空に響く 冷たいマフラー
◇◇◇◇◇
人ならざる声を聞く。誰かの宝物のブローチから、時に姿の見えぬ霧の中から。
聞こえたからには、聞こえてしまってからには無視は出来ない。そうでなければ自分は、聞かなかったフリをするくらいなら、いつかこの両耳を斬り落としてしまうだろう。
◇◇◇◇◇
「──なぁ空、俺の消しゴム知らないか?」
昼の休み時間も終わろうとしている頃、もう次の授業が始まる寸前に、空はクラスメイトの一人からいつものやつを頼まれる。
そういえば、と思いながら空が耳を澄ませると、案の定聞こえてくる。
『ひろえー! はやくひろえー!』
キャンキャンと教室の隅から聞こえる声。一体誰の物だろうか気になっていたが、持ち主が見つかって良かったと思った。
「さっきのディスカッションの授業で机移動したから、きっとその時に巻き込まれてしまったんじゃないかな。だから多分、例えば教室の隅とかにあるかも」
それっぽい事を適当に口にして、教室の隅に落ちている消しゴムを拾う。
『お前じゃない!!』
知ってるよ、と心の中ですげなく返して。
今更突然の大声にのけぞったりなんかしない。不自然な態度は取らない。何故ならその声は、空以外には聞こえていないのだから。空にだけ人ならざる物の声が聞こえるのだから。
「うぉ! これこれ! サンキューな。流石失せ物探偵!」
空のそんな特技とも分からぬ不思議な体質のせいで、いつのまにか落とし物をしたらとりあえず空に聞けば見つかるという、大変面倒くさい事になっていた。まあ、話しかける事が出来るのなら、という前提だ。
(推理と答えの順番が逆なんだけどなー)
どうせ、真実を言っても信用されないのだから、その辺りについては本人もどうでもよかったが。
「おーい真司! 早く課題教えてくれよ! 授業始まっちまうって!」
「わーてるって。じゃ、まじサンキューな」
『さんきゅー』
そうだ、真司という名だったと今更思い出しながら、そんな失礼な考えの最中にも真司は気さくな笑顔を浮かべていたから、だからきっとあんな風に友達が出来るのだろうとぼんやりと空は思った。
今までの自分には出来なかった事だから。
「──よくあいつに話しかけられるよな」
(……あぁ、俺の耳は人よりも良い方だから、こうして聞かない方がいい事も聞いてしまう)
「なんで? いい奴じゃん」
「そうかー? なーんか近寄り難いっていうか、それにあいつって──」
その時、休み時間の終わりを知らせるチャイムが鳴った。どうやら課題は間に合わなかったらしい。お気の毒に。
換気のために開けていた窓を空が閉めると、最後の抵抗なのかここ一番の冬の冷たい風が入り込む。少し寒いと感じたのは、風だけのせいではないかもしれない。
──放課後、その少女は春風のような勢いでやって来た。
「ごめんね急に呼び出しちゃって! このあと時間あるかな? 少し話したい事があって!」
大丈夫、とかろうじて答えるのが精一杯だった。別のクラスの女性の呼び出しというちょっとしたイベントに、周りも野次馬根性で様子を見てくる。
「一ノ瀬 希。陸上部人気ナンバーワンの子じゃん。なあ、ちゃんと明日話聞かせろよ?」
唯一、物怖じせずに声をかけて来た真司に、空は返事をせずに遠い目を向けた。
どうして声をかけてきたかなんて、さっきの自分を思い出せば分かるじゃないか、と。
見知らぬ女性が声をかけて来たから自分を好いてくれていると勘違いするほど、空の性格は簡単ではない。むしろ、否定的な目で見られる事が多かったくらいなのだから。
(きっと何かを失くしてしまったんだろう。確証のない噂をあてにするほど大事な何かを)
空の耳には聞こえていた。
探せども、探せども、見つからず。雪が降り続けている。やがては全てを覆い、何も見えなくなってしまう……寒さ堪える雪の音を。
◇◇◇◇◇
「その、失くし物というのは?」
二人っきりでの下校中、特に知らぬ相手の、更にいうと今後も関わるはずのなかったキラキラとした相手との距離に戸惑いながらも空は声をかけた。
キラキラとはつまるところ、学校生活を謳歌している青春ボーイアンドガールを指す。
「あ、ほら、私もうすぐ引っ越すでしょう?」
「初耳かな」
「あ、ん、そっか! ごめんなさい! 私ったら勝手に知っているとばかり……あー恥ずかしい。つまり、その、引っ越します。はい」
ただし、距離を掴み損ねているのは相手もだった。無理もない。空は、一見掴みどころのない振る舞いをしている。少し目を逸らしてしまえば、そのまま淡雪のように溶けて消えてしまいかねない程に。
その気配の薄さは、賢く生きるための処世術だった。誇れずとも必要だった生き方の一つ。波風立てないように過ごす為の……
