イメチェン効果
「おにいちゃーん!なにモタモタしてるの!」
いつも通り......に登校すればいいものの昨日啓斗に言われた言葉が引っ掛かり、朝から髪のセットに追われ
ていた。
「紗季~。髪のセット手伝ってくれ~」
朝っぱらから嘆く俺に見かねて紗季が髪のセットを手伝ってくれる。
いつもはメイクさんがやってくれるからと自分の髪をいじらないのが裏目にでた。
「そんなことしなくてもお兄ちゃんはかっこいいのに~」
「はいはい。髪、あんがとな!」
妹の中学校は俺の高校よりも登校時間が遅めの為、妹を残し、家を出る。
ここまではいつも通り......な訳もなく......
(完全に遅刻だーーーー!!!)
慣れないことをするものではないな、と朝から後悔である。
俺は遅刻の事で頭がいっぱいで自分が今どういう状況なのかすっかり忘れて、学校に着くなり「すいませ
ん!」と教室のドアを勢いよく開けた。
「おい、霧崎。遅刻だ......ぞ?」
先生の反応がいつもと違う気がしたが、いつも遅刻しない俺が遅刻したことに驚いているだけだと思い、気
にせず自分の席につく。
「え、噓でしょ?」「霧崎が?」
なんだ?俺の遅刻がそんなに珍しいのか?
丁度、その時桜川さんとも目が合い、彼女も驚いている様子だった......
あ、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!すっかり忘れていた。今、俺はいつもの俺じゃないんだった。
周りの反応はこういう事か。
『きゃー!純也様~』と普段と違うあからさまな周りの反応が目に余るがここは相手にせずにいつもの俺を
演じる。
まさかアイドル効果がここまでとは......
その後も授業中にも関わらず、携帯のシャッター音が俺に向けられる。
桜川さん、どう思った......かな?
桜川さんを傷付けまいと思い、こうした行動をとった俺はやはり、桜川さんがこの姿をどう思ったのかが気
になる。
ここは次の休み時間にでも聞いてみよう。
キーンコーンカーンコーンと休み時間のチャイムが学校中に鳴り響く。
桜川さんと話すため席を立つと他のクラスからも女子が集まってきて俺の周りを覆い尽くす。
ちょ、邪魔するなよ......
「霧崎君がまさか純也様だったなんて~」
「ね~、信じらんないよね~」なんて好き勝手に話し出す女子軍団。
正直、仕事以外の時に女子に囲まれるのは慣れていない。
「あはは......」
対応に追われながらどうしていいか分からず成す術もない俺。トホホ......
その時だった。
「霧崎君......あの、昨日の日直が職員室に呼ばれているのだけれど......」
その声のする方に目をやると困っている俺に桜川さんが下手な嘘で助け舟を出してくれていた。
この舟に乗らなければ女子軍団の渦に巻き込まれると考えた俺は「今、行くよ!」と桜川さんの舟に飛び移
る。
「ありがとな、桜川さん。助かったよ」
「あの、その......昨日のことが原因......?」
確かに昨日の事が悔しくてこうなったわけです。そこは言わないでおこう。
「いや......変かな?」
「んーん。良い......と思う」桜川さんは頬を紅く染めながら小声で言った。
これには俺も可愛いと思ったし、普通に照れた。
(これからも髪上げてこようかな?)
俺も中々単純だ。