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レベランス  作者: ビオラ
2/16

第1話  心の隙間

「却下だ」


 太く低い男の声が部屋の静寂を破る。


 室内には少数の人間が部屋の中心の大きな木造の机を囲み、椅子に腰を掛けている。

 机の上には資料と思われる紙が各場所に広げられていた。紙には「作戦立案書」と書かれていてる。

 だが、皆の視線は目の前の資料ではなく部屋の一番奥へ向けられている。丁度先程却下と発した男の方向だ。

 色黒の肌を持ち頭部は白髪がわずかに生え残り、顔には頬に十字の傷がある。

 頬の十字の傷を指で幾度か撫でながらも表情は厳しさを醸し出していた。

 男は椅子に深く腰掛け、資料を手にしているが、やはりこの男の視線も手元の資料には向けられていない。


 男の視線の先と皆の視線の集まる先には一人の女性が立っている。


 女性は肩まである癖のない青い髪に、まだ若干幼さが残るが整った顔立ちに大きくハッキリとした黒い瞳を持ち、先ほどの声の主に一瞬間も目蓋を閉じずに見つめている。

 誰もがその外見からは想像できない程凛とした態度でその女性は存在していた。


 室内に男の声が響いてから十数秒後、机を囲んでいる者からため息、鼻笑い、欠伸など様々な音が発せられてきた。

 さらに数秒後には小声で何かを囁き始め、頻りに時間を気にしたり、椅子を引いて机上の資料を片付けたりするものなど各々の行動を取り始めていた。

 皆の関心は徐々に現在から次の段階へと移り変わり始めているのが分かった。


「君の案には毎回関心させられる」

 先ほど却下と言い放った声の主が女性の前で口を開いた。

 だが、周囲の人間は自分の行動を中断する様子はない。皆、男と女性の会話には無関心だった。


「だがね、エメル君。この作戦会議で君に発言権を与えた覚えはない。何度も言うが、作戦の立案は君の仕事ではないのだよ」

 エメルと呼ばれた女性は眉一つ動かさず黙って聞いていた。

 その言葉には棘も弁明もなく、ただ用意してきた言葉の羅列を並べているだけのように感じられた。


「そもそもこの作戦会議に同席すること自体、現在の君の階級と立場では不可能なのだ。

 だが、優秀な者には早くから他の者よりも経験の場を与え、さらに優秀な人材へと昇華させるためにこのような場に同席させているのだよ」


 そう話ながらも男は自身の机の資料などを片付け始めた。


「お言葉ですがマスター・ゼオル。私の他にも同階級の者が過去に何人もこの作戦会議に同席しております。

 その者達には一切の発言をお許しにならなかったと?」


 マスター・ゼオルと呼ばれた男が片付けをする手を止めゆっくりとエメルの方に向き直った。


「噂では、この会議に同席した者は皆同等の立場で議論を交わし、作戦に於ける意見交換は勿論のこと、立案も許され実際に可決されたという事例があると」

「それは単なる噂話にすぎん。君の同階級のものに発言権は与えておらん。言わば見学のようなものだ」

「本当に噂話ですか?この作戦会議の後には決まって同席者に特別任務が下されています。例え現状の階級では参加不可能な任務であっても」

「それはごく一部の特別任務だけだ。人員不足でやむ得ず補欠要員としてナイトクラスの者にも話が下りてくることもある」


 ゼオルは先ほどよりも明らかに早口で刺々しい口調になっているが、エメルは構わず続ける。


「それは妙ですね。毎週定例のこの作戦会議の度に人員不足が起きていると仰るのですか?それに補欠の人材も毎回護衛課と特殊任務処理1課の中から選抜されているようですがこれは偶然でしょうか?」

「特別任務は危険度が高い。君の所属する偵察課よりも実戦経験も戦闘技術もある先の2課に話が下りるのは至局当然のことであろう?」

 ゼオルは厳しい表情のまま答える。


「偵察課は戦闘を可能な限り避ける隠密行動を身上として任務を遂行します。先程の人員不足の原因が任務時の戦闘に於けるチームメンバーの負傷や戦闘不能にあるなら尚更、戦闘を専門とする部署に補欠を当たるのは効率が悪いのでは?」


