(1章 続き)
障子を開けると、いきなり何かが飛びついて来た。
反射的に身をかわすと、飛びついて来たモノは「いったーい!」と言い障子に追突した。
いじけ顔でこちらを見つめてきた。
「ひどーーい、ひどーーいひどーーい!結衣、せっかく疲れてるだろうと思って、癒しに抱きついてあげようとしたのにー!逃げるから、転んじゃったじゃんかぁ!」
緑色のワンピースを着て、こちらを見上げるモノは紛れもない実体だったとほっとする。
「結衣、かえって疲れる真似をわざとしてるだろ。反射的に、実体かそうでないか見極められない状態のまま飛び付かれても逃げるに決まってるだろう」
結衣は目をそらして「なんのことかなー」と大きな目をぱちぱちさせて言う。
「そういえば、そろそろ当主になるんだっけ・・・お父様の事、整理ついた?お葬式、結衣も出たけど、満はすごく立派だったよ」
結衣が満の側に寄って頭を撫でてきた。
「何の真似だよ、結衣」
「えー?良い子良い子してあげてるんだよ、満良い子~立派な子~立派だったし、お父さんの事、悲しむ時間なかっただろうから」
頭を撫でる結衣の手を掴んで払った。
「疲れてるんだから、余計疲れる真似はしないでくれないか」
「寂しいでしょー。忙しかったから結衣にもなかなか会えなかったもんね!そう思って結衣は~山奥から山奥まで旅しにきたんだよ、えへっ」
何が旅だよ。
そう言う結衣は、県を跨いだ先の山、上月の総本山の娘であり、俺と同じように強い陰陽の力に恵まれた子でもあった。
元の先祖を辿れば、皐月家の傍家であり、今となってはほぼ無いに等しいが僅かに血縁ではある。
上月では、この数代ほどは陰陽力、霊力には乏しかったようだが、結衣は稀なる力を持って生まれたと言うことで、上月では結衣を早く当主にさせ、依頼を増やしたいようなことを思っているらしい。
傍家と本家という関係がある為、同じ陰陽の同業者同士のライバルではあるが、幼いころから、会う機会があり、結衣とは五歳の頃からの顔見知りでもある。
その後、しばらく関係が途絶え、再会したのは、十八の時の自動車学校でだった。
親しく会話をするようになったのはそれからだった。
「こんな遠くの山にこんな時間にきたのかよ、危ないな」
「大丈夫よ、大抵の幽霊さんなら結衣の言うこと聞いてくれるよ?」
結衣が笑って言うので、思わず苦笑いが出た。
やっぱり、普通の女の子ではないよな。
下向いて笑うと、結衣が「なぁに?」と首を傾げて尋ねてきた。