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レベランス  作者: ビオラ
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第4話  演習

「う……くそっ……!」


 自らの身体で空けた壁の穴から仰向けに倒れたゼオルが弱々しくもがく。


 頭部や背中から何か暖かいものが伝ってくる感覚がする。

 しばらくしてそれが自らの血液だと理解した。


「ゴホッ!ゴホッ……」


 身体を少し動かすだけで全身に鈍い痛みが走る。壁に激突した衝撃による眩暈で視界がドロドロに溶けて見える。


 肋骨を数箇所持っていかれたか……。


 ゼオルは胸部の痛みの感覚で負傷の度合いを察知した。さっきの一撃でこれほどまでのダメージを……。


 そして起き上がろうと右手を床について力を入れたときに右手からとてつもない激痛が走り、再びうめき声をあげた。


 なんてことだ!右手まで折れているのか……!これではアストラルを解除しても武器が使えない。


 ゼオルが使用するレテンシー(キャノン)は、思念により作り出した鉄の筒に自らのレテンシーを小さく弾丸のように圧縮して射出する。


 一般の大砲や銃と違って弾丸に使用するのは実体のある物質ではなく自らの体内を流れる潜在エネルギーのため弾切れを起さず、それこそ自分次第でいくらでも撃ち続けることができる。


 だが、当然リスクも高い。

 鉄の筒により高密度に圧縮されたレテンシーは右手にその力を集中するため射出後に掛かる負担は決して軽くない。


 勿論、訓練中のルーキーのように一発発射しただけで肘や肩を破壊してしまうよヘマはしないが。


 発射の際に両足を肩幅まで開いて少し腰を落とし、右半身を気持ち前に出す。

 そして肘を少しだけ曲げ、レテンシーの圧縮完了後は照準を維持する以外に腕に余計な力をかけず、射出後、後方へかかる反動を腕の操作で上方向へ逃がし、そのまま腕が持っていかれないように手首が丁度顔くらいの高さまできたところで下へ力をかけて相殺する。

 発射前に余計な力が手に掛かれば照準が歪み、発射後の反動を殺す際にも正確なタイミングでウェイトを掛けることができなくなり、構えだけ重視して肘を伸ばしきってしまえば右肩が反動で脱臼する可能性もある。


 たかが空気砲のような武器を扱うだけでも精密な操作を要求されるのだ。


 無論、ゼオルには長年親しんだ武器だけあって造作もないが、それは右手が健全であればの話。

 右手が破壊されてしまっていては射出後の精密な処理も実行できず、それ以前に無理矢理発射しようとすればレテンシーを圧縮した段階で右腕が負担に耐え切れなくなり二度と使えなくなってしまうだろう。


 ゼオルは痛みと悔しさで歯ぎしりをした。


 このわしが……なにもできないのか?

 いや、そんなはずはない!マスターではあるこのわしがよもや人の足手まといになることなどあってはならんのだ!!


 心の中で激しく叫びながらも頭の中では別の声が聞こえていた。


(お前は無力だ……。日ごろ他者を見下し、利用するくせに肝心な時は何の役にも立たない)


 ゼオルは頭を振って声を振り払おうとしたが衝突の衝撃でクラクラして頭部を動かすことができない。


(自分が完璧と自負して立案した作戦が失敗したとき、その責任を部下になすりつけて逃れたのはどこの誰だ?小娘に発言を許さないのも本当は自分より優秀な者が現れるのを恐れているのではないのか?)


 違う……わしは今まで恐れたことなどない!!

 確かに作戦の失敗も過去に幾度かあった。だが、あれは役立たずの部下の引き起こしたミスのせいで……!


  (よく聞け。あんたは自分の考えを若い兵士に向かって演説して気持ちよくなってるにすぎないんだよ……)


 ふと頭の中の声がエレーナの声に変わる。


 若い兵士に演説……?

 わしの部下となったものは作戦方針を徹底していた。

 何があっても作戦通りに行動するようにと。

 実際部下たちはその通りに動いていた。それもそのはず。忠実な下僕(しもべ)として訓練していたのだから。


 ……ということは作戦の失敗は部下のミスではなくわし自信のミス?

 そもそも立案の段階から間違っていたとでも言うのか?


(お待ちくださいゼオル様!今は情報が少なすぎます!他の部隊からの連絡を待ってからでも――)


(ええい!黙れ腰抜けがっ!こうしている間にも敵が侵攻してきているのだ!!作戦通り一時間後にこちらから攻め入る!他の者にも徹底しておけ!)