 その言葉を聞いてゼオルは鼻で笑った。


「フン。高度な戦闘技術を要求される特別任務において、専門の者を使わずしていつ使うのだ?」

「ですが、特別任務では事前の偵察がなされていないため敵の戦力や現地の様子など必要な情報が得られていません。戦闘分野に特化した方々でも、目隠しのまま戦闘に入るのは分が悪いのでは?」

「では偵察課なら先の2課よりもどういう点で適正だと言うのだ?」


 ゼオルが吐き捨てるように言い放つ。


「偵察課なら臨時の任務でも通常任務でも初期の情報量という点ではあまり差はありません。私たちは現地で情報収集を行い、敵との戦闘を避けこちらの気配を気取られないまま諜報活動を続けることができます」


 ゼオルが少し眉をひそめる。


 エメルは表情を変えずに続ける。


「以上のことから先程私が提案した作戦遂行時における偵察課とその他の部署との連携を強化して--」

「もうよい!!」


 バンッ!という乾いた鈍い音と怒号が部屋中に響いた。マスター・ゼオルが机を両手で思い切り叩き、こちらを睨みつける。


 エメルは少し驚いた顔で話を止めた。


 背後では片付けを終えて部屋を立ち去ろうとしていた者たちが一瞬ビクっと動き、ゆっくりと驚いた表情でこちらを見る。


「いいか!黙って聞いておれば毎度毎度勝手なことを抜かしおって!このわしを誰だと思っておる?

 お前に発言を許すも許さぬもわしの一声でいくらでも変わるのだ!半人前の小娘ごときが大事な作戦会議で出すぎた真似をしおって!」


 ゼオルが声を荒げる。


「偵察課との連携強化だと?そんなまどろっこしい事をしている間にも敵は着実に動いているのだ!第一我が特殊任務処理1課は目隠し状態くらいなんのハンデにもならん!貴様らとは根本的な鍛え方が違うのだ!」


 ゼオルは肩を小刻みに上下させ呼吸を荒げてエメルをまくしたてたが、やがて口元に薄らと笑みを浮かべた。


「フン。まぁ貴様らには分からんだろうな。任務は迅速に遂行することが命なのだ!臨時の特別任務ともあれば尚更だ!その大事な任務の分隊に偵察課などと、ましてや貴様みたいな女が--」


