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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

邪神の御業

邪神と黒鳥

作者: ちかーむ

邪神と黒虎、邪神と黒豆につづく邪神シリーズです。


俺は相変わらず邪神カタログを見ながら悩んでいた。


なんだかんだでポイントにはちょっと余裕がある。

でも貯蓄大事。

今は気ままなワンルーム暮らし、プライバシーってなに?みたいな状況だけどいつかは増築もしたい。

邪神ハウス(ワンルーム)から夢のマイホームは邪神らしく壮大に神殿希望。

しかもただの神殿より断然地下神殿!でも地下神殿は非常にお高いので貯蓄大事。幸い寿命なにそれ?美味しいの?な邪神なわけだし。

塵も積もればなんとやら。

いつかはでっかく俺の城!!


そんなこんなでブラックタイガーによって荒廃したデザイナーズ風になってた部屋はスプリングのいかれたベッドだけ新しくしたものの家具は増やしてない。

邪神ソファーも邪神オットマンも俺には必要ない。

なぜなら最近俺がまったりとしてるのは黒豆柴犬最後の一匹、ラストの腹だからだ。


ラストワン!がラストガウッ!になって…

そりゃがっかりしたけれど、大きくなったラストはソファがわりに丁度いい。

俺が寝転んで下敷きにしてもびくともしない大きさだ。

コロコロまるまるな可愛さは無くなったけど<鬼畜>と一緒に得たものはおおきかった。


ラストの全身は黒のモフモフ。

毛皮はつやつやで素晴らしい触り心地だし、首の後ろに半透明の赤紫の石が数個並んで生えているのもなかなかお洒落だ。

流石は邪神のペット。

風格は上々だ。

ラストはもう元生き餌の黒豆とは思えない立派な邪神の番犬だ。


日常生活はほどほどに満たされ、ペットも居る。

あとは何が必要か…


人だ。


そう、俺は話し相手が欲しいのだ。


ラストはガウッ!とかキューンって言うけど…俺の言葉を100%理解しているのかといえば…かなり怪しい所がある。


「お前、腹減ってるか?」

「ガウッ!」

「エビ食べられるかな?」

「ガウッ!」

「お、喰う気満々だな!」

「ガウッ?」

「なんで疑問形になるんだよ!」

「キューン…」

「怒ってねぇよ、エビ食うか?」

「ガウッ?」

「どっちだよ!?」


っていうやり取りがよく起きる。

ほんとどっちなんだ。

エビはアレルギーがあるからあげにくいんだよ。

しかもいまはただの切り身だけど一応このエビ召喚獣だし。


友達が欲しいなんて欲は出さないから。

いっそ下僕でいい。

相談相手というか、俺の発言にガウッ!とかクーンじゃないある程度豊富な受け答えのできるがほしい。

流石に「そうですね」としか答えない相手はお断りしたいけどな。


そんなんで俺は<人材>カテゴリーを見ることとなった。

とりあえず犬はエビを食べるのか否か。

それが知りたい。腰抜かすのって猫だっけ?

パラリとカタログをめくる。


あ、柱広告で邪神百科事典が…いや、やめよう。


さて、この<人材>カテゴリー、開いてビックリ。

なんと注釈があるのだ。

いつだつて不親切な邪神カタログだというのに唐突な※印。

その時点でこのカテゴリーのヤバさが微妙に滲んでいる。


<人材> ※ 進化、繁殖可能


イタン 50ポイント

シ 1ポイント

ハン・ギャク 40ポイント

ジャマ 25ポイント

キョウ・シン 30ポイント



人材は結構全体的に邪神ポイント高いんだよな。

黒豆が101粒で28ポイントって考えると全体的に高い。

1つだけ黒雷チョコレートと同じ1ポイントなのがあるけどな。

とはいえ、召喚獣は軒並み数百ポイントなのに…人材は高くても50ポイント。


うーん。

そう考えると安いかな?

