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霧の朝、そして流星

 9


 G型太陽の強烈な光が、偏光ガラスを通して、部屋の中に入り込んでいる。

 GFBI――銀河連邦警察局支局の、特捜刑事課。隅の席でふたりの特捜刑事がランチを取りながら、捜査の状況について情報を交換していた。

 ふたりが広げているファイル、「ハーディーマン惑星開発株式会社の概要」と、表題にはある。

 先輩の刑事はココア色の肌にウエーブした短い髪、真っ赤な唇をもぐもぐ動かしながら、ゆっくりミルクティーをすする。

「この会社は、裏の世界にいろいろ関わっていたようね。例えば、モグリの整形、人工臓器、クローン……あと、遺伝子治療とか」

「それにしても、何ででしょう。カーライル警部?」

 新米刑事は黒髪をショートカットにして、意志の強そうな黒い瞳で、じっと先輩刑事を見つめている。

 クロゼットから出したばかりの洋服が、防虫剤のにおいを発散させているように、彼女もまだ、警察学校の雰囲気を濃厚に漂わせていた。

 肩の階級賞には「仮配属」をしめす赤いラインが走っている。濃紺に近い黒い上下の制服の着こなしにも、どことなく硬さが感じられる。それを初々しさと取るか、ぎこちなさと取るかは、人それぞれであるが。

 カーライル警部は新米のミチの、教官役である。いつもコンビをくんで、マンツーマンで捜査のABCを叩き込むのだ。

「この会社、最近急に金回りがよくなったのよね。裏の金が入ってきているようなんだけど、それがどうしてかはまだ分からない。で、開発権のある惑星を片っ端から洗っているけど、よく分からないところが一つだけあるのよ。そこがくさいみたい」

「どこですか?」

「……MXIー01517星系第二惑星。通称は『トゥリオナ』。場所はここ」

 先輩刑事の口からその名前が出たとたん、ミチはどきりとした。続いて、その様子を気取られなかったかが気になった。

 カーライルはしなやかな指を操って、3Dディスプレイに、座標図を映しだした。

「すごい辺境ですね」

 ミチは平静を装って答えた。カーライルは真面目な目つきになった。

「これ、見る? この間の家宅捜索で出てきたものだけど」

 ホロカードを、テーブルの上に置いた。表面のスイッチを入れると、カード中央部のプロジェクターから三次元映像が次々に浮かび上がる。

 セピア色の防腐液につけられ、内蔵をくり抜かれた幼児。皮を剥かれ、脳がむき出しの赤ん坊……正視に堪えない映像が、カードの上に繰り出されてゆく。

「……うっぷ」

 思わず込み上げてしまい、シチューをすくっていたスプーンを落としてしまった。

「まだまだね」

 カーライルは涼しい顔で、クラブハウスサンドを口に運んでいる。

「すみませんでした……で、何なんですか? 普通の解剖じゃなさそうですね」

「それなのよね、疑問は」

 同僚は出払って、部屋には誰もいない。会話を盗み聞きされる心配はなかった。

「あと、これには映ってないけど、異星生物の標本もあったわ。理科大学のデータベースで調べてみても、載ってないのよね」

「ますます、何のことだか分かりませんが」

「あなたに分かれば、こっちだって苦労はないんだけど」

 取りようによっては見下した口調だが、それが嫌味に聞こえない。ある種の人徳だろうか。

「出ましょう。とりあえずあなたは帰っていいわ。23:00には戻ってきて」

「了解しました」

 ミチは敬礼を返した。

 全体像の分からない彼女には、この事件の捜査は進んでいるのだか、足踏みしているのだか分からない。加えて、彼女はまだ新人研修期間中の、半人前である。何日かに一度は、レポートを提出したり、講習を受けねばならない。

 いろいろなことが一度にのしかかってくる。身体の芯まで疲れ切ってしまうような日々が続き、官舎の自室に戻ることも少なくなっていた。

 この部屋に帰ってきたのは、三日ぶりだった。もっとも、着替えを取りに来るためだけだったが。

 メールボックス――電子メールではない、リアルメールの投入口だ――の中をまさぐると、自分宛の封筒が一通入っている。

 差出人はリネット・アスロン。送信場所はリグレー宙域、プレオプタス宇宙港となっている。

 名前を見たとき、一瞬、どきりとした。よりによって一番見たくないものを見てしまった――そんな気がした。

 いやな予感をなだめつつ、封を切った。

 封筒の中からは白い貝殻をあしらったピアスと、ホロカードが出てきた。端末に差し込んで画面を操作する。

 画面に、明るい表情の親友が映る。宇宙港で撮ったもののようだ。赤を基調にした派手な柄の半袖シャツを着て、ライトブルーのミニスカートをはいている。暖地向けの服装だ。映像の彼女はこちらに向けて会釈をして、話し始めた。


 親愛なるミチへ。


 お元気ですか? 私は、何とか元気でやっています。

 あなたにはちょっと遅れをとっちゃったけど、私もようやく、社会人への道を歩みはじめます。

 研修も終わって、もうすぐ初仕事です。トゥリオナという惑星を知ってる? 知らないわよね。私もこの仕事に就くことになって、初めて聞いたもの。

 私はその惑星で、海洋生態系の調査をすることになりました。

 いきなり、すごい辺境(定期便の通っている星系から、三日もかかるのよ。おまけに、カプセルに入りっぱなしなの)に飛ばされて、びっくりしちゃった。ちょっぴりホームシック……なんてね。

 

 通信事情が悪くて、手紙も三月に一ぺんくらいしか書けないと思うけど、我慢してね。そのかわり今度会えるときには、お互いに土産話をいっぱいしようね。

 この星の免税店にちょっといいものがありましたので、同封します。お気に召すかしら?