 そこまででゼオルは急に止めた。

 今まで矢継ぎ早に放たれていた言葉の連撃が急に止まり、周囲の者も驚きの表情を浮かべている。


 ゼオルは何かを誤魔化すかのように頻りに周囲の物へ視線を逃がしている。


 エメルは下唇を噛んで少し震えていた。身体と頭が徐々に熱くなってくるのが分かった。ゼオルとの間に沈黙が流れた。


 背後では、小声で何かを話す声が聞こえてきたがすぐに収まり皆早々と部屋を出て行ってしまった。



 室内に取り残されたのはゼオルとエメルだけだった。再び沈黙が室内を支配する。

 室内には時計が秒針を刻む音がこだます。先程の怒号が嘘だったかのようだ。



 しばらくしてゼオルは呼吸を整え先程の荒げた口調ではなく落ち着いた声で続けた。


「まぁよいわ。今日の作戦会議はこれにて終了だ。少々言葉が出すぎたが今後は立場をわきまえて作戦会議に臨みたまえ」


 それだけ言い残すと資料を手に持ったままエメルの横をスタスタと足早に通り過ぎていってしまった。


 少し間を置いてて背後から扉が閉まる音が部屋にゆっくりと響く。


 室内が静まり返り、エメルは俯きながらゼオルの席から自分の席へとゆっくり歩く。



 作戦会議が始まる前から覚悟はしていたが、改めて面と向かって言われると悔しさが心に沸きあがってくる。

 エメルは拳を固めていた。


 貴様みたいな女がか……


 男女差別。簡単に表現するならこういうことになるだろう。


 人間とは正直な生き物だ。感情的になると咄嗟に本音を口走ってしまう。

 どんなに論理的なことを言ってもすべての原因は私が女だということ。


 エメルは机の上の荷物を片付けながらも自らの視線は机でも荷物でもなく、どこか遠いところを見ていた。


 ふと、脳裏に過去の映像が過る。


 今回の作戦立案だけでなく実戦任務に初投入されたときも女だという理由で分隊の足を引っ張ると勝手に決め付けられたこと。

 任務地で活動中でも皆露骨に私の意見だけ無視をしたこと。

 結果的にその任務は失敗し、その責任を分隊との意思疎通、連携不足だったという理由で私に押し付けられたこと。


 過去の辛い記憶の波がエメルの心を飲み込もうとし、悲しさと悔しさのあまり心が刃物で突き刺されたように痛みで目が涙で潤んでくる。


 自分は価値のない人間なのかもしれない……。


 エメルは頭を横に振った。


 これ以上こんなことを考えていたら一人で泣き出してしまうと思ったエメルは自分の荷物を素早く片付けると俯いたまま早歩きで部屋の出口へ向かった。


 部屋の扉には『合同会議室01』と書かれた札が掛かっている。ドアノブに手を掛けた時、自分の手が震えているのが分かった。

 この震えはなんだろう?悔しさ?悲しさ?

 自分の中に消化しきれない感情がある。こんな自分では到底人に認めてもらうことなんてできない。到底……。


 そんなことを考えながら気がつくと会議室の扉の入り口を見ながら廊下に立っていた。


 いけないいけない、気持ちを切り替えていかなくちゃ。心の中で自分に言い聞かせ踵を返して廊下を歩き始めようとした時……。


 トンッ!


 背後から勢いよく誰かに肩を叩かれた。


 驚いて声をあげそうになったがずっと口を固く結んでいたのでうまく発声できない。

 身体だけビクッと反応して叩かれたほうを見るとそこには短めの赤い髪の女性が笑顔で立っていた。


「おつかれエメルっ!」


 ショートカットの赤い髪の人から元気な高い声がする。

 顔立ちはエメルと同じく整っているが、活発的な笑顔のせいかエメルより少し大人びて見える。

 エメルと違い若干癖のある髪を短くカットしていてボーイッシュな外見だがこちらも女性だ。


「おつかれミルン」

 あわてて笑顔を作って返す。


「ん~?どしたの暗い顔して?」

 ミルンがエメルの顔を覗き込みながら言う。エメルは思わず呆気に取られた顔で見返した。


「もうっ!作り笑いしたってあたしにはバレバレなんだからねー?」

 そういうとエメルの頬を冗談交じりに軽くつねる。


「うう、ごめんごめん。ちょっとさっきの会議で色々言われて……」

 頬をつねられながらエメルが答える。ミルンがエメルの頬から手を離しながら深くため息をついた。


「ま~たお偉いさんのジジいどもに何か言われたの?んなのいちいち気にしてちゃダメだっつーの」

 頭の後に手を組みながらミルンが言う。エメルはさっき言われたことが頭によぎったがそれを振り払おうとミルンに笑顔で返した。


「ほら~まーた作り笑いするー!何度も言うけどバレてんだからね!」ミルンがこちらを指さしながら言う。

 しまったと言う顔をしているエメルの手をミルンが取る。


「あんたはあんた、あたしはあたしだよ?」


 エメルはハっとして握られた自分の手に視線を向けた。

 頭の中に過去の記憶が蘇る。だが今度は嫌な記憶ではなかった。


(自分を見失ったら他人を護ることなんてできないんだよ?

