俺氏、エルフと日常を過ごす。
よくある異世界移転モノのライトノベルだと、異世界に転生した主人公が勇者として活躍する話があるが、あれは無理があると俺は思う。
何せ移転した主人公はただの人間なのだから、「魔力適正がある」なんてご都合主義は気にくわない。(というと個人的観測になってしまうが)
兎にも角にもただの人間が異世界に行っただけで超人になってしまうという展開自体が無理があると俺は考える。
ま、俺の事じゃないから本当はどうでもいいんだけどね。
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異世界に来て一週間が経つ。その間も人間とエルフの戦いがちょくちょく起こっていたようだ。一応話は聞いたが、人間は資源や土地の確保のために森を切り開いていたようだ。それを侵略行為と見なしたエルフが攻撃を開始したらしい。簡単に言えば領土侵犯してきたものに対して武力行使を行ったようなものだ。
結論から言うと、これはどっちもどっちなのである。確かに人間のしたことは明確な領土審判だが、その行為に対する警告や忠告も無しにいきなり武力行使すると戦争にもなる。故に、どちらが悪いと言われればどっちも悪いと言わざるを得ない。
そんなことはさておき、今俺はとんでもない状況に陥っている。それは何かというと、今俺の隣で安らかな寝息を立てているアニーシャ・トルチェフの存在である。一応監視という名目で同じ家に住んではいるが、日に日に互いの距離は縮まり遂に同じ布団に潜り込んできた。しかもまるで抱き枕に抱きつくようにだいしゅきホールドを決めている。結構力が強く、身動きが取れない。
「え~っと… アーニャ?そろそろ起きてくれないと身動きが取れないんだけど…」
ダメもとで声をかけてみるが、アニーシャは眠ったままだ。それどころか若干抱きつく力が強くなる。どうやら朝は弱いようだ。(1週間も過ごして気づけない方もどうかと思うが…)
それから大体1時間半でアニーシャは目を覚ました。寝間着は所々はだけていてそこから白い肌が顔を覗かせている。
「よ、ようアーニャ。良く眠れたか?」
アニーシャは少し船をこぎながら頷く。その姿は始めて遭ったときからは想像できない姿だった。
それから互いに身支度を済ませ外に出る。エルフの集落は小さいながらも交易が盛んで、言語が近いドワーフと良く交易をしているそうだ。ドワーフは高山地帯に住んでいて、鉱石の採掘や装飾品の作成等で生計を立てているようだ。
そんな集落をきょろきょろしながら散歩していると、どうも回りのみんなの死せんが気になってくる。
「やっぱり、人間がぷらぷらするのはマズかったか?」
「そうでもないわよ?昔は人間とも交易してたみたいだし」
それは戦争が始まる前の話だろう。と口を突いて出そうになるが、なんとか飲み込む。
「そう言えばジュン。あなた本当に人間との戦争を止められるの?」
「それはもっともな質問だねワトソン君。ま、俺にできることならなんでもするさ」
そういうと、アニーシャは足を止めて真剣な声音になる。
「…例え、人間を殺せって言われても?」
「うん」
もちろん。と目で訴えつつ即答する淳にアニーシャは驚愕する。
「ち、ちょっと待って!? 人間を殺すんだよ?同族なんでしょ!? もっとこう、罪悪感とか抵抗とかないの!?」
罪悪感、抵抗と言われ少し考えるが、真顔でそんなものはないと答える。
「何せこちとら人間が嫌いで異世界に飛び込んできたんでね。だから、俺に同族に対する抵抗なんて求めちゃいかんよ。それに、元居た世界ならまだしも個の世界の人間とは話ができないんだらなおさらだな」
「そ、そんな理由で…」
聞いた話なのだが、エルフはどんな形であろうと仲間を大切にする種族らしい。故に同族殺しは最大の罪のようだ。なので淳の考え方はアニーシャには届かなかった。
「ま、アーニャも裏切られたり見捨てられたりしたら俺と同じような考えをもつかもな」
「…見捨てられたの?」
「そんなところさ」
淳は遠い目をして空を仰ぐ。その目には固くも脆いなにかが潜んでいた。
ーto be continueー