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7# GET BACK THE DAY!

 平静は装えている。

 ハズだった。

 だがどうにもこうにも落ち着つかない。

 バレてやしないかと気が気でならず、手の置き場にもいちいち戸惑う。

 そんな周囲は勤め帰りと思しきスーツの大人で埋め尽くされていた。黒いベストで店員も、スタイリッシュとエプロンをひるがえしテーブルの間を行き交っている。運ぶのは照りと匂いがたまらないイタリアンにフレンチで、夜には欠かせぬ洒落た名前のアルコールだ。どこを見ても騒ぐ子供の姿はない。いや、この店にそんな者こそ寄りつけはしなかった。

 紛れてそつなく百々未来ドドミライもめいっぱいに大人ぶる。そう、爆弾解体と似て異なるコトは実にスリリング。この先に何が待ち受けていようと気づかぬフリとすまし続けたなら、向かいで田所俊タドコロトシも残るカールスバーグを静かにグラスへ注ぎ入れていった。


 強制解雇というかたちでセクションCTの一件が幕をおろしたのはもう四か月も前になる。肌寒かった季節は今やうっすら汗のにじむ初夏へ変わり、「20世紀CINEMA」は新作を次から次に封切ると鳴かず飛ばずが実に穏やかな日々を送っていた。

 完全屋内型テーマパーク、ビッグアンプルのプレオープンに田所と出掛けたのは、もうふた月前のことか。一日はことのほか楽しく百々の記憶に残されていた。きっかけに湿気ていた胸の内もすっかり乾くと、田所の急な告白にぎくしゃくしていた関係も修復以上、補填されている。そんな二人が会う機会を増やしていったのはいわずもがなで、そのたび尽きぬ話で盛り上がっては尽きたところで不便は起きず、まるで付き合っているみたいだ、と百々に過らせもした。

 だが焦ったのはそれからのこととなる。

 なにしろ告白の返事はまだしていなかった。おかげで関係は付き合っているような雰囲気を醸し出しこそすれ、そうだと断言できる何かが起きることはなかった。その宙ぶらりんなじれったさにまるで苦行だと感じ始めて百々はようやく返すべき告白の返事に気づかされている。

 それこそ曖昧になどしておけない返事なら、どうにか伝えようと試みたことは確かだ。だがやぶから棒にあの時の返事なんだけど、と切り出すことこそはばかられ、つまるところデリケートな問題には脈絡というものが必要で、待たせすぎた百々はすっかりその脈絡を失ってしまっていた。

 そんなおり「20世紀CINEMA」で一本のドキュメンタリー映画は上映されている。タイトルは「ゲットバック ザ デイ」。かつて一世を風靡し、スキャンダルを原因に解散したロックバンド「スカンジナビアイーグルス」が初老を迎えた本年、再結成を果たすまでを追ったドキュメンタリー作品だ。客の入りがいまひとつだったのはいつものことだが、老練のロックバンドが苦難を乗り越え醸す枯れた音色は饒舌で、フィルムに収められた全てを事実と受け止め鑑賞すれば、バイト仲間の間でにわかに「イーグルス」ブームさえ起きる感動作だった。

 その復活ライブは日本でも行われるらしい。 

 聞きつけ誘ったのは田所の方だ。

 最初、なんとマニアックな提案だろうと思ったことは否めない。だからこそ興味はわいて、知った会場にそうも軽い気持ちで行けやしないことを突き付けられていた。

 会場の名前は「ブライトシート 中央店」。世界中に支店を持ちジャズからロックまで、いぶし銀のラインナップで玄人を唸らせる老舗ライブハウスだというのである。「スカンジナビアイーグルス」のファン層を考えれば妥当だったが、だからこそ百々たちには値段も敷居も高い店で間違いなかった。

 気おくれして及び腰。最初、百々はそこまで「スカンジナビアイーグルス」のファンではない、と口に出しかけている。熱狂的ファンでないのは田所も同じだと思い至ったところで己が身に降り注いだものこそ人生のハイライトだった。

 背伸びしてまで訪れる理由などただひとつ。

 失った脈絡を取り戻す。 

 楽しみだよ。 

 返した声は上ずっていなかったろうか。

 今でも気がかりでならない。


 しこうして爆弾解体などと似て異なるコトは実にスリリング。カールスバーグをグラスへ注ぎ終えた田所がゆっくり視線を持ち上げていった。

「なんだよ。さっきからニヤニヤして」 

 どうやらまた妄想とランデブーしていたらしい。過剰な瞬きで百々は腑抜けた表情を散らしにかかる。

「そ、そうかな? いっつもどおりだよ」 

 理由は死んでも明かせまい。すぼめた口で百々は真顔を装った。だがそのとってつけたような顔こそよほど嘘っぽかったに違いない。カールスバーグの小瓶を片手に田所は自分の体を見回す。

「もしかして今日、俺、変?」 

 確かに電車でここまでやってきた田所は今日、バイク通勤でお馴染みの疲れ切ったウインドブレーカーとは違い、肩のラインも綺麗なジャケット姿だ。様子はいつになく格好よく、感じたままを伝えようか迷って百々は意地悪でもなんでもなく、本心に触れぬ事実だけを言うことにする。

「いつもと違う格好だからさ、今日、バイクじゃないんだなぁって考えてただけ」 

「ま、せっかくなのに飲まないってのはないし、一人で飲めって言うのもひどくね?」 

 それだけでそうも笑えるものなのか。いぶかり笑う田所の口は、いつも通りのアヒル口だ。

「うん。おかげで楽しい」 

 顔へと百々は引き寄せたスプモーニを掲げた。すかさずそこへ田所もグラスをあてがえば、チンと透き通った音は鳴る。なおさら吹き出しそうになるのをこらえて互いは互いのにグラスへ口をつけた。

 そんな百々が腰かけているのは碁盤の目と並べられたテーブルも後方、左サイドの一角だ。気遣う田所はステージがよく見える席を百々へ譲っており、百々にはステージどころか田所越しに客席さえもが一望できていた。その贅沢さといえばかたときだろうと無駄にしたくなく、ステージが始まるのをいまや遅しと待ちわびて賑わう店内を今一度、百々はじっくり見渡してゆく。どうにも覚えた和感に、確かめ視線を振り戻した。とたん飲んだばかりのスプモーニを口のみならず、鼻からも吹き出しそうになる。

 何の因果か。

 いや何のホラーか。

 じゃないならこれは何の罰ゲームだ。

 ひときわ目立つその人は田所の肩を右から左へ移動すると、背を向けわずか三つ離れたテーブルへ腰を下ろしていた。まもなく歩み寄った店員へ何事かを短く告げて手持無沙汰と無人のステージを眺め始める。

 間違いない。

 いや、間違えようがなかった。

 セクションCT職員、もちろん百々の記憶の中に残っている最後の所属部署名だが、レフ・アーベンはそこにいた。


 瞬間、百々が失ったのは「うそだ」というたった三語にほかならない。いや、目の前に田所がいたならその方が御の字だろう。さらに胸中、邪魔でステージが見えないんですけれど、と言葉はもれ、スタンリー・ブラックの次は「スカンジナビアイーグルス」ですか、と興味はわき、果てにどうしてここにいるんですか、ともっとも先行されるべく疑問へたどり着く。

