(一章 続き)
「もう・・・・3か月前の日曜日の朝です。あゆかは・・・友達と遊びに行くと言って出掛けました。夕方には帰ると言っていましたが、夜になっても戻らず・・・・私は何か胸騒ぎがして、周囲を探しました。その友達の家にも電話しました。するともう何時間も前に帰宅したと言うんです。すぐに警察にも届け出ました・・・・」
そう言うと、女性はうつむいたまま、顔を手で覆った。
「その後、一か月くらいして・・・・警察から一報が届きました・・・・あゆかを見つけたと・・・・三つ峠の山林でした・・・・・三ツ峠登山口近くだったことから、登山者が見つけたようなのです。首に強い締め跡があり・・・・・」
そう言うと嗚咽を漏らし始めた。
「一人で行くはずありません!行けるはずもありません!誰かに連れていかれて殺されたんです!・・・・ただ、不可解なのは、あの子は用心深い子で人に簡単についていくような子じゃないんです・・・・車で連れて行ったと思いますが、簡単に車に乗るような子ではないんです・・・・警察はまだ犯人を捜せていません。どうか・・・・どうか」
「毎日・・・・毎日あゆかの夢を見るんです・・・・あの子が呼んでいるんです・・・・もう眠ることも出来なくて・・・・どうかお力をお貸しください・・・・」
女性の涙がテーブルにぽとりぽとりと滴り落ちていた。
「三ツ峠ってことはさ、満の家と割と近いね」
気が付けば、隣に結衣が座っていた。
一瞬、言葉を失う程、驚いた。
女性も驚いて顔を上げた。
「・・・・どなた、でしょう」
「結衣!・・・・お前何時から・・・・どっから沸いた?大体、お前・・・・学校・・・・」
「はい、申し遅れました。そこの満の妹で、助手の結衣です!私も協力しますので、もう泣かないでください」
そう言って女性の手を取った。
「は、はい・・・・よ、よろしくお願いします」
「ゆ、ゆ、結衣・・・・おま・・・・」
この、大嘘つきがああ!
結衣に怒鳴り散らそうとした時、結衣がこっそり耳打ちした。
「まぁまぁ、そう言うことにした方がいいでしょ」
「依頼者の事はシークレット情報。それを他人にやすやす聞かれたなんて、広まったら大変。そして、この女性に今更、嘘だと言ったら、どれだけ信用無くすか考えなくてもわかるでしょう」
「お前、何時から聞いてたんだ?まさか・・・・」
「聞いちゃったからもう関係者。漏らされたら、困るでしょう?」
そう言ってにっこりと結衣は微笑んだ。
迂闊だったな。尾行されてたってことか。
わからぬように下を向いて小さい溜息をついた。
「・・・・・そう、貴方、結衣ちゃんと言うのね・・・・」
女性の呟きに、視線を女性に戻した。
「あの子が・・・・生きていたら、貴方みたいに可愛らしく・・・・成長したのかしら・・・・」
そう呟くと再び泣き出してしまった。
もはや妹を訂正してる場合でもない。
「わかりました。ご依頼はお受けします。お写真をお預かりします」
女性はすっと写真を差し出した。
笑顔で笑う、ちょっとぷっくりとした幼い少女の顔だった。
「・・・・・結衣と・・・・全然似てないね・・・・」
結衣が女性に聞こえないようにぼそっと呟いた。
目鼻立ちがはっきりとして整った結衣に比べ、その少女の顔はややのっぺりしており、鼻もやや小さくて丸い感じだった。
確かに顔立ちは似てるとは全然思わない。
髪型さえ似ていない。
結衣はボブより少し長いセミロングのストレートヘアに対し、この写真の少女はショートヘアであった。
しかし、この女性にはもう、何を見ても死んだわが子が浮かぶのだろう。
「それよりも、最後まで妹を演じろよ!」
女性に聞こえないように結衣に言う。
「わかってるって」