(一章 続き)
『どうして・・・・あゆかのこと・・・・知ってるの?』
大きな目をぱちぱちとさせる霊体の少女。
その姿は、本当に普通に生きている少女の様にも見えた。
違うことと言えば、悲しそうな思念を常に感じること。
そして、霊力がないと見えないこと。
思念体なので俺らの力でも、その手に触れることは出来ないこと。
「あゆかちゃんのお母さんから聞いたんだ。お母さんがね、あゆかちゃんがどうしておうちに戻らなかったのか、知りたがっているんだ。あゆかちゃんがおうちに戻れなくなったのは何故なのか、お話しを聞かせて欲しいんだ」
ゆっくりと子供にも聞き取りやすいように伝えた。
すると少女は、指を咥えて俯いた。
本当に小さい少女のような純粋な仕草だった。
「何か、言いたくないのかな?言いたいくない事は言わなくていいからね」
そう笑顔で言うと少女は首を振った。
『違うの、お兄ちゃん。聞いて。あたしは、知らないおじさん達にパパみたいにおんぶされて、車に乗せられて、怖くて、叫んだら、口を手でぐううって抑えられて、車の中で、苦しかった。その後、いきなりすっごく苦しくなって』
「知らないおじさんたち?」
少女は大きく頷いた。
女児を殺すのは、家族か変質者かと推測したが、集団で変質者と言うのも珍しい。
『首をぐううっと締められた』
『もう、それで・・・・気が付いたら、あゆか、ここに立ってた。誰ももう気が付いてくれないの』
「それで、あゆかちゃんは、なんかんー・・・・下のスカートを脱がされたりとか触られたりとかした?」
結衣が首を傾げて少女に優しく問いを投げた。
少女は首を振った。
『お前はまだ小さいのに可哀想なことだ。頼まれたからやるけどさ、って首絞めた人、言ってた』
「頼まれた・・・・?」
『あゆかの首を絞めること、誰が頼んだかわからない・・・・でも』
「でも?」
『パパ・・・・かもしれない』
驚いて少女の顔を見つめた。
ふざけてるわけではないようだった。
『パパね、ママがね、2年前くらいに新しくパパになるって言って、パパになったの。それまであゆかのパパじゃなかったの』
母親の連れ子なのか。
しかし、こんなまだ小学生低学年くらいの子供を人に頼んでまで殺害するだろうか?
わからない。
しかし、犯人がこの少女の顔見知りの人ではないと言うことははっきりした。
幼女狙いの痴漢というわけでもなさそうだった。
警察が犯人を特定出来ないのも頷ける。
現場近くに何か手がかりや少女の衣類などに決定的な証拠がない限りは特定は難しそうだ。
この辺りには監視カメラなどはない。
あゆかちゃんの帰宅ルートにもたまたま防犯カメラなどがなかったようだった。
その辺ももしかしたら知った上での手口かも知れない。
全く犯人に繋がる証拠は挙がっていないのだ。
そう言えば、この事件の起きた頃、父親が任意の事情聴取をされていたニュースが流れていた。
しかし、父親にはその犯行推定時刻には、会社の同僚と遠方にゴルフに行っており、はっきりとしたアリバイがあり、友人と離れた時間もほんの数分であったため、すぐに殺害関与は否定された。
血が繋がっていない父親だったのか。
そこまではマスコミは公表していなかった気がする。
『最近、パパ冷たい。妹できてから』
「妹?女の子、そっか、妹いるのね」
結衣が優しい笑顔で頷きながら聞いた。
『妹、まだママのおなかにいるの。あゆか、楽しみ。一緒に遊びたい。ねぇ、妹はあたしに気が付いてくれるかな?』
「んー・・・・わかんないな。お姉ちゃんは」
結衣が純粋な少女の問いかけに首を振って答えた。
「で、あゆかちゃんは、何か伝えたい事があるんでしょう?だからここにいるんだよね。感じるの。何かね、すっごい伝えたい事が残ってて、ここにあゆかちゃんがいるってこと。お姉ちゃんに話してみて?・・・・昨日の夜かな?ここから少し離れた所で、痛い、パパ止めてって言ってなかったかな?」
少女の心が乱れないように結衣が丁寧に優しい声で聞いた。
「・・・・・」
沈黙した後、少女は首を振った。
そんな筈はない。
強い思念が残っている。
伝えたい事、やり残した事があると思っているから、あゆかちゃんはここに居るのだ。 こんなに強い力を感じさせる状態で。
霊にも力や思念の限界がある。
思念を残すことは霊にとってもかなり負担が掛かる事であり、癒されない心の痛みを抱えた状態なのだ。
「パパやママに言われたくないない事なら、言わないわ。お姉ちゃんだけに教えて?」
結衣がにっこりと笑って言った。