 などと互いが別れたのはまさにレフが銃弾を食らい、倒れて起きた混乱の中だった。メイヤードの部屋で提案したようにその後、レフが「20世紀CINEMA」へ現われることはなく、互いはもう二度と会うことのない者同士になったのだ、ようやく呑み込み終えた後のことでもあった。だというのに目の前、レフは、眺め終えたステージから戻した視線でゆっくり左右を見回している。待ち合わせの相手でも探しているのか、会場の隅から隅へとくまなく視線を這わせていた。

 見つかる。

 思えば襲われる、逃げ隠れしたい衝動はなぜゆえにか。理由が分からず、分からないからこそ戸惑って、思わず百々は身を固くする。

 とらえたレフの動きもついにそこで止まっていた。

 痛い。 

 のは心臓か。

 それほどにまでに相変わらず顔が怖い。

 微笑み返せるわけもなく百々は頬を引きつらせる。

「なんかホントはきゅうくつか?」 

 面持ちを心配して、田所が投げかけていた。

「へっ?」

 急ぎ合わせなおすのは焦点以外、他ないない。

「いやさ、いつもと違う感じっての。付き合わせただけなら、悪い」

 そんな百々へ田所は申し訳なさげに笑っている。

 そんなことないよ。

 言いかけたところで百々は、またもやレフに釘付けとなっていた。なぜなら向けた横顔でレフは掻くでもなくほじるでもなく耳をいじると、乱れてもいないジャケットの襟を正して大きく振ってみせつけたのだ。ならチラリのぞいたのは首元で泳ぐコードであり、百々の脳裏にの専用端末は浮かび上がる。そんな間合いすら見はからったかのようにレフは、続けさまあらぬ方向へわずか首を傾けもしていた。

 操られるままだ。そちらへ百々は視線を流す。

 と、そこに黒髪をおかっぱ風のショートボブにまとめた女性は座っていた。ワンショルダーのカットソーに顔の半分を隠すほどのサングラスが印象的な彼女は、百々が誰だ、と思ったそのとき、つまんだサングラスを鼻へずらす。奥からセクションCT職員、常盤華トキワハナの顔はぞいて、ハナはついた頬杖の指を百々へ小さく振ってみせた。立て続け、投げる視線で次を促す。そこは最前列のテーブルだ。トレードマークの瓶底眼鏡もご愛嬌と、ストラヴィンスキーこと外田瓶助ソトダヘイスケは立っていた。一体いつからそうしていたのか。だが気づくことができなくて当然だと思える。店の制服は良く似合うと、ウェイターに紛れて実にそつなく注文を取っていた。

 その背後、ステージへと準備を進めるスタッフがマイクを挿しに現れたのはストラヴィンスキーがテーブルを去った直後のことだ。年季の入ったロックグループゆえヤワな小僧っ子では務まらないというのか。スタッフはタンクトップ姿もいかついアフロヘアーの黒人だった。しかしながらマイクの角度を調節する手つきはやたらに繊細で、仕事ぶりは丁寧を極める。もう言うまでもないだろう。そのスタッフこそ爆発物処理担当、バジル・ハートで間違いなかった。

 つまり、と頭上へヘリ、シコルスキーは舞い上がり、フォローするオペレーターたちに曽我、チーフ百合草の姿は百々の脳裏を過ってゆく。総じてこうまで囲われた「ブライトシート 本店」は今、ただならぬ事態の渦中にあることを全身で感じ取った。

 まさか。よもや。

 脳天からあふれ出す二語が止められない。

 ままに視線をレフへと戻す。おっつけ鼻先を振って促すレフに、ホール後方へ目をやっていた。行き当たったのはバーカウンターの壁面だ。「手洗い」のプレートはそこに貼り付けられており、見つけて百々は胸騒ぎを覚える。確かめ視界を戻したなら確かとアゴを引いてうなずき返すレフに、脳内へとどめと言葉をこう送り込まれていた。

 話がある。

 そんなの、急に現れておいて受け付けられませんっ。

 眼力で送って返すが、受付拒否とレフは微動だにしない。眼差しに負けて百々は涙目で唸る返す。

 行きますぅっ。行けばいいんでしょうっ。

 ところを遮り、田所の顔は突き出されていた。

「って、おま、俺の話きいてる?」

「わっ!」

 ……すれてた、とは口が裂けても言えはしまい。 

「きっ、聞いてる。聞いてるよっ」 

「ほんとかよ。さっきからキョロキョロして落ち着きないんじゃね?」 

「な、な、わけないじゃん」 

 全力でうなずきかえせど、いともたやすく見抜いてくれる田所が恐ろしい。

 そんな百々が席を立ってから後を追うつもりか。レフはいかにも当たり障りのない客を装うと届けられたグラスを受け取っていた。

「だからさ」 

 言って早々、落ち着きのなさに田所が百々の鼻を指でさす。 

「それ、さっきからどこ見てんの?」 

「わ、わっ。ど、どこも見てないってば。タドコロが酔っぱらってるせいなんじゃない?」

 とたんむっ、としたのは田所の方だ。

「酔っぱらって、後で大事な話があるってこと言うつもりはないから」 

「へっ」 

 気を取られているあいだ話は、どうやらそんな方向へ進んでいたらしい。 

「な、誰か知ってるヤツでもいるのか?」 

 だからこそ気になるのだろう。探して田所は背後へと身をよじらせた。

「いっ、いるわけないじゃんっ。ブッ、ブライトシートだよ、ここっ」

 などと慌てずにおれないのは、有事がどうのと言うその前にだ、いくら仕事の相方だと言って聞かせてもいまだに田所はレフのことをよく思っていないためである。なのに今日に限って出くわすなどと、死んでも知られてはならないことだった。

 だが先ほどのレフよろしく、田所の目はくまなく辺りを見回してゆく。

「まさか20世紀のヤツとかか?」

 もうだめだ。

 思えば百々の声も裏返った。

「トイレっ! トイレ行きたくって、そわそわしてたぁっ!」

 田所の首もたちまちカクン、と折れる。

「だったらカウンターバーの……」 

 持ち上げ示して振り返った。とたん、百々へと向けられた背に緊張が走ったのは錯覚でも何でもないだろう。

 気づかれた。

 百々こそ悟り、顔へ田所は向きなおる。面持ちは怒っているのか意を決したためか、先ほどまでが嘘のようにひたすら険しい。否や椅子を引くと立ち上がった。行き交う客と店員をかわす歩みも大股と、田所は一直線とレフのテーブルへ歩いてゆく。

「ちょっと待って!」 

 急ぎ百々も追いかけていた。だがどうあがいても間に合わない。辿り着いた田所は、証拠にもうレフの座るテーブルへ堂々、腕を突き立て前屈みとなっている。不躾な腕をなぞったレフと、しっかと目と目を合わせていた。


