友達
新幹線と電車に揺られる事2時間弱。
そして、バスの集合場所である三つ葉のクローバーの銅像の前に行くと既に三葉学園に通うであろう生徒らしき集団が集まっていた。
けど、私と同じぐらいの年齢の人は男の人一人しか居ない。
と、その人が近付いてくる。
「あ-、君。君、もしかして編入予定の園田さん?」
丸眼鏡をかけた、いかにもインテリチックな長身の青年はリストらしきものと私を交互に見つめそう話し掛けてきた。
「はい、そうですけど…あなたは?」
「僕はこの地区の引率役の鈴山輝。大等だから年齢的にも君の先輩だね。君と被るのは1年間だけだけど、よろしくね」
「あ、はい。よろしくお願いします。」
「さて、最後の一人も来たことだしそろそろ出発しようかね」
鈴山さんの呟きに、小さい子達がはしゃぎ出す。
「え、私で最後だったんですか?集合時間までまだ10分もありますよね?」
「皆、それだけ楽しみって事なんだよ。」
そう微笑んだ鈴山さんは若干既に疲れた顔をしていた。
「綾野真鈴ちゃん」
「はい!」
「中村火炎君」
「はいはいはーい!!」
「小峰……霊散ちゃん?」
「…はい!」
その後に7人ばかしが点呼に元気よく応え、最後に私が呼ばれて小型バスは出発した。
キラキラネームっていうか凄い名前多いんだね。
斜め前に座る可愛らしく三つ編みをした女の子、霊散ちゃんを見る。
普通そう、なんだけどなんでこんな名前つけるかな。
名前聞いた中で普通そうなのって、夜鷹一蔵君だけど。苗字がなぁ…というか、この名前どっかで聞いたことある気がするんだよね。
「…宮沢賢治です」
「え?」
ふと、隣から声をかけられ隣を見ると夜鷹一蔵君だった。
「よだかの星から取ったらしい…です。全くあの本を読んだ上で一蔵とつけるとは…あ、失礼しました。僕は先天性で心が読めます。」
そう言った彼はどこか背伸びしたような大人のような喋り方をした。
「心が読めるの?」
「正確には、今お姉さんの事なら全部分かります。身長159センチ、体重47キロ、ウェ「ストップ」
「むぐぐぐ」
一蔵君の口を手で塞ぐ。そこから先は童子だろうが喋らせない。乙女の秘密だ。
「…児童虐待です。」
「どこからそんな言葉覚えてくるのかな?」
「ニュース。本…インターネット。その他もろもろです。」
6歳の発言じゃなかった。
「お姉さん」
「何?」
「吾輩の事はいち君と呼んで下さい。」
「宮沢賢治はどうしたの」「宮沢賢治より夏目漱石の方が好きなんです。」
「注文の多い料理店とか、どんぐりとやまねことか、君ぐらいの子にはおすすめなんだけどなぁ」
「お姉さんには、それから、もしくは、こころをお薦めします。」
「君6歳だよね?なんで、それお薦めするかな」
「面白いですよね」
「ごめん、私にはまだ夏目漱石の良さは理解出来ない。そして強いて言うなら私は星新一だから」
「まぁ、知ってましたけどね」
イラッてくるガキだ。
「幼稚園卒園したばかりの子供にその言い草は無いと思いますお姉さん」
「幼稚園卒園したばかりの子供はそんな事言いません。あと私は何も言ってません」
そんな風に一蔵君と言い争っているとバスは速度を落とす。
「着いたのかな?」
「いえ、まだだと思いますよ。正門を抜けてないですからね。」
一蔵君の言葉通り、バスの前方には正門らしきものが見える。
「部外者が入れるのは正門まで。そこから先の内門は魔法使いしか入れない仕組みです。僕はともかくとしてお姉さん達はまだ魔法使いじゃないんで生身では入れません。なのでこのバスで内門を潜ると思います。」
「なんでバスならいいの?」
「このバスが魔法で作られてる特注品だからですよ、お姉さん」
凄いな、この子。本当に何でも知ってるよ。
「何度か来たことありますしね。それにそういう魔法が勝手に働いてるんですよ、僕の場合」
つまらなそうに一蔵君は呟いた。
「いっくん。」
触り心地の良さそうなサラサラの髪を無雑作に撫で回してみた。触ってみると予想以上に触り心地が良い。
「何するんですか」
「私は、何もかも初めてなんだ。だから、いっくんに教えて貰えると嬉しいよ」
「……仕方ないですね。」
あ、顔赤くなった。チョロいなぁ、やっぱちっちゃい子は。
「今チョロいなって思いましたね?」
バレてる。いや、一蔵君前にしたら当たり前なのか。
「…いっくんがいいです。お姉さん、友達出来なさそうですし僕が友達になっていろいろ教えてあげますよ」
【絆、お姉ちゃんにも友達が出来たよ。】
【早っ!あ、お姉ちゃん、今日は行かないことにした】
【マジで!?】