第2章 第3節
高等部からは、高校教育の基礎学習を必修科目に据え、それぞれの専攻を履修する形式。
更には高校生からはそれぞれの職業を持ち、自立した生活を義務付けられているシステム上、必修科目については午前と午後、あるいは夜学にと3回に分け行われる。
故に、必修科目についてはクラス単位での授業となり、必修科目時間においては学園都市は全体的に静かになる。
そして……
「さて、メシだメシ! がっつり喰いてえ!」
「今日はどこ行く? ハンバーガーか牛丼か……」
「そう言えば今日は“ソメイヨシノ”で新作ソバが出るんじゃなかったっけ?」
「あたしパスタ食べたーい」
午前に必修を選択している、最も多い通常サイクルの生徒が、授業の終わりを告げるチャイムが鳴ると同時に、一斉に外へと向かう。
これから彼等は、仕事か選択科目か部活動か――と、それぞれがバラバラのサイクルを送るべく、歩を進める。
「おーい、迎えに来たぞー?」
「あっ、はーい。じゃああたし用事あるから」
男子生徒に囲まれていた宇佐美が、裕樹の声を聞きつけて歩を進め――
その後ろ姿を見送る者、あるいは迎える裕樹に向けて呪詛の視線を向ける者を背に、2人は一路外へ。
「で、メシはどうする?」
「スタイル維持には気をつけないといけないから、軽めの物で」
「いらなくないか? 胸以外が太ってるように見えないし」
バチ―――ンッ!!
――所変わって
「……お前さ、なんで女から用心棒としての声掛かる事多いくせに、女の扱いがこうもヘタクソなんだよ?」
「――口が滑っただけだ。仕事上の繋がりでしかない相手に、変な下心なんて持つか」
「いや、そりゃわかってるけどさ。もうこれで何度目かって位だし」
「――ふんっ!」
あの後待ち合わせしていた光一と合流し――事情を聞いて、現在の蕎麦屋の席に至る。
呆れたような光一が天蕎麦、顔に赤い手形が目立つ裕樹がかけ蕎麦、不機嫌さ丸出しな宇佐美がざる蕎麦をそれぞれ啜っている。
――裕樹のおごりで
「んじゃ、お疲れー」
「またあとでねー」
3人が蕎麦を食べ終わる頃に、奥の方から数人出て行く。
彼等はこれから学校へ行き、必修科目の授業を受けに行く――となると。
「――そろそろ時間だな。宇佐美、今日の予定は?」
「え? ――今日はこれから、ダンスと歌の選択授業があるよ。だから」
スケジュールを訪ねた裕樹に、宇佐美がD-Phoneを取り出す。
子供から大人まで、この学園都市の住人全員に支給されている生活必需品で、これなくして学園都市の生活は成り立たない仕組みとなっている。
電話、メール等の通常の機能に加えて、学園都市における身分証明に仕事履歴、施設の出入り許可コードとその履歴に、住居のカギも兼ねている。
「――はい。同伴許可申請お願い」
「――って、ちょっと待て」
当然だが、女性専用の選択授業に男性の部外者など許される訳がない。
その許可を得るために、生命線とも言える用心棒としての仕事履歴データを提示する必要があり、それをパスすれば同伴許可が出る。
当然だが、不祥事を起こせばそのデータが残され、死活問題に発展する。
「まずどういう所なんだよ?」
「心配しなくても、普通のダンスホールよ。それに服だって、普段着風の練習着でやるから――間違っても、レオタード見れるなんて思わないでね」
「思ってない思ってない。そんな所に男入れる訳ないだろ普通――まあいいや」
裕樹は手慣れた操作で、同伴許可申請を行う――。
「そこ、受信塔は?」
「あるけど?」
前に、とある疑問を投げかける。
「そっか。じゃあ……」
それを聞くと、裕樹がD-Phoneを操作し、画面に掌を当てて撫でる様に手を動かし――
「おいで、カグツチ」
『グルルッ!』
裕樹の掌が画面から離れると、D-Phoneの画面から流れ出るかのように、一匹の小さな竜が姿を現した。