「どうもごぶさたで。ああ、違った。おとといの昼間、見かけたんだっけ」 

 言う田所を、百々は全く理解できていない。

「あんた、気づいていないと思ってんだろうけど、ここんとこ20世紀の回りでウロウロしてるだろ。俺、ずいぶん前から知ってるわけ」 

 知らされて、驚きレフへ視線を投げていた。気づくことなく田所は、こうも言葉を連ねてゆく。

「あのさ、百々はストーカーを追いかける仕事仲間だって俺にあんたのことを説明してるけどさ。こんなところまで押しかけて来るあんたの方が、よっぽどストーカーじゃね? なんだっけな」

 記憶を探り空を睨んだ。思い出すと一息にレフの前へ並べ立ててゆく。

「漢字オタクで笑わなくて、たまに笑ったらタイミングが違う、年寄りに優しいマダムキラーの、ロシアから来たレフさんでしたっけね。だったら、もうちょっとばあさんの尻、追っかけた方がいいんじゃね」

 その度胸に百々の方こそ全身から汗を吹き出す始末だ。

「タっ、タドコロっ!」

 慌てて遮るがもう田所に待ったはきかなかった。

「え、おっさん」

 締めくくった後のドヤ顔は、ある意味レフのそれより恐ろしい。つとめて冷静に聞いていたレフの顔も、ついにそこで不快と歪む。いや実際、微動だにしていなくとも百々にはそう見えていた。証拠にレフの体も田所へと突き出されてゆく。

「バーブシカに、伝えておく」

 笑った。

 無論、ニ、と引き延ばした口元だけで。

 目にした百々こそ戦慄し、そんなレフとしばし睨み合った田所の肩が百々へと振られる。

「おま、トイレ行きたかったんじゃないの?」

 共に投げかけられた視線に刺され、百々は身をすくめていた。なら融通のききそうにない目で田所は、早く行けよ、と促しもする。もう元気一杯だった。

「……そ、だった。じゃっ、あとでっ!」

 百々は高く手を振り上げる。回れ右で歩き出すが、それも数歩で終わる。逃げるに任せて手洗いめがけ、百々は駆け出していた。

 見送って田所は突いていたテーブルから腕を引き剥がす。これで気兼ねすることはなくなった。胸の内でひとりごちた。

 問い詰めたところでおそらく百々は笑って誤魔化すに違いないのである。分かっているから、いまだ話題を持ち出したことさえなかった。だが「20世紀CINEMA」で「バスボム」が上映中だったあの頃、休み明けから続いた百々のおかしな様子はこのうすらデカい野郎に原因があるとしか考えられず、帰り道、すれ違った時の様子になお確信を深めている。だからこそ延びに延びた告白の返事も催促していなかった。落ち着いてからがいいだろう。思い、待つと心に決めたのだ。

 だがここひと月あまり、この男は性懲りもなく「20世紀CINEMA」の表に裏をウロウロしていた。それは通りの向こうに車を止めているだけのこともあれば、あたかもどこかへ向かうかのような小芝居付きでの往来ときている。

 それもこれも百々と会うためのことなら万事休す、だっただろう。だがそんな暇などないほど連日、百々と顔を合わせていたのは自身であり、加えてこの通り、百々は自身が見張られていたことにさえ気づいていない様子だった。

 ストーカーに違いない。 

 思いはじめたのは、いくらもたたないうちからである。

 つまり男は切れた関係を繋ぎなおすべく接触する機会をうかがっているのではないか。疑いは日ごと膨んで、危機感を募らせた。待つ決心をひるがえし今日を提案したのも、先手を打つためにほかならない。だというのにふてぶてしくも男は店へ現れ、またもや遠からず近からずの場所をこうしてウロついている。許される、いや譲れるはずがなかった。

 向かいの席へ、断ることなくどっかと腰を下ろす。そんな相手の顔を初めて真正面からまじまじ眺めた。心底いけすかないツラだと思う。どうにも陰気くさく、洋画で見るようなご陽気極まるバター臭さがまるでない。色が薄いせいか温もりにさえ欠けて見えるその顔は、ナフタリン臭さが似合う作り物のような固さがうかがえた。だからかいくらも老けても見えると年齢が分かりづらい。ただ「おっさん」と言ってやったように精神であれ肉体であれ自分より年上だろうことだけは確かで、だとしてもそれが怯む動機になるものか、と田所はなおさら眉間へ力を込める。

「あんた一体、なにモンなんだよ」 

 個人を特定して、百々との関係を特定して問いかけた。 

 だが男は答えない。相変わらず陰気臭い面持ちで田所を見ている。ならばとズバリ、田所は突きつけた。 

「四か月くらい前、20世紀が一番忙しい時、百々の様子がしばらくおかしかったのはあんたのせいだろ。あんた、百々に何をしたのかしらないけどな、あんたが現れると百々が迷惑するんだよ」 

 と、初めて男の表情は動く。やおら落ち着きなく、色の薄い瞳を右へ左へ揺らし始めた。様子に田所こそ、聞けよとたまらずテーブルを叩きつけ返す。

「もう二度と現れるな」 

 はずも、男は背後へ体をひねってみせた。なおさら、おい、と呼び戻せば、片手間と言わんばかりだ、教えてようやく男の口は開かれる。

「枕投げをしただけだ」 

 なるほど。

 しばらくやっていないなら楽しそうだ。

 思い過らせたのは防衛本能に他ならない。追いかけ追い越し、忙しい時期を休んでこんな奴とどこに泊ってきたんだよ、と事実に手は震えだす。いやそれ以上、知らず待ち続けた自身をバカにしているつもりか。覚えた怒りに拳を握りしめていた。コノヤロウ、で振り上げかけ、それはこいつの作戦だ、言い聞かせる声に我へ返った。

 何しろここで逆上すれば事実を認めたも同然である。落ち着け、百々に限ってそんなことなどあるはずない。これは巧みな心理戦だ。乗ってたまるかで、引きつろうと笑い返した。

「そりゃ、楽しそうで」 

「確かにいい気晴らしだった」 

 返されてどういう意味だ、と解いたばかりの指をうごめかせる。

 前で男はやはり顔色ひとつ変えない。見せつける余裕こそ勝利宣言というわけか。うがるほどこみ上げるのは胸クソ悪さというやつで、なんとかしてギャフンと言わせてやれないか。田所の執念に火は点く。悪意の限りを巡らせると、男の周りへ視線を這わせていった。置かれたままのグラスへ行き当たったなら、手つかずのままのそこへと目を細める。だからといって尋ねたのは何も、銘柄を知りたかったからではないだろう。

「それ何、飲んでんだよ」 

 アンタがぼやぼやしているから取られちまうんだ。言ってやりたくて否や、男の前からかっさらった。あおって飲み干し、どうだ、でテーブルへ叩きつける。目にした男は確かに虚を突かれたかのような顔をしていた。ザマァないと思えばうっすら笑みさえ浮かび上がる。だが実際はどこか違っていたようだ。

