第7章 第3節
「……タイムリミットか」
「――ちっ」
ユキナが現れた途端に、2人は戦闘態勢を解除する。
――それは勿論、その場の誰もが眼を疑う光景だった。
「――マジか? 学園都市でも凶暴で有名な2人が、退いただと?」
「おい、執行部の姉ちゃん、あのガキ誰かわかるか?」
「――え? ……かっ、確認します!」
裕樹に咄嗟に話を振られた執行部員の女子生徒が、慌ててD-Phoneを取り出し、生徒会員だけに割り当てられた生徒名簿アプリを起動し、検索を開始する。
「……ありました。白河ユキナ、数ヶ月前に行方不明になった、初等部女子生徒です」
「初等部!? ……召喚獣の方は、東城に関わってるからわかるけど、それならなんであの2人が?」
「よせよユウ……なあ、ユキナちゃんで良いかな?」
「何?」
シラヒゲと呼ばれた、鼟餮型の電子召喚獣に跨った少女、ユキナに光一が声を掛ける。
それを受け、鼟餮型の電子召喚獣シラヒゲがよだれをたらし、光一にいつでも飛びかかれるように構える
「君は東城太助と繋がってるのか?」
「うん」
「……君は、東城太助が何をしているのか、わかってるのか?」
「何よ? 先生のやってる事が悪いって、そう言うの?」
とても10かそこらの年齢とは思えない、憎悪の籠った眼で光一を睨みつける。
それに怯みこそしない物の、光一は事が荒立つ気配を感じ、譲歩の気配を見せる。
「別に悪いとは言わないけど、何が目的なのかが聞きたいだけさ」
「そう言って理由にならないとか迷惑とか、あれこれで無視するんでしょ?」
「そうじゃない。まずは話を聞かせて欲しいって言ってるんだよ」
「――知ってるもん。皆にこにこなんて嘘ばっかり言って、本当は人が幸せになるのが大嫌いで、人の不幸なんて見捨てて逃げるか、笑うかしかしないし出来ないんだって。だからユキナを助けてくれた太助先生を、迷惑とかそんな事言って悪者扱いするんだ!」
「――どうやら、随分と酷い環境に居たようだな」
少なくとも、少女が嘘を言ってる様には見えないし、いじめを受けていた事は光一には理解はできた。
そこで話はそこまでと言わんばかりに、九十九と剛が光一と少女の間に割る込む
「自分を非人道的――そう言ったが、事実はどうだ? 自分や剛のやっている事と、人の求めている物で、一体何が違う?」
「誰もが他人の生き血を求めてるんだ――その為に嘘が正当化され、真実が無視される」
「だったらお前らは、何を理由に徒党を組んでる? そして朔夜会に一体何をやらせようとしてんだ?」
「この学園都市に住まう、偽物の勝利と騙し取った利権に酔い痴れたクズどもに、自分達がいかに腐りきったクズかを思い知らせる為――とでも言っておく」
「……じゃあな」
2人の身体をシラヒゲが掴み、跳躍。
あっと言う間に、それらはこの場から姿を消した。
「……さて、北郷呼ぶか。あと執行部の姉ちゃんの上司もな」
「あの……?」
「朔夜会の情報が手に入ったとでも言って呼び出せ。それに光一がらみのあの話も、まだ答えが出てないんだからな」
「……畏まりました」