「それでえっと、私にはお婆ちゃんがいたの。とっても優しい人で、いつも私の事可愛がってくれてた……だけど最近亡くなっちゃって」
「それは……辛いようなら、要件だけ話してくれてもいいんだけど」
「うん、ありがと。大丈夫。それでね、お婆ちゃんが最後に気になる言葉を残したの」
思い出すように、思い出をなぞる。
すぐに頭に浮かぶのはそれだけ愛していたから。そして愛されていたから。いつもお婆ちゃんの声はゆっくりと優しかった。
『もうすぐ冬が来るからねぇ。寒くなるねぇ。寒いのは苦手だよ。希は、ちゃーんと暖かくしてるんだよ。お婆ちゃんの編んだマフラー、お外で恥ずかしいなら、どうか家の中でも使っておくれよ。あぁ、最後の冬だと思うと、この寒さもなんだか、かわいく見えるねぇ』
空は希が最後まで言い終えた後の目尻の涙は見ないフリをした。もしかしたら本当に見間違いだったかもしれない、そんな一瞬だったから。
希はいつもの元気な声に戻って空に頼む。
「だけどね、マフラーがどこにも見つからないの! お婆ちゃんもその時には時間の間隔がずれてたから、もしかしたら私が子供の頃にくれたのかもしれないけど……何だか心残りで。とっくに捨てられちゃって無いのかもしれない。でも、あるなら見つけてやりたい。空君にはお婆ちゃんのくれたマフラーを探して欲しい……やっぱり難しいかな?」
その質問はずるいな、と空は思った。
難しいと答えたところで、それは探さないという意味には直結しない。上手な聞き方。でもそれだけ、どうにかして探してやりたいという気持ちの方が強いのだろうと思うと、何だか微笑ましくも感じた。
それに……さっきから聞こえている。希の全身から優しい音が。きっとそれは、お婆ちゃんの愛。
聞いたからには、聞こえてしまったからには無視は出来ない。
「実際に探してみないと、難しさは分からないかな」
「そ、それじゃあ……!」
「はい。探しましょう、お婆様のマフラー」
『他人事に関わると碌なことがないぞ』
安請け合いした空が、記憶の中の一言に注意された。
(分かってるよ。でも、そうじゃないかもしれない)
空はいつもと同じ言葉を心で返す。いつもと同じ結果にならないように──
「じゃあ、ここの部屋で待ってて。今お菓子と飲み物持ってくるね」
失せ物探しの一歩手前、早くも空は後悔しかけていた。なんの気なしに探すと答えてみたが、この状況を改めて客観視すると、これまで一切付き合いのなかった同級生の子の部屋に一人でいるのだ。クラスメイトに事の顛末を尋ねられた時、なんと答えていいのやら。
居心地は良くなかった。辺りの私物がこぞって奇異な視線を向けてくるのも理由の一つだった。
『何と男ぞ』
『珍しき珍しき』
『こっち見ないで』
『私は希のお気に入りなの。素敵でしょ? 水色なのよ』
最後の言葉は、洋服箪笥から聞こえた。一体どこのパーツなのか考えないようにする。精神が削られていくのを感じた。
「お待たせ! ……どうしたの耳なんか塞いで?」
「少し耳鳴りが、ね。申し訳ない。まだ何もしていないのに、おやつまで頂くなんて」
「いいのいいの! 引越し祝いにいっぱいお菓子もらってるから。えっと、あれ、ティッシュどこにやったかな……あれー?」
「──ベッドの下とか、あるかもしれないね」
「えっ、凄いっ! 本当に分かるんだね」
そう言いながらベッドの下に手をやり隠れてあったティッシュを見つける。その一連のやり取りに違和感を抱きつつ、おやつは丁寧に頂いた。
話も多少交わして、おやつも食べ終わって幾らか落ち着いた空の頭が、さっきのやり取りを思い出して違和感の正体に気づく。
(そうか、逆なんだ。普通はそれがある事を確認してから驚く。でもさっきはまるで、俺の言った事が正しいと初めから分かっていたみたいな反応だった。ティッシュがないと言ったのは、わざとか)
意外とやり手なんだなと、普段の振る舞いからは離れた一面を知る。といっても普段の振る舞いすらそう詳しくはないけれど。
「それじゃあ、軽くお家の中を説明するね──」
両親が共働きらしく、この時間帯の家には空と希の二人きりだった。お陰で動きやすい。それに部屋の大体は引越しの為の片付けでさっぱりとしていて、失せ物探しにはピッタリかのように思えた。
だが、すぐに空は自分の勘違いに気づく。引っ越しの為に部屋は片付けられているというのは、裏を返せばそれだけ探しやすい状況にも関わらずマフラーは見つからない。だから空に頼みに来たのだろう。縋るような思いで。
「パパとママはもう捨てちゃったんだろうって。だけど私は諦めきれなくて…‥でも本当に、これだけ探してもないんだから、昔の私が捨てちゃってるのかもね」
