(一章 続き)
『ママに・・・・会いたい』
小さい少女がぼそっと呟いた。
『ママのお腹の妹と一緒に遊びたい・・・・どうやったら、叶うかな』
そんな少女の呟きに、何も返せなかった。
「あ・・・・」
結衣が何かを言いかけて、止めた。
『お姉ちゃん・・・・叶えて、くれる?』
結衣が黙って俯いた。
『ママともう一度ここで会いたいの。ママがね、よくね、連れてきてくれたの。ここから見える富士山を見てると嫌なこと忘れるって。ここは、あゆかが一番楽しかった場所なの』
少女が富士山の見える方向を指した。
「・・・・・わかった、頑張ってみるよ」
少女の願いに頷いて笑い掛けた。
「満・・・・・!やってみるの・・・・?」
不安げに結衣が俺の方を振り返った。
軽く頷き、少女に笑顔で手を振った。
少女は笑顔で姿を消した。
周囲に少女の気配が一端消えた事を確認し、車に向かって歩き出した。
後ろから付いてくる結衣に向けて答えた。
「やってみるさ・・・・依頼者と、そしてその娘が一番望んでる事だろうから・・・・依頼でやってみたことはないから、結衣も手伝って貰えないか?」
「・・・・・それは、構わないけど・・・・夢で引き合わせるんでしょう?あたしも試した事は有るけれど、依頼ではやったことはないわ。依頼者を守る事が出来るかどうか」
「でもこの子が、母親やお腹の子に危害は加えないんじゃないか」
「そんな事は保証は出来ないけど・・・・でも」
「このままなら、この少女は何時までもここで母親を待つことになるんだよ。そして母親もこの子を忘れられないままになる・・・・・俺らの仕事は警察じゃないから、事件を調べる事ではなく、依頼者の心をこれから生きていくことに向けさせることだ」
「・・・・わかった!じゃ、頑張ろうか」
結衣が大きく頷いた。
「じゃ、寝ている間、体を見ていて欲し・・・・・」
「ストップ!」
言いかけた言葉を結衣が制した。
「結衣は除け者ですって?信じられない!体を見てろ?嫌よ!絶対行くに決まってるでしょ?満が依頼者を守るなら、結衣は満を守る」
「だ・・・・」
「それじゃなきゃ、協力しない。ばらしちゃうからっ」
結衣は自分の車に寄りかかりながら、頬に手を当てて楽しそうに続けた。
「その代わりーうまく言ったら!巨大ケーキをいーーっぱい買ってね!特注のでっかい結衣の顔の八倍くらいあるやつ!この前行った喫茶店のディスプレイで飾って有ったの食べたいのーっ!」
顔の八倍・・・・。うぐっ、考えただけで胸やけが。
「ちゃんと・・・・・食えるなら」
「うんうん!わーい!結衣、一回で食べちゃうよ♪」
結衣が笑顔で頷いた。
俺はたまにこいつは人間ではないんじゃないか、と思うことがある。