第6章 第7節
「――悪い事言わないから、もうお嬢さんに俺と関わろうとするのをやめさせろ」
「そうです隊長! このような事、水鏡グループ総帥令嬢としての……」
「異論は認めないと、そう言った筈でしょう? 生憎ですが、私も怜奈お嬢様の護衛を取り仕切る立場として、お嬢様からの命令を全うする義務があります」
「――言ってる事は立派だが、その取り仕切られてる護衛が、お嬢様の身柄じゃなくて立場を護衛してんじゃ、また同じことが繰り返されるだけだろ」
そこで、蓮華に詰め寄っていたSP候補生達が、表情を変えて裕樹を一斉に睨みつける。
「――聞き捨てなりませんね。私達がお嬢様個人はどうでもいいと、そう扱ってると?」
「どうでもいいと思ってるから、簡単に無視して否定出来るんだろ――正気疑うぞ? 罪の意識も持っちゃいけな……!?」
ぐにゃり、と空間が歪む様な感覚。
それを感じたと同時に、裕樹を始めとして、光一、蓮華を始めとする戦闘経験保持者は即座に、D-Phoneを起動し電子ツールの武器を手に。
「――話は後だ」
「みたいですね」
電子召喚獣の実体化は、決して無条件ではない。
召喚自体は、召喚獣ベースプログラムの保存されたD-Phoneがあれば出来るが、使用には実は制限がある
電子召喚獣はD-Phoneを媒体としている為に、離れ過ぎると実体化が維持できなくなるが、もう1つ重要なファクターとして、学園都市各部に設置されている通信塔が存在する。
この通信塔は、主にD-Phoneの通信補助として備え付けられており、その通信強度によって、召喚獣の実体化の強度やサイズの上限が変動する。
「え? 何? どうしたの?」
「――違法召喚獣が出てくる」
「え? ……ちょっ、ちょっと待ってよ! ここって……」
「ああっ、通信塔付近だな……」
「あの、それって……」
無論それは違法改造された召喚獣も例外ではなく、通信塔付近では巨大サイズになる事も難しくはない。
『パオオオオオオッッ!』
『キシャアアアアッ!!』
それを考慮しての襲撃なのか、象や恐竜など、大型系の物が数体実体化し、姿を現した。
「カグツチ、迎え討て!」
『グルルルルルルッ!』
裕樹がD-Phoneを操作し、それらに負けない位の巨体を持つカグツチを召喚し、襲いかかる違法召喚獣の1体に喰らいついた。
「流石はカグツチ。有象無象では、歯が立たないか」
『ピィーッ!』
「――ええ、お願いね。ヒサメ」
氷の様な蒼の、流線フォルムの蓮華のイルカ型電子召喚獣、ヒサメ。
ふよふよと浮遊するヒサメが甲高い鳴き声を上げると、その身体が凍りつき氷結していき、その身体のフォルムと質量を大きく変え始め――氷を纏った鮫の様な姿に変貌。
『ピィーーっ!!』
『ゴギャアッ!?』
泳ぐような動作で飛びかかると、子竜型に噛みついた。
大質量の氷の鮫に噛みつかれ、押しのけようとするもびくともしない。
「よし、撹乱した上で、1体ずつ撃破して!」
『ブモーーーっ!!』
「あっ、危ない!!」
蓮華が指示を飛ばすその隙を狙い、バッファロー型が突進。
宇佐美が悲鳴を上げる様に蓮華に危険が迫ってる事を伝え――。
ガンッ!
『ブルルっ!!?』
「? 何?」
「……いえ、なんでも」
ようとしたと同時に、蓮華の拳がバッファローの頭にめり込み、実体化を維持できなくなって拡散。
「黛ってあの細い身体に似合わず、パワーファイターなんだよ」
「……総帥令嬢のボディガードやってるだけのことあるのね」
「んじゃ――コクテイ、めいっぱい暴れていいぞ」
『グルルルルルルルッ!』
光一の指示を受けて、黒い狼コクテイが血走った眼を違法召喚獣に向け、殺意むき出しに唸り声をあげながら一歩前へ。
「……なんだか、いつもと雰囲気違わなくない? すごい怖いんだけど」
「シラヒメが居る普段はおとなしいけど、戦闘に直面すると狂気的なまでに好戦的になるんだよ」
『ウゥゥゥウっ……ウゥウゥオオオオオオオオオオオオッ!!!』