やはりずるいと、空は思う。
もうすぐ両親が帰ってくる。引越しの日までのタイムリミットもそうない。だから見つけられなくても、それは空のせいではないと気を遣っているのだろう。
本心は全く諦めきれてないくせに。
空も実はこの家にお婆ちゃんのマフラーなど無いのではないかと諦めかけていた。時々、姿見などが教えてくれるが、それは単純に子供の頃に親から買ってもらっていたおしゃれなマフラーを使っていたり。他の誰の言葉も、お婆ちゃんのマフラーは無かったから。
だが──
「今日はもう時間だけど……でも明日がある。明日がなくてもまだ次の日もある。探しましょう、大事な物なんでしょう?」
「っ……ありがとう空君。うん、私の宝物」
それがどんな見た目をしているのかも知らないし、触れた事すらない物だけど、彼女にとっては確かに宝物なのだろう。
希の全身から聞こえるたくさんの愛と同じものが、希の部屋には溢れていたから。それらは全てお婆ちゃんからの贈り物。
暖かい気持ちになりながら、空は自分の家に着く。ただいまと一言言って、まるで引っ越したばかりの部屋のような空っぽの家に。
本当に引っ越したばかりというわけではない。ただ、経験則から余計な私物を持ち込まないようにしているだけだった。だからこの家には、最低限の家具以外はほとんど何もない。
ただ、例外はあった。
その例外は空の帰りに気付き、すぐに出迎えてくれた。濡羽色の翼をはためかせて、器用に空の肩に乗ると形の美しい嘴を甘えるように頬にこする。その時チラリと、片翼の一部の色が抜けた白い部分が見える。実は片目もなく、残ったつぶらな左目が空を見つめて
いた。
「ただいまハクメイ。悪い、少し帰りが遅くなった。心配をさせてしまったかな」
指を差し出すと、応えるように甘噛みをされる。鴉と人間の唐突な絡み。
そんな風にイチャイチャしながら居間へ入ると、ピシャリと鞭を打ったように鋭い声が空の耳に入った。
『女の匂いだ』
声の主は棚の上。日本人形。一筋の流水に菖蒲の花が彩られた純日本式の着物を羽織っている。そしてその顔は、花を象る面で隠されている。
『またぞろ面倒ごとに足を突っ込んでいるのではないだろうな』
冷たい物言いを抗議するようにハクメイが鳴く。だが、意に介さず指先一つ動かないその人形は続ける。
『私は再三警告しているはずだがな。他人事に関わると碌な事がない、と』
「ただいま瑠璃。大丈夫だよ。ただの失せ物探しだから、危ない事はない」
『どうだか。貴様は鈍感だからな』
今度はハクメイも鳴かなかった。
何だか痛々しい空気を感じつつ、今日の出来事を差し障りなく話してその場をやり過ごす。
そして白飯、味噌汁、漬物、焼き秋刀魚といった古風な夜ご飯を終え胃も心も満足した頃、すうっと隙を狙ったように瑠璃と呼ばれた人形がまた言葉を放つ。
『失せ物探しなら私も連れて行け』
「え、いや、それは」
『危険はないのだろう? さっき貴様自身がそう言った。そうでなくとも私を根暗の引きこもりにさせるのは許さない。嫌とは言わせないぞ。貴様のせいで私は、いつも孤独な思いをしているのだからな?』
「ぐぅ……」
さっきの自分の言葉を利用されてはぐうの音しか出ない。
『そもそも、貴様がそれだけ探して何も見つからないのならそこにはない。探す場所が違うだろう』
「……もしかして」
『あぁ、死に際の老人の言葉などあやふやだ。仮にそのマフラーとやらがどこかにあると仮定して、女に渡してないとするなら、その老人の家にずっと残っているのかもしれないな』
その説はどうも正しかったようだ。
今は残すか手放すか困っていて、誰も住んでいない希のお婆ちゃんの家に案内された空だったが、玄関口に入る前から悲痛な声が届く。
『──見つけて』
例えばそれは、少しの間床に放置されていた消しゴムとは比較にならないほど心の芯に届き、魂の叫びが空の胸を締め付ける。耳が良すぎると、偶にこういう事は起こるものだ。
「ここがお婆ちゃんの家なの……空君、大丈夫?」
「あぁ、大丈夫。入ろうか。きっとここにあるはずだよ」
「うん、あ、でも合鍵が私どこにあるか分からなくて。確か花壇の辺りにあるとかないとか、幼い記憶が」
「今はどうやら、ポストにただ入っているだけみたいだ。多分そこにあるよ」
「おぉ……おぉ……本当、だ。えっと……空君きついようなら言ってね? 何だか苦しそうに見えるけど」
「大丈夫。本当に大丈夫だから」
慣れているので、と事もなく話す空に、希は言葉に出来ぬ不安感を覚えながら。
二人と、そして鞄の中にこっそりと隠れている瑠璃は、築六十年は過ぎているであろう古風な造りの家に足を踏み入れた。
