第7章 第4節
「待ってください! 俺はただ……」
「黙れ」
「……!」
「人を踏み躙れるなら不幸などとぬかすな。その甘ったれた性根と権利と権限の違いを改めた上で、出直してこい――叩き出せ」
執行部員の制服を纏った男子生徒が、取り押さえられながら退室させられていくのと入れ替わりに、その部屋に一条宇宙がやってきた。
生徒会総副会長、大神白夜の執務室に。
「――今のは?」
「ゴミ掃除だ」
そう言って白夜は、自身のD-Phoneを取り出して、宇宙に手渡す。
そこに表示されていたのは、先ほど宇宙も報告を受けた、白河ユキナと言う少女の顔写真があり、それが少女の所属していた初等部寮に関する調査報告が連ねている。
文章を読み進めて行くと、あの少女は悪質ないじめを受けていて、それを行っていたのが先ほど追い出された生徒の妹であり、兄の立場を利用して寮生及び寮監を懐柔あるいは黙らせていたという……。
妹を持つ身として、宇宙は嫌悪感を隠す事は出来なかった。
「……もう聞きつけて、調査し終わったのか」
『愚問じゃ、宇宙殿。妾に掛かればこの程度の事、造作もない事じゃ』
「それは理解してるよ、コンジキ」
その名の通り、金色の流れる様な毛並みに、一本一本に宝玉が備わっている9本の尻尾を持ち、本来ならばあり得ない人語を話す電子召喚獣。
学園都市最高知能を持つ電子召喚獣、白夜の電子召喚獣、狐型電子召喚獣コンジキ。
その能力、高速処理での諜報は、この学園都市における全ての情報を集める事も可能と言われている。
「――それはさておき、いじめがあったとしたら、何故記録に引っかからなかった?」
「生徒会執行部員が絡んでいるんだ。その辺りは幾らでもごまかしようがある」
学園都市の初等部学生寮は、寮監には実習名目で保育・教育学方面志望の生徒を据え置いての運営となるが、責任者兼寮監の監督として教師が据え置かれている。
その教師は寮監の実習監督及び、初等部のD-Phoneに搭載されているGPS及びボイスレコーダーの記録の収集、保存以外での介入は、生徒自治を重んじる学園都市の原則として禁止されている。
「--確かに、利益で考えれば命ほど邪魔な物はないな」
「--何?」
「だから、人が人を助ける事が悪とされるのかもしれんな」
「そう言う事言うなよ!!」
「事実だろう。現状を見れば、否定など出来まい?」
「くっ……態々そんな事を突きつける為の呼んだのか?」
「そんな訳があるか。これに対しての案についての話し合いだ」
白夜がそう言って、D-Phoneを操作し、文書ファイルを宇宙のD-Phoneに転送する。
「……なんで態々俺に?」
「義務だからだ。それ以外に理由などいるのか?」
「わかった。容赦はせんからな?」
「太助先生!」
「ん? ああ、お帰りユキナ。ちゃんと言いつけは守れたかな?」
「うん!」
「よしよし、ユキナは良い子だね」
「えへへっ♪」
「……なんで人は、痛みを嫌悪し求めるかな?」