「そいつはウォトカだ」 

 教えられた瞬間、田所の喉からぼう、と火は吹き上がっていた。さかいにぐるぐる店は回りだす。


 そうして百々は手洗いに張られた鏡の前に立っていた。あれから待てども指示した場所へレフが現れる気配はない。勢いに任せて退散したが、二人のことが気がかりだった。何もこんな時に、と非常事態も頭を過る。とたん口は「あ」と開いていた 鏡の中の顔は本当に冴えない。ほとほと眺めて睨み返し、百々はしばらく離れているあいだに一体どれだけ鈍ってしまったんだろう、と呆れかえる。なぜなら、必要とあれば田所くらい振り払ってやって来るのがレフだと知っていた。姿を現さないレフはつまり、絡む田所に付き合っているにちがいなかった。ワケなど無駄に騒がれたくない、しか思い当たるものはない。なら邪魔する田所をなだめて引き剥がす。百々がすべきはこの一点にのみだった。もちろんそんなことをすればレフの肩を持つことになり、本日期待のシナリオが灰燼に帰す可能性は大いにある。しかしながら今、直面しているのはセクションCTが動くほどの危機であるなら、行わずして挽回する明日の存在こそ怪しかった。

「うっし」

 返すきびすでホールへ飛び出す。二人が向かい合うテーブルへ視線を投げれば、胸ぐらを掴み合っているだとか掴み合った後だとか、物騒な様子こそ見受けられなかった。ただ田所だけが低くテーブルへ張り付くと、何事かをひたすらレフへ喋り続けている。

 何をやっているんだか。百々は眉をへこませていた。

 目指し、足を繰り出してゆく。

 数歩も行かぬところで唐突と振り返った田所と目を合わせていた。

「みぃ、らぁいぃっ!」

 かと思えば勢いよく立ち上がった田所は、百々へ高く手を振り上げる。その頭はなぜにや宙で円を描き、定まったとたん走り出していた。いや、走り出そうとして走れず、千鳥足を踏んでいた。

「俺はお前のことら、ほんろにすきなんらってぇっ!」

 さなか豪語する意味とタイミングが百々には解せない。

「なっ、なに」

 勢いに押されて百々の方こそ立ち止まる。うちにもヨレつつ近づく田所に、正面衝突さながら抱きつかれていた。

「ひゃあ」

 縮み上がって見上げたそこに田所の顔はある。その顔はあろうことは何の断りもなく百々へ向かって近づいてきてさえいた。

「う、えっ。ええっ?」

 呻いたのを最後に唇を塞がれる。同時に訪れたのは静寂で、百々の脳裏で「本日のシナリオはこれにて完遂」と文字だけがスクロールしていった。だとして不意打ちが過ぎたせいで目も開いたままなら、百年続く恋を冷まさせるためきっとこの先百年、忘れることが出来ないだろう田所の間抜けた面と酒臭さが、こうじゃない、と言わしめる。

 ほどにそれはやたらめったら長いキスだった。

 ついぞよろめく。

 押し倒されそうになったところでようやく解放されていた。

「っひ、らいーっ」 

 早々、全力で抱きつきなおされる。

「わわわわっ」

 が、それきりだ。

「……はい?」

 田所は動かなくなる。恐る恐ると首をひねったそこには、成すべきことを成し遂げ満足げに安らかな寝息を立てる田所の顔はあった。

「ちょ。う、動けないってばぁっ!」

 もう周囲の視線がひたすら痛い。 

「レ、レフぅっ」 

 助けを求めずにはおれず、凝視することをはばかったらしいレフは聞えて、眺め続けていたカラのグラスをテーブルへ戻していた。

 その視線を跳ね上げる。

 ステージへと肩を翻した。

「そ、そっちじゃないですってばぁ」 

 立ち上がったところでようやく百々へ振り返る。おっつけ繰り出された足は、「ベガスビックビューイング」のバックヤードでブラック監督へ向かって行ったあの時とまるで同じだ。

 すでにどこかで何かが起きた。

 緊張感は否応なく伝播して、間抜けと開いていた唇を百々は真一文字に結びなおす。

「よく聞け」

 肩へ、目すら合わせることを惜しんで周囲を見回すレフが段違いのそれを並べていた。

「話はここで済ませる」

 などと切り出し方がまるで変わっていなくて残念である。

「SO WHATだ」 

 聞かされて、やはり、と思える余裕だけが新鮮だった。

「じゃないとウチは動きませんって、前に曽我さんから聞いたよ。みんな元気?」

 返して百々が請け負うのは、レフの死角だ。

「変わっていない」 

 などとうれしい返事だったが、そこには素直に喜べない経緯というものもあった。 

「ていうか、あたし、そっちの都合で退職させられた身なんですけど」 

「状況が変わった」 

「あ、名前も?」 

 やはりテーブルからハナの姿は消えている。ホール壁際、かけられたアナログ時計はとうに過ぎた開演時刻をさし、従業員の間からストラヴィンスキーの姿も消えていた。

「偽名だって聞かされた」

 あの日のやり取りを明かす。

「誰がそんなことを言った」

 返されたのは、まさか、な返答だ。 

「退職手続きに来た銀行員みたいな人」 

「俺は知らない。上の配慮だ」 

「ソレ、無茶苦茶だよ」 

「俺に言うな」 

「て、またストッパーが必要になったってコトですか?」 

「それも俺が決めることじゃない。それにもう間に合っている」

 果たしてイヤホンからどんな声を聞かされているのか。レフの眉間はそこで詰まった。

「いいか、落ち着いて聞け」 

 つまりこれから聞かされることは落ち着けないほどショッキングな内容らしい。期待に応えてレフも言う。 

「お前は SO WHAT に狙われている可能性がある」


 はい? と心の中、百々は返していた。

 もう少し穏やかな内容で十分なんですけれど。

 言えないならショッキングが過ぎて吹き飛んだ背景を背負い、レフへと振り返る。

「安心しろ」

 言うレフは見向きもしない。

「まだ可能性の問題だ。決まっていない」 

 だったらもう少し余裕はないのか。 

「わりに、顔が本気なんですけどぉっ」 

「捕まえたなら全てはっきりする」 

 また出た、と思う。つまりいつもの、逃がすつもりはない、だ。 

「もしかしてそのために黙ってあたしの周りをウロついてたんですかっ!」 

 もちろんレフ一人の判断でないことくらいは分かっていた。だが言わずにおれず、せめて先に教えておいて欲しい。百々は懇願する。いや、知ってしまえば眠れそうになかったがそれとこれとは別の話で、知らず過ごしてきた日々のもうどこまでが日常で、どこからが非常事態伴う非日常だったのかを区別できなくなる。知らぬが仏の日々はまるでファンタジーだった。またもやあっけなく奪われたからこそ、もろさもまた痛感してみる。

「今日は大事な日だったんですけど」

 それでも前を向けたのは二度目だから、と言うわけだけでもないだろう。

「用件はもう済んだろう。さんざん聞かされた」

 無くしたなら取り戻せ。

 老齢のロックスターこそ奏でる音色で百々へと見せつけている。

「あんなになる前に止めて下さい。ていうかその前に何の話してたんですかっ?」

「勝手にひとのウォトカを飲んだのは、そいつだ」

「仕事中じゃん」

「あんな量では酔わない」

「アル中っ!」

 そこでわずか、レフのアゴは引かれる。

「バーの調理場から出るつもりだったが塞がれた」

 なるほどバーカウンターの横の手洗いを指示した、それが理由だったらしい。

「塞がれたって、いったい何人?」

 確かめて、百々は唐突な破裂音に鼓膜を叩かれる。すくめた首で弾かれたようにステージへと振り返っていた。しかし視界に変化は起きない。会話は途切れ、しばしむさぼるように互いは辺りを見回す。と、ステージ上手だ。音もなく白い煙はあふれ出してきた。