畳の匂い。お線香の香り。それらが音となって空に飛び込み一瞬目眩がしたものの、慣れているといった言葉に嘘はなく、それらの雑音はシャットダウンしてから他の音に専念した。
「きっと、そのマフラーをお婆様は大切に保管していたと思うんです。身に覚えのある場所はありますか?」
「えっと、うーん、私が遊びに来た時いつもお婆ちゃんは一緒にいてくれたから、そういう場所は……あ! でもね、お婆ちゃんったら私に良く色んなものをプレゼントしてくれるんだけど、確かにその時は私を炬燵の中で待たせてね、お婆ちゃんが部屋を出て……錯覚かも知れないけど、結構待ってた気がするの。待ち遠しかったからかな。やっとお婆ちゃんが帰ってきたら、とても楽しそうな顔で何かを持ってきてくれて、私も、炬燵から飛び出して……」
段々と、終わりにつれて細くなる言葉。想いが溢れて、目から溢れそうになるのを抑えている。
「大好きだったんだね」
「……うん、うん」
「……っ!」
希が思い出を話す時、空に聞こえたのは扉の開く音。靴底が地面を擦る音。
「お婆さまはその時、外に出ていたのでは?」
「外? ……あっ、そうかも! 私もお婆ちゃんがどこに取りに行くのか気になってて、でも待っててねって言われたから待ってて、それで、よく耳を澄まして……確かに外に出てたかも!」
「敷地内に何か、物を仕舞えそうな場所はあるかな?」
「ある! かも。庭の隅に倉が!」
希のいう通り、庭の一角に白っぽい石倉が鎮座していた。扉近くにはジョウロや桑など、庭作業に使われていたであろう物が置かれてある。
鍵もかかっていなかったので、二人で一緒に冷たい鉄の扉を開けようとして──
『──今更遅い!!』
二人して手を止める。
互いに目を合わせる。
「今の、もしかして聞こえた?」
「う、うん、何か甲高い物音がした。しょ、小動物かな?」
「うーん、残念だけど中から生き物の音はしないみたいだね」
「ひぇ」
どうやら、完全ではないにしろ、普段では聞こえないはずの声を希も聞いたらしい。空にははっきりと聞こえた。それは、玄関口で聞いたのと同じ声……
一瞬、中に入るのを躊躇う。
(あぁ、まずいな。自分以外にも聞こえる音を発せられる奴というのは、大抵そういうのは意志が強くて、良くも悪くも現実に影響を与えるんだ……)
だが、力を入れていない扉が少し動く。どうやら、もう一人の連れは入りたいらしい。今さっき背筋の冷えるような思いをしたばかりなのに、ここに探し物があるかもしれないのなら、入らずにはいられないのだろう。
空も一緒に力を込めて扉を開ける。
冷たい空気が倉の中に吸い込まれたのか、外に飛び出してきたのか分からない不思議な感覚の後、二人はいよいよ倉の中へと入っていった。上空では、今にも雪の降り出しそうな、灰色の雲が立ち込めてきている。
古い見た目とは裏腹に、中は随分と丁寧に整頓されてあり、カビ臭い匂いなどもない。壁にあるスイッチを探して灯りを付けると、二階建ての内部がぼんやりと浮き上がってきた。
「お、お宝がありそうな雰囲気! 二階もある! 幽霊もだけど! 知らなかった。わ、私二階にいってみるね!」
「落ち着いてね」
「──凄い凄い! 畳が引かれてあるよ! 洋服箪笥もある! 痛っ天井は近いけど!」
「落ち着いてね!」
さて、と。空は古めかしそうな書物の束や、何かが隠されていそうな小箱には目もくれず、音のする奥へと空は進む。
周りからは、相変わらず雑音がしていた。
『おお、人の子だ』
『みすみす恵子を死なせた愚か者達だ』
『そうそう、見殺しだ』
『可哀想な恵子』
この程度なら平気だった。空は、慣れていた。人ならざる声が重しとなって胸に澱んでいくのも、鋒の鈍い針となって全身に突き刺さるのも、この程度なら。
『──低位の輩共め。考える脳を持てとは言わないが、何をどうしたって人はいずれ死ぬ。そのくらい知っておけ』
『……』
鞄の中の瑠璃の鋭い言葉に、それらも黙り込む。
空は思わず鞄の上から瑠璃を撫でた。
「ありがとう、瑠璃」
『ふん、何を勘違いしている。お前がここで倒れたら、私までこの古臭い倉に閉じ込められる事になるだろう。それが嫌なだけだ。それより気を付けろ。周りの物は低位だが、一つ位の高そうな輩が潜んでいるぞ』
「……あぁ、きっとそれが」
その後に言葉は続かなかった。
倉の奥の、とある一つの木箱に手を伸ばした空の首元に、木箱に潜んでいた細長いナニカが空の体に巻き付く。
「ッ……ぐっ!」
『あー、だから言ったのだ。気を付けろと。ソレは中々、溜まりに溜まって厄介な存在に変容しているぞ』
細長いナニカは、空の首元だけではなく、身体全身へと巻き付け、その先端が空の顔を覗き込むように伸びる。
『遅い! 今更──』
