第6章 第5節
「では、今日の授業はここまで」
担当教諭が教室から出て行って、本日最後の授業だった為に、全員が帰り支度を始める。
「さて、急ぐか」
「ったく、こんな状況で女と待ち合わせだなんて、余裕だな」
「おいおい、親友の妹だぜ? 色気のある話なんてねえよ」
「あっそ」
周囲の友人と軽口をたたき合って、裕樹は教室を出て行き……。
「やっほ」
「あっ、宇佐美」
すぐさま、カグツチを伴った宇佐美と鉢合わせ。
「今日はこっちは早く終わったから、たまには迎えに行こうってね」
『グルルっ!』
「…………」
「? どうかしたの?」
「いや、女の子の出迎えなんて初めてだから、ちょっと面喰って」
「お姫様だっことか、普通じゃありえない事は何回か経験あるのに、こういう事は全然ないの!?」
「うん、不思議な事にな」
「あのー、朝霧裕樹さーん?」
ふと声を掛けられ、宇佐美から視線を外した裕樹は、自分のいた教室の窓や扉から物欲しそうな目で裕樹を見つめる男子生徒達に、眼を向ける。
「ああっ、はいはい――宇佐美、こいつらはさっきまで同じ教室で授業受けてた奴らだ」
『コラアッ!!』
視線を受けて渋々と裕樹が、いい加減な紹介もどきをすると、満場一致で抗議が響いた。
「もうっ……えっと、一条宇佐美です。先輩の皆さん、よろしくお願いします」
「うおおっ! 声かけて貰ったぞ!」
「宇佐美ちゃん、こっちこっち! サインくれるかな!?」
「宇佐美ちゃーん、結婚してー!」
「水着のグラビアPV出しぐあっ!?」
「はいはい、声援は常識の範囲内でな!」
裕樹が宇佐美と教室の間に割り込んで、失礼発言した輩に小柄を投擲。
鉛筆での手遊びの様にくるくると手で回し、男性連中がしり込みすると同時に、ほぼ全員が教室に目を向けると、ぎょっと眼を見開く。
「おーい! 遅いと思ったら何やってんだよ?」
「ああっ、光一か」
「光一か、じゃないよ。ユウ、お客さん来てるよ」
「客? 誰だよ」
「水鏡家御令嬢のSP」
「はあっ? ……こんなところまで、何の用だか?」
「合って話せばわかるだろ」