「一人だ。こっちへ向かっている」 

「逃げるの? 捕まえるの?」 

 イヤホンから聞かされているだろう情報をレフは復唱し、百々が投げ返したその時だった。煙を突き破ってステージへ、踊り込んでくる何者かは現れる。身に着けているのは汗ばむこの時期には不似合いなスゥエットの上下で、顔面を覆うゾウアザラシがごとく鼻をぶら下げたフルフェイスのガスマスクが意表を突いた。その腰回りに数珠なりとぶらさげられた金属塊が、次に異様と注意を引き付ける。振り回してステージの上、客席と対峙した。

「要求はのまれなかった!」

 くぐもる声にも、いでたちにも、誰もが唖然と見つめている。

「よって我々は報復を決行する!」

 否や、ステージを飛び降りた。一列目のテーブルへと飛び上がる。暴挙に皿は散って客の間から初めて叫び声は上がり、かまうことなく腰にさげていた金属塊へ手を伸ばした。動きは果物でももぐような具合か。引き抜きかざして耳にタコができるほどと聞かされたあのセリフを口にする。

「すべての娯楽に粛清を!」

 床へと叩きつけるように金属塊を投げつけた。そうして爆発が起こるなら、かぶったマスクはちぐはぐだろう。だからしてそれは鋭い噴霧音を発する。濃い煙を吹き出しながらテーブル下へと転がりこんでいった。もう瞬きしている間もない。辺りは白く煙に包まれ、どうにも形容し難いニオイに満ちる。投げつけたガスマスクはその中へ、テーブルを蹴って身を躍らせた。

「な、なにっ。これ」 

 周囲からせき込む声が聞こえてくる。 

「煙幕弾を使用された。客席の誘導を頼む」 

 ジャケットの襟を引き寄せレフが応援を呼んだ。

「煙幕ぅっ?」 

 追い打ちをかけてひとつ、ふたつ、と煙幕弾は、煙の中からなおも転がり出してくる。 

「催涙弾ならこの程度じゃすまない」 

「この程度でも燻製になるっ!」 

 そんなに香ばしいものか。 

「指示がでた。誘導は来ない。俺とお前は自力で表から出る」 

 レフが外を指し示した。重厚かつ端正な正面扉は店内、バーカウンターと同じ並びにあり、くぐって逃げ出す客がすでにねずみ色の帯を作っている。

「タドコロっ。起きてっ。逃げるよっ。マズいよっ!」 

 確かめて、百々は田所の肩を揺さぶった。からきし田所に反応がないなら、湯で上がったかのようにぐでんぐでんになったその体を、レフが百々から引き剥がす。いとも簡単に肩へ担ぎ上げてみせた。さすが元消防士、とでもいうべきか。最後、すわりのいい位置を探して軽く跳ねる間合いなど、手際が良すぎて拍手すら出そうほどだ。

「もたもたするな」

「お、お世話かけます」

 感心している場合でないなら、田所に代わって百々は頭を下げていた。

 持ち上げた瞬間、目と鼻の先をかすめて煙がもう、と吹き出すのを見る。その煙を突き破って、中からスウェットの腕は飛び出していた。


 狙われている可能性がある、などと聞かされていなければただ驚いていただけだった。だがそうでないなら息こそ止まり、のけぞったレフも懐へ手を伸ばす。目にしたガスマスクがそんなレフへ身を翻した。体へ煙はまといつき、制してレフは引き抜いた銃口を突き付ける。

 はずも、煙を吸って咳込む田所の暴れようこそわざとだとしか思えない。足がレフの腕を蹴り上げる。銃はレフの手を離れ高く宙へ飛び、ここぞとばかりガスマスクが身を躍らせた。

 ズタ袋と田所が投げ出される。

 渾身のタックルを食らってレフも背からテーブルへと押し倒されていた。

 さなか鳴り響くのは携帯電話の呼び出し音か。

 覆いかぶさるガスマスクとレフはもみ合いとなり、寒気のする音を立てテーブルが周囲を巻き込み床を滑る。

「イッ、た」

 目で追う百々の脳天へそのときそれは降っていた。食らって百々は首をすくめ、目の前へと落ちてきたなら受け止める。否や、抵抗するレフに蹴られた椅子が傍らを転がってゆき、百々は声を上げていた。

「これ、銃じゃんっ」

 なら同じく田所が呻き声を上げたとして、それは転がっていった椅子のせいにほかならない。ただ百々は手の中の物に跳ね上がる。遠ざけて突き出し、重なり繰り広げられている光景へ焦点を合わせ直した。胸倉を掴み合うレフとガスマスクに咄嗟とマイクを探して襟をまさぐる。ないなら泳がせ、あのときも誰一人、間に合わなかったんだと過らせた。そこに恐怖が混じるのは二度とあんな思いをしたくないからで、思いが手の中にある物の感触を蘇らせる。

 気付けばたった数歩の距離さえ縮めていた。詰めて百々はガスマスクの背へと駆け出す。

「う、動くなぁっ!」

 銃を振りかざした。だが動きを止めたのはといえば、向けられた銃口にぎょっとしたレフだけだ。

 いえ、あなたではないです。

 遅れてそろり、ガスマスクが振り返る。合った目に逃げ出しかけて、ホレソレ、振って百々は銃を見せつけた。

「ざ、残念でした。せ、背中がお留守ですよーだっ」

 しかしながらその及び腰こそいただけないものだろう。

「今すぐその手を離しなさぁいっ」

 吠えたところで見透かすガスマスクは微動だにしない。

 無視しないで下さい。

 百々こそたちまち服従しそうになれば、ガスマスクはおどけたように首なんぞをかしげてみせた。おかげで百々こそ逆上する。

「きっ、きいてんですかぁっ! でないとぉっ」

 勢いのままに言い放った。

「あ、当たるまで撃ちまくってやるからぁっ!」

 というかこの至近距離で、どれほどハズすことが前提なのか。だが百々にはしったこっちゃない。

「だいたい初めてなんだからドコ当たるかわかんないよっ。だってドコ狙っていいかも分かってないしっ。そんな超アブナイ奴が気合だけで撃つよっ。撃っちゃうよっ。死んじゃう前に死ぬような思いしちゃうよっ……。って、それもう拷問じゃん。めちゃくちゃ怖いじゃんっ。だいたいあたし、酷すぎないかな……」 

