05話 出会い
あの派手な気配がひどく近い。
何をやってるんだ、僕は。
執務机の下に隠れた状態で、様子を伺う。鍵を解除して部屋に入ってきたのは、僕とあまり年の変わらない少年だった。気配の印象との違いに驚く。……男?
もっと派手な、女性のような華美さがあった。その気配はそのままに、目の前にいたのは少年だ。
……髪の色のせいだろうか?そうだ、僕と同じ赤い髪…誰だ?
例の居なくなった管理者?じゃあ何で、熾基は何も言わなかった?
…どうしよう。って、何で僕が隠れてるんだよ。
もう、これは全部説明しなかった熾基のせいだ。早くどこかに行ってくれと隠れた低い姿勢のまま願う。
その少年はキョロキョロと、慣れないながらも、明らかに何かを探してる様子だった。
何を探してるんだろう?というか、どうやってここに入ったんだ?
少年は書斎の古い本棚の前に立つと、少し手間取った様子で何かを操作しているようだった。
…あんなトコに何かあったっけ?
軽い振動と共に、本棚が一つ無くなった。
何だコレ?どういう仕掛け……?
僕はもしかして、何かマズイ物を見てしまっているんじゃないだろうか。心拍数が上がってきて、いい考えが全く浮かばない。
カタン、とすぐ側に気配が移動していた。
「…何してんの?」
心臓が、止まるかと思った。
その子が、机に手をついて屈む様にして僕を見ていた。その、赤い眼差しに動けなくなる。
隠れていたのが恥ずかしく思えて、顔が熱くなっているのが自分でも分かった。
「……誰?」
咄嗟に、それだけしか言えなかった。
その子は少し考えてる様子で、視線をずらした。
机の背面にいた僕は、大きめの椅子を背に、出口を塞がれる恰好になっている。至近距離で、考える様子のその子を、何故だか見れなかった。何故かどうしようもなく照れて、顔が熱くなる。
何だよ、この子。
見た目は……多少は整った顔立ちの少年を意識すると、顔が熱くなったまま戻ってくれない。
不思議な深い赤だった。吸い寄せられるような感覚が拭えない。目が離せないのに照れてしまう。
「…これだけど、知ってた?」
僕の質問には答えず、少年が指さした先にの本棚の奥に、隠し通路があった。こんな処になんでこんな物が?
赤い顔のままの僕が必死に首を左右に振ると、そう。とだけ呟いた。
「名前は?言える?」
少し、優しく聞かれた。何だか、僕の様子を察してくれているらしかった。
「…緋赤。」
「緋色に赤?」
「そう、だけど。」
その子の質問に短く答えるのに必死だった。とても緊張してしまって、思考が働かない。
「じゃあ緋赤。この奥に一緒に行く?」
「え?あ、行こうかな。」
その返事に頷くと、僕の手首を引いて、迷わない足取りで奥へと進んで行った。