「くっ、お前、マフラーだなっ」
空は咄嗟に、自由だった左腕で鞄の中に手を突っ込み、中から裁縫用の鋏を取り出す。
そして、細長い何かに突きつける。
「悪いが俺はまだ死ねないっ……早く離さなければ、その体を裁ち切るぞ」
空の脅し文句に怯む事なく、更に締め付ける勢いが強まり、冷めたため息が鞄の中の瑠璃から漏れた直後、階段を駆け降りる音がする。
「凄いよ凄いよ空君! 二階には夏祭りで着ていた着物が幾つもあって……空君!?」
その時だった。ふと、締め付けていた物の力が抜ける。そして消える。跡形もなく。
「かはっ……はぁ……はぁ」
「だ、大丈夫空君!? 今何か、ぐるぐる巻きにされてなかった? あれ? でも、どこに……」
「はぁ……ふぅ……大丈夫。ちょっと、布に絡まってしまっただけだから。ぐっ……」
「空君? っ、凄い熱! えっと、えっと、どうしようどうしよう、いちいちきゅう!? あ、でも私ここの住所覚えてない! えっとえと」
大丈夫、と今度も言おうとしたけれど、空の言葉は出てこなかった。代わりにたくさんの音に襲われて、暗い暗い世界に沈み込む。きっとそれは、さっきのマフラーの過去の音。
体から高熱を発して、意識を目覚めない空と慌てふためく希。そこへ、鋭い一言が鞄の中から発せられる。
「落ち着け小娘。じきに目覚める。今は少し、強い意志にあてられただけだ。だが、人の身にこの寒さは堪える。毛布の一つでも持ってきて包んでやれ」
「……あ、はい」
希は言われた通りに、さっき2階で見つけた冬の布団をせっせと運び、意思を失ったままの空へとかけて自分も一緒に入り、そして落ち着いた頭がこの世の不思議に突っ込んだ。
「って今の誰!?」
「喚くな。お前の隣にいる男は耳が良い……良すぎるんだ。丁寧に扱え。特に、その男の首から上と、利き腕と左足はことさら大切にしろよ。さもなければ私は、お前を呪い殺すからな」
毎日をのほほんと生きている希だが、鞄の中から声が聞こえる事には流石に驚く。だが不思議と、そこまでショックは受けなかった。あぁまた空が何か素敵な物に関わっているんだなぁと、それだけは分かった。そして今、その素敵な事に自分も関われているのだと思うと、ほんの少し救われた気持ちだった。
「呪い殺すって、貴女はお化け?」
「……人形だ。人の形をした、人ならざる物だ。自分では動く事も出来ん。だから、こうしてお前に話しかけている」
「な、なるほどそっか。貴女は空君の?」
「そうだ。私はこいつの人形だ。よく聞け小娘。今さっきこいつを襲ったのはお前の探している物だ。お前に気付いて逃げてしまった。持ち主のいない持ち物や、持ち主が大事にしないでいると、あんな風に家の中程度なら移動出来る。人が物を無くす道理の一つだ」
「そんなっ……」
人形の言葉を疑いはしない。だから余計に、それについてはショックだった。自分のせいで空を危険な目に遭わせてしまった。また──
「私が、空君を巻き込んじゃったの?」
「知らん。こいつは、どこにでも足を突っ込む。いい加減に学習してほしいくらいだ。全く、阿呆な奴なのだ」
「……お人形さんは、空君の事が大事なんだね」
「何を言っているのか」
当たり前だろう、と続けそうになる言葉を、瑠璃は抑え込んだ。今だけは空が目覚めていなくてよかったと思った。意識があれば聞こえてしまっていただろうから。
「私は、この男が全然好きじゃない」
でもなんだか、そんな言葉の薄っぺらさを、目の前のただの普通の女の子は気づいている気がした。
「好きではないが死んでは困るから、もっとその男の近くに寄ってくれ。人の体温は温かいんだろう? その温もりはきっと大切なのだ。人形の私にそれは無いからな」
「……うん」
希は頷いて、鞄を空の胸元にまで持ってきて。
「温かいよね、きっと」
◇◇◇◇◇
あの子の為にと作られた。冬の寒さに負けないように、暖かく包んでくれと頼まれた。私の大好きな孫へと、いつも言っていた。
周りにもたくさん同類がいた。いずれ、あの子の元へと届けられる愛に溢れた小物達。私もいつかは、同じ道を行くのだと思っていた。
だが──
その子供は、既に親から買ってもらっていたのだ。手編みよりも正確で、オシャレで可愛いマフラーを。
『ごめんね』
どうしてお前が謝るのか。
『あの子に渡せなくてごめんねぇ。私に器用な手があれば、今よりも可愛い物を作れて、きっと使われて貰ってたのにねぇ。ごめんねぇ』
そんな事ない。可愛いというのはよく分からないが、代わりにお前が使ってくれるのだから幸せだよ。十分だよ。こんなに嬉しい事はないんだよ。
だからもう、謝らないでよ。
聞いてよ、私の声を。
こんなに幸せなのに、伝わらないの?
