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このままにしておくものか

作者: 十六夜

貴族にも家族愛ってあったらいいなと。

ある社交シーズンの初めにひとつの婚約が破棄された。

第2王子レオンは、幼少より婚約を結んでいたボッシュ公爵令嬢アリーナを明らかな冤罪で国外追放とし、代わりに恋人のキール伯爵令嬢ソニアを新たに婚約者に据えた。その動きはあまりにも迅速で側近を務めていたアリーナの弟にも止められないものだった。


「よくやった、ソニア。これからは我がキール家が台頭するのだ」

「もうボッシュ家は落ち目かしら」

もはや王家とボッシュ公爵家の蜜月関係は終わりを告げたとして、新たな権力基盤を築かんと野心ある貴族達は水面下で活動を活発化させていた。


そんな中、渦中のボッシュ公爵家ではひっそりとアリーナを除いた当主のモーゼス、妻のエルマ、長男のマティアス、次男のゾルタン、次女のカルラで家族会議が行われていた。


「父上、さきほどアリーナが隣国の別邸に到着したと報告がありました」

「うむ、くれぐれも王家には気付かれぬよう隠し通せ。さて、今日になっても王家からはなんの連絡もなく、これはあの忌々しい第2王子の所業を追認したと判断していいだろう。うちも随分舐められたものだ」

「貴方、派閥の中でも裏切り者が出ているようですわ。不審な動きがありますの」

「お母様、私を露骨に避けた者も何人かおりますわ」

「では裏を取りつつ、其奴らも計画の対象者に加えよう。まずは、ゾルタンは第2王子の側近を辞退し距離をあけよ。代わりに子飼の近衛を入れる。それからマティアスは経済制裁を始めよ」

「わかりました父上。この度は阻止できずに申し訳ありませんでした。側近を辞退したあと暫くは王都騎士団で反王党派を増やすことに専念します」

「私は、傘下の商会を通じてキール伯爵に親しい家を中心に経済制裁を始めます。塩と鉄で始めて、最終的には経済活動から疎外させてしまいましょう」

「お父様、私は何をすればよいかしら?」

「あら、貴方はお茶会と夜会の担当よ」

「今、キール伯爵家の弱味を影のものに探らせている。お前は母と一緒に暫くは大人しくしつつ、少しずつ、茶会と夜会で派閥を使ってあの女の噂を流せ」

「はい、わかりましたわ」

「我がボッシュ家とアリーナを陥れた対価は払ってもらおうぞ」

こうして、密やかに報復は始まったのだった。



「やっぱりご機嫌取ってるより、私は騎士団で過ごすほうが性にあってるよ」

「お帰り、お前も大変だったなー」

婚約破棄騒動の一週間後、ボッシュ家次男のゾルタンは第2王子レオンの側近兼護衛を辞し、第2王子の護衛は近衛騎士団から遣わされることになった。ゾルタンは古巣の王都騎士団で派閥活動を開始した。



「あら。今日の夜会はソニア様お一人なの?」

「いえ、レオン王子といらしたと思うけど。お傍を離れて男漁りかしら?」

「きゃー、聞きしに勝る悪女ね!」

さらに1か月後、エルマとカルラは集めた情報を元に、ソニアの庭師との恋や俳優との火遊びといった過去をお茶会や夜会で足がつかぬよう撒き散らした。

かの伯爵令嬢の悪評は男遊びの激しい女として社交界だけでなく、商人や王都の庶民といった王都、いや王国全体に意図的に流布されていった。


「おい聞いたか?」

「何を?」

「こっちの街道は最近治安もいいし、通行税も特別減税中だってさ」

「まじか!」

「キール伯爵のところは塩も鉄も流れないから商機はあるけど、盗賊が移ってきたらしいな」

「命は大事だからなー」

それと時を同じくしてマティアスは、キール伯爵の派閥に属さない貴族家を優先する新たな流通経路の構築を始め、一時的な通行税の引き下げや街道における盗賊の取締り強化を支援し、キール派を国内の経済圏から外す試みを始めた。

これにより、主だった商人達はキール派の領地を避けて通るようになり、また盗賊も比較して警備の緩いキール派の貴族家領地沿いに移動したため、キール派の領地は加速度的に治安が悪くなり、余計に商人達に逃げられた。


「はい、持参金の返金は全額受けとりました。婚約を一方的に破棄したのにご返金が遅れるとは実に面妖なことでしたな」

「そういえば内務次官のフーバー卿が作成された報告書には虚偽が記載されていたそうですな、実にけしからん」

「次官の後任は堅実なザイデル子爵にお願いしましょうか」

もちろん、当主のモーゼスも婚約時の持参金を全額返金させ、王家の財源を潰したり、王族の不祥事を噂としてそれとなく王都で流すなどして王家の求心力を削いだ。また、キール派の官僚を小さなミスをつついて罷免したりキール派の分裂を狙うなど、キール伯爵を真綿で絞めるようにじりじりと苦境に追い込んでいった。


「ボッシュ公爵、うちのレオンの行いについては非公式だが謝罪するし、きちんと処分しよう。アリーナ嬢を新たに王太子の婚約者にしてもいい。もうここで手打ちにしてくれぬか」

「陛下、なんの事でしょう?そも王太子殿下の婚約者は既に幼少より決まっておられるのに、かえるとなると余計な諍いが起きましょう。それでは御前失礼いたします」

キール家をボッシュ家の対抗勢力にしようと目論んでいた王だったが、気付いたときには最早キール伯爵家は没落に片足を突っ込んでおり、ソニアの悪評は王家にも看過できないほどのものとなっていた。持参金の返金も王家の財政を圧迫していた。

ついに王はモーゼスに対話と事態の収拾をのぞんだが、この段階での話し合いなど意味も見いだせず、モーゼスはのらりくらりとかわして決して手を緩めようとしなかった。


「これからもよい関係でいましょう」

「ボッシュ家の忠誠は殿下に」

そして婚約破棄から9か月後。モーゼスは王太子と会談し、

そこで、アリーナの罪は冤罪であることを発表し、王はすみやかに王太子に譲位し離宮へ、第2王子レオンは没落間近のキール伯爵に婿入りすることが決まった。

貴族は8割がたボッシュ家の勢力下におかれ、王家といっても名ばかりのものと化していたが、ボッシュ家としては王太子に含むところもなく、また自らが王となろうという野心もあまりなかったことから、今回の騒動を引き起こした第2王子と黙認した王に責任を取らせることで手を打った。

実のところ、ソニアの男関係の噂のせいでレオンとソニアの仲は既に冷えきっていたが、無理やり婿入りさせることで王太子はレオンを切り捨てて王家を守ることを優先したのだった。


「おめでとう」

「綺麗です姉上」

「幸せになるんですよ」

「ありがとう」

晴れてアリーナは冤罪をはらして無事に帰国し、それから程なくして新たに婚約を結んだ伯爵家に嫁ぐことになり。


「何処で間違えたんだ私は、、、」

キール伯爵家は借財がかさんで爵位を売り平民となり、家の者の行方はようと知れなくなったとか。


足掛け一年半、ボッシュ公爵家による王家・キール伯爵家への報復が終わったのだった。



家族一致団結でスピード解決。

地の文三人称・会話文→説明文のスタイルで書いてみました。お粗末様でした。


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