 ミチもお仕事頑張って、早く「泣く子も黙る、鬼の特捜刑事」って言われるようになってください。はるか遠い星からあなたの活躍を祈ってます。

 では、この辺で。


   愛を込めて

あなたのリネットより


 再生を終了させ、ミチはソファーに倒れ込む。白く光るプラスティックの天井を見ながら、ひとりごちた。

「運命の皮肉って、このことかしらね……」

 親友が犯罪行為に荷担しているなど、想像したくもない。

 しかし、彼女は入社したて、配属されたてである。多分自分と同じで、今は右も左も分からないだろう。責任のある仕事など、任されない――手を汚せるはずもないのだ。

 そう考えると、彼女はほんのすこしだけ、安心することができた。


 10


 金色の光が、地上に存在する物体にあまねく降り注いでいる。

 この時間、朝もやは、もう消えていた。しかし、朝露はまだ乾いていなかった。湿っぽい空気がたまった草原に、「こども」たちが集まっていた。あの「いえ」に住んでいた、全員がここにいる。

 「こども」たちの輪の中心には、白や黄色の花束に埋もれるように、少年と少女が立っている。

 ふたりは、この日のためにあつらえた純白の服に身を包み、その服や髪は野の花で飾り立てられている。

「みんな、わたしたちがいなくなっても元気で」

 輪の中心にいたティアは、皆に別れの挨拶をした。

「レフ、ラモン。あなたたちが一番歳上になってしまったんだから、みんなの世話をお願いね」

「うん」

 普段は腕白な男子連中も、この日ばかりは皆神妙な顔をして、黙っていた。

「……ティアーっ!」

 とりわけティアになついていた、小さな男の子が、顔をくしゃくしゃにして胸にすがりついてきた。

「……なんだか、あのときみたいね」

 男の子の頭を撫でながら、ティアは言った。

「ああ。きみも、憶えていたのか」

「忘れるわけ、ないでしょ」

 ふたりは、遠い日の記憶を確かめあうように、目配せを交わした。

 見送りの儀式はとどこおりなく終わり、日が高くなると、皆は「いえ」に帰った。草原にはふたりだけが残された。

 にわかに強くなった風に、銀色の髪を乱しながら、ティアがぽつりと言った。

「リネットに会いたかった……」

「来ないよ、彼女は」

 ハドリの答えはそっけなかった。

 太陽が、ふたりの真上で輝いている。普段なら地面に長く這っている影が、足元によどんでいる一塊だけになった。

 山の向こうから、何かが飛んできた。近づいてくるにつれて、その姿がはっきりしてくる。平べったい、皿のような機械だった。

 機械はふたりの目の前で垂直に着陸した。側面の扉が開く。中には席がしつらえてあった。

 《マム》の声が、機体から聞こえた。

「お迎えです。お乗りなさい」

 機体に取り付けられていたカメラアイが、ハドリに向いた。

「……あなたもです」

 彼は表情を変えなかった。

 促され、ふたりは乗り込んだ。機体は、ふわりと垂直に飛び立つ。

 なだらかな丘を越えると、はるか向こうに、緑色の大きな水たまりが見えてくる。眼下に見える視界のすべてが水になり、見渡す先まで、水面が続いている。

「あれが『うみ』なの?」

「そうだよ」

 視線を合わさずに、ハドリが答えた。

 空から見下ろす限り、その大きさの感覚は、ティアにはつかめなかった。

 海は陸地に大きく入り込んでいる。その真ん中に、巨大な銀色の棒のようなものがそそり立っていた。

「『塔』だ……」

 目を輝かせて窓の外を眺めるティアの横で、ハドリはぽつりと言った。

「時間だ、飲むんだ」

 この前と同じ、白い薬を取り出した。

「ここでも?」

 ティアは思わず問うていた。

 彼は、この薬を飲ませたがる。殆ど無理矢理に。いままでは手をさしのべれば、見えたはずの彼の心。

 ティアは訝った。

 陽が昇れば、草原に立ちこめている霧は晴れるのに、どうして彼の心の中の霧は、いつまでもかかったままなのだろう。

 彼女は、曖昧な不安にとらわれていた。



 11


 朦朧とした意識の中で、誰かが、リネットの顔をのぞき込んでいる。その顔が、ミチになったり、ティアになったり、見覚えのない顔になったり、あるいは母親に変化したりした。

