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もゆらの観察記

「ん?」

ふいに視界に入ったものに俺はつい視線を向ける。

「・・・何だ、これ?」

気になり手に取ったそれは、コップだった。

中には黒い液体が淵ぎりぎりまで入れられている。

「ここにあるっつーことは食えないもんじゃないはずだが・・・」

くん、とにおいを嗅いでみる。

「う!?」

思わず奇声を発す。

「く、くさ!!」

次に発した言葉は自分でも予想しなかった。

いや、マジで。

「なんだこのもの凄く臭いけど一貫に臭いともいえないなんともいえないもの凄く臭い液体は・・・!!」

俺はそのコップを自分の目の高さまで持ち上げ直す。

一体これはなんなんだ。

ここは食堂、の中の厨房だ。

置き忘れたとしたら水仙か奈繰ぐらいのものなのだが・・・。

・・・飲んでみるか。

「うん、飲もう。」

そう軽く決心をし、そのコップを持ち直すと口に運ぶ。

そして少し口に含む。

「・・・・・・・・」

なんとも言えなかった。

ただ、これは大抵の奴が飲んだらヤバイな、とだけ思った。

俺は無言でもとあった場所に量が殆ど変わらないコップを戻すと

「・・・誰が飲むか観察してみんのも楽しいかもな!」

少し考えそう呟いて、厨房が見える食堂の端に隠れた。









「お腹減ったー!」

そう叫ぶ声が聞こえ、少しうつらうつらしていた俺は食堂の入り口に目を向ける。

「・・・・・・」

叫んだのはベージュの髪の少女。いや、実際はもう少女という年齢ではないのだが。

コルティ。

それと無言で隣を歩くのは灰の髪を持つオーク。

眠そうにしている。

二人は水仙がいないのを知ると、そのまま厨房に入る。

さぁ、あの液体をどうするんだか。

俺の興味はとりあえずそこだった。

「・・・・・・何、これ。」

独り言ともそうでないとも取れる口調でオークが言う。

「んー、何それ?」

それに答える形でコルティが言葉を返す。

俺はきっとあれを見つけたんだろうと思い当たる。

「黒いよ?」

「うん、黒い。」

そう聞いた瞬間、俺の予測は確信に変わった。

さて、二人はどうでるか。

「・・・飲んでみる?」

「コルティが飲みなよ。」

「え。」

「だってコルティのみたいんでしょ? だったら飲めば。」

「だってー・・・」

「何?」

「これ、臭うよ?」

「だから?」

「うー・・・」

応酬はそこで一旦止まる。

聞きながら俺は苦笑していた。

そして、飲むな、あいつ。

という確信もしていた。

「だってさー!」

「だってじゃない。」

おっと、俺がそんなことを考えている間に応酬は再開していたらしい。

コルティはまだ渋っていた。

すると、唐突に俺の方に影が伸びる。

「・・・何してんの?」

壱岐いつき・・・!シーッ!!」

いきなり普通の声で話しかけてきたのは壱岐だった。

俺はそんな奴の頭を抑えて一緒に隠れさせる。

「!!?」

「静かにしろー!」

俺は小声で壱岐に言う。

あいつは何の事だか分からないらしく、顔にハテナマークを浮かべている。

少し焦って厨房に目を向けると、幸い二人は気付いていない様だった。

「ちょ、何してるの?ってかこの手のけて」

そういわれて、俺は初めてずっと壱岐の頭を抑えたままだったことに気付く。

「あ、すまん」

そう言ってさっと手をのける。

「で、何してるの。」

改めて聞いてくる。

「ん?観察☆」

「観察☆・・・じゃないっ!!」

予想通りの反応。

相変わらず面白い。

「まあまあ、みとけって。 絶対面白い。」

「そういう問題かよ・・・」

呆れられたようだ。

だが、いつものことなのでさほど気にすることではない。

「・・・何を観察してるの?」

壱岐が聞いてきた。

「あの台所にあったコップになんか臭い黒い液体が入ってたんだよ。

それ飲んでどんな反応するか見ようとしてんだ。」

こういう話をするのは実に楽しい。

無意識に顔には笑顔が出る。

「な・・・また・・・そういうことを・・・あれ、あの黒い液体って何なの?」

呆れたがもう無駄だと判断したらしく話の矛先を変え、中身について聞いてきた。

「・・・あれだ、あれ。」

「?」

何のことだか壱岐はわかっていない。

そんな彼女に、俺は小声で必死に説明する。

「あれだよあれ。健康にいいとかっていわれてる黒いやつ。カプセルとかでもあったな。

こないだ水仙が餃子のタレに混ぜてて凄い好みが別れたやつだって。」

「・・・マジで?」

壱岐は気付いたらしく、半ばギョッとした顔でこっちに顔を向ける。

「もしかして・・・元?薄めてない?」

「まぁ、そりゃ。」

「・・・飲んだの?」

「おお。」

「止めなくていいの?」

「楽しみじゃねぇか!」

「はぁ・・・」

壱岐は盛大にため息をついた。

まあ、大抵の奴はそうだろう。

きっと面白がるのは妖見とかレピとか彩祈ぐらいのもんだ。

「でも、まだ飲みそうにないね」

厨房に半ば哀れな目を向けていた壱岐が言った。

「さっきからずっとそうだぜ?

