(一章 続き)
「三ツ峠登山口・・・・着いたね。あそこが登山道だ」
駐車場に車を止め、三ツ峠登山口付近を歩いた。
「な、何か割と人気ないね・・・・夏だから登山客、もっと一杯居そうなのに・・・・」
辺りは登山客をたまに見かけるくらいで静まりかえっていた。
「普段はもっと人通りはあったよ。確かに、女児の死体が見つかってから、人が多くはなくなったんじゃないかと思う・・・・そう言えば、確かに二か月くらい前、女児が殺された事件があったなあ」
毎日忙しい事で忘れ去っていたが、確かにこの近くでそんなニュースがテレビで放映されたいた事を思い出した。
「人通り、結構あったなら、女児の死体を運んだりしたら結構目立ちそうだけど・・・・しかも日曜日って言ってたよね・・・・結構人居そう」
「見て見て、富士山綺麗に見え・・・・・」
結衣が富士山を指さした瞬間、結衣の動きが止まった。
「すごい強い思念・・・・感じるね。これは、確かにここで・・・・首を絞められたのかな」
確かに辺りに何かを感じる。
強い思念に意識を向けて集中する。
「これなら、あのママンに・・・・二人で中継してあげれば、夢とかで逢わせてあげることも出来そうなくらいだよね」
親子なら引き合う力も強い。
これだけ霊の力が強く、まだ時間もさほど経っていない。お互いに求め合っているなら、少し力を貸せば、引き合わせる事が出来るかもしれない。
勿論、引き合わせる相手に霊力がない以上、幾ら霊を呼んでも姿を見せることも声を聴かせてあげることも出来ない。だが、夢という世界で娘の言霊を伝えることは不可能ではない。しかし、中継する俺らもかなり疲弊するだけではなく、霊の方もかなり力を使うと言われている。
しかし、よほど霊の方が伝えたい事があれば、伝えてくるだろうし、伝えてあげたいとも思う。
父の魂の声は、葬儀に居たものが聞こえたと言うが、そんなことは普通はあり得ない。父自身の霊力と思念がよほど強かったからだろう。
俺に継いでほしいとそこまで伝えたかったのは、親心だったのかそれとも、他に霊力があるものがいないからなのか・・・・いや、今はそんなことを考えている時ではない。
余計な雑念を入れての霊力の行使と霊との交信は精神を混乱状態にさせられたり、魂を持っていかれかねない。危険だ。
「まだこの思念の主が、依頼主の娘とは決まってないからな・・・・死んでからの時間の経過が短いほど思念が強いとは言え、その娘とは限らない」
そう言ってこの思念の主の気配をもっと追うために目を閉じて深呼吸した。
「まぁ・・・・ねぇ、生きてる人の思念だけぶつかってくる事もあるしね・・・・」
何か・・・・訴えが聞こえる。
雑音のように混じって色んな声がする。
写真で見せて貰った女児の顔を浮かべて、印を結んだ。
『ママ・・・・』
はっきりと聞こえた。
はっと目を開けた。
結衣のすぐ横に小さい少女の姿が見えた。
結衣もはっきりその姿を捉えたようだった。
「・・・・・こんにちは」
結衣が少女に合わせて、しゃがみこんだ姿勢で笑顔で挨拶した。
少女の姿は、紛れもない霊体であり、写真の少女だった。
『見える・・・・?』
少女は不思議そうに、結衣に問いかけた。
「見えるし、聞こえるよ。お姉ちゃんの特技なの」
特技・・・・特技、これは特技なのか?と一瞬悩んでしまったが、それどころではないと満も少女の傍に寄った。
「君は・・・・高橋あゆかちゃん?」
手を差し伸べて尋ねた。
少女はとても不思議そうな顔で俺を見上げた。
『どうして・・・・あゆかのこと・・・・知ってるの?』