(参謀としての自分の意見もお聞きください!これは――)


 ゼオルの脳裏に過去の映像が過る。

 わしが迷っている……?いや、本当に恐れているのか?


 ゼオルは右手から血を滴らせながら左手を支えとしてゆっくりと立ち上がる。

 両足に力を入れた際もやはり痛みが走ったがそれよりも別の感情がゼオルを動かしていた。


「わしは……わしは何にも恐れたことなどないわぁぁ!!」


 ゼオルが遠くで背を向けている念獣に向けて叫ぶ。


「おいおっさん、無理すんなっ!」


 不意に左横から声がした。


 視線を向けるとすぐ横にミルンが立っていた。


 念獣に吹き飛ばされ後方に下がった際にそのままゼオルのところへ走ってきたのだろう。


 ミルンがゼオルに駆け寄り左手を自分の肩にまわす。


「ほら、肩貸すからとりあえずあいつに見つからないところまで逃げるぞ!」


 逃げる……?

 このわしが敵に背を向けておめおめと逃げるだと!?


「離せ小娘が!わしに触るな!!」


 ゼオルが左手を力一杯動かし、ミルンの身体を押し退ける。


 ミルンは突き飛ばされた衝撃で尻餅をついてしまったが、すぐさま起き上がって大声で叫んだ。


「何すんだよおっさん!」


「貴様の力など借りるかっ!この程度の傷などなんともないわっ!!」


 勢いよく反発したが、その直後に肋骨が軋む音が脳内へ伝わる。続けて重い痛みが再び胸部に走る。


 ゼオルは思わずうっ!と胸を押さえ込んで膝をつきそうになる。


 その瞬間再びミルンが前に現れてゼオルはミルンの背中に負ぶさるような形で支えられた。


「な、何をする!わしにこのような惨めな姿を晒せというのか!!」


「うっせぇな!くだらない意地張ってないで黙って摑まりやがれ!これ以上ここにいられても”足手まとい”なんだよ!」


 ゼオルは目を大きく開いた。

 わしが……足手まといだと!?


「それに……怪我人を救護するのもレベランスの仕事だ。相手があんたってのは気に食わねぇけど、『命』に変わりねーからな」


 ミルンは真直ぐ前を向いたまま言う。


 ミルンの視線の先ではエレーナとエメルが念獣を相手に二人で戦っていた。

 念獣は自分を攻撃してくる二人に怒り狂ってミルンとゼオルには気が付いていない。


「分かったらおとなしくしててくれ。あたしもすぐに合流しなきゃいけないんだ」


 ゼオルはミルンを、そして前方で戦うエメルとエレーナを順番に見つめた。


 そしてその後は何も発することなくミルンの肩を少し強く握った。




「ったく、このお猿さんちょっとしつけがなってないんじゃないの!!」


 丸太のような腕から放たれる拳の一撃を寸でのところでかわしながらエレーナが言う。


「でも、ミルンがうまくマスター・ゼオルを避難してくれたみたいです」


 エレーナのすぐ横に立つエメルが一瞬後方に目を向けて言う。


「よくあの頑固じじいが大人しく引き下がったもんね。一体なんて言って聞かせたんだか?」


「それはともかく、この念獣さっきから斬っても斬ってもあまりダメージを感じてないみたいですけど?」


 確かに。

 今まで幾度となくエレーナとエメルの剣が念獣の身体に攻撃を加えた。

 その証拠に灰色の身体のあちらこちらからドス黒い血を流している。


 しかし、斬り付ける度に咆哮をあげるが、痛みによる叫びと言うより痛みに対する怒号をあげているようで、痛みで動きを鈍らせるよりか、むしろ活発になっている。


 食堂と宿舎、会議室を繋ぐ大理石の廊下はめちゃくちゃだった。

 そこかしこに念獣の拳が炸裂し壁も床も穴だらけ。

 柱も破壊されていて天井が崩れ落ちそうだ。

 窓ガラスはおそらくすべて割られていて床に破片が散乱している。


 念獣はエレーナへの攻撃を外した苛立ちからか叫び声をあげながら足踏みをしている。

 震動と轟音が周囲に響き渡る。


「傷を負う度にどんどん凶暴になっていくみたいね。エメル、じじいの部下たちは?」


「全員撤退させました。次期に彼らが増援部隊を呼んでくれるかと思います」


「増援ね。その前に廊下が破壊されて進路を塞がれなければいい――」


 ガシャン!!


