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僕はどう生きるか 偏差値80からうつ、ニート、無職になるまで  作者: 依澄歌
結婚~今、そして未来 僕はどう生きるか
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二度目のギブアップ

 ゴールデンウィーク明け、僕はインフルエンザにかかった。

 おそらく、連休中人込みに出かけたのが原因だろう。寝冷えして体調を崩した自覚もある。

 年末年始によくインフルエンザにかかる僕は、今回の冬は無事乗り切ったと油断していた。まさかこんな季節外れにかかるとは。


 医者にインフルエンザであることを告げられ、一週間は出社できなくなった僕は、頭を抱えた。会社への連絡、休んでいる間の仕事、休み明けに直面するたまった業務。


 考えすぎるとまたうつになると思ったので、仕方ないと思って休むことにした。妻はフルーツや漫画を買ってきてくれたりと、優しかった。前に僕が深夜体調が悪くなった時も、車で薬を買いに走ってくれた。


 いつもインフルエンザになると40度前後熱が出るのだが、このときはそこまでいかず、熱も数日で下がったので、後半はごろごろして過ごした。こうしているのは楽だな、と思った。


 そして月曜日、いつにも増して鬱々たる気分で僕は出社した。

 全体的な作業スケジュールはMYさんが引き直してくれていて、休み中の僕の仕事はある程度メンバーがフォローしてくれた。

 この日はたまった業務を片付けていて、帰るのがチームで最後になった。MYさんは帰り際僕を心配して声をかけ、無理をしないよう言ってくれた。

 それまでの経験から、体調管理がなっていない、と怒られるかもしれないなと思っていたが、それはなかった。


 思ったよりも仕事はぎゅうぎゅうにならず、数日でほぼ普段のペースに戻った。しかし、席に座って仕事をしていると、なぜか妙に悲しくなった。ちょっとしたイレギュラーも、大きなストレスになった。


 まずい、と思った。いつものパターンだ。このままだと、またどんどん精神的に沈んでいく。


 大したことじゃない、昔とは違う、一つずつ解決していこう。そう自分に言い聞かせ、深呼吸してお茶を飲み、思ったことを紙に書き、なんとか業務をこなした。


 ある日、1on1を目前に控え、僕はMYさんと何を話そうか考えていた。すると、月曜日に遅くまで残っていたときのことを思い出した。

 MYさんはいつもあの時間まで、多分多くはもっと遅くまで、会社に残って仕事をしているのだろう。それも、何年も前からずっと。

 実際、以前は深夜の2時3時まで仕事をしていたと言っていた。本人は、マネージャー陣の中にも早く帰っている人はいるし、私が要領が悪いだけ、と言っていたが、仕事量は相当なものだろう。

 MYさんは休みの日もチャットは見ていたし、社員の勉強企画にも自分から積極的に参加していた。


 よく頑張れるな。なんで頑張れるんだろう。ふいに疲れたり虚しくなったりしないのかな。将来はどうなりたいのかな。

 そんなふうに思いを巡らせていたら、いつの間にか目に涙がにじんでいた。


 ミーティング中もどうしようか悩んでいたが、話がひと段落したところで、僕は思い切ってそれらのことをMYさんにきいてみることにした。

 MYさんはちょっと驚いた顔をして、しっかりと話をしてくれた。MYさんは、とても立派な考えをもっていた。自分はそこまでの気持ちにはなれないな、と思った。

 MYさんは、「モチベ上がらないですか?」と僕に尋ねた。僕は、態度が露骨すぎたかなと思いつつ、いえ、そういうわけでは、と返事をした。


 休み明けの一週間を乗り切って次の月曜日。出社時間ギリギリまで葛藤した末、僕は会社に休みますとメールを送った。一度メールを送ってしまうと、今日は休んでいいんだと気が楽になった。

 この時点で、これから自分がどうなるか、僕はうすうす感づいていた。


 火曜日も、同じようにメールをした。


 そして水曜日、僕はとうとう会社に行けません、とL社のTさんに電話した。電話をする前はドキドキして、通話中も声が震えた。

 Tさんは朝っぱらの電話にも関わらず優しく応対してくれ、お散歩がてらランチでもしませんか、と誘ってくれた。そのときは気分的に行けなかったが。

 Tさんは、夜にも電話をくれた。僕の話を根気よくきいて共感してくれ、Tさん自身や周りの人の話を色々としてくれた。とてもありがたかった。


 僕は何日か休むとかではなくて、このまましばらく仕事はお休みしたい、暗に仕事を辞めたいとTさんに伝えた。

 先方に早めに連絡をし、先日打診してもらった半年の契約更新もなしにして、すぐに契約を終了させてもらったほうがお互いにとっていいだろうということになった。Tさんは迅速に動いてくれた。


 G社への連絡、L社内での混乱。Tさんがしなければならないことや心労を考えると気が重くなり、申し訳なさでいっぱいだった。Tさんだって仕事は辛いし、悩んでいるのだ。Tさんにも、L社にも、とうとう僕の情けないところを見せてしまった。

 それでも、Tさんはいいんですよ、わかりますよ、力になりたいんです、と言ってくれた。


 その週のうちに、Tさんに会って会社の机の鍵やカードキーを返した。悩んだ末に自分で結論を出して覚悟を決めたことだったが、いざそのときがくるとやはり胸が苦しくなった。


 Tさんはそれまでなかなか話せなかった僕の本音をきいて、「本当に人がよくて真面目なんですね。素敵ですけど、生きづらくて大変そうですよね」と言ってくれた。


 生きづらい。まさに、僕が感じていることを一言で言い表した言葉だった。この人は僕のことをわかってくれているんだな、と思った。


 こうして、僕は二度目のギブアップをした。


 MYさんをはじめ、チームのみんなには最後の金曜日以来会っていない。挨拶だって、できようはずがない。

 親切にしてもらったのにいきなり職場放棄をして、さようならだ。合わせる顔がない。本当に申し訳なく思う。

 でも、やっぱりダメだった。


 MYさんはショックを受けているとのことだった。彼女の悲しそうな顔が、脳裏に浮かんだ。

 

 TさんはOさんに何が原因かはっきりさせてこいと言われていたが、「そういうんじゃないですよね」とわかってくれた。


 理由はなんだったんだろう。

 ずっと悩んでいたこと、我慢していたことがまた噴き出したんだろうとは思う。


 体調を崩してペースが狂ったのがきっかけになったんだろうか。それだけのことで? だとしたら、とてもじゃないがこの世界ではやっていけないのではないか。


 投げ出すことに慣れてしまったのかもしれない。なんとかなるし、なってきた、とたかをくくるようになったのもあるだろう。

 しかし、過去に迷惑をかけてあれほどまでに苦しむ妻の姿を見ているのに、それでもなお休まざるをえなかったのは、自分も結構追い詰められていたんだなと思う。

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