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俺氏、国王と口喧嘩する。

人間の国”グランガルド”。他国への侵略行為と奴隷の売買なんかでのし上がった帝国である。現在はほど近くの国”エルフェイド”を攻め落とそうと躍起になっている。しかしそれもかなわぬと気が付いたのか、しきりと停戦に持ち込もうとしている。

「して、大臣よ。送った間者はどうなった?」

「は、今だ帰ってきておりませぬ。もしかしたらエルフどもの手に…」

 大臣からの報告を受け、偉そうに(というより気怠そうに)玉座に座っている人物は深くため息をつく。

「やはり、ダークエルフに行かせればよかったのではありませんか?近縁種ですと攻撃もしないでしょうし」

「今さら言うても遅かろう。今は、事が動くのをじっと待つときだ」

 すると、玉座の間の扉が大きな音を立てて勢いよく開く。

「で、伝令!エルフが動きを見せました!」

「本当か!」

 待ちに待った報告に、大臣は慌てて伝令に駆け寄る。伝令役は肩で息をしており、事の重大さが窺える。

「して、エルフどもはなんと?」

「はっ!洗脳されたと思しき人間と、その世話役のエルフ二人を連れてこちらに向かってきているそうです!」

 世話役、と聞いて大臣は眉をひそめる。

「なぜエルフがついて来ておるのだ?そ奴らは武装しておるのか?」

「いえ、武器の類は一切確認できないとのことです」

「ふむ…。 ならばその者たちが見えたら拘束したのち、わしの前まで連れてこい」

「はっ!承知いたしました!」

 国王に向かって一礼した伝令役は、そのまま玉座の間を後にする。

「さて…。 これでこの不毛な戦いが終わってくれればよいのだが…」

 そう呟くと窓から空を仰ぐ。 そこには何の事情も知らない鳥が自由に羽ばたいていた。


*****


 グランガルドへと続く街道。淳とアニーシャ、アリシアの3人は馬車に揺られながらゆったりと過ごしていた。

「にしても、本当に戦争するの?相手はグランガルドの国王なんだよ?」

「関係ないさ。言葉が通じる、自分の意見を持っている。それだけで言葉の戦争する条件はそろってるさ」

「でもほんとに大丈夫かな…。いきなり拘束とかされないよね?」

「ははは、大丈夫だよお嬢さん。国王は優しいお方だと聞いてるから」

 荷台の中で話していると、外から男の声が聞こえてくる。間者として送り込まれていたアルンである。

「しかしアルンのおっさんよ。その言い方だとアンタ、国王と合ったことねぇんだろ?」

「あぁ、なにせ国王だからな。俺みたいな下っ端がそう簡単にお目にかかれるほど安い国王じゃないさ」

「…絶対プロパガンダだろ」

 聞きなれない単語に3人は首をかしげる。まぁ気にしないのだが。

「兎に角、ついて早々いきなり拘束とか無いから安心しな?」


「……て会話してたよな?」

「…してたな」

「……拘束、されないんだよな?」

「…そうだな」

「……拘束、されてるんだが?」

「…そうだな」

「そうだなじゃねぇよ!やっぱりプロパガンダだったんじゃねぇか!」

 グランガルドについて早々、4人は拘束された。そう、なぜか仲間のはずのアルンも拘束されていた。

「知らねぇよ!てか俺たちにもわかる単語使えよ!その…ぷろ?なんとかってなんだよ!」

「国民に広めるための嘘みたいなもんだよ!」

 プロパガンダ。宣伝。特に特定の主義、思想についての (政治的な)宣伝。—――googleより

「騒がしいぞ。というか、目の前に敵の大将いるのに無視とか対外酷いね?」

 二人の喧嘩に見かねたのか、国王が口を開く。

「アンタが国王?とてもじゃねぇがそうとは見えねぇな」

 国王は衣服こそきっちりしているが、かなりやせ細っていて威厳のようなものを全く感じない。淳は思ったことを正直に口にしたので国王にぎろりと睨みつけられる。

「発言には気を付けた方がいいぞ?貴様らの命はわしが握っているようなものなのだからな」

「ハッ!これから取引しようとする相手にはとりあえず脅迫ってか?笑わせるな」

 向けられた眼光にもろともせず、むしろ攻撃的な態度をとる。

「ふむ…。異性だけは誉めてやろう。しかし———」

「次にアンタは、『勇気と蛮勇は似て非なるものだ』という!」

「勇気と蛮勇は似て非なるものだ。 ……はっ!」

 国王の次のセリフを読んだ淳は、にやりと笑うと力の限りを込めて拘束を打ち破る。なんでもこの世界では魔力を使った肉体強化ができるらしい。それを使ったのである。

「勇気?蛮勇?大いに結構!俺はアンタと言葉の戦争をしに来たんだからな!そんなのがなけりゃこんなところにはいねぇよ!」

 動揺する国王は、まさしくババァーンという効果音が似合いそうな淳を前にして空気を飲む。

「ふむ、言葉の戦争と申したか。つまり貴様はわしらの提案に乗る気はないと?」

「提案?何の話だ?」

「話しておらんのか…。まぁ良い。 貴様、エルフの集落においてこの国の兵士を数人屠ったらしいな」