 などと先走る想像に己こそ萎えてみる。

「ほ、ほら、怖すぎて言う通りにしたくなったでしょ?」 

 いまさらえへへ、で媚びてみた。

「……ぶ、げほ」 

 通じず、吸い込んだ煙に一人、むせる。

「我々は本気だ」

 ガスマスクからのくぐもる声を聞いていた。

「たとえリーダーを失おうとも、仲間を失おうとも、志は諦めない。失ったものを取り戻し、損なった貴様らへ報復する」

 そこに滲むのは独特の湿っぽさだ。

「たとえ……」 

 誰より気づけたのは間近と触れているレフだろう。珍しくも顔色が変わる。間違いなしと明かしてガスマスクも掴んでいた手をレフから離した。

「死をもってしてもだ!」 

 吠えて腰回りに残る最後のひとつをもぎ取る。高くかざしたそれこそ映画で目にする手榴弾で間違いなく、爆発する。百々の中で本能が聞いたこともないような声を張り上げた。ままに力の限り触れていた引き金を百々は絞る。カチリ、撃鉄は落ちて爆発こそ起きず、骨と骨のぶつかる鈍い音を聞いていた。

 後で思えば腰を抜かさなかったことが不思議でならない。

 閉じていた目を開けばそこに、ガスマスクの手ごと手榴弾を握り絞め横面へと拳を振り抜いたレフの姿はあった。勢いに脱げたガスマスクは遠く床を滑っている。のされた当人はすっかりヒザを折っていた。 

「それ以上、引き金に触るなッ。床へ置いて足で踏めッ」 

 引き戻した拳の痛みを、振って散らすレフが放つ。それこそ爆音と聞いて百々は身を跳ね上げ、言われるままに銃を投げ出し、えいや、で気合もろとも踏みつけた。

「ふっ、踏んだぁっ」 

「取りに行くまでそこを動くなッ」 

 男を床へ寝かせたレフは握りしめた手もそのままに、探った男の腰回りからなんの変哲もないピンを一本、ねじ取ってみせる。屈み込むと男の腕ごと持ち上げた手榴弾の中へ、静かにそれを戻していった。

 握り絞めていた手から力を抜いてゆく。 

 あった一呼吸が全てを語っていた。 

 黒い鉄塊はこともなさげと滑り落ち、受け止めレフは宙へ放り上げる。キャッチして立ち上がった口元へ、すかさず襟を引き寄せた。

「爆発物を押収。被疑者一名を確保。担架が必要だ」 

 煙はまだ濃いもののこれ以上、濃度を増す様子はない。

 逃げるさい誰か落としていったのか携帯電話の呼び出し音はまだ鳴り止まず、やがてレフの元へ警官は駆けつけていた。

 手榴弾を預けたレフがジャケットの内ポケットへ手を伸ばす。どうやら音源はそこだったらしい。取り出した携帯電話を耳へあてがえば、呼び出し音は鳴り止んでいた。ままに返すきびすでレフは、渦巻く煙の中へと消えてゆく。

「へ? いや、あの。ちょっと」 

 様子に縮み上がったのは百々の目だろう。言わずにおれない。  

「これ、これっ。この足の下のが先じゃないんですかっ?」

 相変わらずと読めない行動がいただけなかった。そしてそれが束の間でも相方だった人の特徴であることを、いまさらのように百々は思い出す。



 地下に伸びる廊下の突き当りでドアが開く。

 三か月前。あれは解雇を言い渡される直前のことだった。訪れた時、確かにあった消火器は消え失せると、106のスペースには真新しいシルバーのワゴンが停められており、百々を驚かせている。

 果たしてあの日、見た光景は何だったのか。

 狐にでもつままれたような気持ちは拭えず、しかしながらいちいち話を求めていては時間ばかりを費やしそうで、つぐみ続けた口でどうにかたどりついたのがここ、チーフ百合草の部屋だった。

 ここもまるきり変わっていない、とひとりごちる。柿渋デスクにモスグリーンの応接セットどころか、緊張感漂う空気さえ封されていたのかと思うほどかつての

ままだ。

 先に帰っていたハナがいつもの位置から「ブライトシート」で見たおかっぱボブを揺らしようこそ、と首を傾げてくれていた。柿渋デスクの前で鮮やかな赤のスーツは振り返り、曽我が懐かしい笑みを投げかけてくれる。ままに返すきびすで退けば、受け取ったばかりの書面へ目を通す百合草が投げる視線で百々をひと刺ししてみせた。 

「ど、どうもご無沙汰しています」 

 とたん白旗を振って媚びるのはもう、条件反射というヤツだろう。

 ただ立ち上がって百合草は、他人行儀とそんな百々へソファを勧めただけだった。

「負傷者が出なかったことが何よりだ」

 ハナの隣、定位置へ回ったレフへと投げる。つまり暗に言わんとしているのは「危ないところだった」で、故意か偶然か勧められた場所も定位置なら百々も、腰を下ろしながらまた何かやらかしたな、と二人を見比べた。 

 そこで廊下側のドアは開くと乙部が細身を滑り込ませる。おっつけ制服姿のストラヴィンスキーに、アフロはカヅラだったらしい、いつも通り短髪でハートもまた駈け込んで来た。無論、互いの視線は十分に絡んだが、有事ゆえの再会に懐かしんでかける言葉こそ場にそぐわない。

 時刻は何事もなくライブを楽しんでいたなら店を後にしていただろう、二十二時。とは言え現実は緊急車両に囲われた「ブライトシート」を抜け出し、酔いの回り切った田所が上の病室で眠る二十二時。全員の呼吸はそこでピタリ、そろう。

「ご苦労だった。ここで取り急ぎ、今後の方針について確認しておく」 

 放ち百合草がその体を百々へと向けなおした。

「まず説明の遅れについて、この場で謝罪させていただきたい」

「あ、いえ。結構びっくり、させられました」 

 下げられた頭に百々は慌てるが、謙遜しようにもあの状況を控え目に言うことこそできそうにない。ただつられて会釈を返し、持ち上げたところで避けて通れぬ疑問へ触れた。

「狙われてるかもって、レフから」 

 瞬間、誰もの視線に貫かれたのは気のせいなのか。何かマズいことを言ったに違いない。過れって繰り出す小躍りこそ、ここぞで光る。

「ひっ、被害妄想ですよねぇっ」 

 目もくれず百合草は曽我へと目配せを送っていた。受け取り曽我は進み出てくる。センターテーブルを滑らせて、手にしていた物を百々の前へと差し出した。目にしたとたん、繰り出していた佐渡おけさもどこへやらだ。百々はしばし目を瞬かせる。

「あの、どういう、ことでしょうか?」 

 何しろそれは返却したハズの端末である。

「こちらへ戻るかどうかを自身で判断していただきたい」

 百合草が言った。

「ぇ? えと、あたしは、クビにされて。その戻る? 狙われてるって話は……」

 百々にはてんで理解できない。説明を求めレフへ振り返ればソファの背もたれへ腰を落としていたレフは、一度、噛むようにきつく唇を閉じてこう話し出していた。

「ラスベガスの件からひと月後だ」 

「そんな前の話?」 

「そうだ。SO WHAT から声明文は送り付けられた」 

 明かされたところでいつものことだ、と聞いていられる心境こそ進歩の証だろう。

「内容は二点。一点はスタンリー・ブラックの無条件解放。もう一点は要求がのまれなかった場合の報復についてだ」

「ほう、ふく?」

 ただ内容がテロ予告でないことに、百々は違った意味で驚かされていた。

「スタンリー・ブラック拘束に対する抗議だ」

 繰り返す百々へうなずき返してレフは教え、その視線をテーブルへ落とす。振ったアゴで指し示した。

「それを添付して、な」

 辿り百々はつい今しがた差し出されたばかりの端末をとらえる。ファイルを開くよう指示されたのだと気づいて手を伸ばし、触れてすぐさまその下に敷き置かれた一枚の紙に気づいていた。