 突然念獣が壊れた柱の残骸を拾い、二人目がけて思い切り投げつけた。


 歪んだ形の柱が横に回転しながらこちらに迫ってくる。


 二人は瞬時にお互いと反対方向へ飛び退いた。

 投げられた柱は二人の背後で大きな音を出しながらバラバラに崩れさる。


 直後に念獣がエメルたちのいる場所とは反対の方向へ走りだした。


 そして宿舎側と会議室側の突き当たりの廊下にある柱を両手でつかみ、地面からむしり取る。


 ミシミシという音の後、床の広範囲にひびが伝わり、やがてガシャンという音が響き柱が外された。

 直後に会議室側の天井の一部とその両脇の壁が大きな音を立てて崩れ落ち、あっという間に瓦礫の山ができあがって文字通り道を塞いでしまった。


 さらに念獣は両手で持ち上げた大きな柱を咆哮とともに思い切り前へ飛ばす。

 柱は宿舎に通ずる連絡路の入り口に直撃し、扉を破壊するとともに柱自体も崩れ落ちて道を塞いでしまった。


「ほーら、言った傍から」


 エレーナは立ち上がりながら深いため息をつく。


「ひょっとしてエレーナさんの言葉を聞いてやったんじゃないんですか?」


 反対側でエメルが言う。


「人語を理解できるほど賢いならいっそ話し合いで解決したいものなんだけどね」


 エレーナが冗談を飛ばすがその顔は笑っていなかった。


 これで増援もすぐには来れない。退路としては食堂側の通路しかないけどあそこは医務室がある。

 ここでエレーナとエメルが撤退してしまったら念獣は間違えなく追撃を仕掛けてくるだろう。

 そうなれば被害が拡大するし、要救護者の命も危険に晒すことになる。


 増援も望めない、撤退も許されないともなれば……答えは一つ。


「エメル、あたしたちがここで食い止めるよ!まずはミルンが帰ってくるまで時間稼ぎだ」


 エレーナがエメルに視線をやりながら言う。


 現状エメルとエレーナの攻撃は念獣にはあまり効果がないように見える。

 それどころが逆に凶暴化を促進させているように思える。


 なら、三人の合計火力で行動不能にしてやるか……。

 仮に生命活動を止められなくても動きさえ止めてしまえば成功と言える。


 エメルは黙ってうなずいた。


 エレーナはそれを確認すると左手にはめた緑色の指輪を軽く叩いた。


「こちらエレーナ。ピュレジア支部より緊急事態発生。大至急『開門』願う」


 エレーナは指輪に向かってそれだけ言うと再び念獣に向き直る。


 念獣も再びエレーナに視線を向ける。

 さっきエレーナに受けた恐怖も、今の念獣は怒りに昇華され暴れるための燃料となっていた。

 今度はこっちが恐怖を植えつけてやる……!

 念獣が低く唸る。


「遅くなってごめん!」


 念獣に武器を構える二人の背後からミルンが大声をあげる。


「いいところに来たね。ゼオルの介護は大変だった?」


「ええ、そりゃもうね……。っと、あたしの分も残しておいてくれてるー?」


 ミルンが再び右手から剣を出して口元に笑みを浮かべる。


「ええ。三人揃うまでつまみ食いなしで待ってたよ?」


「少々余りある量だと思いますが……」


 三人ともお互いにゆっくり寄り念獣を睨みつける。


 念獣も口元に不気味な笑みを浮かべて涎を垂らした。


 やっと、やっと全部揃った……!