 母親。美しく、偉大なドミナント。また彼女を、束縛しに来たのか。

「来ないで、母さん! 私はもう、母さんの言いなりにはならないの。もう……」

 頬にひんやりとした感触を感じ、彼女は目覚めた。

「ネピ……」

 センサーの赤い光が、のぞき込むように彼女の瞳に映る。

 彼女は後ろ手に、ロープで縛られていた。床がゆっくり揺れている。

 ここはどこか、今はいつか。そんな感覚が、ほとんどない。相当強い薬を投与されたらしく、頭の中に薄い膜がかかったようだ。

 首は自由にならない。眼だけを左右に動かす。

 ――暗闇。機械や道具が雑多においてある。物置のようだ。中は圧迫されるように狭苦しく、扉との間も荷物で隔てられている。

 私はこれからどうなるのだろう。

 ネピは華奢なマニピュレータで、懸命にロープに立ち向かった。しかし、非力な探知ロボットの手には負えない。

〈そう、駄目なの〉

 突然、壁の外側でナカオの声がした。

「みんな、聞いてくれ」

 気がつくと、外で話がはじまっている。

「今日は大潮だ。例のやつを……」

「ええっ」

 ところどころ、よく聞こえなかった。そこで皆はどよめいた。

 どーん!

 そのとき、船を衝撃が見舞う。大きく横に動き、続いて揺り戻しが襲う。

 彼女は固定されていない荷物と一緒に転がり、壁にたたきつけられた。

「やられた!」

「穴が空いてる!」

「ちくしょう、とうとう見つかった!」

 扉の向こうでは、怒号と足音が交錯する。

「何があったんですか!?」

 かろうじて動く膝下を動かし、何度も壁を蹴った。しかし、何の反応も返ってこない。

「みんな……」

 ナカオの声だ。それに続き、どたどたと一方向へ向けて足音が移動してゆく。

 どす黒い予感。

 足音は扉の前を何度も通り過ぎてゆく。

 彼女は取り残されてしまうらしい。そして、このまま海の藻屑にしてしまう算段のようだ。

 足音が静まった頃、もう一度、船は大きく揺れた。彼女はふたたび、壁に打ち付けられる。

「うっ!」

 身体を曲げて呻くと、突然、目の前が明るくなった。逆光に照らされて、黒い影になった大男が、目の前に立ちはだかっている。

 マニーだった。目の前の彼は、いつも羽織っていたよれよれの白衣ではなく、作業服をきちんと着ている。それに、アルコールのにおいがしない。

「あなたは……」

「黙ってろ」

 小声でどやしつけ、ポケットからナイフを取り出した。刃をロープにあてがい、一気に切った。それから、ミネラルウォーターの入ったボトルを、リネットの唇に押しつける。

 冷たい水で頭の中のもやを吹き払われた彼女は、自力で立ち上がる。

「ありがとうございます」

 リネットは扉へ向かおうとした。

「まあ、待て」

 マニーは制する。

「おれは出て行くが、おまえさんはこの船室にいろ。研究所のやつらには見つかるな。いいな。そして誰もいなくなったら、あそこのものを使え」

 そう言って、ロッカーを指さす。マニーは身を翻して、扉の外へ駆けていった。

 不安はあったが、彼の言いつけを守ることにした。

 完全に静かになってから、しばらくたった。足下に散らばったものを踏みつけながら近寄り、ロッカーを開くと、中に入っていたのは、ウェットスーツとバックパック。潜水器具一式だった。

 ナイトダイビングの経験はあった。しかし、こんな状況では、もちろん初めてだ。

 船が沈没しても、船内がすぐに水で一杯になってしまうわけではない。落ち着くことだ。彼女は自分に言い聞かせながら、大急ぎで装備を身につける。

 濃紺にピンクのラインが入ったウェットスーツは、身につけたときはぶかぶかだった。腰のバックルについているボタンを押すと、しゅっと収縮して彼女の身体に密着した。

 エネルギー残量が充分であることを確認して、バックパックを背負う。パックパックは、いわば人工の鰓である。海水に溶け込んでいる空気を濾し取り、気体にして肺に送り込む。エネルギーが続く限り、いくらでも潜水し続けることが可能である。また、バックパックはかつてのスキューバよりも格段に小さく、水中での動作は遥かに軽快だった。

 他にはゴーグル、フィン、ライト、ナイフ……。装備し終わると、脱ぎ捨てた作業服のポケットがもぞもぞ動いて、ネピが這い出した。この船の末路を予期しているのか、センサーを不安げに震わせている。

〈おまえも来る?〉

 バックパックの、物入れにしまった。

 傾きが次第に大きくなってゆく。この船の寿命は、そう長くはない。

 四、五分もたつと、とうとうドアの隙間から、獣の舌のような海水が浸入してきた。くるぶしを濡らしていた海水が、膝に達し、腰を浸す奔流になるまでまで、さほどの時間はかからなかった。