いい加減観念しないかなー、コルティの奴。

ん、なんかいったか壱岐?」

「別に。」

可哀想とかなんとか聞こえた気もするけど・・・とりあえずそういう事にしておこう。

そしてまた俺は、今度は隣にいる彼女と一緒に厨房へと目を向ける。




「えー、じゃあジャンケンしよーよー!!」

どうやらどちらが飲むのかをジャンケンで決めるみたいだな。

「なんで。」

ま、オークの反応は普通だ。

それでなくてもアイツはああだが。

「何でも!

行くよ、ジャーンケーンポイ!」

コルティはチョキだ。

「・・・・・・」

オークはちゃっかりしっかり手を出していた。

・・・握り拳を。

グーだ。

「ま、負けた・・・!!」

「じゃ、飲んでよ。」

「このジャンケンでは完全無欠と言われてるこのあたしが!!」

「早く」

「何故だ!何故負けたんだ!」

「・・・・・・」

「私はさいきょ いてっ!」

「いいから早く飲め。」

・・・叩いた。問答無用だな。

ま、だけどこれでとりあえずコルティが飲むことは決まった。

俺は隣でさっきの自分みたいにうつらうつらしていた壱岐を呼ぶ。

「こら壱岐、飲むぞ、あいつ。」

その呼びかけに一発で彼女は目を開けた。

実は寝てなかったんじゃないか?

「ん。どこ。」

目をしばたかせて一直線先にある厨房を探しているようだった。

やっぱ寝てたな。

「あそこ。」

そう言うと、壱岐はやっと目を向けた。





「じゃあ、飲むよ?」

「うん。」

よし。

コルティがコップを持って、上から中を覗いた。

きっとそこには彼女の顔が映っているのだろう。

そして、そのコップを口に運ぶ。

口をつけた。

きっと飲んだであろう口をつけていた短い時間の後、コルティはコップを取り落とす。

小さく音がした。


「・・・・・・な、んな!」

そう言った次の瞬間、コルティは激しく咳き込んでいた。

何回も咳をし、とりあえず口の中のものを全て傍の流しに吐き出したあと、手で口を拭う。

「ま、まっず!!」

そう一声。

「何なの、それ?」

オークが聞いた。

そろそろあいつ等の所に出て行ったほうがいいだろうか。

後で見つかったら面倒だし。

「壱岐、行くか?」

俺は壱岐に言う。

「はぁ、分かってるよ。」

流石。

壱岐はあたしの言いたいことが分かっているらしい。

「よし。」

俺と彼女は立ち上がる。




「ちょ、誰よ、こんな所にこんな毒置いたのー!!」

コルティは一人で憤慨している。

「・・・・・・」

オークは黙って下を向いている。

さっき彼女がこぼした黒い液体を眺めているらしかった。

「よ!」

「はぁ・・・」

そこに俺と壱岐は乱入する。

二人の視線が一斉にこちらに向けられる。

「もゆら!!それに壱岐!!」

「・・・もゆら、壱岐・・・」

「あれは美味かったか?」

俺は笑顔で聞く。

「え、あれって・・・」

コルティは俺があの黒いものを知っているとは思わないらしい。

そこにオークが答えを言う。

「・・・黒いの」

「え。」

案の定コルティは固まった。

「あれ、もゆら達が用意したの?」

「いや。 俺が厨房に来た時には既にあったぜ?」

「ふーん、じゃ、水仙か誰かだね。」

「そうだな。 ま、誰にしろコルティがこぼしちまったからな。

あいつに謝らせる。」

流石オーク。話がすぐ通じる。

「・・・・・・お疲れ。」

「うん・・・・・・」

完全に哀れな視線を向けられ、一言しか返せないコルティ。

最高にウケる。

「ねぇ壱岐・・・あれ、結局なんなの・・・?」

コルティが壱岐に聞く。

「えっとね・・・」

そう言いながら壱岐は厨房の戸棚を漁る。

あった、と言ってコルティの目の前にそれを持ち上げる。

「これ。」

コルティが、ラベルに書いてあったその調味料の名前をゆっくりと、確かめるように口に出し読む。

「く・・・ろず・・・・・・・・・・・・・黒酢!!?」

理解したであろう瞬間、コルティの声はかなり大きくなった。

「そ。」

「飲んでわかんなかったのか?」

「黒酢だったんだ。」

上から壱岐、俺、オーク。

さて、充分楽しめたし、そろそろ出るか。

「壱岐、オーク、帰るぞ! コルティ、後片付けよろしく!」

そう言って、二人を連れて出ようとする。

「ちょ、なんで皆出るの!?あたしは?」

「お前は片付け。 当たり前だろー?お前がこぼしたんだから。

さ、行くぞ!!」

そう言って走り出す。

「なんでー!!?」

コルティの叫び声が聞こえたが、気にせず走る。

渋い顔をした壱岐と、無表情だが少し笑っているようにも見えるオークが隣にいた。


「・・・あ。」

もう歩いていたその時、ふいに壱岐が呟いた。

「黒酢の蓋、閉めてない。」

そう言うと、握っていた手を開いた。

そこにはあの黒酢の蓋があった。

「ま、いいだろ。 そこ置いとけよ!」

とりあえずコルティが困るのは目に見えている。

それも面白いだろう。

「さ、酒屋でも行くかー!!」

「またか・・・」

「・・・・・・いいね」








「あ!」

黒酢に手が当たる。

黒酢のビンは重力に逆らうことなど到底出来ず、そのまま落ちようとする。

「はっ!」

間一髪、手が届いてビンを掴む。

「!?」

逆さになったビンの口から黒いものがドバドバでている。

・・・口が閉まっていない。

「んなーーーーーーー!!!!!!!」

絶叫が、食堂に響き渡った。


まだまだ未熟者ですが頑張ります;

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