「エメル、ミルン!あんたちはあいつの脚部を攻めて体勢を崩してちょうだい。あたしは本体を叩く!」


「了解ー!」

「はい!」


「踏み潰されないように注意してね。ああ見えて意外と知能は高いかもしれないからね」


「じじいじゃあるまいし。そんなヘマしないよーだっ!」


「でも油断大敵よミルン。支部の中では私たちのレテンシーも『制限』されるから外のようには戦えない」


「でも、猿一匹”焼き払う”には丁度いい火力だよ!」


 ミルンは剣を自分の前に縦に掲げた。

 その瞬間剣が赤い光を発し、ボッ!という音をたてて瞬く間に炎となって剣を覆う。

 ミルンの周囲が高温と赤い光に包まれる。


「あまり無謀なことはしないでよね?」


 続いてエメルも両手の剣を手前でぶつけ合う。

 刀身がぶつかりあってキーンという高音が響くと共に、二つの刀身を青い光が包んだ。


「序盤から暴れすぎてガス欠起さないでよー?」


 エレーナが口元に笑みを浮かべながら言う。


 念獣は大きな咆哮をあげた。


 だが、今度はエメルとミルンもひるまない。

 念獣の咆哮とともに突風が三人を襲ったが誰も体勢を崩すことはなかった。


 突風で髪を後ろに流されながらも目をしっかり上げて念獣を睨みつける。


「毎回毎回、芸のない奴だね!」


 ミルンは勢いよく地面を蹴った。

 姿勢を低くしながら念獣に突進していく。

 あっという間に念獣との距離をつめたミルンはそのまま念獣右足目がけて突っ込んだ。

 間合いに入ったミルンは剣を身体の前で水平に構えてそのまま突っ走る。


 だが、その瞬間に念獣は不気味に微笑みながら右足を大きく持ち上げた。

 右足はミルンの間合いから遥か上空へ離れ、ミルンは足の真下に入ってしまった。


 このまま踏み潰してやる!!


 念獣はそう思うと力一杯振り上げた足に体重を移行させ、振り下ろそうとした。


 ドォォン!!!


 一際大きな地響きが廊下にこだます。

 エレーナは視界に迫る土煙を避けるべく左手を目の前に置く。


 やった……!一人潰したぞ!!

 念獣は勝ち誇って再び咆哮をあげようとした。



 ……が。



 直後に念獣は左足に鋭い痛みを感じだ。

 そして念獣は気づいた。


 今自分が捉えているのは廊下ではなく、天井だということに。

 そう、念獣は仰向けに倒れたのだ。


 一体なにがあったんだ?

 念獣は唸り声をあげながら身体を動かそうとしてもがく。


「ナイスタイミング!エメル!」


 仰向けに倒れた念獣右側からミルンの声がする。


「もう!無謀なことはしないっていったのに!」


 念獣の左後からエメルの声がする。


 ん?どういうことだ。

 一人正面から突っ込んでくる間、もう二人はその場で動いていなかったはず。

 なのにどうして後から声がするんだ……?


 念獣は痛みのない右足を動かしてどうにか体勢を立て直そうとした。

 が、右足を地面について背中を起したとき、今度は右足に激痛が走った。


 痛みによって念獣が低いうめき声をあげながら再び背中から倒れ込む。


 そうか……わかったぞ。こいつら軸足を狙ったのか……。


 最初の女が突進してきたとき右足で潰してやろうとしたが、そのときに体重は左足に集中する。そこを狙われたのか!


 念獣の左足には大きな斬り傷があり、ばっくりと割れた傷からは灰色の肉が見える。

 傷口からはドバドバと念獣の黒い血が流れ出ていた。


 右足にも焼けるような痛みを感じるが、これは最初の女の仕業だな……!


 念獣の右足は黒く焼け焦げていた。

 焼かれた足は黒い煙を上げ、周囲に咽返るような臭いが漂う。


 念獣の心に憎しみの炎が燃え上がった。

 よくもこんな苦痛を味あわせてくれたな……!!


 だが、憎しみに燃える念獣は一つのことに気づいた。

 奴らにはもう一人仲間がいたはずだ。そいつはどこだ?


 念獣は痛みで動かない両足に代わって両手を床について身体を起そうとした。


 その直後、空中を舞う黒い人影が視界に飛び込んできた。

 人影は念獣目がけて空中で一瞬静止したかと思うと一点の光とともに一気に落下してきた。


 物体が落下を開始した数秒後、念獣は光の正体を察知したがもう遅い。


 ズシャッ!!プシュゥゥ!!!


 何かが吹き出す音がすると同時に念獣は自分の首元がカッと熱くなるのを感じた。

 声を上げたいが何かが詰まったような感触がして発声できない。

 やがてじわじわと焼けるような痛みが首を伝わってくる。


 そうか……あの女……か……!