 完全に水に浸かるまで、室内にとどまっていた。船内が完全に海水で満たされると、甲板の出入り口から、そっと身を踊らせた。

 海中は無数の泡が渦巻いている。ライトを向けても、視界がとれない。乱れた水流に巻き込まれないように、一気に船を離れる。

 遠ざかってゆくとき、一度だけ、振り返った。

 はるか後方で、船は横倒しになって、それほど深くない海底に緩やかに落ちていった。


 沈没した高速船から脱出した研究所員たちは、ボートに乗り移り、暗い海面を進んでいった。

 最後部の座席には、ナカオ所長とマニーが並んで座っている。同じシートにほかの所員たちはいない。

「ジャン、あれでいいのか?」

 マニーが、ナカオに問いかけた。

「……ふん、所長と呼べ」

 ナカオは唇をゆがめた。マニーはかまわず話を続ける。

「こんな小細工で、やつらがごまかされるとは思えないが……」

「なあに」

 ナカオは平然としている。

「おまえがうまいところをやってくれて、感謝するよ。上の方にもよく取りはからってやろう……あの小娘は、もう少し役に立ってくれるだろう。あいつも、うまく潜入できたことだしな」

「そうか」

 前を向いたまま、マニーは気のない返事をした。

「あれも用意できた。何も心配することはない。きっと、うまくゆく」

 ナカオは足下に置いてあったアタッシェケースを、つま先で指す。

 電気駆動のボートは、静かに海面をわたってゆく。ボートの行く手には、周りの闇よりも黒々とした物体がのしかかっていた。それは、巨大な構造物だった。




 12


 ミチが特捜一課に配属されて、三ヶ月が過ぎようとしていた頃。

 特捜一課はウォルフ437星系で、海賊本拠地の強制捜査――俗に言う海賊討伐の任務についていた。

 彼女たちが乗り組んでいるアルバレート級強襲揚陸艦「ナーティウルス」は後方支援の指令を受けて、戦場の小惑星からはるかに離れた軌道を周回している。

 アルバレート級は、対海賊用として開発された艦で、宇宙軍の巡洋艦にも匹敵する火力と、通常空間で五〇G以上の加速が可能だという高速性、そして惑星大気圏内、通常宇宙空間、超空間すべてで運用出来る強力な機動性が特色だった。

 しかし、そのとき、この艦が投入されていた状況は、単なる後衛に過ぎず、小惑星上で繰り広げられているはずの大捕物からは、全く蚊帳の外だった。

「こんないい艦を、何故遊ばせておくのかしらね」

「もったいないなあ。これで突撃すりゃ、あいつらいちころだよ」

 乗組員たちの小声の雑談でも、自然とそんな話が何度も出た。

 海賊どもに手錠をかけられるわけでもない。ビームが飛んでくるわけでもない。緊張とは程遠い状況で、しかし、戦闘配備だけは取り続けねばならない。

 特捜刑事たちに特別招集がかけられたのは、そんな、どことなくだれた空気が船内に漂いはじめた頃である。

 船内中央の、小さなホールほどの空間に、男女合わせて数十人が集合した。

 ディスプレイに、制服に大きな星のバッジをつけた初老の男が映る。

 GFBI星系支局長、ジョージ・オマリー。ミチは3ヶ月前の着任式で見たことがあるきりだった。

「本艦および諸君は、これから特別任務に入る。目的地は、リグレー宙域MXIー01713A星系第二惑星『トゥリオナ』である」

(え!)

 ミチは心の中で、驚きの声をあげていた。

「目的は、『トゥリオナ』にあるハーディーマン産業、海洋生態系研究所の調査および、違法行為が確認された場合の摘発。同社は現在、現在惑星開発法、生態系保護法違反の容疑で捜査の対象になっている。それは、諸君も知っているところだろう。確認され次第、裁判所に捜査令状を請求し、発行と同時に強制捜査に入る。以上、諸君の吉報を待つ」

 それだけを伝えて、ディスプレイは消えた。

「……と、そういうことだ」

 画像が終わると、特捜一課長が話を引き継いだ。彼だけは最初から目的を知っていたであろう。

(トゥリオナって、まさか)

 ミチの顔からは、血の気が引いていた。

(リネット、あんたじゃないよね。あんたは関係ないわよね……)

