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極彩に、色交われば今日も眩しい。  作者: 道野 結己
第一部 赤い世界
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02話 主人への報告

「ねえ熾基(しき)、あの子の様子はどうだった?」


 久し振りに姿を見せた主人は、全く悪びれた様子も見せず、真っ先にその事を聞いた。

 最後に顔を見せたのは7日も前になる。

 亡くなった管理人を偲んで部屋から出て来なかった筈の主人が、当然の様に執務室に出てきて、訪れたばかりの少年の様子を聞きに来たのが熾基(しき)には意外だった。

 その反面、主人が管理人の動向を掴んでいる事は至極当然なのだと思い当たった。

(てい)の子だそうです。にわかには信じられませんが。」

 そう言いながら熾基(しき)は先程の少年とのやり取りを思い出していた。


(てい)が死んだらここに行くように言われた。」


 白い門の内側に現れた14、5歳の少年を見て、熾基(しき)は非常に嫌な予感がしていた。少年の、短めの鮮やかな赤い髪が目に焼きつく。

 この庭園の主人と管理人は例外なく、赤い髪をしている。もちろん、人間にも赤い髪はいるし、染める事で赤に近づける事はできる。

 違いは、近づいてみて分かった。

 少年は、髪だけでなく、その鋭めの眼差しも綺麗な赤みを帯びていた。瞳と髪の両方に赤色を持つのは、この庭園にいる主人と管理人だけだった。

「…君は?」

 熾基(しき)の立場上、聞かないわけはいかない。頭に浮かんだ可能性は、とても低いものだったが、ゼロでは無かった。

 唯一の希望は、彼女に全く似ていない点。

 けれど嫌な予感は、熾基(しき)の足元から徐々に冷たく這い上がってくる様だった。

 少年は、少し考える様に視線を彷徨わせてから、簡潔に答えた。

(てい)の子だ。」


 少年の正体が決定した瞬間、唯一の希望だった少年の面差しが、今度は残念で仕方ないものに思われた。

彼女の替わりに来たのであれば、せめて少しは似ていて欲しかったのだ。その少年が彼女との関係を口にしたとき、なんて(てい)に似ていないんだろうと熾基(しき)がっかりしていた。

 熾基(しき)は元々無表情な質なので、その感情を敢えて隠そうとはしなかった。 そしてその少年は必要なこと以外、何も話そうとはしなかった。


 少年の事を思い出した熾基(しき)が少し憮然とした表情をしたが、主人の関心はその少年に注がれたままだった。この人にしては珍しい事に、熾基(しき)が続きを話すのを待っている。

「……全く彼女に似ていませんよ、残念ながら。」

 けれどその情報に興味が無かった様で、話に不自然な間が空いた。少し驚いた熾基(しき)だったが、続きは簡単な説明で片付いた。

「…(てい)から、ここに来るように言われていたようです。他には何も話そうとしないので、扱いに困っていた処です。」

 ここの最高責任者である主人は、長い髪を揺らして、少し俯いた。

「何も話さないの?……そう。」

 それだけ呟くと、主人は積み上がっている業務に全く手をつける事なく、さっさと執務室から姿を消した。

 引き止めたい業務内容が山積みになっている執務机をじっと見ていた熾基(しき)だったが、少年の世話を押しつけられる可能性と天秤にかけた。

 その結果、仕方なく主人をそのまま見送る事にして、感情を乱される恐れの無い業務へと早々に手を伸ばした。

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