人を召喚して進化と繁殖可能って付加価値ついてるのにポイント低め。

敢えてつけてる注釈が作為的な気がしてくる。


あ、安いじゃん!って思わせて…深く考えずにポチッとさせる気だろ?

正確にはジャシーンだけど。


しかし俺は騙されないぞ。

人材のくせに注釈で進化ってことはつまり…


進化しないと使えないってことだよな?


しかも!そいつが進化してまともになるとも限らない。

逆にまともなやつがおかしな進化をするかもしれない。


なんせ邪神カタログ掲載品だから。


あと名前、名前が微妙な。

イタンってなんだ。イワン的な発音なのか?

シとかもう一文字だしハン・ギャクってなにさ?アジア系?アジア系なのか?

っていうか※はあるくせに人物像の説明文が無いとか。そこは必要だろ。


人材っていうからに俺が雇うみたいなもんなんだし、バイトだって履歴書読んで決めるわけで…大事なことだぞ?経歴はもちろん性格とか趣味とか…

趣味わかんなかったら会話に困るだろ。

俺の初めての部下だっていうのに…しょっぱなからギクシャクしちまうの嫌だろ。


あ~本当邪神カタログは不親切だよな。


ため息をついて気を取り直し俺はカタログを見直した。


ポイント高めなのはイタンとハン・ギャク。あとはキョウ・シンか…

なんかK-POPグループのメンバーみたいな名前っぽいな。

イメージだけど。

全然しらないけどな、どうがんばっても覚えられない系の名前なイメージ…


ん?


あれ?もしかしてこれ個人名じゃなくてジャンル?

おれは思わずプスプス鼻音たてて寝ているラストのふかふかの腹から起き上がる。


あ~なるほどね!!


やっべーおれの名探偵の血が反応しちまったよ。

火サスの読みは外さない、ばあちゃんの名に懸けて!

ばあちゃん居たかどうか覚えてないいけど。


イタンは異端者、ハン・ギャクは反逆者ってことじゃないか?

ってことは全部に者をつけて考えれば良いってことだよな。

シはシシャ?あ、使者か。邪神の使いになるってことか。

ジャマシャはなんだろ?

ジャは多分邪神の邪だろ?マは?魔物の魔か?

邪魔者ジャマシャなんだそれ?

…ん?でもこの字の並びどこかでみたことあるな…

邪魔者……あ、邪魔者じゃまもの!?

なるほどね邪魔者か~。


っておい、邪魔者のくせに25ポイントとか…たけぇよ。

進化した邪魔者の邪魔くささなんかもう想像つかねえ。

しかも物理で邪魔くさかったらどうすりゃいいんだよ。

この狭い邪神ハウスに充満する邪魔者の匂い。

あ~絶対臭いわ。


あとは…キョウ・シンか…キョウシン?狂…?狂信者!!

邪神も一応?神だもんな。

神といえば信者ってことか。まあ、狂ってるけど。


つまりこういうことかな。


異端者 50ポイント

使者 1ポイント

反逆者 40ポイント

邪魔者 25ポイント

狂信者 30ポイント


使者ポイント低っ!!お使いに出すしかないからか?

でもお使いに行く先がない…

そりゃポイント安くもなるわ。

一番ポイント高いのは…異端者か。

…異端…?なんだろ異端って改めて考えるとざっくりしすぎだな。

こいつはどういう異端感で異端になったんだろ?


「みんな靴下普通だけど、おれはいつだって5本指靴下だぜ?俺の先端はいつだって5本に別れてる。他とは違う先端なんだぜ?」


ってくらい細やかなことで異端ぶってる奴とかだったら微妙だな~。

でもまあ…ありえるよな。

なんせ正式な黒豆で豆柴でるくらいだから。

ブラックタイガーでウシエビ出るくらいだから。

5本指靴下で異端。うん、ありえる。

よし、異端者もやめとこう。しょぼい予感がひしひしとするし。


残るは反逆者か。

反逆されてもな~会話の相手が欲しいわけだし、反逆されても困るんだよな。

「今日の夕飯どう?」

「こんなものは食わぬ!」

邪神ちゃぶ台ガシャーン!!

