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極彩に、色交われば今日も眩しい。  作者: 道野 結己
第一部 赤い世界
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03話 母の旧友

 意を決して、白い門に設置してある扉に手を伸ばした。

 すると、吸い込まれる様な感覚と共に、いつの間にか門の内側にいた。


 冗談みたいに赤に埋め尽くされた世界が、その中にはあった。草から花、地面から木に至るまでありとあらゆる赤に分類されるであろう色相と濃淡で、その森は構成されていた。

 気が狂いそうな真っ赤な世界はひたすらに現実味が無く、だけど母が亡くなった事も含めて夢だと言い聞かせれる程、取り乱せない自分に失望していた。


 赤い森の奥から溶け出してきたかの様に姿を見せたその人物は、顔が見える処まで迷いなく近づいてきた。そして、少しの距離をとって立ち止まるとこちらの顔をじっと見ているようだった。

 目を合わせない訳にもいかなくなって、ゆっくりと相手の瞳に視線を合わせる。その時になって、ようやく相手の瞳が赤い事に気がついた。自分にとって大切な拠り所であった母の目と同じ色だった。髪の色は全く同じ色ではなかったけれど、こちらも赤に分類される、燃える様な鮮やかな赤だった。


「私はここの管理人だ。」

 (てい)の昔話に出てきたのは、親しげで距離のない熾基(しき)という名の管理人だった。だけど、実物の熾基(しき)は、こちらを探るような距離のある話し方をした。

 途端に自分が(てい)でない事が、酷く悪い事の様に思えて、とても嫌だった。

(てい)が死んだらここに行くように言われた。」

 幸い、熾基(しき)は予想していたほど(てい)の死に驚いてはいない様だった。その事に、少し救われる気がした。同じ管理人が死ぬと、やはり分かったりするのだろうか。そんな事を少し考えていた。

「戻らないつもりだろうとは思ってたよ。」

 熾基(しき)のその言葉で、自分がほっとしてるのが分かった。まだ安心してはいけなかったのに、少し息をついてしまった。覚悟を少し手放しかけて、不安が一つ解決したと、勘違いした時だった。

 不意に緊張が伝わってきた。相手の表情はまだ和らいでいない。まだ、マズイと頭の端のほうで一度は考えたかもしれない。だけど、それを念頭には置いていなかった。

そして、違和感があった。

「君は?」

 無機質な空気が、徐々に広がってきていた。

 手先が冷たくなっていく。場の温度が一瞬にして下がったような感覚があった。

 早く、取り戻さないと。さっきの覚悟はどこへやった?はやく戻さないと。失望の種は(てい)が死んだことではなく、自分にあったのだ。

 沈黙が重くのしかかる。

 もう、自分の守備は間に合わなかった。

「… (てい)の子だ。」

 そう、熾基(しき)は期待していたのだ。母親の面影を。

 やっぱり、来るべきじゃなかった。それが、何度も頭の中を埋めていく。

 足が重かったのは、自分はここに来たくなかったのだ。どうして(てい)が居ないのに来てしまったのだろう。そう考え出すともう駄目だった。口が動かない。これ以上の失望にはきっと、耐えられない。もう誰とも話したくなかった。話せなかった。


「こちらへ。」

 それだけの案内で到着した真っ赤な玄関ホールは、足を踏み入れてみるとだだっ広かった。熾基(しき)は僕の母親の事を考えているらしく、それが冷めた眼差しを通して伝わってきた。その視線は居心地が悪く、腹立たしくもあった。


 今、相手の頭にいる緹はもういない。

 彼女が死んだのは自分の所為でもあったし、そうでないとも言えた。

 一つだけはっきりしていたのは、僕を無条件で庇護する大人がいなくなったという子供だけだった。

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