プロローグ
初投稿です。至らない部分も多々あると思いますが、よろしくお願いします。
早朝から蝉がけたたましい音を立てて鳴いている。
まだ七月に入ったばかりだというのに、人々はシャツやブラウスを汗で湿らせながら通勤しているのも多い。
それは高校三年生の三島太郎ことタローも同じであった。
短髪黒髪、日本人の平均身長より少し低いぐらいだが、健康的な見た目でノリのいい若者といった感じ風貌である。
彼は、高校指定の半袖のYシャツの襟元を首から滴る汗で濡らしながら、勢いよく自転車を漕いでいく。顔を真っ赤にしながら身体を上下させ、自転車の車輪はガタガタと音を立て校門を潜った。
「おい、タロー。あと一分だぞー」
「あいよー!」
体躯のいい男教師が腕組みをしながら声をかけるが、毎度のことのようにタローは愛想のいい返事をすると駆け足で教室へと向かった。
タローが教室の席に着くと同時にHRは始まった。タローは火照る頬や額を、母親に無理やりバッグに詰められたハンドタオルを手に拭っている。
担任の松木義彦の淡々とした実に面白みのない話を、近所のドラッグストアーで貰った団扇で扇ぎながらぼーっと聞く。彼は三十後半の細身で眼鏡をかけたこじんまりとした国語教師なのだが、その口から発せられる抑揚のない、通りの悪い声のせいか寝てしまう生徒が多く『眠りのマツヒコ』と揶揄されている。
HRが終わると窓際の最後尾、長い前髪を櫛で止めたやんちゃそうな青年がタローの机のほうに足早に向かってきた。
「タローちゃんよう、また今日も遅刻三十秒前だったじゃん。あと一回で反省文と体感倉庫の掃除じゃなかったのかよ。もうちょっと早く来ようとかそういうのないわけ?」
髪の色も茶色に近く、手首にも黒と白のゴムバンドを付けたいかにもチャラそうな見た目とは裏腹に、青年の言うことはいたって真面目である。
「はあ?そんなの分かってるっつうの。わざとこのギリギリに登校するってのが美学なんだろうが。お前も俺の親友ならそんくらい理解しろよツッキーさんよう」
タローはその特徴的な釣り目で得意げにツッキーと呼ばれた青年こと月山樹を見やる。それに対しツッキーは、腰にやっていた右手でやれやれといった感じで額を抑えた。
タローとツッキーは中学以来の友人である。驚くことに、中学三年から高校三年までの四年間クラスが異なることはなかった。
その所以もあってか、お互いの親しみやすい人柄と相まって、他の高校からの友人とは一線を画す親友と呼べる仲となっている。
「てかタローちゃん知ってる?俺らの中学の通学路の脇道に『小さな神社』あったじゃんか。その近くで何人かいなくなってるってやつ」
「おい親友!てめぇそのタローちゃんていうのやめろ!近所に住んでた気持ちの悪いオカマのヨシヒロさん思い出すんだよな。」
タローは体格のいい髭面の男を思い出し、少し身震いすると脱線しかけていた話を戻す。
「ああ何かそれ、先週くらいにお袋が言ってた気がするな。一人近所の女子中学生が家出か何かでいなくなったって聞いてたけど。てか、そんな事件なってんのそれ?」
「あれタローちゃん朝ニュース見ない派なの?今日誰だっけあの顔黒い人の番組、『おは、バシ!』でやってたよ。大量失踪事件だってさ。もう十一人も行方不明者出てるらしいよ」
いまだにちゃん付けするツッキーに拳骨の一つでも入れてやろうかと思ったが、話を聞いて事の大きさを知ったのか、驚きでそれどころではなかった。
十人を超える失踪事件が、それも自分の暮らしてきた平和な一地区で相次いで起こったのだから。
しかもツッキー曰く、その失踪者の年齢、性別、職業はまちまちで、さらにその一人も見つかっておらず、あまつさえ手掛かりすら掴んでいないというのだ。
しかし一つ引っ掛かることがあった。ツッキーの言っていたあの『小さな神社』のことだ。
タローの記憶では、今日も通学中にその前を通ったはずである。そのときは警察どころか人っ子一人いなかったのだ。
「なあツッキー、俺、今日もその『小さな神社』の前通ったけど、いつもと変わってなかったぞ。立ち入り禁止の看板とか、黄色と黒のテープやらロープでも覆われてなかったし」
「ああ、それね。あくまでも噂なんだよ。失踪した中にさ、いっつも『あの神社』で遊んでいた小学生三人組がいたらしいんだよね」
寝癖かくせ毛か分からないぴょこっと不自然に立っている髪の毛をいじりながら、それには納得したのか、タローは「で、三人ともいなくなったのか」と次の疑問を口にやった。
すると、ツッキーはその質問を待ってましたとばかりにニヤリと微笑んだ。タローは少し不謹慎だなと思ったが、横やりを入れるのはやめ、続きを促した。
「それがさ、何と一人帰ってきたのさ。でまあ噂によると、遊んでいたらいつの間にかいなくなっていたらしいんだよね。子供は、『消えた消えた』と泣き叫んでいたらしいんだけど、そんなこと信じられるわけないからねえ…」
ツッキーのその意外と整っている顔がどこか活き活きとしているのを、タローは察知した。
タローは中学以来の付き合いで知っていた、この顔をするときのツッキーに付いていくとき、必ず面倒ごとが起こると。
ツッキーは見た目の割にけっこう真面目であり、頼りになることも多いが、たまに謎の好奇心旺盛さを発揮するときがある。
タローはプライドが高く、その振る舞いから悪ガキっぽく見られがちだが、ほとんどが口だけの見せかけであり、案外ツッキーに振り回されることが多いのだ。
「いやな予感がすんだよなあ。で、どうしたいんだよ」
タローは一つ大きくため息をすると、ツッキーに聞いた。
「分かってるでしょうタローちゃん。さあ今日学校終わったら『あの神社』調べに行くよん!絶対面白いって!」
そのときタローはいつも以上に嫌な予感をしていたが、高校生が二人もいればそう危なくはないだろうと思い、結局ツッキーに流されるように学校終わりに例の『小さな神社』へと向かったのであった。




