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極彩に、色交われば今日も眩しい。  作者: 道野 結己
第一部 赤い世界
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04話 気配

 他に誰か居るみたいだ。


 なのに、熾基(しき)は何も言わない。

 先日、主人が部屋に何日か閉じこもった事があった。その後ぐらいからだ。そうしてる間に業務に追われて一週間も経ってしまって、ますます聞くタイミングを失っていた。


 熾基(しき)は大体において、必要なこと意外話さない。いつもそうだ。何事にも基本的に関心を示さずに、波風を立てる事が無い。

 だけど、赤庭の中で僕達以外に誰かいるというのは結構、大事なんじゃないだろうか。

 こんなに気になるのならさっさと聞いておけばよかった。今更だけど。


 赤庭には今、三人いる筈の管理者が二人しかいない。その他は主人がいるだけだ。

 僕がここに来て七年の間、熾基(しき)と僕以外の候補者を赤庭で見たことがなかった。赤庭の管理者は本来3人だと知識として習ったけど、2人でいる事に慣れ過ぎて特に疑問にも思わなかった。

 かなり後になってから、当時は他所の管理人の間で色々と噂になっていたと知った。そしてその理由も、熾基(しき)はハッキリと言おうとしなかった。

 なので、僕が知っているのは、管理者がもう一人いて、その管理者が今は赤庭にいないという事ぐらいだった。


 それなのに今、赤庭の中に誰かがいる。

 管理者というのは、赤庭内部と何かしら繋がっているらしい。ここに来たばかりの頃には気づかなかったけど、いつの間にかそういった違和感や気配を感じ取れるようになっていた。

 誰かいる。それも今までに会ったことのない人物。

 気配だけで言うなら、とても派手だ。

 無視したいのにそうできない。視界の端に置かれたライトの光のようで少し眩しい。見るつもりが無くても、ついそちらに意識が向いてしまう。

 こんな事は、他の管理者や(つかさ)を見たときでも感じたことがなかった。

 お陰でここ数日は、その誰かのせいで何だか落ち着かない日々が続いていた。

 もしかしたらだけど、熾基(しき)と深い仲の誰かなのかもしれない。

 それなら、僕に何も言ってこないのも分かる気がする。言う必要がないのだし。

 だけど、何だか自分にも近いような感じがして、僕は落ち着かない日々を過ごしていた。

 答えが分かれば、気にならなくなる質なので問題は無いのだけど、逆に分からない場合はずっと気になってしまう。

「…ああ、もう!」

 最近はその事で少し、イラついている自分が嫌だった。


 ぐるぐるとそんな事を考えながら、書類を持って執務室に向かっていた。

 図書室でも良かったのだけれど、あそこは蔵書が多すぎて本に注意が逸れてしまう。ごく最近の、必要なものだけでまとめてある執務室は、集中しやすい環境としても都合が良かった。特に今は、集中できない要素が他もある事だし。

 赤い庭に面した、陽の差す長い廊下の最奥が執務室だ。落ち着かなくて熱の上がりがちな頭を、廊下を通り抜ける風が少し冷ましてくれるようで心地よかった。

 この赤庭という場所は大体において天気がいい。ある程度の天候が制御されているのもその理由だ。

 今日中に手持ちの書類整理は終わりそうだなと思いながら、執務室の扉を開けた。


 ふと、違和感があった。

 まただ。あの、派手な存在。

 多少は慣れたので、こんな何でもない時に意識することもなかったのに。

 ……何だろう。動いている?

 そうだ。この人、今まで動いてなかったんだ。熾基(しき)から何も聞いていないのに、どうすればいいんだろう。

 少し怖くなって、入ったばかりの執務室の扉を閉めた。

 熾基(しき)に聞いた方がいいんだろうけど、どこに居るんだろう?

 慌てて執務室の扉に付いていた錠を下ろして、扉から距離を取った。

 不意打ちで会ってしまう前に、熾基(しき)から聞いてしまえばよかった。遠慮してる場合じゃなかったな。関係も分からないから、対処のしようがないじゃないか。

 焦りと後悔でウロウロしていたが、とりあえず机の影に隠れる事にした。机を背に、床に座って気配がこちらに来ない様に鮮やかな気配にの位置を探る。目的が定まらないような動きで移動している様だった。

 手の中にある書類をまとめる予定だったのに、どうして僕は隠れているんだろう。

 嵐が過ぎ去ってくれるのを、じっと待つしかなかった。


 目を閉じて、静かに気配を追ってみる。

 鮮やかに、定まらない足取りで歩いている。

 何だか鼓動が速くて、落ち着かなかった。

 けれど、目を閉じてそれだけに集中してしまえば、少し心地よくもあった。

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