究極の栄養食
一日三度の食事
世間の常識であったこれが覆されるかもしれない発明がなされた
究極の栄養食である
大きさは小指の爪くらいの立方体で、薄い茶色をしている
一見すると角砂糖のようでもあるが、実は小さな虫を押し固めたものなのだ
1ミリにも満たない小さな虫だが、体内には豊富に栄養を蓄えている
ひとつのキューブには何万匹の虫がいる
一度飲み込めば表面から少しずつ消化され、栄養として吸収されるため、一週間に一度飲み込めばいいのだ
私はこの究極の栄養食の実験台となった
虫を飲み込むのは気持ちがよくはないが、食事にかける時間や費用がなくなること、そして人類の未来を変えられるこの栄養食を世界で初めて食べることを誇らしく思っていた
いきなり人体でおこなうのではなく、すでに小動物で実験はおこなわれていた
体のサイズに合わせ摂取量を調整してはいるが、実験開始よりすでに3ヶ月経っているという
そしてちゃんと週にひとつのペースで摂取し、それ以外には水しか口にしていないそうだ
私は少し広めの家にひとりで住むことになった
ほぼ普通の家だが、そこにはキッチンがなかった
冷蔵庫やコンロ、電子レンジなどもなかった
もちろん私が他に何も口にしないように、というためだが、将来の住宅はこんなふうになるのかなと想像されるいい風景に見えた
小さな袋にキューブが52個入っている
つまり実験期間は1年間
週に一度これを口にする
他には水だけを飲むことが許されている
不正をしないように一応監視カメラもつけられているそうだが、どこにあるのかはわからない
また、庭に出ることは可能だが、この敷地から外に出ることは許可されていない
外でなにか他のものを食べないようにするためだ
それ以外は自由で、テレビを見たり、外部との連絡も可能である
規定の時刻になったため私はひとつ目のキューブを口に入れ、飲み込む
これからあと一週間、食事に気を取られずに済むのだ
胃の中で少しずつ溶けているような気がしたが、そこまではわからないだろうと思った
変化はすぐにやってきた
まずトイレに行く回数が激減する
ほぼなにも口にしていないのだから当たり前だろう
また今までは消化に使っていたエネルギーを他のところに回せるようになったからか、体調はすこぶる良くなった
顔色や髪の色もとてもきれいになっている
お腹が空くこともないので、やはりこのキューブは素晴らしいものだと改めて実感する
実験開始から8ヶ月ほど経ったころ、急に電波が途切れ外部と連絡が取れなくなった
電気系統のトラブルがあったためしばらく使えなくなるが、そんなに心配しないでください、とのメモが郵便受けに入っていた
このころには時間だけでなく精神にもだいぶ余裕が生まれ、私は油彩画を趣味としていた
外のことはあまり気にならなくなっていたので、電波が途切れたことはさほど気にかけなかった
これもあのキューブのおかげだ
それからまた2ヶ月くらい過ぎた時、急に変化があった
便がよく出るようになった
なにも口にしていないはずなのに、こんなに出るのはなぜだろうか
便をよく見てみると、それは小さな卵の殻のように見えた
中には少し動いているものもあるようだった
まさか、あのキューブの虫が生きていて、私の体内で繁殖を・・・
彼は倒れた
動かなくなった彼の口や鼻から無数の小さな虫が出てきた
中からだけでなく、今度は外からも食べようとしているようだった
自分の体より遥かに大きなその人間の体は、その虫達にとって究極の栄養食だった