 写真だ。

 声をもらす代わり握りかけていた指を引っ込める。端末だけをそっと写真の上から押しのけた。その色合いは暗く黒い。一見してそこに何が映っているのか分かり辛いものだった。なら自然と体は前へ乗り出し、ようやく見て取れた光景に目を疑う。そこにプリントされているのは薄暗い「ベガスビッグビューイング」のバックヤード通路内、仁王立ちとなったスタンリー・ブラックの後ろ姿と、その手を取ってもみ合うレフだ。背後には重なることなく、アオザイを着込んで呆然と立ちすくむ自身の姿もある。

「うそ……」 

 言わずにはおれなかった。

「ふざけてやがる」 

 背でハートが吐いていた。

「もちろんスタンリー・ブラックの解放はあり得ない」 

 前でレフは、報復は条件ではなく今後起きるだろう避けられない案件だと教えている。 

「だから狙われている、って?」

 百々は写真から顔を跳ね上げる。またもやうなずいて返すだけのレフに過剰な反応こそなかった。

「勘違いはするな」 

 そんな互いの間へ百合草の声は投げ込まれる。 

「スタンリー・ブラックの解放を要求している以上、報復対象は個人ではない。カウンターテロリズム、ここにいる我々全員へ向けられたものだと理解すべきだ。問題は百々が我々組織内の人間として認識されているかどうかの方だった。職員として認識されているなら早急の警護が必要だが、そうでないなら過剰な反応は双方にとって負担にしかなり得ない。そもそも SO WHAT は二面性を持ったテロ組織だ。声明文には解放期日さえ明記されておらず、愉快犯によるものだろうというのが当初の判断だった」 

「百々さん、僕たちと違って事件直後に帰国してますから現地活動はありませんし、どう見ても公安関係者には見えないですからね」 

 ストラヴィンスキーが指を立てる

「それにあの日、監督のファンだから応援に来ましたって声をかけたそうじゃないですか。会話が傍受されていたとしてもまったくもってナイスアドリブだったというわけです。最悪でもそこ止まりかと」 

「そんなつもりで言ったんじゃ」 

 百々は声をこもらせ、慌ててこうも確かめていた。

「その、SO WHAT の二面性って言うのは何ですか?」

 仕方ない。強制解雇されたがゆえに捜査過程はすっかり抜け落ちているのだ。なら補い説いたのはハナだった。

「SO WHAT の始まりは、監督のファンサイトから派生したコミュニティーだったの。それが次第に拡散、膨張を続け、今じゃスタンリー・ブラック本人でさえ全体像を知る事は出来ないほど大きくなってる。そんな SO WHAT の二面性っていうのは、拡散、膨張の果てに強襲をかけるほどの実行力を持ったグループから、イタズラレベルの愉快犯までが混在しているってこと。事実、ベガスの件以降 SO WHAT を名乗るグループからの犯行予告は幾つも送りつけられてきたけれど、どれも愉快犯で何も起きなかった。今回も同じだと思えたのよね」

 と、主導権を取り返して百合草がその後を継ぐ。 

「ただし、万が一を考慮して職員は身の周りの警戒と相互監視を徹底。百々は我々とのかかわりを絶つべく解雇とし、事態が収束するまで警邏を行うとした」

「それで……」 

 初めて知った解雇のいきさつに百々はあっけにとられる。

「でも声明文が送り付けられてからふた月よ。該当する動きもなかったなら、この件は当初にらんだ通りイタズラレベルで立ち消えるんだと思っていたわ」 

 一点を睨むハナがソファで前屈みとなっていった。その隣からレフの視線は百々へと投げられる。 

「先月だ。風向きは変わった」 

 聞いてうなずいた百合草の腕がデスクへ立てられてゆく。顔の前で握り合わされた手はまるで露呈しそうな感情を封鎖するかのようで、やがてその名は告げられていた。 

「ハンドルネーム、ロン。存在が明るみに出たことで愉快犯との見方は五分五分にまで下がることとなった。我々はロンをテロ支援者だと断定している」

 それはあまりに唐突な登場だった。


「支援、ってどういう。その人はいったいどこから?」

 おそらく百々の質問が的を射たのは、これが初めてだろう。証拠に上出来だと言わんばかり、百合草もうなずき返している。

「スタンリー・ブラックの供述より、アカデミー賞会場へ持ち込んだ爆発物はコミュニティーへ介入してきたロンより、ネットを通して入手したことが明らかとなっている。同一のハンドルネームはハッカー、エリック・ユハナの通信記録、榊移送における強襲者七人のパソコンでも確認されている」 

「じゃ支援って」

 百々は言葉を詰まらせ、変わってハートがそのあとを継ぐ。

「武器類の提供だ。SO WHAT に二面性が生じたのも、そいつと接触しているかどうかが分かれの目のようだな。でなければ奴らは今でもハタ迷惑なスタンリー・ブラックのファンだったろう」

「じゃあ手榴弾なんて、お店の人もロンとつながってる……」

 間違いない、と言ってのけたハートはだからこそ明らかとなった事実へ口をすぼめもしていた。 

「店を襲ったのが百々への報復ならば、ずいぶん上手をとられたことになるぞ。こちとら百々が会場にいると知ったのは、警護についていた署員が知らせてきてからだ。予約名簿にも名前はなかった」

