第6章 第9節
この作品の光一は甘党です。
「……大丈夫なのかな? この先」
蓮華達から逃げて来た裕樹達は、一路自分達のバイクが停めてある駐輪場へ。
2人のバイクを見つけた所で、宇佐美がポツリとそう呟いた。
「難しいだろうな。神出鬼没な上に、その実行犯が斬り捨て可能なら尻尾もつかみにくい」
「……保安部もやり難くなってるみたいだぞ。もう批判は出てるみたいだし」
光一はそう言って、学園都市のニュースサイトおよび、それに関する掲示板を開いたD-Phoneの画面を、2人に見せる。
「……なんで悪口って、こう積み重なり易いのかな?」
「強い力持ってる奴ってのは、嫌われやすい物なんだって相場が決まってんだよ」
「特に犯罪を取り締まる立場となると、尚更にな。今は安全確保のためとはいえ、様々な制限ができちまってるんだから、不満もたまるだろうしな」
「……気持ちは分からなくもないけど、気が滅入る状況でこんなの見せられちゃ、なんだか気味が悪くなるよ」
「――違いないな」
光一がD-Phoneの画面を閉じて、ヘルメットをかぶってバイクにまたがる。
「さて、どうするこれから?」
「とりあえず、荷物置きっぱなしにしてる光一の部屋に、だろ?」
「じゃあ晩飯食ってく? デザートに俺手製のチーズケーキでも出すけど」
料理の才能が壊滅的な宇佐美には、光一の料理上手は羨ましいを通り越し、嫉妬すら感じる物だったが、同時に疑問もわく。
「……なんだか偉い本格的だけど、屋台で出す物なのそれ?」
「いや、俺が食べる様に作った物。研究に没頭してると甘い物が欲しくなるから、その合間にちょっとね」
「合間にちょっとで本格クッキング過ぎない? それに研究の合間にそのレベルをつまむって、なんでそれでモヤシなの!?」
「ああっ、俺脂肪も筋肉も超付き難い体質らしくてさ」
宇佐美は睨むように、光一のウエストを凝視する……が、全体を見回して、はあっとため息をついた。
「まあ……」
「黙って!」
「いや、まだ何も……」
「黙ってて。こういう時、間違いなくセクハラか逆鱗に触れるかの2択しかないでしょ」
その様子を見ていた裕樹が、何かを言おうとしたのを宇佐美が怒鳴る様に遮った。
「どうでもいいけど、さっさと帰ろうぜ。今日もう疲れたし」
「そうだな」
「――あんなの見た後じゃ、あたしちょっと帰り難いかも」
ニュースサイトの罵詈雑言を見て、普段でさえ嫌われてる自分が今の状態で寮に帰ったら……そう思うと、不安がよぎった。
「……カグツチつけるの、逆効果になりかねない、か――この手の話って、こじれるとろくな事にならないし、難しいなホント」
それを聞いた裕樹は、ある種の課題が出来た事に頭を悩ませ始めるが、一先ずは光一の部屋で馳走になってからに――。
「――久遠光一さんですね? お待ちしてました」
しようと思った矢先の、光一の部屋の前。
生徒会執行部員の制服を纏い、生徒会の証明印の入ったD-Phoneを差し出した女子生徒と、それを取り囲むかのように生徒会直属の護衛数人が、3人を出迎えた。
「――? 執行部員が俺に、何の用で?」
「執行部からの通達をお届けにまいりました」
「通達?」
「はい、こちらを」
そう言って、女性執行部員が光一にSDカードを手渡し、光一がそれを受け取るとD-Phoneに差しこんでデータを閲覧。
表示された文章を読み進めて行くうちに、表情が険しくなり――。
「――こんな冗談にわざわざ時間裂いてるバカは、どこのどいつで?」
「冗談? それは、執行部からの正式な委任状の筈ですが……?」
「正式なって、どう見ても悪ふざけにしか見えませんよ? 確かに俺は、名義上保安部所属にはなっちゃいるが、いきなりこれはないだろ!?」
―― 通達 ――
第9高等学校所属 生徒証明番号13298 久遠光一
緊急特例として、本日付で保安部長官に特認する
生徒会執行部
「そう、言われましても……先ほどまで行われていた緊急会議での、決定事項としか」
「――よし、わかりました。じゃあ会議について説明出来る奴に、もしくはそいつに取次げる奴に繋いで貰えません?」
「……? はい、ただいま……」