 人は人。自分は自分。レベランスとして生きるなら常に自分を見失わないこと)


 エメルの脳裏に懐かしい女性の声が響く。心の中に空いた隙間が、懐かしい声とともに徐々に埋められていくのが分かった。


 悲しみや悔しさで凍りついた心が溶かされていく。


 暖かい……。人の言葉ってこんなに癒されるんだ……。


「ほらっ!今日の仕事終わったんだから戻るよ!あんたが好きな食堂のメロンパン無くなっちゃうぞー!」


 再びエメルがハッとする。

 気づくとミルンの手は自分の手から離れ、ミルンはもう自分の数十歩先のほうから叫んでいた。


「取れそうだったら取っておくから~!早めにきてよー!」

 ミルンはそれだけ言うと手を振って先に走って行った。


 メロンパンか……。そういえば今日は一日多忙でまともなものを口にしてなかったっけ?

 ふと、先程の重い気分が一転し、空腹感が訪れた。


 何気ない会話だったけど、エメルの心には暗闇の中に一点の光が差し込んだかのように感じられた。


 ミルンはさっきの会議でエメルが何を言われたかを聞かなかった。……いや、察していたのかもしれない。


 いつもエメルが落ち込んだときは笑顔で接してくれる。

 そうやって楽しいことで頭を満たしてしまえば嫌なことは忘れられる。楽しいことだけ考えていれば心も明るく元気になる。

 子供のような考え方かもしれないが、エメルにはそれがどれほど大事なことか分かっていた。


 落ち込んだ時こそ笑顔。そして自分は見失わない。


 口にするのは簡単だけど実際やってみると一人では難しい。

 けれど二人なら……。心の穴をお互いに埋め合うこともできるのかもしれない。


 エメルは歩きだした。もうミルンは先の角を曲がって見えなくなってしまったけどミルンの笑顔がエメルの目に浮かんでいた。


 誰からも認めてもらえない。いや、そうじゃない。私には私のことを認めてくれる友達がいる。

 そしてその友達は私を必要としてくれる。私にもその友達が必要だ。


 価値のない人間なんて思っちゃだめだ。人の価値なんて簡単に計れるものじゃない。

 自分の価値は自分の生きかた次第で決まる。

 落ち込んでいる暇があるなら前向きにっと。


 エメルは歩みを速めた。



 ミルンとエメルの同期でお互い一番の親友だ。

 正確にはエメルとミルンはレベランスに入隊する前からの親友で笑うことも泣くことも共にしてきた。

 数々の危険な任務を共にこなし、本当の意味で信頼し合える唯一の存在。


 それだけ仲も良く絆も深いが、実は女性ということ以外は外見も趣味も性格も正反対の二人。


 例えば髪の毛の色や長さにしてもエメルは青色の髪に癖のないストレートの髪を肩まで伸ばしている。

 一方ミルンは少し癖のある赤い髪を短く整えていて髪形だけ見れば男性のヘアスタイルに近い。

 性格も周りからの評価ではあるが、エメルは大人しくおっとりとした性格であるが、反対にミルンは活発的でいつも元気にしている。

 そんな二人がいつも仲良く一緒にいることを周囲の人間からは驚かれることが多い。


 でも二人は正反対だからこそ、お互いのいい部分も悪い部分も見つめあうことができると思っている。


 楽しいことは二人で二倍にしたらいい。辛いことは二人で別けあって半分にしたらいい。

 お互いの足りないところは二人で足していったらいい。そうやって今までうまくやってきた。


 正反対というのは周りが思う程厄介なことではないと二人は思っていた。


 レベランスには任務、訓練など辛いことがたくさんある。

 だがレベランスになる者は皆理由がある。


 そもそもレベランスとは、エメルたちの暮す街『ピュレジア』を守護する存在。


 ピュレジアは広い海の上に浮かぶ島国で、下層、中層、上層からなる三層構造の国だ。

 下層は港になっていて他国へ出国する際はここを使う。他国との貿易やレベランスたちが他国へ任務に赴く際もここを利用する。列車も出ていてこれを利用して遠くへ行くこともできる。