「あぁ、それが?」

「あ奴らは、この国の精鋭なんじゃよ。つまり、言いたいことはわかるな?」

 つまりこいつらは、『自慢の兵士を上回った淳を戦力として向かい入れたい』ということだろう。しかし、淳は鼻で笑い飛ばす。

「だったら、この待遇はおかしいんじゃねぇか?これから向かい入れようとする人間をみすみす殺す気か?」

「もしここで死ねばそこまで。これからもエルフの森を焼くまでよ」

 国王は薄気味悪い笑いを見せる。どうやら子の交渉(というよりも脅迫か?)が上手く行かなかった場合は本当にエルフたちをせん滅するつもりらしい。

「狂ってる、とは言わないさ。俺も同じような環境から来たんだしな」

 その言葉を聞いた国王はさらに口角を吊り上げる。

「ほう…。貴様、どこから来た?」

「何、ちょっと異世界からね」

 質問に答えると、周りの兵士たがざわつきだす。まぁ、異世界からやってきたなんて突拍子もない話すぐには受け入れられないわな。

「なんと…。本当にいたのか」「おとぎ話の中だけだと思っていたが…」

「見た目は俺たち人間族と同じなんだな」「にしてもいい男だな…」

 ……あれ?

「ちょっと待て、俺が異世界人だって受け入れちゃうの?なんか順応早くない?」

「…まぁ、わしも異世界人は初めて見たが…。そういうおとぎ話は色々あるからのぅ」

 はは~ん、そういうおとぎ話とかはこの国では万国共通なのね?

「ま、まぁそんなわけだ。えっと、どこまで話したっけ?

 あぁそうそう。俺がいた環境の話だっけ?まぁ簡単だよ。俺、同じ人間同じ人種からいじめられてた。だからこっちに来たってわけだ」

「何?同じ種族から、だと?」

「あぁ、俺のいた世界じゃ人間同士が、それこそ世界単位で戦争するなんてざらだったぞ?」

 うん。嘘は言ってないよ?世界大戦とか2回もあったしね。

「な、なんと…。そのような世界から…」

 あ、あれ?以外にもショック受けてる?

「な、ならばその強さもうなづけるというものよのぅ。どれ、本格的にわが国のために尽力せんか?」

 ふむ、グランガルドのために、ねぇ…。

「具体的にはどんな事すればいいの?」

「ちょっと?何話してるの?」

「んあ?ちょっとグランガルドに付いたらどんな事をするのかなってね」

 淳は相変わらず日本語で話していたためアニーシャたちも理解できていたが、国王は人類語で話していたため何を言っているか分からなかったのだろう。

「簡単じゃよ。この国には向かうものをせん滅し、世界を人間のための世界へと変えるんじゃよ」

「ほほぅ、話を聞く限り、この世界では同族嫌悪とかなさそうだし、結構いい野望かもな」

「であろう?どうじゃ、一緒に世界を我らが物に———」


「だ が 断 る 。」


 国王が言い切るよりも早く、その答えを出す。

「あのなぁ、そんなことしたらいずれ後ろから刺されるよ?俺のいた世界じゃ、古今東西どこを見ても圧制をしいた国王は身近な者からの暗殺って形で失脚して滅んでるんだぜ?」

 それを聞いて、国王は驚く。異世界には同じようなことをして滅んでいるというのだから無理もない。

「では、もしかしたら…」

「うん。今の状態も危ないかもね」

 移動の馬車の中でグランガルドの成長過程の話は聞いた。

「侵略して領土を奪った上に奴隷商までしてるんじゃ、いつその首へしおれられても不思議じゃないね」

 国王は見る見るうちに青ざめていく。自分のやってきたことが、自分の首を絞めていると知ったのだ。当然だろう。

「わ、わしは!どうすれば!」

「簡単だよ。今までもぎ取った領土やら奴隷やらを開放して和平を持ち掛けるんだよ。そしたらあら不思議、一気にこの国は滅亡さ」

「……は?」

「当たり前だろ?この国は他国に対して侵略しすぎた。そのツケは払わなきゃならねぇぜ?まぁ具体的には…『国王の失脚』とか?」

 さらに国王は青ざめる。その様子を見て、淳はため息をつく。

「アンタ、そんなになっても現実は変わらねぇぜ?結局は二つに一つだ。

 このまま侵略を続けて暗殺されるか、和平を持ち掛けて滅ぶか。だ」

 この国に残された選択肢を突きつけて、国王を絶望のどん底へと突き落とす。その傍ら、アニーシャとアリシアの拘束を解く。

「ま、自分の蒔いた種だ。しっかり収穫するんだな」

 そういって玉座の間を後にする。

 3人を止めるものはいなかった。


*****


 数日後、グランガルドは滅びた。簡単に経緯を説明すると、国王が亡命しようとしたところを襲われたらしい。犯人は属国でも英雄となったようだ。

「ねぇ、人間を助けることってできなかったのかな…」

 アリシアの意外な一言に淳は目を丸くする。

「あのな、あの国は大きくなって方々に怨嗟を振りまきすぎた。ああなるのが関の山さ」

 そうやって、人間とエルフの間に怒っていた戦争は幕を閉じた。

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