 このことを知っているのは、彼女だけのはずだ。話を上の空で聞いていると、隣のカーライルにひじでわき腹をつつかれた。

「しゃんとなさい」

 小声で注意され、はっと我に返る。

「まずは斥候を惑星に降下させて、情報収拾および、当該施設の偵察を行ってもらう。誰か、斥候に志願するものはいないか」

「私がやるわ」

 カーライルが挙手した。とすると、パートナーは自動的にミチになる。

「もうひとりはアサガミか。経験はないし、大丈夫なのか」

「心配いりませんよ。経験なんて、しなきゃ身に付かないもの。ねえ、ミチ。

飛行時間は何時間?」

「はい、実機、圧縮教育シミュレータ併せて一〇時間です!」

「レインジャー訓練は受けてるわね?」

「は、はい!」

 確かに警察学校時代、受けてはいた。もっとも、この場でそれ以外の返事が出来ようはずもない。

「よし。キャサリン・カーライルとミチ・アサガミ。この二名がシャトルで地上に降下する」

「了解!」

 ふたりは敬礼で応えた。

「到着予定時刻は、明後日の〇九:三〇。それまで自由時間だ。せいぜい英気を養っておけ――カプセルに入ってるとき以外はな。では、解散!」

 彼はだらだらとした訓示を好まなかった。短時間で終わらせ、壇上を降りた。

 恒星船がトゥリオナに向かうあいだ、特捜刑事たちは、それぞれのやり方で貴重な自由時間を過ごしていた。

 先程まで集会が行われた部屋は、いまはトレーニングルームになっている。そこでミチは射撃の訓練を行っていた。

 斜め前、右、次は後ろ。部屋のそこかしこに、ホログラフィで標的が投射される。ブラスターを構えたミチは、機敏に体勢を変えながら、的にレーザーを当てていった。

 練習メニューをすべてこなすと、息を切らして、ドレッシングルームに引っ込んだ。

 シャワーを浴びて出てくると、ロッカーの前にはカーライルが立っている。

「ちょっと、普段よりも成績が落ちてるわね。特に遠射」

 手元にポップアップされた、3Dディスプレイの表示を見たカーライルは、冷静な口調で言った。

「……」

 ミチは無言で、濡れた髪を薄いピンクのタオルで、くしゃくしゃかき混ぜていた。無礼な態度は、もとより承知だった。

「どうしたの?」

「特に、なにもないです」

「友達でもいるのかな、あの惑星に」

「……!」

「図星ね」

 そのそぶりから、カーライルはすべてを悟ったようだった。

「どんな仲かは、今詮索している暇はないわ。ただし、もしあなたの友達が法を犯していたのなら、あなたの手で手錠をかけてあげなさい。それが、ほんとの友情よ」

「……分かりました」

 唇を噛み締めるミチに、彼女はバンダナを差し出した。

「いいものあげる。髪が邪魔でしょ。これで留めなさい」

「は、はい。有難うございます」

 顔を上げ、敬礼を返す。

「もう、ごちゃごちゃ言う気はないわ。期待してるわよ」

 カーライルは出ていく間際、ミチの背中を一回どやしつけた。

 その三時間後。

 制服の上に宇宙服を装着したふたりは、シャトルに搭乗した。

 大気圏内外を往還できる性能を持っているため、シャトルと呼ばれているが、その外見も性能も戦闘機そのものだ。偵察、情報収集のためのステルス機で、も運用可能な――大気圏内では、大気を直接加熱して噴射し、宇宙空間では推進剤を使用する――性能を有していた。

 動力源として、モノポール反応炉を搭載している。機体そのものには、武装はされていないが、その機動力は戦闘機に匹敵する。

 コクピットの住人に許されたスペースはあまりにも小さく、ふたりが搭乗して、キャノピーを閉めると、内部は息苦しいほどの圧迫感に満たされた。

 パイロットはカーライルである。シャトルの操縦資格を持っているのは、特捜刑事のなかでも、かなりのベテランに限られる。ミチも、特捜刑事としての経験を積んでゆけば、シャトル操縦の講習を受けるときが来るかもしれない。でもそれは、今の彼女にとっては、はるかな未来のこと。

 前部、副操縦士席のミチは、オペレーターである。

 半透明のキャノピーは、ディスプレイを兼ねている。電子機器から送られた情報が映り、搭乗員は、視線を前に向けたままで、表示を読みとることがで着る。

 シミュレータと同じ配置、同じ画面。この時代の電子装置は自動化、標準化が進んでおり、警察学校で通り一遍の講習を受けただけのミチでも、さほど戸惑わずに操作することが出来る。

 もっとも、ドミナントならば、すべての電子機器を自分の感覚器官と同等に感じ、操ることができるという――リネットだったら、目の前の計器たちが繰り出す情報を、どんな具合に感じるだろうか。ミチはふと、遠くにいるはずの親友を想った。