「なぁ、暇だからチェスやろうぜ」

「断る!」

邪神チェス台ガシャ~ン

「あ、そこの醤油とって」

「邪神の言うことなど聞けるか!!」

邪神冷蔵庫ガシャーン!!


うわぁ…なんてめんどくさい!!

情緒不安定か。野球大好きなオッサンか。

ないわ~反逆者ないわ~。

あ、もしかしたら最初はいい子にしてて、馴染んだ頃裏切るパターンもあるかな。それはそれで心にグサッとくるからやめたい。

「今まで大人しく邪神の言うこときいてたけど、本当は俺、邪神のこと嫌いなんだよね」

邪神ナイフを俺の腹にグサッ!わぁ物理!?

「それにジャシーンってなんなの?、かっこいいと思ってんの?」

お、俺だって5万ポイントあればジャシーンをニャオン!に変えてるよ!!あぁ、心と腹にグサッときた!!


でも邪神ナイフだから刺されても大丈夫!

使っててよかった安心安全邪神ナイフ☆


…ってなってもおかしくないよな。

反逆者だし。

っていうか普通反逆するってわかってんのに雇うとかしないだろ。


邪魔者?それはいいや、邪魔者はいらない。

ごめんな邪魔者、選択肢にお前は入らないよ、くさいのはちょっとな。


あとは…狂信者か。邪神の信者か~狂ってるけど。

ヒャハハハハハ!!!って笑うのかな。

育てたら熱狂的な邪神おれの信者になるってことか?

狂ってるけど…まあ、邪神を信じる時点で頭おかしいから仕方ないか。

「そこにゴミおちてるから拾ってくれる」

「はい!邪神様よろこんで!」

「エビマヨ作りすぎたんだけどお前食べる?」

「邪神様のエビマヨを頂くなんておそれ多い…」

「いいっていいって、気にすんなよ元は召喚獣だし、それにお前は俺の信者だろ?」

「邪神さま!!では、ありがたくエビマヨを食べさせていただきます!!」


…あれ?

こいつ俺の脳内シミュレーションだと一番まともじゃねぇ?はじめて会話が成立してる!!

よし、こいつにしよう。

神が神であるにはやっぱり信者、必要だもんな。

…狂ってるけど。そこは目を塞ごうか…


「人材は狂信者にしようと思う」

俺は真っ黒なラストの首のモフモフをモフモフしながらそう言うとラストはガウッと答えてくれた。

「お前の友達になるれるといいな、はじめての同僚だから仲良くしろよ」

そういうとベロンと顔を舐められた。

「うわっぷ」

ラストに舐められても俺は唾液でぬるぬるしない。

犬だけど多分ラストはもとが豆だからなんだと思う。むしろラストが嘗めるとなんかちょっとフローラルな匂いになる。

フローラルマウスわんこ。

獣くささのない大型犬はわるくない。いや、むしろいい!


おれはしばしラストと遊んだあと赤紫に光る石盤…石柱…邪神台?…いや、邪神カード決済端末?の前に立ち「キョウ・シン」と言いながら邪神カードを触れさせた。


ジャシーン!


といつもの音のあと



ポテッ



軽い音を立てて床に落ちたのは小さな鳥だった。



…人じゃねぇ…



そこから!?まさかの人にするところからスタート!?