◇◇◇◇◇
「──俺には聞こえているよ」
「あ、空君! 今ね、空君の恥ずかしいエピソードについて……はい何でもありません。私、何も聞いてません」
「……あっ!」
空は、自分の置かれた状況について一瞬思考を放棄しそうになる。どうして自分は、最近出会ったばかりの子と同じ布団の中にいるのだと。だから気付けなかった。希が先程まで瑠璃と話していた事に。
「も、申し訳ない! ね、寝不足が原因かも。病気とかではなく、急に眠くなってしまっただけで、本当に俺は大丈夫だから。迷惑をかけてしまった」
言い訳のように言葉を捲し立てる空に、希はただ、何も言わずに頷いた。
何だか恥ずかしくなって、矛先を逸らすように話を変える。先ほど流れてきたマフラーの記憶から、既にそれがどこに行ったのか空には見当がついていた。
「多分マフラーはお婆さまの部屋にあると思う。大切にされていたようだからね……ただ、その」
「……私お布団片付けてるね。その間に空君見つけてきてくれる? あ! でもこの鞄だけは持っていって。大切な物なんでしょう? ここへ来てからずっと、大切そうに抱えているもんね」
「え、ああ、そうなんだよ。それじゃあ……その、行ってくる。すぐに戻ってくるから」
本当は希も付いて行きたかったが、行っては迷惑になるかもしれないから。それに、瑠璃から言われた。あのマフラーはお前を憎んでいると。
今の希は見送る事しか出来なかった。
『大切な物なんでしょう?』
倉を出た空も、ひとまず息を整えてから愛おしそうに鞄を撫でて……そのまま叩く。ぎゃふんと、中から悲鳴が聞こえた。
『な、何をする痴れ者!』
「明らかに様子がおかしかったし都合が良すぎる。何かあの子に話しただろう?」
『げっ、勘の良い奴。ふんっ、私は人形だからな、口がある。口があれば、喋られる。貴様のせいで人の言葉などとっくにマスターしているのだからな』
「そういう事じゃないだろう!? どういうつもりだよ。お前はそんなに口の軽い奴ではないのに!」
『ふん、奴は引っ越すのだろう。なら、今このひと時くらい貴様の秘密が知れたところでどうにもなるまい。どうせ貴様はこれからも人との繋がりを遠ざけるのだろう? なら、関わりの薄い相手とくらい、深く関わっておけ』
「……必要以上に話してないなら、まあいいけど」
『グダグダとうるさい奴め。早く目的の物を探して帰るぞ。そしてここともサヨナラだ。裁ち鋏を構えておけよ。あの程度の感情にあてられてまた気を失われては面倒だ』
「いや、もう大丈夫だよ。話せば分かってくれる」
『貴様、また何か聞いたな? 程々にしておけよ。聞こえない声に耳を澄まして、聞こえる声を見失わないようにしろ』
「分かってるよ」
でも、聞こえてしまったからには、無視は出来ない。
(もしかして、瑠璃には聞こえなかったのかな。ここに来た直後に、あの子は確かに言ったんだよ。見つけて、って。耳を澄まさなくても聞こえるほど、叫んでいたんだよ)
深入りし過ぎてはいけないと分かっている。そのせいで痛い目を何度も見た。時にはさっきみたいに死にかけた。でもその倍の数、無視をしなくて良かったと思える時があったのだ。だから無視はしない。
その倍の倍の数、無視をしなければ良かったと後悔をしたから。
今度はどっちになるだろうかと思いながら、部屋に入る。奴は空を待ち構えていた。とぐろのように身体を宙にくねらせて、部屋を守っていた。親猫は子を守る為に威嚇する際体を大きく見せるというが、その姿に重なる。
『──帰れ。ここは、誰にも通させん』
「……それは、恵子さんの為?」
『っ、私の声が聞こえるのか……いや、どちらにせよ好都合。理解出来たなら去れ。さもなくば今度はお前の首をへし折る』
「……」
空は一歩前に出た。
その瞬間、部屋を漂っていた体が一斉に空へと巻きつき、倉で起きた事と同じ事が繰り返される。
『空! 貴様っ、編み物風情が調子に乗らせていればっ……』
「大丈夫、だよっ。瑠璃。ねぇ、君ももう、分かっているんだろう?」
『知らんっ! お前はもう何も喋るな。私に何も言うな! 死にたくなければ、さっきと同じように、あの刃物で私を切ってみろ!』
──ブツン、と何かの切れる音がして、締め付ける力がなくなり空も肺に新鮮な空気を送る。