 しかし、感慨に浸っている時間はない。

「ペルクリフ1、発進!」

 ヘルメットの内側に、管制官の声が響いた。

 ブースターを背負った機は、進行方向とは反対に噴射を行い、5Gの加速度で減速する。

 コンソールを操作しようとするが、うまく動かない。腕が重金属になったように感じた。

 軌道上でブースターを切り離す。発進してから数時間後、シャトルはトゥリオナの衛星になることに成功した。

 軌道周回中、何度かウィンダム島の上空を通過した。それを見逃さず、ミチはアビオニクス表示をチェックする。

「島をサーチします」

 ヘッドアップディスプレイに映った島の地図に、カーソルを動かした。

「ここ、ミューオン反応が出ています」

 島の北部にある、半円形の湾の真ん中に、赤い点が表示されている。

「出力数十万キロワット級の、モノポール反応炉」と、コンピュータはその情報を解析し、正体を推測した。

 小ぢんまりとした観測基地とは、何とも不釣り合いな代物だ。

「やっぱり、何かあるのね」

 カーライルはひとりごちた。

 惑星の裏側、昼のところから大気圏に突入し、ウィンダム島に向かう。

 眼下は、行けども行けども海が続く。島影すら、全く見えない。

 西へ向かって飛行してゆく。太陽はみるみるうちに高度を低くしてゆき、やがて機は夜の半球に突入した。

 フラットブラックの機体は、夜の闇に完全に溶け込んで、地上から肉眼で確認するのは困難だろう。

 南西方向から、マッハ二の巡航速度で島に近づく。隠密裡に降下できるところを探して、島の周りを周回飛行した。

「これ……」

 島の北側、反応があった湾が見えてくると、パイロットのカーライルがうめいた。

 反応の源と思われるそれは、何とも異様な姿をしているではないか。

 湾は、数百メートルもある断崖絶壁に囲まれ、島から隔てられている。まん丸の中心に、人工的な構造物がある。海から直接そびえたつ塔だった。ところどころにきらめくものが見え、その光に照らされた部分は、金属の、鈍い輝きを放っている。高さは優に五百メートルはあるだろう……。

 ミチはその姿に、何か引っかかるものを感じた。そして、顎の骨伝導マイクを通して訊ねた。

「もう少し、接近できませんか?」

 カーライルは答えた。

「あたしたちの目的は、あくまで地上に降り立って、基地の情報を収集することよ」

「少しだけでいいんです」

 ほんのわずか言葉が途切れた後、

「了解。計器をよく見てて」

その声とともに、機体が傾く。

 島の中央部にそびえる火山の影に回り、時計回りに旋回しながら、その半径を縮めてゆく。

 コクピット正面のモニターを、望遠モードにすると、塔はその細部までくっきりとその姿を映し出された。

 表面は奇怪な凹凸で、パッチワークのように装飾されている。異常な質感を感じる。材質は石やコンクリートなどの、普通の建材ではないようだった。

 ふたりは息を飲んだ。

「まるで……」

 カーライルは言葉を発しかけた。その次の瞬間、出し抜けに閃光がキャノピーを白く染めた。

 激しい衝撃がシャトルを襲う。

「きゃあっ!」

「何、これ!」

 ディスプレイの表示が、すべて警報に変わった。様々な種類のアラームが一斉にわめき散らし、不愉快な不協和音となってコクピット内にこだました。

 四点ベルトが、体に激しく食い込む。機は何者の制御も受け付けなくなった。

「ええぇぇい!」

 パイロットは思いどおりになってくれない操縦桿と格闘し、オペレーターはディスプレイに飛び交う情報を懸命に読み取り、何が起こっているのかを見極めようとした。

 航法コンピュータは現在機が置かれている状況を判断する。

「機体後部、右可変翼と水平尾翼が破損。高エネルギービーム攻撃によるものと推測」

 ミチはインカムに向かって叫んだ。

「緊急連絡、緊急連絡! こちらペルクリフ1、本機は11:25にウィンダム島沿岸で攻撃を受け、機体後部に被弾した模様。損傷の程度はきわめて深刻。これより本機は非常着陸……駄目です、システム何の反応もありません!」

 絶叫は絶望に満ちた響きになった。前後、左右、そして上下。機体は激しく揺さぶられる。ミチは数秒間、カクテルシェーカー中の氷の気分を味わった。

「脱出するわよ、構えて!」

 カーライルはコンソールパネルの奥に隠されていた、緊急脱出レバーを引いた。

「うううわあーっ!!」

 爆発。強烈な上方G。壁にぶち当たったような衝撃に首がきしむ。

 キャノピーが成形爆薬の力で吹き飛び、二つの座席が大気の中へ放り出される。

 虚空に二つの白い花が開いた。その数秒後、北の海面は明るく輝いた。それにやや遅れて、衝撃波の輪が海面に広がってゆく。

 パラシュートによって制動された二つの人影は、砂丘の懐に、ふわりと降り立った。

「大丈夫、ミチ?」

 カーライルが問う。一足先にパラシュートを外し、畳んで脇に抱えている。

「は、はい!」

 頭から砂にまみれながらも、しっかりした声で、ミチは応えた。

 。

 彼女も意識ははっきりしており、見た目に分かる深手を負ってはしなかった。 しかし、遠い惑星の上、ふたりは完全に孤立してしまった。

 母艦はシャトルを送り出したあと、発見されるのを防ぐために、第一惑星の分厚いアンモニアの大気の中へその身を潜めているはずだ。

 ガス惑星の大気に満ちる強烈な磁場と空電のただ中では、携帯無線機の微弱な電波など、とうてい届くものではない。

 斥候のふたりは、再び無人で軌道に上がったシャトルを経由して、一時間に一回定時連絡を入れることになっている。それが途切れたのなら、母艦から救助が来る可能性があるが、少なくとも六時間後の話だ。それまでに、さらなる敵の襲撃が無いとは、とても考えられまい。

