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劣等

 俺は、以前のように盗みをせず自分で育てた野菜を食べて暮らしていた。時たまチーズの味を思い出したが、我慢した。

 改心した、とも言えるかもしれない。ある日、仲間にこんなことを言われたのだ。

「なぁ、ひょろひょろ草の金持ち坊っちゃんってのは、お前の事をバカにしたりしないのか」

「なんだって、俺をバカにするんだ」

 俺がふんと鼻を鳴らして返事をすると、そこにいた仲間は何が面白いのか、腹を抱えて笑った。

「お前は、ドブに生まれて盗みをやって、こうして見た目だって汚らしいじゃないか」

「そんなの、あいつは気にしないね」

 俺は、ギクリとしたが静かに言い返した。しかし仲間は、言い捨てる。

「お前がそう思ってるだけだろう、相手のことなんか、ましてや金持ちのお上品な奴の考えなんか分かるもんか」

 俺は、しばらく落ち込んだ。育ちが違うなら、考えも違うはずだ。


「やぁ、今朝は寝坊かい」

 金色の毛に、上品な佇まい。俺は、虚しくなりながらいつものように振る舞った。

「今朝も誰かが子供を産んで、数を数えるのを手伝ってたんだ」

「毎日めでたくていいね」

 犬はビスケットと水を俺に勧めた。俺は首を振った。

「具合が悪い?」

「いいや」

「毎日おんなじお菓子だから飽きたか」

 犬は仕方なさそうに笑って、俺に差し出したビスケットを食べた。

「俺がしばらくこのビスケットを食べないでおけば、家の人が別のお菓子に替えてくれるさ」

「そんなことはいいんだ」

 俺はそこまで言って、どうしてもその先を上手く伝えられず悔しくて芝の上に丸まった。

「ごめんね」

 犬が俺の顔を覗き込んで、謝った。俺は驚いて体を飛び上がらせた。

「なんで謝る」

「僕の話がつまらないんだろう」

 犬は体を伏せ、前足で耳を隠すようにしたままぽつりぽつりと話し始めた。

「君は色んな物を見て、暮らしも難しくて、話も上手だ。僕はここだけだ。暮らしは簡単すぎるぐらいで、話すこともない」

「違う」

「いいんだ、無理させてすまないね」

 犬は俺に背中を向けて、わざと寝息をたてて寝たふりをした。俺は、何を言おうにも動揺して言葉にならず、苦し紛れに犬の尻尾を噛んで引っ張った。犬は素っ気無く、ぱちんと俺の体を弾いて、その後も尻尾を振り回し俺を遠ざけた。

「なんで話を聞かない、金持ちの坊っちゃんはわがままで嫌なやつだ」

 俺はそう吐き捨てて、屋敷をあとにした。情けなくて涙が出た。


 

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