フンフンと鼻先で匂いをかぐラストに鳥はブルブルと震えている。

チョンとつつかれたらころり、と転がった。

しかも転がったままブルブルしてる。

「こらこら、ラスト、怖がってるだろ」

俺は恐怖か緊張に固まって転がる鳥をつまみ上げて掌にのせた。

「ちっちゃいな~人材っていうからには人が出てくると思ったんだけどな…俺もまだまだだな」

相変わらず俺は邪神カタログに振り回されてばかりだ。


掌の上の鳥はつややかに長い二股に別れた黒い尾と白い腹をしている。黒くて長い羽は飛ぶのがうまそうだ。

胸元と額が黒ではなく濃い赤紫。あぁ、これは…


「ツバメかな?あ、でもツバメは胸が赤いんだよな…お前は紫だな。うん、邪神カラーだな」


そっと指差しで撫でるとブルブルがプルプルくらいにはなった。手に伝わる小動物感あふれる震えがなかなか心地いい。

指の腹でそっとつるりとした滑らかなラインの頭から尾の先までそっと撫でる。


「きれいな尻尾だな。燕尾服ってこんな感じなのかな?お前は人になったら燕尾服着ろよ」


人材って書いてあるんだからそのうち進化して人にもなるだろ。繁殖もできるらしいしな。

相変わらずプルプルしているツバメをラストの頭の上に乗せる。


「お~かわいい!かわいいなお前ら!!」


なかなかに目の保養になる愛らしい景色だ。

ひとり満足していると、ツバメはラストの頭の上が緊張するのかプルプルツバメがブルブルツバメとなった。


「名前決めないとな…ツバメ…テイルコート?テイル?…うーん…」


ブルブルツバメの震えにつられたのかラストがブルブルと震えだす。ブルブル黒犬だ。


「おお?」


二匹の震えが合わさってブルブルがだんだんブブブブと細かい震えになり…


あれ?疲れ目かな…二匹が霞んで見える…


ん?キョウ・シンって狂信じゃなくて共振?!


俺がそう思い至ったと同時にラストがキャヒーン!と情けない声を上げたので俺は慌ててツバメをラストの頭から俺の掌に乗せた。

うん、プルプルしてる。


「一緒に震える能力…これをどうやって使えと…」


そのうち進化したら何かに使える…つかえるんだよな?

がくーっと脱力した俺を心配してるのかプルプルツバメもどきはピイピイと鳴いた。


「まあいいか、役に立たなくても可愛いからな」

そう言うとガーンとショックをうけたようにプルプルがブルブルになった。

しょんぼりとうつむく背中から尾にかけてのラインが優美だ。うん、スーツになるわけだ。となるならやっぱり名前は…


「エンビかな。燕尾服のエンビ、今日からお前の名前はエンビな。よし、エンビはこの部屋で好きにしてていいぞ、ちょっと狭いかもしれないけど」

そういってプルプルしてるエンビを放ると冷蔵庫の上に止まってピイピイ鳴いた。


俺は震え疲れたのかぐったりと寝転がるラストを撫でてやる。


カタカタカタカタ…


ん?何の音だ?


ガタガタガタガタ…


あ、揺れてんのか…地震か?


ガガガガガ…


いや、揺れてるのは冷蔵庫だけ?


ガッコンガッコン


…おおお!?え?跳ねてねぇ!?冷蔵庫跳ねてねぇ!?

っつうか…


「エンビー!!」


エンビが飛び立つと冷蔵庫は動きをピタリと止めた。


「共振…共振すげえな…おい」


エンビが止まる場所がことごとく震えて、がったんがったん揺れて倒れて色々ヤバイことになる。

エンビが飛んでいる間は静かだけれど…

部屋が狭いせいか俺より大きなラストを避けるのが難しいのか飛んでる途中でラストの体にグサッと突き刺さる。

その度にラストがキャヒンッ!って鳴くのがちょっと可愛い。

ごめんラスト。


「お前が住むにはこの邪神ハウスは狭いな」


飛べばぶつかり止まれば揺れる。

今の環境じゃエンビとの共同生活は無理だ。

しかし増築はポイント的に無理。

俺は背に腹は変えられないとジャシーンとちょっとお高い買い物をした。


邪神窓 290ポイント 邪神の社会の窓。好きな場所に。


全然買うつもりなかったんだけどな。説明文社会の窓だし、社会の窓は空いてたらダメなやつだろ。

しかも高いし…高いし!!!