 などと人気ステージの予約は実際、必殺技を繰り出した田所が叔父さんの会社の法人枠で行っており、明かせば放たれたハートの舌打ちは大きかった。

「す、すみません」 

 なぜかしら申し訳なさに百々は身を縮める。一転、これでもかと伸び上がった。

「ていうかひとのデート、つけ回してたってことですかっ?」

 見回せば、誰もは我関せずと百々から目を逸らしてゆく。

「事態が落ち着くまでの警備と警らだ。署員も含めて全員で持ち回っている」

 できぬレフこそ堂々、明かしていた。

「ひゃぁ」 

 おかげでもれ出る声が止められない。 

「三か月、も?」 

  確かめたところで返事を聞くまでもなく、レフの顔に貼り付けられた「退屈」の二文字をまざまざと見せつけられる。

 もういい。

 百々は心の中で呟いていた。

「あ、悪趣味だよぉ……」 

「勘違いするな。仕事だ」 

「そのさいは気づかれるなと指示していたはずだ」 

 百合草が割って入る。

「あの場で足止めを食らわなければ、店外への移動はスムーズに行えていたことになる」 

 間違いない、田所がレフをストーカーと勘違いしたいきさつだ。 

「いや、ドドは日中大半、あの男と行動を共にしている」

 言うレフの言葉は咀嚼しなおすほどに気恥ずかしかったが事実だろう。 

「い、いいじゃないですか」 

「ああ、でしたねぇ。楽しそうで羨ましかったです」 

 悪びれることなくしみじみと、ストラヴィンスキーもうなずいている。 

「バイクに乗る時は長そで長ズボンにするべきだ」 

「まっ、まさかヘリですかっ?」

 などと注意は、壁際の乙部だ。振り返って百々は眉を吊り上げる。そう、近隣の山まで遅咲きの桜を見に田所のバイクで出かけたのは、ちょうどひと月前のことだった。

「わけはない」 

「今日は空で見そびれたけどね」

「ひー」 

 その通り。本日のメインイベントこそ間違いなく全員に目撃、もしくは中継されているはずだった。

「あ、だめら。なんか具合、悪くなってきた」 

「なかなか目の利く男だ。番犬にはうってつけだとあえて晒しておいた」 

 放つレフに遠慮はない。

「なら報告だけは上げておけ」 

 切り返す百合草といっとき睨み合うような間はあいて、それもこれももはや通過儀礼化していたなら百合草の方から切り上げる。

「おかげでもう一点、憂慮すべく案件は追加された」 

 握り合わせていた手をほどくと、コツコツ、デスクを弾いてみせた。 

「次に、銃を振り上げた写真を送りつけられても困る」 

 せっかく退職させたというのに。

 声はテレパシーがごとく百々の脳内で響いていた。

「す、すみません」 

 まったくもって自分も変わっていないものだと思えてならない。呼び出されるわけだと頭をさげ、恐る恐るで持ち上げていった。 

「だから戻るかどうかを決めろ、って」

「もちろん望まない場合、身の安全は当局が責任を持って保障する。ただし緊急時は自宅を離れる可能性があることを覚えておいてもらいたい。また期間については約束できないことも合わせて理解してもらう必要がある。我々と行動を共にする場合、あえて報復対象というリスクを背負うことになるが、我々はそれを阻止するための組織だ。相手がロンと接触を持つグループである可能性が高い以上、万が一が起きた場合、日常生活で保護を受けるよりも安全面は保証されるだろう」 

 さすがアカデミー賞会場を蜂起の場と押し切ったうえ、レフのアンカーとして素人を起用した百合草である。何をさておき際どい局面での決断力が心地良かった。 

「虎児を得ずんば虎穴に入らず、ですか……」 

 閃いたままを百々は口にする。 

「攻撃は最大の防御ともいうらしいな」 

 どうやら百合草にも用意はあったらしい。 

「お前はどうしたい」 

 のぞき込むレフが促していた。 

 おっつけ集まる視線を振り払うことなどできはしない。単純だが反り立つ崖のような岐路を前に百々は、しばし立ちつくす。しかしながら選ぶにも、埋め合わせて聞いた話を引き合いに出したところで何の決め手にもなりはしなかった。ただ握った銃の重みだけがリアルと手に蘇る。

 そもそもいつでありどの日だと指定できない日常とはファンタジーそのもの、しょせん消費してきた時間の総体イメージだ。この重みを振り払い、そんな日々に戻りたいと言ったところで曖昧が過ぎ、百々自身もう無理だと薄っすら感じとれていた。なら変わることなく消費して進めと。その先に「かつて」はあると。聞きそこなったロックスターの歌こそここぞで鳴り響く。

 果てに迷惑をこうむるのは面倒を見る方か。あえて危険に対峙する己なのか。考えたところで開かれた道は無駄な気遣いだと笑って百々を見つめ返していた。つられて、ほだされ百々もまた、進むべき方向へやがてやんわり頬を緩めてゆく。そんな具合に浮かべた「笑み」で余裕をもって、最初一歩を踏み出していた。

「あは。今さら守ってくださいって言うのも、照れますよね」

 まさぐったのは、ワンピースに合わせて提げてきた小ぶりなセカンドバックの中だ。それこそ目を瞬かせて一挙一動を見守る全員の前へ、すっかり用途を違えて使用していた片耳専用のイヤホンを抜き出す。

「じゃじゃぁーん。音楽、聞く時に使ってましたぁっ!」 

 そのさいの効果音は果たして必要か。曽我が、ハナが、吹き出しそうに顔を歪めてみせていた。百合草とレフはただ表情を強張らせると、背後でハートの鼻息とストラヴィンスキーの上げた声を、おお、と聞く。当然と言えば当然ながら乙部だけがやけに冷静と対処していた。 

「物持ち、いいね」

「貧乏なもので」 

 返して百々は掴み上げた端末を手の中で回転させる。見つけた穴へジャックを刺した。 

「また使う事になるなんて、ちょっとびっくりです」 

 液晶を弾けば音もなく表示が立ち上がってくる。

「何か仕様変更ありますか?」 

「いえ。何も」 

 問いかけに、曽我が慌てて真顔を取り繕っていた。果てに残る気がかりがあるとすればあの作業だろう。目の前でゴツイ音を立てて破棄されたマスターディスクが忘れられない。

「また登録手続き、必要なんですよね」 

 しかしながらそれは杞憂のようだ。

「職員としての個人データは抹消したが、事件関係者としてコピーは資料室に保存されている」 

 堂々、百合草は言ってのける。

 それってサギじゃん。 

 過るが百合草にはまだ言えそうにない。 

「て、手間が省けてよかったです。はは」 

 笑い、緩み切った唇を今一度、百々は真一文字と引きなおした。しかしながらどう考えても同等と行動出来ない負い目は大きく、埋まっていたソファから立ち上がる。思いを込めての一呼吸だった。誰もへ向かい頭を下げる。

「ということでまた、お願いしますっ!」 

 持ち上げたところにある顔もまた見つめて返した。

「間に合ってるって聞いたけれど、今度はこっちが間に合ってなさそうだから」 

 何しろすでに田所に絡まれた後だ。今後もおそらくその最たる被害者になるだろうレフへ右手を差し出す。応じて伸ばされたレフの手は、腰かけたそこから身を乗り出すだけで簡単に百々へと届いていた。

「残念だ」

「あはは」

 愛想がなくて安心できるこの感覚が不思議でならない。握り返して百々もへいこら、眉をへこませ笑った。

「あの場面で俺が堪えていたなら、ドドも飛び出すことはなかった。写真に写らずにすんだはずだ」

 続く言葉に驚かされる。だがそれこそ隠しっておくべきものだろう。

「そっちも撃たれずに済んだのに」

 皮肉へかすかに笑ったレフが手を解いていた。

 いや、これもまた日常だったろうか。在りし日は正体不明のイメージだからこそ、ここにもある。

「これで全員そろったようだな」

 百合草が声を上げていた。とたんハナが大げさなほど目を丸くしてみせたその意味は、おっつけ百々にも理解できたが、よもやハメられたのでは、と百合草をうかがい見たところで、今はその顔色を吟味している場合ではなさそうだと思う。

「これより我々が直面している案件に取り掛かる」 

 クリームイエローのワンピースのシワを伸ばすと、今夜は長くなりそうだと、百々はソファの上で座りなおした。

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