第7章 第2節
光一は保安部協力者の中で、身体能力で言えば最弱である上に格闘技術はてんでダメで、一部では無勝伝説と貶されている程酷いのである。
逆に九十九は、人道人情クソ喰らえな思想を持ってはいても、保安部員でも最強に手の届くと評される程の実力者であり、(専ら私刑に使われる)格闘技術も一級線。
ぶっちゃけ、格闘戦に持ち込まれては、光一には九十九に勝つ術はないのである。
「……クズは所詮クズ。黙って処理されていればいいのだ」
地面に突っ伏した光一を、片掌を踏みもう片腕を背に捻り上げ、髪をひっつかんで逆エビの様に引っ張り上げながら、九十九はその表情に哀れみも嘲笑も浮かべず。
更に言えば、内面に置いても傷つけたことへの罪悪感どころか、満足感や優越感なども持たないままに、光一がそうなっている事がさも当然と断言するかの様に、虫か何かを見る様な眼を向ける。
「――れはな」
「ん?」
「俺はな……お前のその眼が、大嫌いなんだよ!!」
踏まれた腕を無理やり引き抜いて、D-Phoneを取り出してナイフを具現し、髪をひっつかんでいた腕にふるい、その勢いで体勢御整え――
光一の髪をひっつかんでいた腕がを大きく回し、九十九の拳が光一の顎にめり込んだ。
「うっ……くっ……」
「お前の意思などどうでもいい――人権等、気に入らないと言う感情1つでゴミに出来る物。よって、人など放っておいても勝手に生まれる程度のゴミであり、平和とは正しさを理解出来んクズどもを踏み躙ってこそ……それが真実の平和だ」
「――そう言うのはな、人が人を見捨てて逃げるしか出来なくなってからほざけ」
光一の眼前にバルカン砲を突きつけた九十九の眼前に、裕樹の大刀の刃が迫り来て、九十九はそれを咄嗟にのけぞって回避するも、その大刀を振るった勢いを利用し、裕樹は裏拳を九十九の腹にめり込ませる。
「ぐふっ!」
その動きの連動させる様に、裕樹がD-Phoneから更に6本の刀を取り出し、その刀全てを両手指に挟むように持ち、更には元々出していた大刀を咥え、片手で一撃をブチ込み、そのまま身体を回してもう片腕と咥えた大刀の合わせた一撃をブチ込む。
「大丈夫か? 光一」
「……強がる位には」
「流石に、3桁は病院送りにした奴の拳2発じゃ、無理もないか」
「だ・か・ら! 俺を無視してんじゃねえ!!」
先ほど光一への援護の為に適当にあしらわれた鮫島が、大刀“王鮫”を上段に構え、裕樹めがけてハンマー部を振り下ろす。
「お前じゃ俺の相手には役不足なんだよ、バカヤロウ」
手の6本の刀全部を宙にブン投げ、咥えていた大刀でその斬撃を打ち払い、身体を回転させた一撃を鮫島の胴に叩き込み――。
「よっと」
先ほどブン投げた刀を全てキャッチし、改めて先ほどの様に大刀を咥え、6本の刀を指の間に挟むように持って構える。
「――宇佐美にアンタ達、大丈夫?」
一応カグツチはつけていたが、念の為に宇佐美や生徒会執行部員の呼び、及び腰になっていたSPたちに声を掛ける。
「あっ、うん。平気……」
「……さて、まだやるか?」
一応、宇佐美達の間に割り込む様な立ち位置で、裕樹は九十九と剛に声を掛ける。
「冗談じゃない、誰が退くか!!」
「――こんな面白過ぎる相手、誰が逃すかよ」
「――なら仕方が……」
『ガグゥッ!』
裕樹が一歩踏み出そうとした途端、突如裕樹に白いなにかが襲いかかってきた。
裕樹は咄嗟に後ろへ飛んで、警戒する様に刀を構え相手の出方を待つ。
「なっ、なんだ!?」
「――これは?」
白い髭の生えた人の顔に虎の牙、そして曲がった角に羊の身体――電子召喚獣特有の電子的な声で、裕樹達を威嚇する様に唸る。
「どうどう、シラヒゲ」
鼟餮型の電子召喚獣の背で、まだ十代にもならない小さな少女が鎮座し、その跨る電子召喚獣の名前らしき物を呼びながら、宥め始める。
「――子供?」
「なあお嬢ちゃん、そこどいてくれないかな? 危ないから」
相手が女の子である事を考慮し、光一が裕樹の言葉を遮ってその少女に声をかけた。
「ダメ。だってあたし、太助先生の頼みで九十九兄ちゃんと剛兄ちゃんを、迎えに来たんだもん。連れて帰らなかったら、先生に“ユキナはいい子だね”って褒めて貰えない」
「太助……!? マジかよ。まさか、ここで東城との繋がりが出てくるとは」