 念獣はすべてを理解したが徐々に気が遠くなっていく。身体の支えとしていた腕の力が抜けていくのを感じた。


 そして完全に腕の支えを失った念獣の身体はドスンという大きな音をたてて地面に叩きつけられる。


「だから、あたしを忘れてもらっちゃ困るっていっただろ?」


 意識の遠のく念獣の耳にエレーナの声が微かに聞こえた。


 やがて念獣は両手をだらんと広げ、自らの黒い血で染まった床に仰向けの状態で動かなくなった。


 ミルン、エメルは動かなくなった念獣を後ろにエレーナに駆け寄る。


「やったよ!エレーナさん!」

「演習、無事終了ですね!」


 エメルとミルンが笑顔でエレーナに言う。


「よくやったよあんたたち!」


 エレーナが二人に微笑みかける。


「ミルンが囮で本命の軸足はエメルが仕留めるか。なかなかいい考えね。

 攻撃の際、エメルがレテンシーを自分の足に集中させ放出しバネの変わりとして使ってスピードと斬撃の威力を何倍にも増幅させたってところかな?」


「やっぱりバレちゃいました?でも、レテンシーコントロールも大分上達してきたんですよー?」


「そそ!制限されてなければもっと速いんだから!」


「なるほどねぇ。んでもってミルンは斬りつける時に剣の炎で足の外側から内部まで一気に焼いたってわけねー」


「な~んだ。あたしもバレちゃってんのかぁ」


 ミルンが口を尖らせながら言う。


「そりゃそうでしょ~。あんたたちよりもずっと長くレベランスやってんだからねぇ?伊達にマスターなんて呼ばれてないよっ」


 エレーナが左手でミルンの額を軽くつつく。


「でも、序盤で暴れまわって後半ヘバっちゃうんじゃないかと思ってたけど、案外すんなりいったじゃん。まぁ二つ三つ注意点はあるかもだけど?」


「えへへ。まぁでも!無事一件落着したことだし!よかったじゃん!」


 その言葉と同時に廊下の奥の瓦礫の山から複数の声が聞こえてきた。


「あ、応援きたみたい。つってももう終わっちゃったけどさ!」


 ミルンが声のするほうへ向き直って言う。


「そうね。後の始末は任せて、あたしたちは戻ろうか。本部に『開門』の要請しちゃったけど、余計な心配だった――」


 刹那、エレーナの言葉を遮り噴火のごとく巨大な音が廊下を包んだ。

 直後に凄まじい温度の熱波が空間を支配した。

 あちらこちらから砂煙が激しく舞い、視界が遮られて何も見えなくなる。


 エメル、ミルン、エレーナの三人はあまりの音に耳を塞ぐ。

 熱波の影響で身体中から汗が吹き出してくる。

 砂煙のため目も庇いたいが轟音のせいで両手が使えない。

 三人は目を細めた。


 応援に駆けつけた部隊からも悲鳴が聞こえてくる。


 一体、一体これはなんだ……?


 三人は鳴り響く轟音の中、細めた目で徐々に視線をある場所へと向ける。

 ……そう、念獣の死体に。


 だが、そこには倒れているはずの念獣の姿はどこにもなかった。

 視界が悪いせいではない。

 黒い血の床は砂煙の影響で微かにしか見えないが、もっと目立つはずの死体がない。


 エメルとミルンは呆気に取られる。

 エレーナは耳を塞ぐのを止め、険しい顔である一点を注視していた。


 しばらくして、徐々に轟音と砂煙が収まって行き、視界が少しずつよくなってくる。


 エメルとミルンはエレーナが注視する先を見つめてハッと息をのんだ。


 そこには、全身血のような赤色の傷だらけの巨体が二本足で立っている。

 噴火した火山を思わせる上半身からは熱気の影響で蒸気があがっている。

 巨体の周囲は高熱で空間が歪んでいた。


 これは……まさか!?



 あの念獣か!!!

いつも「レベランス」をご愛読頂いている読者の皆様、誠にありがとうございます。

第一話からゆっくりと執筆していきましたが、早くも評価、ブックーマーク登録をして頂き、とても感激しております。

今後も精一杯精進、執筆していきますので何卒よろしくお願いいたします。


―――8月13日追記―――

文章評価、ストーリー評価ありがとうございます!

予想以上の高評価を頂き感無量でございます。

今後も多くの方に楽しんで頂けるように全力で執筆していきますので今後もよろしくお願いします!


感想、意見等随時受け付けておりますので、よろしければ遠慮なく投稿してください。

是非お願いします。


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