第1章 第4節
『――優勝は、アスカ・ホークアイさん。準優勝は、一条宇佐美さんとなりました! アスカさん、今のお気持ちは?』
『これも、応援してくれたみんなのおかげだと思ってます! ――でも、ここからはアスカ・ホークアイの時代じゃなくて、一条宇佐美との二強時代になる……そんな予感がする、有意義な物になりました』
「「「アスカちゃーん!!」」」
『では、おしくも僅差で準優勝となった、一条宇佐美さんですが――どうでしょうか?』
『――もう一度、立ち上がって見せます! 次は負けません!』
『以上を持ちまして、歌謡祭を終了いたします!』
「――お疲れ」
控室横――参加者がある者は涙を流し、ある者はギリっと歯を食いしばりながら帰り支度をすべく、入って行くのを見送りつつ――。
此度の護衛対象、一条宇佐美とお得意先でもあるアスカ・ホークアイにタオルを渡す。
「ん、ありがとユウ君」
「はぁっ……やっぱり遠いなあ」
「アスカに僅差なんて、上出来もいい所だと思うけど……」
「何言ってるの? 結果に妥協してちゃ、敵う訳ないじゃない」
「――ま、そだけどね。良いから早い所着替えて……ん?」
そんな会話を交わしている中で、裕樹がふとアスカ達の後ろに目を向ける。
「? どうしたの、ユウ?」
「ちょっと行って来る。あと、俺が帰ってくるまで着替えるなよ?」
「え? ――ああっ、そう言う事?」
「すぐ戻ってくる」
「いってらっしゃーい♪」
アスカが笑顔で手を振りながら、宇佐美は疑問符を浮かべながら裕樹を見送り――
ドガッ!!
「もう良いぞ」
そう言って戻ってきた裕樹の片手には、先ほどは持っていなかったバッグが握られ、もう片手は上着からスマホを取りだしていた。
「はいはーい。じゃ、宇佐美ちゃん先着替えてよ。ボク見張りするから」
「俺を見て言うな!!」
「…………」
「アスカ、お前――ああもしもし、更衣室付近でカメラ一式持ち込んでるバカ見つけたんで、引き取り頼めない? ……はいはい、わかった」
「なんだって?」
「もうすぐ来るってさ」
「流石に、保安部と繋がりがあると早いね」
「用心棒自体、保安部と繋がりなきゃなれねえよ」
そう言ってスマホをしまい、バッグを床に置くと――
「――お前もさっさと着替えてこい」
「はーい」
――所変わって、連絡橋の屋台が立ち並ぶ区画にて。
「よいしょっと」
「先輩、こっち終わりました」
「おう、ご苦労さん」
久遠光一、朝倉歩美の両名が屋台の片づけを行っていた、
その周囲でも同様で、トラックやバイク、リヤカーなどが行き交いつつ、屋台や商売道具の片付けに勤しんでいる。
屋台を営む商売組には、乗り物と免許、あるいは免許を持っている人材は必須である。
「さて、荷造りは完了だな」
「はい。えっと……」
「いや、先帰っててくれって連絡があったから、先帰ろうぜ」
「そうですか? でしたら……」
光一がヘルメットを被り、商売道具一式を乗せたリヤカーを繋げたバイクにまたがると、歩美も光一に渡されたヘルメットを被り、その後ろに腰掛けて光一の腰に手を回す。
「……なんか、また大きくなってる様な?」
「え? なんですか?」
「いや、なんでもない」
背に当たる柔らかさの発育ぶりを感じつつ、光一はエンジンをかけてバイクを走らせた。