 中層は商業区及び居住区になっていて、ピュレジアで暮す人の住居があったり商いを行う地区だ。


 他国との貿易が盛んなピュレジアの商業区は食材や日用品、他国からの貿易品など様々な品が取引されていていつも大勢の人で賑わっている。


 上層はエメルたちレベランスの拠点が存在するエリアで一般の市民がここへ近づくことはあまりない。

 警備も他の層に比べるとかなり厳重でどこか張り詰めた雰囲気のエリアだ。


 そんなピュレジアを守護する存在が『レベランス-ピュレジア支部』でありエメルやミルンたちである。

 レベランスたちはピュレジアの平和を秩序を護るため日々様々な任に就いている。


 任務と一言に言っても色々ある。

 例えば他国との貿易が盛んなピュレジアだが、人の出入りが激しいだけにトラブルも耐えない。

 市民同士のちょっとしたトラブルならまだいいが、中には貿易の際に他国からピュレジアに禁制品が持ちこまれたりすることもある。そういった品の取り締まりもレベランスの役目だ。


 他にも治安維持のための定期的な巡回、市民の声に耳を傾け、政治に反映していく。これもレベランスの任務だ。

 ただし全てのレベランスたちが全ての任務をこなすわけではない。


 レベランスの本拠地には七支柱と呼ばれるものが者が存在し、それぞれ『政治』『司法』『貿易』『軍事』『自然』『学問』『部族』という七つの要素に分けられる。

 任務はピュレジアや他国からこの七支柱を通してレベランスに依頼される。


 そして各ピュレジア支部に分割された後、支部の上役が任務ランクを決定し、受注条件を満たしたレベランスが自ら任務を引き受ける形になる。


 ただし、任務を受注する際もいくつか条件が存在する。


 まず一つが『階級』だ。


 レベランスには大きく分けて5つの階級が存在する。


 即ち、『レベランルーキー』『レベランナイト』『レベランガード』『マスター・オブ・レベランス』『ロード・オブ・レベランス』の五つだ。


 この内最も階級が低いのはレベランルーキー。レベランス入隊から3ヶ月未満の者たちである。

 この階級では訓練によって経験を積んでいくため実戦任務の受注資格は一切ない。

 原則として参加資格も与えられていないが、優秀なルーキーには例外的に実戦任務参加資格が与えられることもある。


 そしてルーキーの期間が終了すると自動的にレベランナイトへ昇級する。


 レベランナイトとレベランガードにはさらに細かく3つの階級が設定されており、それぞれ『1st』『2nd』『3rd』のが存在し、1stが最も高ランクだ。

 レベランナイト2ndから低ランクではあるが任務受注資格が与えられ、より実戦的な経験を積むことが可能となる。


 マスターから上の階級へは極一部のレベランスしかなることができない。

 特にロード・オブ・レベランスは七支柱と呼ばれる者に与えられる階級であり、双方は同じ意味を持つ。

 つまりロード・オブ・レベランスは世界で7人しかおらず、マスターから七支柱に上りつめることは並大抵のことではない。


 そして任務にも区分があり、各レベランスたちが配属される部署によって受注可能な任務の種類も変わってくる。


 他国の要人を警護する『要人護衛課』

 敵地への偵察行動、及び情報収集を専門とする『偵察課』

 偵察課より提供された情報を迅速に処理し伝達する『情報処理課』

 偵察課と情報処理課より提供された情報を元に敵地へ赴き、交渉、制圧、殲滅等を行う『特殊任務処理1課』

 地域の治安、民意の収集、巡回任務などを専門的に行う『特殊任務処理2課』

 以上5つの課によって任務の種類が分けられている。


 エメルとミルンが所属する偵察課は基本的に情報のない状態で敵地へ赴くため当然危険度が高い任務が多い。

 しかし、任務上の障害の除去及び自己防衛の他は戦闘行為を禁じられているので戦闘を専門とする部署からかなり劣等な扱いを受けている。


 それの最もたる例が先程のゼオルとエメルの会話である。

 ゼオルは特殊任務処理1課のトップであり階級はマスター・オブ・レベランスである。

 年齢は50を超えているがいまだに現役であり、その経験に裏付けられて展開される作戦には失敗の二文字はないと噂される。


 一方でエメルは偵察課で優秀な成績を持ち、実務経験も戦闘能力も分析力も並のレベランスの比ではないが、ゼオルよりも遥かに若く、階級はレベランナイト1stであり、さらに女ということで他の同階級と比べると劣等な扱いを受けていた。