エンビはエンビは30ポイント、エンビのために使う邪神窓は290ポイント…まさに安物買いの銭失い…

ううっ涙が出そうだ。


定番のジャシーン音の後に出てきたのは、1メートル分くらいの長いチャック。


あ、チャックって言わないんだっけ?

ファスナー?ジッパー?色々名前ついてるけどジーっってやってあけるやつ。

もちろん俺はチャック派だ。


紐みたいにべろーんってなってるそいつを俺は壁につけてみた。するとあら不思議、チャックはぺったりと壁にはりついて馴染んだ。

これは…窓…ではない。

うん、確かに社会の窓。

ジーとチャックをあけるとべろんと口をあけた。


「おお…!!」

開いた場合は外…というか闇。

でも空気は外の空気だった。

邪神ハウスとは違う空気。

久しぶりに外の空気吸うわ、うーん、ちょっと埃っぽいかな?


「ほら、エンビ、お前は外で元気に飛んだ方がいい、こんな狭い部屋でお前が綺麗な羽を怪我をしたら俺が悲しいからな」


プルプルしているエンビはピイとも言わずに俺を見た。

す、捨てるんじゃないぞ?見透かすような黒い瞳に俺はたじたじとなる。


「俺は邪神だからここから出られない。飛べない俺の代わりにお前は大空を飛んでくれ、それで、時々でいいからここに戻って、お前が見たものの話を聞かせてくれ」


俺の話を聞き終わるとエンビは二回またたきをした。それは鳥にしては思慮深そうな顔…のような気がした。気のせいかもしれないけれど。

エンビは、ピイ!と大きくひと鳴きすると外に飛んでいった。


…話ができるようになるまで帰ってくるなよってわけじゃないぞ?そ、そんな裏はないぞ?


気まずさを感じつつ見送る俺の脇からラストが鼻を出した。

ラストが顔を出すにはこの窓は小さすぎる。

「寂しくなるな」

ラストの鼻先をぎゅっと抱いて真っ黒な空を見上げた。


星も月もない夜の旅立ち。


ちょっとの間だったけどエンビは賑やかたったな。

ガタガタガタガタと…


俺はちょっとしんみりした気分で邪神窓をジジジと閉めた。

外は暗くて全然見えないから見送るっていう感じでもないし。

静かになった家の壁に新しくチャックが出来ただけで、人材は残らなかった。


ああ、俺の話し相手…


冷蔵庫とかひっくり返ってるのはブラックタイガーぶりだ。

部屋の真ん中、邪神石盤の横であたりを見回す。

エンビの共振の名残は地味にいろんなものが倒れてる以外はラストの毛が乱れてる程度、ちょっと片付ければなんとかなるだろ。

ブラックタイガーの時よりは平和だ。

「よっ…し!」

活を入れたものの、久しぶりの大騒ぎに疲れた俺はちょっとよろけて石柱…というか邪神カード決済端末で体を支えた。


ジャシーン


あ、ポケットに邪神証いれたまんまだったな…


ドシャッ!!


重い音と共に何かが落ちてきた。

部屋の真ん中に歪な形の小山。

もわりと匂う生臭い…鉄臭いような…あ、これ血の匂いだ。

落ちていたのは赤い血にまみれた人間。



「ぎゃあああ!!」


思わず悲鳴をあげるほどに明らかにおかしな方向に曲がった体。

絶対に死んでる感がやばい。

おい、血だらけの白目でこっちみんな!!


なんだこれ、なんだこれ!?なんでこうなった?

さっき俺なんていったっけ?よしっていっただけ…ヨシ?

ヨシさんなの!?え!?お前ヨシさん!?

つうか知らねえよ!お前誰だよ!

俺?俺は邪神だけど…ヨシさんなんて知り合いいねえよ!!

