放置の選択肢は無い。

しかし、この子を連れて帰った時に、村の人々からどんな目で見られるかは少し怖いかも知れない。


「じゃあ、一度ウチに来て下さいよ。他の人には上手く説明しますんで」

「いいんですか?……あの、と言うか何でさっきから敬語なんですか?

 僕の方が見るからに歳下だと思うんですが……もしかして怖く見えてるとか?」


 少し間をあけて、そう少女は不思議そうに返した。

さっきから思っていたが、歳の割には受け答えが妙にしっかりしている。

敬語に関しては、この子が神様では無いにしても、命を助けて貰った?様だから

自然に敬語になっていた様である。

まあ、向こうがそう言うのであれば


「命の恩人かもしれませんからね。でも、敬語じゃ無くても?」

「僕は構いませんし、その方が違和感が無くて良いと思います」

「……よし、分かったよ。じゃあ、一回帰ろうか!詳しい話は歩きながらでもさ?」


 敬語はやめた。

正直、性に合わなかったからスッキリした。


 俺は帰路に着いた。生きてる喜びを噛み締めて。

後ろにはぶかぶかの上着を着た少女。俺に配偶者はいないのは村に知れ渡っているので、

変な噂だけは勘弁である。


「ところで、君の名前は?」

「え?えぇーっと……シ、シンです」

「……シン、だけかい?」

「え、ええ、まあ。あ、あなたは?」


 何か理由がありそうな感じだな。

深追いはしないでおこう。人には色々ある。


「俺はグレイ=ベルルーク。一応、今から帰る村の領主をやってるんだ。

 お、丁度見えてきた」


 そんなこんな話をしているうちに、村に着いた。 

いつも居る村なのに、死にかけたからか何故か懐かしさすら感じる。


何気ない日常の幸せを身に染み込ませたグレイは、自身の家へと足を運ばせるのであった。



挿絵(By みてみん)


読んでいただきありがとうございます。

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