「ステルス機を、よく撃ち落としたわね。重力波レーダーでも使ってるのかしら……ここの敵さん、なかなかやるわね」

 カーライルは白い歯を見せた。せめてもの余裕なのか。が、しかし、

「……ごほっ」

 次の瞬間、激しく咳き込んだ。口を押さえた指のあいだから、どろりとした液体がしたたった。

「大丈夫ですか?」

「平気よ。ちょっと操縦桿で打っただけだから」

 ぜいぜい肩で息をしながら、彼女はあくまで気丈だった。

 ミチはバックパックからファーストエイド・キットを取り出し、応急処置を施そうとした。が、骨や内蔵がやられているのならば、気休めにしかならないだろう。

 ミチは頭を下げながら、カーライルの上着に手をかけた。

「申し訳ありません、自分が……」

「いいわ!」

 肩にまつわりついたお節介な手をはねのけた。

「すみません、自分が……」

「こんなことしてたら、あなた、死ぬわよ」

 ミチは黙るほかなかった。

「いつまで、ぼやぼやしているの」

「は、はいっ!」

 ふたりは手近にある岩の影に身を寄せた。

 ミチも不自由な宇宙服を脱ぎ捨て、制服の姿になった。

 戦闘態勢だ。

 ふたりは宇宙服のヘルメットを、特捜刑事制式のものとかぶり代えて、バイザーを目の前に下ろした。

 手持ちの武器の照準器を兼ねたバイザーは、赤外線スコープや、闇の中でわずかな光を増幅するノクトビジョンのモードにすることも出来る。この場では、後者に設定した。

 ふたりは、腰のホルスターからマルチブラスターを抜いた。

 マルチブラスター。正式名称はミルグラム社製MB-400PS、特捜刑事制式光線銃。

 この時代、破砕銃(ブラスター)といえばプラズマ銃のことを指したが、それとレーザー銃を組み合わせたのがマルチブラスターである。レーザーの性質を最大限に活用し、群衆鎮圧から、長射程の射撃、さらに宇宙船の外壁を吹き飛ばすくらいのプラズマを発生させることも可能だった。

 粘り着くような闇。

 三流ホロムービーだったら、不時着した瞬間、警報サイレンがけたたましく鳴り響いているところである。が、周りは、相変わらずひどく静かだった。

 反応がないということは、敵の出方も分からないということである。ふたりの緊張は、いやが上にも増した。

 塔はここから見ると、まるで天から墜ちて海面に突き立った、巨人の剣のようだった。それはまた、奇妙なことに、少し斜めにかしいでいるようにも見える。

 ふたりがいる小高い砂丘の遥か下では、波が寄せては返している。砕ける波頭が、不気味な微光を発しているのが見える。

 ミチのマルチブラスターはセーフティを解除していたが、出力を調整するダイヤルは、非致死(ノンリーサル)モードに合わせられていた。

 非致死(ノンリーサル)モードで照射される単色レーザー光は、目に一時的なダメージを与えるのみで、相手を傷つけずに戦闘力を奪うことが出来る。

 GFBIの特捜刑事は皆「相手が武器を持っていて、先に攻撃してこないかぎり、致死(リーサル)モードで撃ってはならない」という鉄則を、警察学校(アカデミー)でたたき込まれていた。「警察官は市民の盾であって、殺人兵器ではない」という理屈付けが、その文句にはついていた。

 彼女も、厳しい訓練の甲斐あって、それなりの自制心は備わっているつもりだった。

 しかし、今回は先に仕掛けてきたのだ。銃のダイヤルに指を掛け、致死(リーサル)モードに合わせようとした。

「こらえなさい」

 その気配を察したのか、カーライルが肩に手をかける。

「まだ敵の正体が分からない。過剰防衛になるわ」

「でも……」

「いざとなったら、あたしが加勢してあげる。それからでも遅くはないわよ」

 ミチは振り向いた。次の瞬間、彼女は驚愕した。

「……警部!」

 マルチブラスターを左手に持ち、利き腕のはずの右腕は、体側に力無くだらりと下がっている。

「平気よ。あなたに心配してもらうほど、焼きが回ってないわ」

 荒い息づかいで、上目遣いにミチを見据える。

 ミチは言葉を挟めなかった。


 高台に立ち、遠くを見張っていたミチの肩越しに、カーライルが問うた。

「何か見えた?」

「いえ、何も……」

 一瞬カーライルに向けた視線を、元に戻したとき、

「ああっ!」

 スターライトモードにしたバイザーで、目の前の砂丘が盛り上がるのを見た。何かが砂丘にはい上がろうとしている。

 機械だ。大きさは彼女たちが乗ってきたシャトルほどもある。金属のマニピュレーターをカマキリのように構え、4本の足をぎちぎちと音をさせてこちらに向かってくる。丸い胴体から延びた、頭に相当する箇所には、赤い光が三つ縦に並び、不規則に点滅している。

 統一感のないフォルム。はみ出たコードとむき出しの関節。まちまちの規格の部品が、組合わさっているらしかった。

 目の前の機械の形状は、ミチが知っているいかなる物にも、形容することが出来なかった。強いて言えば、かつて聞きかじった詩の一節――手術台の上で、蝙蝠傘がミシンと出会う――を具現化すれば、目の前の物体に近いものになるかもしれない。