しかも死んでるし!!

死人に口なしだよ!!ちくしょう!

おお落ち着け自分。

ダメだ、初めての人との遭遇(死体)にちょっとパニクっちまった。

落ち着け自分(二回目)

おい、ラストもペロペロ嘗めてくんな。

フローラルになるだろ。

さっき俺は「よっし」っていったんだよ。

よっ…し…って掛け声的な声を出しただけで、ジャシーンってなって死体ドシャッ。


…よっし?もしかして「…っし」だけカウントされた?

もしかしてこの人が人材のシ?

あれ?使者じゃなくて死者?

え?これ繁殖するの?

いやいや、これはどうみても繁殖しないだろ。

マジで死んでるし。


部屋の真ん中に死体。


まあ、邪神らしいオブジェといえないこともないけれど…全くもって俺の好みではない。

全然だ。全然好みじゃない。

むしろ非常に落ち着かない気分にさせる。

退かそう。

とりあえず目立たないところに移動しよう。


俺はこんがらがってる手足の1つ、あんまりぼろぼろになっていない左足を引っ張った。どこかでごきんって音が鳴った。うう、キモい。


「ふんっぬぅーー!!お前重っ!!」


重っっ!!なにこれ、こいつ根っこでも生えてんの!?


ぐぬぬってなった俺の顔をラストがべろりと慰めるようになめる。うっぷ。

あ~本当、こいつがヨダレつかない犬でよかった。

フローラルわんこ万歳。

「ラスト、こいつ運べる?」

「ガウッ!」

任せろ!というようにひと吠えしたあとラストはぱくり、と死体を咥えた。

喰うなよ?と思わず言った俺は悪くない。

何処にもってくのー?とばかりに首をかしげるわんこかわいい。咥えてるのが死体じゃなければ。


さてと、ど・こ・に・お・こ・う・か・な?


俺は辺りを見回す。

…どこが死体のベストポジション?

っていうか部屋に死体を置いて風水的に大丈夫なのか?

邪神だったら問題ない?いや、あるだろ、絶対風水的におかしなことになるだろ。

風水しらないけど。

ベスポジ探して部屋を見渡した俺が最終的に行き着いたものは壁についてるチャック。


…死体にとってこれ以上のベスポジがあるだろうか、いいやない(反語)