だが、鋏は一度も鞄の中から出ていない。そのマフラーは、勝手に体の一部が切れたのだ。人はいずれ死ぬ。しかしそれは、物にも同じ事が言える。
恵子という最愛の拠り所を失ったマフラーは、もうすっかりと力が衰えていて、人を一人殺すほどの力もない。
「もう暴れないで。それ以上動いたら君は……」
『黙れ黙れ! 今更、なんだ! もう恵子は死んだ! いなくなった! 何もかも遅い!』
「それでも、孫の希さんが君を見つけたくてここまで来た。恵子さんの為に」
『っ……だから何だというのだ。もう、遅い。仮に私があの女の手に渡ったところでっ、それを恵子は知らない。ずっと、知らないままだ。それに! 私自身が許さない。あの女は憎い! あの女の物になるくらいなら壊せ! 死んで恵子の元へ逝く!』
もう一度暴れようとしたそのマフラーに、空は手を置いて宥める。
「恵子さんは希さんの事、大好きなんだよ。希さんも恵子さんの事が、大好きなんだよ」
『っ……知らん。知らん。もう、遅いのだ。私だって! 私だって、あの子の為にと作られた。あの子を暖めてくれと、恵子の願いだ。叶えたかった。だが──』
自分は望みは叶えられず、時だけが過ぎて。
何より恵子の願いを叶えるだけの、そんな役割すら全う出来ない自分がとても、憎い。
『──もう遅過ぎる。今更、人を好きになどなれぬ。あの子を愛してやれぬ。恵子は私にそれを望んでいたのに、私はっ、その程度の事も出来ぬ。あぁ、どうして私はこうなんだ。幸せだったと、話す事も出来ず……』
その後は、マフラーからはずっと涙の音がした。冬に降る雪とは違う、真夏のスコールのように激しく。
きっと他の人には聞こえていないんだろう。一瞬、それを羨ましく思いながら、それでも聞こえる自分を空は誇らしく思う。
だって、涙の音に沈みながらも、目の前のマフラーはこんなにも恵子の愛に包まれているのだから、それが涙に溺れる事はないだろう。そんな素敵な音が聞こえるのもまた、自分だけなのだと空は分かっている。
確かに教えてやりたかった。お互い、望みを叶えられなかったと嘆きつつ、お互い、こんなにも愛し合っていた事に。
でも恵子はいない。代わりに、恵子の思いを乗せて、崩れないようにそっとマフラーを抱える。
人を愛せないと言ったマフラーの体はひんやりとしていた。恵子のためだけに使われてきたせいで、他の誰かを温める事が出来なくなっている。きっと他の誰かがこのマフラーで身を包んでも、冬の寒さは凌げないだろう。
「──君が俺達を嫌っていても、俺は君の事が好きだよ。君の、恵子さんへの愛は、とても温かいよ。きっと希さんも、君の事が大好きになると思うけど……」
『……ダメだ。やはり、人間は好かん』
『その点に関しては気が合うな。この編み物、中々出来るぞ。だが、死を望むのは気に食わんな。編み物が憎しみを抱えたまま恵子とやらに再開して、そいつは喜んでくれるのか? 私なら……』
“私なら、自分の好きな奴には生きていてほしい”
──結局、マフラーは空が預かる事になった。今はまだ冷たいマフラーが、誰かを温めるという役割を思い出すまでの間のいつかの日まで。
「本当にいいの? 大切な物なのに、俺が受け取ってしまって」
「うん、見つけてくれて本当にありがとう。私こそごめんね。押し付けるみたいな形になって」
そう言ってマフラーを触れようとする希だったが、風の悪戯か他の何かなのか、それはふわりと揺れて指先を掠めるだけだった。
これには思わず、希も苦笑いを浮かべた。
「大切な物を大切に扱ってくれる人の所にいる方が、みんな幸せだもんね」
「ああ、大切にするよ。必ず。これを見て、希さんが遠くへ行っても思い出すよ」
「え? ……うん、それじゃ、本当にありがとう! またね!」
相変わらず弾むような声をして、その女性は笑顔で別れを告げた。サヨナラではなく、またねと。
雪はいよいよ降り出して、空はこれ以上マフラーが冷たくならないように胸の中にしまうと、この寒空に負けないように走って家に帰る。
『やれやれ、今日もまた碌でもない目に遭ったな』
そんな瑠璃の声も置き去りにして、空は走る。確かに殺されかけたので否定は出来ないが肯定もしない。だって、後悔はしていないから。
〜〜〜〜〜
