第3話 遭遇
「ッツ!」
「ふう、2人とも無事・・・・・・きゃあぁぁあ!」
「これが、テレポート。なるほどこの世界に転移してきた時と感覚が似ているな」
「ちょっと!なんで私たち裸なのよ!って真人はどうして全裸で堂々としてるの!?」
「雫は“人で試したことは無い、掴んでいるものが対象”と言っていたしな、こういうことも有り得るとは思っていたよ。それと、ごちそうさまですっ!」
「そうだけど違う!黙れ変態!全裸で腰に手をあてるなぁぁあ!雫!あんたも黙ってないでこの変態どうにかしてちょうだい!」
「・・・・・・・・・ままままま真人君の裸・・・ふひっ」
「怒鳴りながらも目を逸らさない巨乳美人と手で目を隠している様だが指の隙間から覗いている幼馴染美少女・・・か。悪くない」
「いいかげんにしろぉぉぉぉ!」
―ちょっとふざけすぎたか、いやでもこの感覚はなかなか・・・げふん―
「雫、奏に上着一枚貸してやれるか?」
「ッ!う、うん!奏さんこれ着て」
「僕は取り合えずこの葉っぱを・・・「あなた、これ以上ふざけるとぶん殴るわよ」そんなこと言ったってどうしようもないじゃないか」
ドスッ
「ぐはっ!奏・・・今僕は防御力ゼロだぞッ・・・」
「わわわ私!戻って服取ってくる!」
「ッ!まて雫!今はまだいくな!」
「・・・どうして?」
「説明はする、とりあえずここがどこか教えてくれるか?」
先ほどのカオスな状況から一転、真人の真剣な声色に雫、奏では落ち着きを取り戻した。
今は奏が雫から借りた裾長のカーディガンを真人が同じく雫から借りたシャツを羽織っている。
「ここは窓の外に見えた山脈に程近いに所よ、ほら遠めにお城が見えるでしょ。あそこが私たちがさっきまでいた場所」
「なるほど・・・相当な距離を飛べるんだな。こちらから城が見えているってことは向こうもからもこっちが見えるかもしれない。取り合えずそこの森に身を隠すぞ」
その真人の言葉に沿って、一行は山脈の麓に広がる森へと足を踏み入れた。
「元いた世界は夕方だったけど、こっちは昼間ってところかな」
奏が木々の隙間から天を仰ぎ見るのに連れられて真人、雫も空を見上げた。
正に快晴、強い日差しが降り注ぎ草木の生い茂るこの森の中にいてもなお昼間だろうと判断出来るほど日の光とその暖かさ、加えて彼らが久しく感じたことのない森林独特の自然味溢れる空気の味に彼らは一心地つけた様だ。
「さて真人、いくら暖かいとはいえやっぱり雫に服を取ってきてもらった方がいいんじゃない?」
「そうだね、まださっきいた場所の感覚も残ってるから取りにいくなら早いほうがいいと思う」
「・・・雫の力にも色々制限があるようだな」
「うん、見えていない場所は正確に記憶に残っていないとダメ。飛べる距離も制限があるよ」
―服を取りにいくなら時間制限があるということか、奏の言っていた“悪意”がネックだな・・・カトレア達が勇者として僕たちを召喚した以上、手放す様なことはしないはず。ここが異世界でヴァンパイアなんて人外もいた、僕たちが力を持っていることも知っている・・・ならば雫のテレポートをも拘束する手段も心得ているかもしれないな・・・何にせよ情報が少なすぎる、そもそも何故雫はあのタイミングで飛んだんだ?まずそこを聞いておくべきか―
「なあしず・・・「忘れちゃった」へ?」
「さっきの場所、もう飛べないや・・・ごめんね、てへっ」
「・・・てへっじゃねえぇぇえだろぉぉぉおおおお!そもそも何で雫はあのタイミングで飛んだんだよ!何も話進んでなかったし、大した情報も得られてないじゃないか!」
「そ、そんなに怒らなくてもいいじゃない!真人君がアイコンタクトで“今だ!”って合図したからでしょう!」
「してねぇえよっ!昔っから雫はそういうとこあるからな!狙ってやってんのか?!早とちりも大概にしろ!行動する前に考えろこの天然が」
「天然なんかじゃないもん!私だって良かれと思って行動したんだからっ!」
「あなたたち・・・仲が良いのはわかったからいい加減に状況考えましょう。雫はあの部屋には戻れないのよね、でも城の近くまでは飛べるんじゃない?まだ見える所にはいるのだし」
「はあ・・・まあ待て、僕の話を聞いてから改めて考えて欲しい。まず、奏の感じた“悪意”の正体が不明な以上、憶測での最悪なパターンだが・・・戻ったとして何かしらの力による雫の拘束、雫を人質に僕らをも捕まえにくることも考えられるな。極端だが・・・テレポートが反抗の意思と取られて殺される可能性もある。勇者と呼んでいたことを鑑みるとその可能性は低いとも思うが悪意が引っかかる、今までいた世界と違うんだ、慎重にいこう」
「なるほどね、その考えも理解できなくもないわ。だけど女性にとってこの状態は生死に匹敵するほど重要なことなのよ」
「私は・・・正直一人で戻るのはちょっと怖いかな・・・みんな一緒ならまだいいけど、もとはといえば私の勘違いと力の制御不足が原因だから2人にその格好で着いてきてなんて言えないし・・・」
―ふむ・・・服も情報も欲しいことを考えると・・・リスクを覚悟で戻るべきか?―
「しっ!みんな静かに・・・私に、いえここにいる3人に意識が向いているわ」
「人か?どんな意識だ?」
「・・・人ではないかも・・・ッツ!今すぐここから逃げましょう!感じた意識は“ニンゲン、コロス、”よっ!」
奏が叫んだ瞬間、真人らは嫌でも“異世界へ来たのだ”と実感せざるを得ない異形なる存在と相対した。
それは“グール”と呼ばれ、人を殺し、人を食い、女を犯す、この世界において人族の天敵として恐れられている存在だ。
3メートルはあろう巨体に、丸太の様な太く巨大な腕、肌は炭化した様に赤黒く爛れている、真人らをその目に捉えている顔は形容しがたいが、あえて言うなら牛をゾンビの様に醜悪なものとしたものだ。そんな非現実的なものを真人らのような常人が目の当たりにした際、果たして最適な判断が出来るのだろうか。
この世界の人族は共通の意識として持っているものがある、“グールに合ったら死ぬ気で逃げろ、運がなければ諦めろ”というものだ。
真人らの中には逃げることに最適な力を持つ者がいる、だが・・・異形の存在と相対した彼らには正しく最適な判断を取ることは難しいだろう、案の定・・・いや、当然と言っても良いだろう・・・最良の判断は出来なかった。しかし・・・生存本能はしっかりと働いていた様である、障害物の多い森の奥へと彼らは逃げていった。
「走れぇぇぇええええ!!!!!!!!!!!!」