そう、結論づけた俺はチャックをジャッ!とあけた。

ラストは心得たとばかりに咥えた口先をチャック内につっこんだ。

ラストの口先が部屋に戻るとそこに死体はなかった。

外からドサリという音は聞こえず、俺は思わず窓の外はどうなってんのかなと首をかしげつつお決まりの言葉を贈る。


「迷わず逝けよ」


手向けの花が欲しいなって思ったからジャシーンと邪神花を出して窓から投げた。

闇にぼんやりと赤紫の花が落ちていくのをみながら合掌した。


あ~なんだか今日はほんと無駄使いしたな。


そう思いつつ部屋の掃除をしようと部屋の中に振り返るとラストが部屋を綺麗にしてくれていた。

いや、ラストから出た謎の触手が。


「ラスト!なんか生えてるぞお前!!」


ラストはえー?なに?みたいな顔で首をかしげる。

その間もラストから生えた触手が飛び出た冷蔵庫の中身をしまい、床の血を雑巾でふき、倒れた家具を直し、ひっくり返った食器を拾い流しに運んでいた。


「超便利!!」


すげえなおい!!思わずラストの頭をワシワシする。

よくみると触手はラストの首の後ろにあった宝石みたいなところから出ていた。

一本手に取るとプニプニしつつも弾力があるなかなかの好感触。


「ふおおおお!!」


思わずプニり倒すとラストがキャヒーンって鳴きながらプルプルしてた。エンビいないのに。

これ強くプニプニしちゃダメなやつだったのか。


片付け終わったのもあって触手はしゅっと俺の手から逃げるように抜けて全て紫の半透明の宝石に吸い込まれていった。

部屋はピカピカ、ラストはモフモフのプニプニ。

やばい、俺のラストが素敵に便利すぎてラスト無しじゃ生きていける気がしない。


「あ~結局、今日は収穫なしだったな…」


人材は残らないしポイント減っただけだ…

そう思いながら邪神カードの業を見る。


邪神業


破壊

狂乱ノ宴

鬼畜

裏切リ者

屍肉喰イ

同属喰イ

地獄ノ業火

炭塵

悪食

暴食

倦怠

怠惰

反逆者

怨ミ言

疑心

下衆ノ勘繰リ

絶望

下僕

皆殺シ

生キ埋メ

極悪非道

殺戮神

惨劇

飼イ殺シ

適材適所

鬼畜


<NEW!!>

束縛

淫欲

戯レ言

邪神劇場

加虐

監禁

嫉心

薄情

隔離

止メノ一撃

断命

不人情

憤怒

遺棄

不法投棄

依存


なんか増えてる!!

しかもちょっと覚えがないのが多いぞ!?




<束縛>…え?誰をいつ束縛した?!

<淫欲>えぇっ!?俺、全然ムラムラした覚えないぞ!?

<戯レ言>…まあ、どっかで言ったんだろな、戯れ言的な何かを。うるせぇよ、自由に発言させろよ。

<邪神劇場>劇場ゆうなや…シミュレーションだよ、大事なことだぞ!?

<加虐>いや、だから…いつやった!?俺なんかした!?

<監禁>またそっち系!?狭い部屋に召喚したからか?わかんねぇなぁ…

<嫉心>あ、これは…ラストかな?はじめて俺の意識が自分以外に行ったもんな~可愛い奴め。あとでモフモフしてやろう。いつもしてるけど。

<薄情>これは…エンビを外に追い出したことを言ってるんだろうか…まぁ、否定はできない。

<隔離>閉めたからな、ファスナーしめたら入ってこれないからな。隔離されたのは俺じゃないか?

<止メノ一撃>え!?あいつ生きてたの!?死者じゃなくて本当は使者だったの?マジで!?

<断命>まあ、とどめさしたんだったらそうなるよな。そうか、生きてたのか…なんかごめんな?

<不人情>だからさ、生きてたとは思わなかったからさ。扱いは酷かったよごめんよ、シ。今度は気を付ける。

<憤怒>怒ってたのか、でもちょっと解んなかったよ死体だし。犬に咥えさせて運ばせたからな、おくちフローラルなフローラルマウスわんこだけど嫌だったか。ごめんごめん。

<遺棄>はい、窓から死体を棄てたのは私です。

<不法投棄>え!?申請だせば不法にならずにいけてたってことか!?何処に?何処に何を申請するんだ!?

<依存>もうモフモフもプニプニも居なかった頃には戻れないよ…



あ~全くもって相変わらずこの邪神業謎だな。

どういうカウントなんだろ?

しかも相変わらず読み方わからないし。

なんだか精神的に疲れた俺はラストに寄りかかる。

ラストは大人しく俺の下敷きに…って!これか!!束縛これか!!がばりと起き上がる俺をラストが不思議そうな顔をした。

ぐうかわ。

え?じゃあ順番的に考えて淫欲も?

…犬だぞ?フローラルマウスわんこだぞ?


「いくらなんでも犬相手にムラムラはしないだろ」


思わず呟くとキューンとラストが悲しそうか声を上げた。

どうやら言葉が解らないなりにディスったのが空気で伝わったらしい。すまんすまん。

俺はラストのモフモフをもふもふ撫でた。

バサバサと振られる尻尾にちょっと埃がたった。

邪神ハウスにも埃は発生するのか。

今度ちゃんと掃除をしよう、そうしよう。そう考えながらラストにもたれかかる。



あーモフモフ最高。






邪神業で<犬ノキモチ>とかあればよかったのにな。






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