 そんな両者の衝突は日常的に行われていたため周囲の者も段々と無関心を決め込むようになっていった。

 マスター階級のものに逆らえば自分がレベランスとして生きていけなくなると分かっていたからだ。


 特にゼオルは男尊女卑の考えが強く、自分より若く女性であるエメルに対しては理不尽な扱いをすることも多々あった。



 ……でも、私は負けない。


 私がレベランスになった理由はこの世から「差別」をなくすため。女性であるというだけであれこれ劣等な扱いを受けるのは間違っている。

 身体の作りや思考パターンは違えど元は同じ人間なはず。

 これ以上辛い経験をする女性を増やしたくない。だから私は負けない。負けられない。

 いつか七支柱にまで上りつめて絶対この理不尽な世を正して見せる。

 大それた目的なのかもしれないけどそれが私の中の「正義」なのだから。


 この先どんな困難が待ち受けているか、想像もつかない。

 でも、どんな困難だって……仲間と一緒に……。


 気が付くと大勢のレベランスがいる食堂に辿りついていた。


 配膳用のトレーを手に好みの料理を乗せて席へ着くレベランスたち。

 勿論男女によるメニューの差異などない。みんな同じものを食べている。


 そう、これが普通なんだ。みんな自然と暮しているじゃない。

 私はこれをただ……。


「ようっエメル!お疲れ様!」

「あ、エメルちゃん!会議お疲れ様!さっきミルンがメロンパンがない~!って騒いでたよ?」

 同期の男女が食堂の入り口で立っているエメルに声かける。


「二人ともお疲れ様!メロンパンなくなっちゃったのかぁ。今日はアップルパイにしようかな?」


 エメルが笑顔で返す。

 いつもと何も変わらない二人だが、自分の気持ちが沈んでいると少し眩しく感じられる。


「ふふ。相変わらず甘いもの好きね!でも全然太らないからまったく羨ましい限りだよ~」

「その分ちゃんと訓練してますからっ!」

 エメルが再び返す。今度は無意識のうちに笑顔になった。


「ふふっ。じゃあまたね!」


 そう言って同期の仲間はエメルに手を振って食堂を後にした。


 エメルも二人に手を振って振り返ろうとする。


「ほいっ!パス!」


 振り返った瞬間に前方から何かが飛んできた。

 エメルは瞬時に反応して荷物を抱えていない右手でそれを受け止めた。


『完熟メロンパン』

 受け止めた手にはそう書かれた袋があった。


「ぜぇぜぇ……それが最後の一個……」


 前方から少し呼吸を乱したミルンが歩いてくる。


「ありがとうミルン!もう無理しなくていいのに~」


 エメルがミルンの横に並びながら笑顔で言う。


「へっへ~ん!あたしに不可能はないんだよ!例えどんな困難でも立ち向かうのがあたしってもんさ!」

 得意げな顔をしながらミルンが歩く。


「ふふっ。そうだね。どんな辛いことも困難も……二人でなら乗り越えられるよね!」

 エメルがミルンの手を取って一緒に歩きながら笑顔で言う。


 ミルンは少し目を丸くして見返してきたがすぐに笑顔になって

「やっとちゃんと笑ったな!」とエメルの背中を軽く叩いた。


 二人でなら大丈夫。そう思ってエメルとミルンは静かに席に着いた。

第一話をご覧頂き誠ににありがとうございます。

小説の執筆経験ゼロの新米小説家の処女作ですので色々と至らない点も多いかと思いますが精一杯執筆して行きたいと思いますので最後まで応援よろしくお願いします。

ご意見、ご感想等ありましたらコメント頂けると幸いです。


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