第9話 会議
ナンシーにボコボコにされたバンナムを尻目に僕は帰る支度をする。
「お、そろそろ時間か。最近はこっちに来る時間も向こうに帰る時間も安定してきたなぁ。お疲れさん。」
僕は現実世界では22時に眠りにつき、6時に起きる。この世界では10時に目が覚めて18時に眠りにつく。この世界にきて数日は夜中にこの世界に来たり真昼間に来たり時間がバラバラでこの世界に入れる時間も日によっては一時間くらいだったり…。最近はしっかりこの世界に八時間いられる。
「お疲れ様でした。レオン、頑張って。」
おう、と一言返すレオン。
部屋に帰った僕はベットに潜り込み、目を閉じる。
目を閉じる。
目を閉じる。
いつもだったらすぅ…と向こうの世界で起きるか、頭の中で目覚まし時計の音が鳴り響くのだが何故か目を閉じてもこの世界にいる。
ドアが開き、ファラドが中に入ってくる。慣れた手つきで僕の着替えを空間収納にしまい、照明を消す。そして、こちらを見る。徐々に目を見開いていく。
「ヒ、ヒロ様!もうお時間のはずですがあちらの世界にはいかないのですか?」
「目を閉じても行けないんだけど。何か睡眠魔法みたいなのかけてくれる?」
「バンナム様にこの件は伝えておきます。ひとまず今は魔法で…。」
僕の顔の前で指をパチンと鳴らす。その瞬間、僕は眠る。
「ヒロがあちらの世界に行けなくなったって本当か?」
「先程、睡眠魔法をかけて眠らせましたが…。もしかしたらもう時間がないのかもしれません…。」
バンナムとファラドが話し合い、この事は二人で決められる問題ではない、との結論に至った。
「戦争の開始は一ヶ月後だと遅すぎる。来週にでもやらないとヒロは助けられねぇ。」
「レオン様とヒロ様はまだ石を使いこなせていないのでしょう?この二人は前線から外し、後方支援に入れるというのは…。」
「あぁ。そのつもりだが…。人数が少しでも多い方がいいんだがもう少し兵士を増やせないか?」
「国王に確認しないと何も言えません。ですが魔術師は増やすことが出来るかと。私は魔術同盟に所属する友に聞いてきますのでバンナム様は国王に確認をお願いします。」
そして王の間にて、バンナムの口撃が始まる。
「ゲルド、久々だな。お前さんの娘もう少し厳しくしつけといた方がいいと思うがな。」
「王族には王族なりの育て方があるのだよ。ナンシーを厳しくしつけるつもりはないぞ。お前がこうも言ってくるなんてナンシーが何かしたみたいだな。それは申し訳ない。ところで本題は何だ?」
このマヌケそうな男は国王である。幾つもの国と交渉をしてきた男と、交渉経験が全くない男では丸め込まれて終わりだ。
「もう少し世間話でもして心を落ち着かせたかったんだがな。お前とは何回も話してるけど、未だに緊張する。特にこの王の間ではな。」
「フッ。お世辞はいらぬ。早いところ本題に移ろうではないか。それとも私の部下達と手合わせでもするか?」
「アダムスとジェームズにかなうわけないだろ。あの二人は化け物だ。」
なぁ?とアダムスとジェームズの方を向くと二人は目を逸らす。
「さて本題だ。ゲルド、今度の天使との戦争の際こちら側の戦力を増やすためもう少し兵士を出して欲しいんだが。」
「もう少し?既に十万出しているのにか?そんなにレオンとヒロが使えなかったか?」
「あの二人は才能がある。あと少し特訓すればな。だがそういうわけにもいかなくなってきた。ヒロの魂がこちらに渡ってきてる。」
「一ヶ月あれば良かったんじゃないのか?いつ戦争を始めるつもりだ?直ぐに兵士を呼び戻さなければ…。アダムス、こっちに来い。」
「来週、だ。もっと早くやりたいくらいだが流石に準備が必要だしな。」
「兵士には直ぐに我が国へ帰還するよう伝えよ。全く…急すぎる。このままだと十万人は無理だ。隣国へ助けを乞うにも何を請求されるか…。」
「HSはどのくらい居るんだ…?数千、ということはないだろう?」
「一万、だな。既に戦争を開始するのは来週ということを伝えてあるからすぐにこっちに来ると思うが一万は来るかどうか…。そういえばファラドが魔術同盟に頼んでるみたいだが。」
「魔術師か。この国には千人弱しかいなかったから数万いれば強固な結界を張れる。常に回復魔法をかけてサポート部隊も作れるな。返事が楽しみだ。」
その日の夜、魔術同盟から五万人の魔術師が派遣されることがバンナム達に伝わった。