彼女が笑顔でまたねと言った時、俺は懐かしい感覚に囚われたけど、あいにくと目に映る記憶は耳ほど覚えもよくないので、それは気のせいだったのかもしれない。
それにしても、木漏れ日を揺らすカーテンのように、温かい音のする家だった。家族の温もりというやつは、みんなああいうものだろうか。あの家が無くなってしまうかと思うと、少し寂しさを覚えつつ、でも無くならない物もあるんだと俺は知っているから。
今はまだ、雪にまみれて冷たい音しか出せないマフラーも、いつか彼女と同じように鈴を鳴らす如く人目を引く笑顔を浮かべられると信じて。
明日もまた、耳を澄ます。
『何だそれは』
〜〜〜〜〜
『何だそれは』
棚の上から声が降りてきて、空は筆を置いた。
「うーん……日記かな。音に関してはよく覚えているけど、自分の見た光景や景色なんかは人並みに忘れて色褪せてしまうから、こうして日記を書く事にしたんだ」
『なるほど、音日記か』
「音? いや、普通の日記だけど」
『お前の書く日記が普通なわけがない。人には聞こえない音が聞こえるのだから、人には理解し難い文にもなっているだろうさ』
「まあ、国語には自信がないけどさぁ」
自分の書いた文字に変な所はないかと見直していると、ハクメイが細長い筒を咥えて飛んできた。それを空にやると、褒めてもらいたいので頭を差し出す。
「ありがとうハクメイ。そうだ、忘れていたよ。今日の日課だね」
人ならざる声を聞く空が、その声を他人に説明する事は出来ない。表現する言葉がないのだ。自分一人にだけ理解出来る音。それを強引に、最も人に聞こえる音に似せると、それは丁度笛の音になるのだ。
だからというわけではないが、1日の終わりに、空はいつも笛を吹く。今日はどうやら龍笛を使うらしい。筒の中から取り出し、黒光りしたそれが月の光に照らされ、空が音を吹き込む。
今日の出来事、全ての音。
十分以上経ってようやく終わり、空は笛に尋ねる。
「どうかな、俺の探し者は見つかった?」
『否』
「……そうか、いや、悲しくはないよ。分かっていたからね。ありがとうヨイガネ」
『こちらこそ、良い音を有難う』
1日の締めも終わって、なんとなく気が抜けて、花一つない庭を眺める。
こんなに世の中には音が溢れているのに、自分の探している音は、未だ聞こえず。空が笛を吹く本当の理由は、探し者を探しているから。
『まだ諦めていないのか』
「そりゃあ、ね。昔の事だから俺はもうすっかり記憶から抜け落ちてきてしまっているけれど、音は嘘をつかない。笛達もまた一度出した音を忘れない。きっといつか、見つけられるさ」
『難儀だな。貴様も、あの女も。過去に縛られた奴は、生き辛そうだ』
「ふふ、そうかもしれないね」
でも、それだけではない事を、瑠璃は知らないのだろうか。知っていて忘れさせようとしているのか、今の空には判断出来なかった。
庭から冷たい風が入り込み、空はいそいそと布団の中に入る。そのままいつも通り寝ようとして、ソレに気付くと布団を持ち上げ、自分の隣にスペースを空けた。
「おいでヒョウリ。布団の暑さにお前の冷たさが心地いいんだ」
ヒョウリと呼ばれたそのマフラーは、シュルシュルと緩やかに動いて空の隣に入り込む。手芸が趣味の空のお陰でヒョウリの体はすっかりと綺麗になっている。
布団に入るなんて初めてなんだろう。所在なさげに体をくねらせていたが、先端が空の手を見つけると落ち着いたらしく、眠るように動かなくなった。
『……空』
「うん?」
『……私はやはり、人は好かん』
「無理に好きにならなくていいんだよ。焦らなくていいんだ。でも、恵子さんも人間だった。それは忘れないでね」
『恵子は特別だ……お前が人でなかったら良かったのに』
「ふふ、ヒョウリは俺を人だと言ってくれるんだね。嬉しいよ。やっぱり俺はヒョウリが人でも人でなくても、きっと好きになっていたよ」
『……』
それ以降は誰も何も話さなかった。ヒョウリの体が少し温かいと思ったのは、果たして空の勘違いだったのだろうか、それとも──。
いずれにせよ、“ありがとう” という優しい音はきっと、気のせいではないはずだった。その音は雪解けた水がせせらぎとなり、染み込むように空の耳に届いて……心に届いて……
夢の中で、優しく響く。