「無人戦闘マシン(ノーディ)ですか?」

 ミチは訊ねた。侵入者を武力排除するロボットで、海賊の基地には、標準配備されているという。

「こんな型の、見たことないわ。本部のファイルにもないんじゃない」

 カーライルは言った。

 機械は見た目より、すばしこいようだった。足を器用に動かして、でこぼこした地面を、しっかりホールドしながら移動した。ボルトの頭のような部分――恐らく、首に相当する箇所だろう――を回し、あちこちを探っているような仕草をしながら、歩みを進めてゆく。

「止まりなさい!」

 カーライルは警告し、マルチブラスターを構えた。

 だが、次の瞬間、カーライルの足元から砂が勢いよく噴き出し、顔を直撃した。バイザーをしていなければ、目をやられていただろう。

「何なの!?」

 何と、砂の中からも機械が出現した。ミチの目の前のものとは、型が違う。

 びゅっと、粘性の高い液体を吐き出す音。赤い飛沫が飛び散る。甘ったるいような、鼻をつくにおいが漂う。有機溶剤だ。

「しまった。身体が動かせない……!」

 カーライルがうめく。

 機械が吐いたのは、フォームポリマーだった。抵抗する犯人の逮捕などに使われる、非致死性武器(ノンリーサルウェポン)のひとつ。瞬時に硬化する合成樹脂の泡を吹き付け、身体の自由を奪う。あちこちから、何本もの液体の筋が絡みつき、不意をつかれた歴戦の勇士は、あっという間に繭のような姿になった。

「警部を放せ!」

「ミチ、自分の心配をしなさい!」

 カーライルのくぐもった声が、インカムを通じて聞こえる。ミチははっとした。一歩飛び退き、辺りを見回す。

 機械どもは、ふたりのまわりに続々と集結してきていた。完全に、退路を断たれてしまった。

 数体の機械は、マニピュレーターで胴上げをするように、カーライルを吊り上げ、どこかへ連れてゆこうとしている。

「離れろ!」

 ミチはマルチブラスターの筒先を向ける。

 バイザーに挟みこまれた液晶ヴィジョンは、瞬時に獲物までの距離と照準点を表示した。「ロックオン」の表示が点滅する。トリガーにかかった指に力を込めた。

 赤色の光が、ぱっと漆黒の空間に散る。

 前に出た一体の表面に穴が空く。機械は足を折り、動きを止めた。

 居並んだほかの機械は、この有様を静観している。

 沈黙した機械めがけて、さらに二度、三度、レーザーを照射する。

 機械は燃え上がった。ボディの隙間から青白い火が上がり、辺りが照らされる。油ぎった熱気が放射される。樹脂の燃える煙。レーザーで大気が変質し、発生したオゾンが漂う。呼吸のたび、喉にいがらっぽさを感じる。

(このままじゃ、埒が開かない。まとめてぶっ飛ばしてやる)

 肩で息をしながら、マルチブラスターのダイヤルを、最強の破砕(ブラスト)モードに合わせる。破砕(ブラスト)モードは通常のレーザーと違い、レーザーで目標の表面にプラズマを発生させ、その爆発力で破壊する。消費エネルギーが大きく、撃てる回数に限度があるが、小型の火砲に匹敵する威力がある。

 バイザー越しに見える銃身は、陽炎が立っていた。

 爆風から身を守るべく、機械の残骸を盾にして、銃口を向ける、が、目の前を横切った大きな物体に、照準を邪魔された。

 どーんという音とともに、砂が舞い上がる。

 別の機械が一体、岩の上から降下したのだ。そのまま体勢を崩さずに、素早く金属の腕を伸ばした。縦揺れにひるんだミチは手荒くつかまれ、そのまま放り投げられる。放物線を描いて、地面にしたたかにたたきつけられた。

「ぐうっ!」

 ヘルメットのお陰で、気絶は免れたが、頭がしびれて、思考がまとまらない。口の中に生暖かい液体があふれてきた。頭の中でちらちら飛ぶ光のほかは、何も見えない。今の一撃で、バイザーとマイクを吹き飛ばされた。

 機械が今すぐにでも迫ってきそうだ。

 それでも素早く体勢を立て直し、この場から逃げるべく身を躍らせた。が、着地したとき、右足のかかとが触れた地面が崩れた。

「ああああーっ!」

 ミチの身体は、そのまま砂の斜面を滑落していった。加速をつけて転がってゆき、頭から砂溜まりにつっこんだ。積もった砂がクッションの役目をして、大けがをすることだけは免れたが、激しい衝撃にしばらく動けない。

 被さってくる砂をかき分け、どうにか立ち上がる。さらさらした砂は絶え間なく崩れ、とてもこの斜面を這い上がることはできない。

 虚空に向けて叫んだ。

「警部!」

 返事はなかった。

 耳に入る音が、場所を教えた。そこは、波が寄せては返す砂浜だった。




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